開けてはいけない箱
魔王を倒した我々四人のパーティは、もちきれるだけの戦利品を腰袋に入れ凱旋の帰路につくことにした。
その中に小さな箱があった。握りこぶし大の箱である。
しかし厳重に錠が下ろされており、鎖でくくられている。魔王直筆の『開けるべからず』の文字もあった。
我々は、これは魔王の恥ずかしいものでも隠されているのではないかと苦笑しながら、解錠の魔法を使って箱を開けた。
するとそこには、一匹の不定形生物が入っていて震えていた。
我々が冒険初期に戦ったスライムに似ているが、あれより固めでドロドロしていない。人懐っこくて、リーダーの腕にすり寄って肩に登って遊んでいるようだ。
なんとも可愛らしい。ふくふく、プルプル。我々はそれをみんなで撫でると、嬉しそうにしていた。
リーダーがこれを飼おうと言うので、みんな賛成した。王都までの長い道のりの癒しとなるであろうと、みんなで代わり番子に抱きながら進んだ。
どうやら虫を食べるようで、気持ち悪い虫を飲んでくれる、よい魔物だと思った。
その日の野宿の後、目を覚ますと『それ』は二匹になっていた。分裂したのだと、その時、危機感は覚えなかった。ただ、抱き回し合う時間が減ったと逆にラッキーだと思ったのだ。
しかし、次の日は四匹になっていた。まだそれでも、一人一匹になったと喜んで、可愛らしいそれを肩の上にのせて遊んでいた。
だが次の日は八匹になって頭を抱えた。これは日に日に倍に増える魔物だったのだと今更ながらに気付いたのだ。
それでも殺せなかった。それにはこの生物は愛らし過ぎたのだ。仕方なく四匹はそこに置いていくことにしたが、泣きながらすがってくるようで、気の毒に感じた我々は一晩そこに逗留することにした。
次の日、十六匹。
まずい。我々は、その愛玩生物を完全にもて余した。早く王都に帰りたいものの、愛くるし過ぎて場所を移動することができない。
三十二匹、六十四匹──。
だが、百二十八匹となった時、それは起こった。『それ』は百匹になると融合して、山のような醜い生物となる。そして、我々に襲いかかってきて、リーダーを飲んでしまったのだ。
好物の虫を飲み込むように……。
ああ、そうなのか。
魔王が封印するわけだ。もて余したのだ。
これは生物兵器だ。この生物は、最初は弱い振りをして保護させるのだ。そのうちに、増えると団結して義理の親となったものを襲い始める。
あの巨大なやつだって次の日には二体になるのだ。
やがて我々人類は、この生物に蹂躙されてしまうのだろう。
それは一年などという時間はかからない。
三月もあれば──。




