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消えるTOPIA

作者: 黒瀧 シュン

刹那、私とキミの目が合った。

私は今正に起動しようとしている装置とのリンクを断ち、キミを助け起こした。

ここは、とキミが問う。

「見ての通り、オマエタチが“常識”と呼ぶ思想集団の成れの果て、楽園(TOPIA)への入り口だ。」


『パペットはソケットに挿された。』

──集団思想に従うだけの人形達はその魂を“楽園”へと誘う装置に繋がれた。

それを嘆く私の声に耳を貸し、目覚めたのはキミだけだった。

尤も、キミは目覚めたばかりでまだ混濁した意識の中で私の言葉の半分も理解出来てはいないだろうが。

だが、キミの目は他の人間と違い、初めて星の光を目にした幼子のような輝きであった。


「あんた…だれ」

「そうだな、Sとでも呼んでくれ。

早速だがこの場を去らねばならない。奴らに見付かっては私まで楽園行きだ。」

キミは問う。自分の他の人間はどうなるのかと。

「もうどうにもならない。

既に装置は起動した。リンクを切ったところで楽園から零れるだけだ。劣化して機械から弾かれる歯車のようにな。

これも自業自得だ。彼らは自らの尊厳を生かそうとしなかった。」



『繰り返す忌避の日々は目覚めれば消える。

瓜二つの朝に咲く光る花を見ろ。』

悪夢のような自分で自分を殺す日々は終わった。キミがさっき自分の意志で私の嘆きを聞いたように、これからは自分で“真実”を探さねばならない。


『幻は死ぬ、一瞬の宣言で。

“無い火は無い火”と。』

“S”は私に地図を渡すと軽快な足取りで姿を消した。

彼は何かを悟っているようだが…幻とは?

彼の残した呪文のような台詞もあまりに不可解だ。

…私は幻の類いに殺されかかっていた、と言うことだろうか?



『ロケットは詐欺を飛ぶ白昼。』

これはソケットに挿されたパペット達の中で目覚めつつある者の脳に呼び掛ける為のビーコン(無線標識)の1つだ。

“S”こと私は人知れず人間に“常識”と言う歪な法則を刷り込んだ人間達から知られず逆に奴らを監視して来たのでこれらのビーコンを知っている。

昨日まで住んだあの星を思い、今では星自体がホログラムと化したこの街を颯爽と行く。


あの装置は楽園(TOPIA)への入り口を謳い、人から思慮と金を奪う為の反楽園(DYSTOPIA)なのだ。

そこから逃げ出そうものなら奴らは怒号悲鳴を上げ、罪ありきと号令を出す。故に目覚めた者はそれを知られずに生きねばならない。…さっき助けた者は大丈夫だろうか。しかし、私に出来るのは目覚める可能性のある者にビーコンを発することだけだ。必要なものも渡してある。後は信じるのみだ。──



“S”から渡された地図をよく見ると裏にも文字が透けているのが見えた。

──諦めた展望のカギは

目覚めれば見える

奮い立つ胸拒まず光る“声”を聴け──

《私の声が聞こえるか。》

「!?」

《このビーコンが届いていると言うことは私が渡した地図の裏の文章について考えたハズだ。》


《考えろ。そうすれば過去も現実も未来も見えて来る。

だが、考えている間にもキミと同じように反楽園に取り込まれようとする者達がいる。

その地図が目印だ。──彼らを救うも見捨てるもキミ次第だ。敢えて危険を強いることを私はしない。

以上だ。健闘を祈る。》



私は…私にも出来るのか?Sのように人々を目覚めさせることが。

ならば答えは1つだ。私1人で訳も分からないまま目覚め、生きて行くのは逆に危険だ。

──仲間が必要だ。

地図には装置のある場所とは違うポイントが記されていた。そこに向かうと家があり、鍵は開いており誰もいなかった。

…どうやらこの印は安全地帯と見て良さそうだ。

行動を起こす前に準備と休息をして行こう…


キミは自分の意志で思想集団との戦いを始め、今まで見ていたのは全てホログラムだったと知る。

だが同時に過去は今は明日はキミの手に帰る。

キミはもう目覚めた。安心して眠れば明日もやって来る。



“S”と出会った次の日、私は人が変わったような気分でいた。

まるで端末の再起動かリセットをした気分だ。

昨日は記憶喪失のような状態だったが今日はちょっと違う。記憶は無いが同時にそこから来る混乱も無い。“悟り”に近いものかも知れない。

感覚的に言えば“記憶を取り戻す準備が出来た”ような状態だ。それ程に思考、意識がはっきりしている。


私は誰に教わることも無く己の名を知った。

マホネ。それが私の名だ。年齢は25歳。性別は無い。と言うより失ってしまった。

男女両方の身体的特徴を持たない両性具無だ。“常識”の蔓延る世界ではそれが当たり前だった。

…そう言えばSは違うようだった。ガタイこそ私と変わらないものの低い声で顎が尖っていた。

あれが“男性”と言うものだろうか。歳は分からない。明らかに年を経ながら、行動も発言も若々しい。…初めて見るタイプの人間だった。


…私にはまだ性別を選ぶ程の意志が無かった。

性別等知らぬままに今まで育ったのだ。

まだ自分の在り方を決めるには知らないことが多過ぎる。

だが、1つだけ確固たる意志を以て決めている在り方があった。

──仲間を探すことだ。昨日よりも強くその意志は強く訴え掛けている。



『幻は死ぬ、一瞬の宣言で。

“見える”と“聞ける”と。』

…無意識にSのような台詞を発しておりはっとなった。

そして自分の発した言葉の残響に耳を澄ます。

「…見える。…聞ける。

っ──」

意識が何処かに繋がり映像と音が脳内に溢れた。

「これは…」

人類の歴史だろうか?誰に教わることも無くそれが何が分かった。

──まるで学校で習った歴史やTVで流れているニュースとは逆さまだった。


…Sの言っていた幻とはこのことだったのか。

私は大いに驚異と敬意を抱いた。

驚異はこの星は狂っていると言うもの。敬意は、そんな星でSが恐らくは私が生まれる前から正気を保っていることだ。

──立ち上がらねばならない。

そしてやはり仲間が必要だ。

世界を変える為の仲間が…



──あれから時は経ち、時に再びSの手を借り仲間を得、知恵を得、遂に思想集団と戦うだけの数が揃った。

まずはこの名も無き街を奴らの手から取り戻す。

私は“覚醒者達”と言う組織を率い、思想集団を街から追い出した。流石に手荒なことはしなかった。

──そして残ったのはソケットに挿されたパペット達。

彼らはもう何人かしか救えないがこの街の未来なら守れる。

「そしていつかこの星を取り戻す!」

そう言い私は装置(TOPIA)を破壊した。──

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