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僕のヒーロー・私のヒーロー

ヒロアカを一気読みした勢いで書きました。よろしくおねがいします。


 どうか、私に報いが与えられますように。

 積み重ねてきた罪の業火が、この身を余すことなく焼き滅ぼしますように。



 *****



 ヒーローについてどう思うかと問われれば、十人中十人が憧れを口にするだろう。


 人々に特別な“能力”が発現するようになった数十年前から、ヒーローはいつだって人気者だ。能力を悪用して犯罪を行う“悪者”を、卓越した能力で打ち倒す無敵のヒーロー。弱きを助け強きをくじく、高潔にして精強な正義の味方。


 そんな素敵に無敵なヒーローたちのおかげで、社会は今日も平和に回っている。

 私たちのような小学生に、憧れるなという方が無理があった。


「だからさ、アクセルレディのすごいところって速度だけじゃないんだよ。あれだけの速度で移動しながら、助けを求める声は絶対に聞き漏らさない。あの速さは敵を倒すためだけのものじゃない、最速で誰かを助けるための力なんだ!」


 だけど、彼の憧れは少しばかり度が過ぎていた。

 日向(ひなた)太陽(たいよう)。名前からして暑苦しいこの少年は、今日も今日とてヒーローについての熱弁を振るっていた。


 太陽はヒーローが好きだ。ものすごく好きだ。部屋の中には小学生に集められるヒーローグッズがところせましと並んでいて、将来はヒーローになると臆面もなく宣言しては両親を困らせていた。


 まるで少年漫画から飛び出してきたような少年だ。強烈な憧れに突き動かされ、元気いっぱいヒーローを夢見る。

 ヒーローになるべくして生まれてきたような少年に、幼馴染の私としても、ああ、彼はいつかヒーローになるんだろうなと、半ば諦めに近い確信を抱いていた。


「なあ、つみきもかっこいいと思うだろ? アクセルレディ」

「ああ、うん。そうね」


 私もヒーローは好きだ。文房具は好きなヒーローがプリントされているものを選んで買ったし、日曜朝のヒーロー番組は毎週かかさず見るようにしている。


 だけどそれは、私たち小学生にとってはやって当然のことであって、けして特別なものではない。この少年の入れ込みっぷりを見ると、少し引いてしまうのも本音だ。


 それに。私こと、夜永(よなが)つみきにとっては、ヒーローよりも気になるものがある。


「太陽はさ、今はその、アクセルレディが好きなの?」


 少し、声の調子が外れていたかもしれない。


 アクセルレディ。ぴっちりとしたライダースーツに身を包み、高速で飛び回る女性ヒーロー。私よりも背が高く、色々なところが育ちに育った大人の女性。

 太陽がそれに興味を持ったことは、なんだか面白くなかった。


 何が面白くないのかは自分でもわからない。だけど去年の夏祭りの時から、私は何度かこんな気持ちになっている。


 あの夏祭りの日――。家族と一緒にお祭りを楽しんでいた私は、人混みの中で迷子になってしまった。どれだけ家族を探しても見つからず、歩き疲れて神社の境内でじっとうずくまっていた時、声をかけてくれたのが太陽だった。

 探しに来てくれたのかと。赤く腫れた目を向けた私に、太陽はやけに神妙な声でささやいた。小さい方が漏れそうなんだ、と。


 この男、ただトイレを探していただけらしい。それでも太陽は、境内の裏でこっそりと小を済ませた後、ずっと私の側にいてくれた。

 なんだか呆れてしまったが、おかげで心細くはなくなった。その後大人が来て、私たちはそれぞれの家族に連れられて別れたのだが、私は妙に気恥ずかしくて素直にお礼を言えなかった。


 きっと太陽はそんなこと気にしていないのだろう。だけど、あの時言えなかったお礼の言葉が、ずっとこの胸に引っかかっている。

 その時からだ。その時から私は、それまで以上に太陽のことが気になっていた。


「もちろん。でも、一番はやっぱりキャプテン・レッドだ」

「……レッド? アクセルレディじゃなくて、キャプテン・レッド?」

「ああ。やっぱりレッドが一番かっこいいからな!」


 太陽はきらきらと目を輝かせる。その言葉を聞いて、面白くない気持ちが霧散する。ああ、これは当分大丈夫そうだ、と不思議な納得感があった。


「ヒーローはいっぱいいるけど、スーパーヒーローはレッドだけだ。レッドはさー、もう理屈とかじゃないんだよなー。とにかく強い! とにかく無敵! とにかくかっこいい! どんな怪人が来ても絶対に負けないし、ピンチになっても必ず逆転するんだ。いいよなー、かっこいいよなー。俺、将来はキャプテン・レッドみたいなヒーローになるんだ!」


 ――太陽を止めよう。


「太陽。語るのはいいけど、前見て歩いて」

「いや、聞いてくれって。最近さ、レッドのコスチュームがちょっと変わったじゃん。腕にバンド? みたいな、メカがついてさ。あれ、絶対秘密兵器だと思うんだよね。だから俺、明日、キャプテン・レッドにあれは何なのか直接聞きに行こうと思ってるんだ! レッドって今近くの街に来てるらしいじゃん。なら、ひょっとしたら会えるかも!」

「転ぶよ」


 言うがいなや、太陽は縁石に足をつんのめらせた。

 ほら、言わんこっちゃない。転びかけた太陽の襟をひっつかむ。バランスを取り直した太陽は、バツが悪そうに笑った。


「うわっとと……。わり、サンキュー」

「まったく、危なっかしいんだから」

「今のは、つみきの“能力”か?」


 頷く。“能力”と言っても、私の能力はそう大したものではない。

 数十年前から、すべての人々には色々な“能力”が発現するようになった。能力の種類は人それぞれだ。アクセルレディの『高速走行』やキャプテン・レッドの『一騎当千』といったヒーロー向きの強力な能力から、『小さなものを浮かせる』や『指先から水を出す』といったいまいち使い道がわからない能力まで。とにかく、色々だ。


 私が発現した能力は、『時々声が聞こえる』というもの。さっき聞こえた、「太陽を止めよう」とささやく声がそれだ。

 声は私がやるべきことを教えてくれて、それに従うと大抵の場合はいいことが起きる。使い道がわからないとまでは言わないが、ヒーローになれるほど強力というわけではない。まあ、そこそこだ。


「いいなー。俺も早く能力目覚めないかなー」

「慌てなくても、そのうち目覚めるよ」

「んなこと言っても気になるじゃん。ひょっとしたらものすごい能力に目覚めて、キャプテン・レッドからスカウトされるかもしれないだろ!?」

「そんなわけないでしょ」

「わかんないぞー。もしもそうなったら、つみきも一緒に連れて行ってやるからな!」


 いかにも彼らしい都合のいい想像。はいはい、と笑って流した。

 能力発現の時期は人によってまちまちだ。小学生のうちから目覚めた私はかなり早い方で、人によっては高校生くらいまで目覚めないこともある。

 太陽はまだ見ぬ自分の能力が気になって仕方ないようだが、そんないつ来るかわからない未来のことよりも、私にはもっと気になることがあった。


「それで、キャプテン・レッドに会いに行くんだって?」

「おう。つみきも行くか?」


 しょうがないな、という風を装って頷いた。

 明日は休日。一緒にどこかに出かければ、それは素敵な一日になるだろう。

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