ネスト・オブ・プレイ/比翼の止まり木
ブームボックスのボタンをカコンと押すと、チカチカと照明が点く。
この仕組みは、かつての同居人、カイルの手によるものだ。
ノアは南への旅の道中、カイルを拾った。
その旅は、ここカボサンルカスで終着を迎えた。
かつての観光地も、太陽嵐の影響で、今やおそらく人口ゼロだ。空き家となった豪邸は使い放題で、気候も良い。ノアにとっては楽園と言ってよかった。
しかし、カイルは旅人だ。二月と経たず出て行ってしまった。
ノアはついていかなかった。偶然、道連れとなっただけの他人。そもそも生き方が違う。
一人で住むには広い豪邸には、地下室まであった。五年前、たまたまノアが太陽嵐の曝露を免れた場所に似た地下室が。
壊れていた照明は、カイル愛用のブームボックスを噛ませることで、歪に息を吹き返したが、代償として、停止ボタンを使えなくなった。押せば、音楽が停まる代わりに、照明が消える。
ノアは時折、地下室でカセットを聞く。あの旅の続きを夢想して。
やがてノアは荷造りを始めた。
不意にチャイムが鳴った。ノアの心に星が瞬いた。
「急に出て悪かったな。これからは」
突然戻ったカイルの言葉は、最後まで言わせなかった。
「次は北へ行こう。それから東へ」