第74話 雨音
第74話です。
楽しんでいってください!
「それじゃ、おやすみ。」
「明日はよろしくね。」
ラヴィとリリスの声を背に、アリーは部屋を出る。
そんな彼女を見て2人は顔を見合わせた。
「・・・大した情報、持っていなさそうだったわね。」
「ああ、しかも秘書になって1週間。何も知らない、と言っても過言ではないな。」
2人が知りたいのはもっと深い部分。
貴族家の裏側なのだ。
勤め始めてから1週間やそこらの秘書は到底知ることができないようなことだ。
しかも、アリーと入れ替わりに引退した秘書はどこに行ったのかもわからないと来た。
やっぱり、私たちが来るときのためだけに彼女を秘書にしたのかしらね。
裏稼業について知っている者ならば情報が洩れてしまう可能性が高くなる。
それならば何も知らない者をつけようと考えたのだろう。
かといって、何の権限も持たない者をつけるわけにはいかない。
だからアリーを秘書にしたのだろう。
元はただの商人の娘だった、彼女を。
それでも、普通は明らかに何の情報を持っていない者を案内人につけるわけがない。
しかし、子爵の自信に満ちた表情を隠すことなく浮かべていた。
「なめてんのか。」
ラヴィは苛立たし気に、リリスが考えていたことを口にする。
そう。
はたから見ると、2人は明らかに若者で新人なのである。
自分のやっていることがばれるわけがない。
そう考えたのだろう。
「まあ、その分動きやすいじゃない。」
「・・・明日が楽しみね。」
ラヴィは「おやすみ。」とリリスに声をかけ、扉を開いて出ていったのだった。
リリスは自分が1週間使うことになる部屋に足を踏み入れ、ベッドに身を投げ出す。
・・・疲れた。
声には出さない。
そう言った瞬間、動けなくなってしまいそうだから。
リリスはベッドに突っ伏したまま髪飾りを外す。
ヴェーヴとおそろいの、シャシャに貰った髪飾り。
中心にある花の形の宝石に触れ、ヴェーヴを思い浮かべた。
陽光に輝く鮮やかな金髪。
オレンジのような橙色の瞳。
そして、彼女の笑顔を。
そのままゆっくりと髪飾りに魔力を込める。
そうして、瞼の裏に映るのは暗い部屋。
ヴェーヴが生活している部屋だ。
左側に見えるのは積み重ねられた本。
右側には開かれた本の上に置かれているヴェーヴの手。
リリスはほっと息をつく。
この光景を見て、リリスの心には安堵と――迷いが生まれる。
もしかしたら、ヴェーヴは人間たちの中で生きていきたいのではないか。
その方が、彼女にとって良いのではないか。
ヴェーヴを助けたい、この気持ちは私の独りよがりなのではないか。
「ヴェーヴは、どう思ってるのかしら。」
リリスのため息とともにこぼれた呟きは、静かな部屋に響く雨音に紛れて消えていった。
これからものんびり投稿していきます!
ちょこちょこ覗きに来てください!




