異世界に家電を持っていったら。
短編小説を初めてなろうで投稿してみました。
感想やコメントくれると、嬉しいです。
気がつくと、俺は東京じゃない場所にいた。
さっきまで俺は電気屋で、家電を見ていたはずだ。
だが、今俺がいるのは見たこともない場所。
ヨーロッパのような雰囲気を漂わせている。
「どうなっているんだ?」
俺はポカンとしたまま立ち尽くしていた。
だだっ広い、大通りで1人ぽけーっとしているのだが、その横を、見たこともない人たちが横切る。
「なんだ、あの耳?しかも尻尾って」
頭に猫の耳を生やした人間や、犬のような顔をした人間が、普通に歩いている。
それだけではない。
馬が荷車を引いて歩いているし、上半身は人間で下半身が馬の男が、郵便配達をしている。
「どうなっているんだ?」
俺はこの状況を飲み込めなかった。
しかしこうなってしまった以上、ここで立ち尽くしているわけにもいかない。
俺はポケットからスマホを取り出すと、とりあえず地図アプリを使ってみることにした。
「嘘だろ!?」
しかし地図アプリは反応しなかった。
そもそもGPSが反応していなかった。
今時、こんなことがあるのか?
世界中、衛星通信で常に監視されているのと同じはずだ。
だがしかし、ここには5G回線や4G回線。3G回線すら飛んでいない。
「まさか、ここは都内じゃないのか?」
俺は冷や汗が出て来た。
こんなこと、あっていいのか?いやあるのか?ないだろ、普通。
頭ん中が、変になったのかもしれない。
俺は頭を抱えながら、適当な店に入ることにした。
チリーン!
喫茶店特有の、ベルの音がした。
「いらっしゃいませー!」
ウエイトレスの女性がやって来る。しかしその頭には猫耳がついていた。
「コスプレ喫茶なのか?」
「はみゃあ?」
なんか猫っぽい。俺はそう思った。
しかし気のせいだと思うことにして、俺は注文をする。
「アイスコーヒー、1つ」
「かしこまりました!」
もし、ここが異世界だったらきっと、通貨も違うのだろう。
そこが怖いが、もう気にしない。
俺はアイスコーヒーが来るのを待った。しかし待っても待ってもやって来ない。
「遅いな」
流石に我慢の限界だ。ここまで1時間以上経つ。
「ちょっと、呼ぶか」
俺はテーブルの横に置いてある、ベルを押すことにした。特有の銀色のやつだ。
チリーン!
俺はベルを押してみた。しかし誰も来ない。
「嘘だろ?」
もしかして無視されてんの?流石に酷くない?
「あのー、すみませーん!」
しかし誰も来ない。こんなに読んでも誰も来ないのは、不思議だ。
仕方なく俺は、キッチンの方に行ってみることした。
「あのー、さっきから呼んでるんですけどー。って、えっ!?」
俺はキッチンの方に足を踏み入れた。
するとそこにはさっきの猫耳ウエイトレスと、コック長のおじさんが困った顔をしている。
「どうしましょう」
「困ったね。いやー、本当に困った」
腕組みして困り果てている、コック長。
その視線の先には、コップの中に大量の水が張ってあった。
「あのー」
「「うわぁ!」」
驚かれてしまった。
そりゃあそうかと思いながらも、俺は尋ねる。
「何かあったんですか?」
「アイスコーヒーを注文の方ですよね。それがですね……」
猫耳ウエイトレスは、俺の顔を見ながら、悲しそうな顔をする。
俺は「怒らないから話してください」とお願いすると、話してくれた。
端的に言おう。
「氷が全部溶けてしまったんです」
「はい?」
いやいや、そんなことないって。
そう思う俺だったが、如何やら本当らしい。
喫茶店で香りが提供出来ないのは、相当ヤバそうだ。
喫茶店でのバイト経験はないけど、氷なんて大抵使う。
でも、冷蔵庫がそう簡単に壊れるか?
外はそんなに暑くなかった。
だとしたら――
「あの、冷蔵庫ってちなみに何年のですか?」
「「冷蔵庫?」」
マジか。ってことはやっぱり、ここは現代じゃない。
如何やら俺は異世界的なところに来てしまったらしい。
てことは、家電なんてないだろうな。納得した。
「困った。非常に困ったよ」
「アイスコーヒーが駄目なら普通のコーヒーでいいですよ」
俺はそう答える。
いわゆる妥協だ。
しかし、そんな簡単なことじゃないらしい。
「そう言ってもらえるのはありがたいんだけどね、氷がないと仕事が……」
「買いに行ったらいいんじゃないですか?」
「氷を買うなんて、高すぎますよ!」
猫耳ウエイトレスは、反射的に怒った。
如何やらこの世界では、氷の価値が現代の比じゃないらしい。
「昭和ですか。じゃあ、作ったらいいんじゃ?」
「私もコック長も氷魔法なんて使えませんよ!使えるのは、火と風の魔法です!」
魔法?そんなのがあるんだ。
じゃあやっぱりここは異世界だ。
俺はそう納得した。
しかし、それじゃあ何も出来ないね。
いやいや困ったよ。
あっ、でもそうだ。俺が異世界からこっちに来れたんなら、向こうのものを引っ張ってこれんじゃね?
