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自主訓練~RENGEと攻略~

~受験生 "乙羅サヤ子" 視点~




渋谷ダンジョン管理施設に集まったのは、ワタシを含め10名の受験生たちだった。



「じゃあ、これから実技講習を始めますねっ。よろしくお願いしますっ」



VERY HARDモードのダンジョン入り口で元気よく頭を下げたのはRENGEちゃんだ。

ワタシたちも負けじと元気よく「よろしくお願いします」と返す。

なんていったって、あのRENGEちゃんといっしょにダンジョンに潜るという超絶貴重な機会なのだ、失礼なことがあってはならない。



「みなさんの中にはVERY HARDモードに潜ったことがある人も無い人もいるかと思いますが、今日はちゃんと1階から50階まで体験していきましょうっ!」


「「「はいっ!」」」



受験生たちは食い気味に返事する。

みんなやる気充分……いや、充分以上の気合いが入っているようだ。

体から魔力をほとばしらせ、誇示するかのように大きく纏わせている受験生たちがチラホラ。

RENGEちゃんの目に少しでも自分が映るように、と考えてだろう。



……いいなぁ。



「ふぅ……」



思わずため息を吐いてしまう。

なにせ、ワタシは魔力を外に纏うことができないから。



「じゃ、さっそく行ってみましょーっ!」



RENGEちゃんを先頭に、ダンジョンへと入っていく。



「みなさん、緊張していますか?」



第1階層に入って、RENGEちゃんが明るく問いかけてくる。



「緊張はなるべくしない方が速くなりますよ。私も一番最初にダンジョンに潜った時は緊張しちゃって緊張しちゃって。結局半分くらいしかいけずに、おずおずと引き返してしまったものです」


「え……!」



受験生たちが少し、ザワめく。

おそらく"RENGEちゃんニワカ勢"による、『今では最強のRENGEちゃんでも最初の頃は普通の人みたいな失敗もしてたんだなぁ』という驚きだろう。



……チッチッチ、甘いですね、みんな。



RENGEちゃんの配信アーカイブを何度も何度も見返したワタシは知っている。

RENGEちゃんが一番最初に足を踏み入れたダンジョンは"HELLモード"であり、半分というのはつまり50階層を指しているということを。

RENGEちゃんはちゃんと最初の頃から常軌を逸しているのだ。


なんて、脳内で他の受験生たちに知識マウントを取っていると、



「あっ、あのRENGE先生っ! どうやら2つ先の曲がり角にミノタウロスがいるようですっ!」



律儀に手を挙げて、1人の男子が言った。



「おそらく数は2体。2階層への最短経路からは外れていますし、無視して行ってしまってもいいかと!」


「そっか。魔力探知してくれたんだね、ありがとう」


「いっ、いえいえ、これくらいっ」



その男子は、鼻腔を膨らませながら首を振った。

ニヤケた顔が隠しきれていない。

他の受験生たちから『先を越された』とばかりに鋭い視線を送られているが気にもならないようだ。



「でもそうだなぁ、せっかくだしミノタウロスの簡単な倒し方も教えておくね」


「えっ」



RENGEちゃんはササッとその場から姿を消す (テレポートかと思った)と、2つ先の曲がり角から2体のミノタウロスの角を掴んで引きずって連れてきた。

絶句である。



「これがミノタウロス。見たことない人は……あまりいないよね?」



RENGEちゃんが角を放すと、とたんにミノタウロスたちが起き上がり、吠える。



「でね、こう"ズビビッ"とすると簡単なの」



2体のミノタウロスが倒れた。



……え?



「「「え?」」」



何が起こったのか、まるで分からない。

ミノタウロスはホログラムになって消えていく。



「い、いまいったい、何を……」


「えっ? ……あっ」



RENGEちゃんはそこでハッと息を呑んだ。



「そっか。ごめんね、"指を入れて回転させる"って、体の内側じゃ見えないもんね?」


「……?」


「まず"グルルッ"てした後に、"ズビビッ"だから。そういうとこの説明をしてないと分からないよね、失敗失敗」



思わず、ワタシは他の受験生たちを見渡した。

少し安心したのは、ワタシの他の受験生たちも首を傾げていたということ。



「えっとね、また次のモンスターの時に説明するね?」



そうして次にその機会が訪れたのは、2階層の手前。

RENGEちゃんがそこにいた巨大なハイ・オークに軽く手を触れると、その体が捻じれ、地面に叩きつけられる。



「体格差がある相手には、こうやって"ズビビッ"。ね、簡単でしょう」


「!?」



……ダメだ、まるで分からない!



RENGEちゃんの説明には"主語"というものがまるでなく、しかも大事そうな部分がことごとく擬音に隠されてしまっていた。

まるで穴埋め問題だ。



──それからも、その調子でダンジョン攻略は進められていく。



各階層に現れるモンスターをRENGEちゃんが擬音と共に瞬殺し、テンポよく50階層まで到着する。

そこまでいくと、ほとんどの受験生たちはRENGEちゃんの技を理解するのを諦めていた。

代わりに各フロアに現れるモンスターの特徴をメモする、という今後のRTAに役立ちそうな行動に切り替えたようだ。


実にしたたかだと、そう思う。



……でも、たぶんワタシがすべきことはそうじゃない。



Nさんの教えてくれた身体強化で、次こそはと目を見張る。



……身体強化60倍、その全てを動体視力に集中させる!



RENGEちゃんが50階のフロアボス、全身鎧に身を包んだリザードマンの上位種"アーマード・リザルネス"へと近づく。

そしてその指をアーマード・リザルネスの首の横へと添える。



……いや、違う。ドリルのように尖らせた魔力の先端を、刺しているっ?



直後、アーマード・リザルネスの体が捻じれるように回転し、倒れ伏す。



「ズビビッ」



RENGEちゃんが呟いた。

ズビビッって……つまりは"らせん状に渦巻く魔力をモンスターに突き刺す"っていう擬音なのだろうか?



「はい、これで50階までの攻略は終わりです。なんだかごめんね、うまく説明できなくって……」



実技講習の初日はそれで終わり。

RENGEちゃんは少し、シュンとしているようだった。



……ワタシ、まだまだだ。



ダンジョンからの帰り道。

無力さを痛感する。



……もっと、身体強化の倍率が上がっていれば、RENGEちゃんにあんな顔させずに済んだかもしれないのに。



そう思うとなんともやるせない。



「あっ、いたいた。おーいっ」



後ろから誰かに呼ばれる。

振り返る。



「……えっ!?」



思わず、素っ頓狂な声が出た。



「乙羅さん……だよね?」



ワタシの後ろ。

RENGEちゃんが、やさしげに微笑んで立っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大人の人ー、通訳用意するの諦めないでw しかしこの状況だと本当の意味で合格できる人は少ないなw
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