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モナが感じる 別れの気配



 風が光となって見える夜。

 

 オルマナの小高い丘・祭壇広場に、ひとつの首輪が転がった。


 モナの首元から外れ落ち、力なく転がるそれは、拘束の首輪。ゼフィルとモナを魔力で繋ぎとめていた、契約の証だ。


 

 無残にも落ちた首輪を視線で追いかけて、次の瞬間。

 悲痛な声を上げたのはモナの方だった。



「……あ。首輪……ッ!」



 背筋が冷える。

 これがある限り、ゼフィルの元に居られたのに。

 繋ぐ糸が切れてしまったような感覚に足元が揺らぐモナに、しかし。


 ゼフィルの声は、遠く、落ち着いたトーンで届いたのである。



「──……願い、叶ったじゃん」

「え……」

「これで家に帰れる。これで自由なんだ、モナちゃんは」



 ほほ笑まれて立ち尽くした。

 モナの視界で彼が動く。


 ゆっくりとした動きで首輪を拾い上げ、まるで、慈しむような眼差しで見つめる彼の手は、僅かに震えていた。



 けれどゼフィルは、それを隠すように、両手の親指で金属の輪を撫でながら述べるのだ。




「三か月、知らねー男の家でよく耐えたよ。もう我慢しなくていい。未来はモナちゃんの手の中だ。首輪に縛られる日々は終わったんだ」



 言われて凍った。



 ──終わった、って。


 そんなふうに言わないで。

 悲しそうに笑わないで。

 わたしはゼフィーと一緒に居たいのに。

 けれど、ゼフィーは違う?

 一緒に居たら、

「──……わたしのこと、……迷惑?」




「──違う」

「居たら、だめ?」


「そんなことない。でもさ──」



 言いかけた音が途切れて。

 耳に届くは静かな風の音。

 何か言いたそうに眼差しが揺れて、彼は、その顔を悲愛に染めて、告げた。




「モナちゃんは、……異界の人だよな」



 え……



「ニホンってとこの人間だろ? そこから、ここに来てる」

「…………なんで」



 呟く唇の先が、冷たい。

 声が震えて仕方ない。



「気づいてたし。最初から。おもしれーって思った単語全部、ニホンの言葉だろ? 辞書にもなかったし」


「……あの、ゼフィ……、あの……」



 とにかく出した声はかすれ、小さかった。

 頭の中は〈自分は家族を残してきた側〉だという負い目でいっぱいだ。 

 嫌われたくない・穏便に済ませたい・とにかく嫌われたくない。

 そんな気持ちが押し出したのは、切羽詰まった気持ち。



「────黙っててごめんなさ」

「オレさ」


 それらを遮るように、彼の声がはっきりと響く。

 びくんと体を震わせるモナの視界の中で、ゼフィルは──思い詰めた何かを決意したように、深く瞼を落とすと。


 切なげに、顔を向けて言う。



「モナちゃんに相談あるのね。

 今言うことじゃないかもしれないけど、もうオレ、……耐えられない」




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