「あの、ちなみになんですけど。今俺、お金持ってなくて、氷を作れたら、コーヒー代タダにして貰えますか?」
「えっ!?お金ないのに注文してんですか!」
「は、はい」
正直に言って驚かれる。
しかしコック長さんは、それを聞くと納得してくれた。
如何やらこの人は、このお店のオーナーさんらしく、俺の意味不明な発言を飲み込んでくれてみたいだ。
「本当に出来るんだったら、それぐらい構わないよ」
「わかりました。それじゃあ、ちょっと場所取りますね」
俺はキッチンを適当に見回す。
そこでガスとか、冷蔵庫とか色々確認して足りないものを、スマホでリストアップする。
「こんなものかな」
俺はそれらを確認すると、スマホを使ってみた。
GPSは動いてなくても、何故かアンテナが立っている。
俺は速やかにネット通販を使った。
本当に届くかは知らないけど、俺が現代から異世界に来られたのなら、俺の座標を元にして、通販で買ったものが届いてもいいだろ。
それぐらいあってもいいじゃないか。
そんな期待まみれの考えで、俺はポチポチと注文する。
カートにぶち込み、クレジット一括決済で買い物を済ませると、突然俺のスマホが光り出した。
眩しい。眩しすぎる。
前を見ることが出来ず、顔を背けると、突然ドサッ!と音がした。
光がなくなり、前を見ることが出来るようになった。
するとそこには大量のダンボール箱が置かれていた。
「マジで注文できたよ。しかも、速達より速いし!」
あまりの速さに感動した。
テレポートの無駄遣い感はハンパないけど、まあいいや。
俺はダンボール箱に貼られた、ガムテープを剥がすと、固まっている猫耳ウエイトレスと、オーナーに声をかける。
「早く手伝ってください!」
そう言うと、我に帰ったように目をパチクリさせる。
それから何が何だかわからないままに、家電を設置し始めた。
「あのお客さま、こちらの品々は?」
「家電ですよ。大容量の冷蔵庫に、ガスもIHにしてあります。一応ガスも使えますけど、こっちの方がコスパいいですね」
「コスパ?」
しかしまるでわかってもらえなかった。
って、俺も1つ確認しないといけないことがある。
「電気どうすんの?」
この世界に電気なんてあるのか?
流石に雷はありそうだけど、発電所とか絶対にないし、そんかの引いてない。
こりゃ困った。
そう思った俺だったけど、この世界にあるものを使うことにした。
「あの、さっき風の魔法使えるって言ってましたよね?」
「はい」
「じゃあ誰か雷の魔法とか使えます?」
そう聞いてみた。
それが1番早い。だけど、誰も首を縦に振らない。
如何やら無理らしい。
「仕方ないか……ん?」
そう言えばさっきから気になることがあった。
俺のスマホ、さっきから1%もバッテリーが減っていない。
こんなこと今まで聞いたことがなかった。
つまりこれは――
「そう言うことか!」
俺は急いでバッテリーを注文した。
クレジット決済で、初めて買うけど結構大きい。
これを家電のコードに繋げ、あとやることは1つだ。
「頼むぞ!」
俺はバッテリーに触れた。
するとあったかくなる。
これはチャージされてある証拠だ。
やはり俺には雷系の魔法適性があるらしい。そのおかげで、バッテリーが減らなかったみたいだ。
「これでよし、充電完了!」
フル充電出来たみたいだ。
その証拠に、家電たちが生き生きと動き出す。
「えっ、にゃ、ニャンですか!?」
「今更キャラ付け!?」
「凄い。凄すぎるよ」
猫耳ウエイトレスとオーナーが、慌て出す。
しかし俺はそんなこと気にせずに、蛇口から水を出した。
「さあ、氷を作りますよ」
俺は氷を作ると、提案する。
それからしばらくの時間が経った。
「そろそろですかね」
俺は冷凍庫の方を開けてみる。
そこには大量に香りが出来ていた。
「オーナー、本当に氷が出来ですよ!」
「嘘じゃないみたいだね」
突然のことにビックリみたいだ。
しかしこれで俺はアイスコーヒーがタダになったと嬉しくなる。
「それじゃあこれで……」
「お客さま!」
その瞬間、俺は猫耳ウエイトレスに抱きつかれた。
何が何だかわからない。
「え、えーっと?」
「お客さまは神様です。本当に本当に神様です!」
えー、つまり俺は好かれたみたいだ。
まさか猫耳美少女に好かれるとは思わなかった。
「いや、本当に助かったよ。君のおかげで、仕事ができる」
「いえいえ」
如何やら俺は感謝されているみたいだ。
「オーナー、この人に最高のアイスコーヒーを!」
「そのつもりだよ。今日は人生最高の日さ!」
その後俺は最高のアイスコーヒーを提供された。
マジで、神美味かった。
それから俺はオーナーに気に入られた。
元の世界に戻る方法はわかんないけど、とりあえずこのお店で俺は雇われることになった。
あのバッテリーを動かすには、俺の力がいるし、猫耳ウエイトレスが俺のことを気に入ってくれたからか、ずーっと抱きつかれてます。
こんなにモテる日が来るとは思わなかった。
だけどそれが異世界って。しかも如何やって来たのかも、帰るのかもわかんない。
だけど、今は楽しいからいいでしょう。
今日もお店は大繁盛です。
異世界に家電を持ち込んだのは、俺が初めて。
だけどそのことを知っている人はいない。
今日もお店の中には、コーヒーの良い香りがするのでした。