確証のない噂で人を貶める奴の頭がわからない
「ち……違うんだ! これは……そのぅ」
「ほぉん? なにがどう違うのか教えてもらおうかね」
俺に睨みつけられ、茂みに隠れていた男はびくっと縮こまる。
ちなみにこいつは……タンバという名前だったか。
半年ほど前に俺が追放した冒険者で、歳は24か。
そこそこ実力のある冒険者で、たしか当時のランクはC。中堅の冒険者として、少しは名の知れた奴だった。
それだけに、調子乗っちまったんだろうな。
酔った勢いで女性に乱暴する事件を何度も起こした。被害者の人数や悪質さから判断し、タンバはギルドを追放されることとなる。
その通告役を、この俺がやったわけだ。
「ぐわっ!」
「がはっ!」
近くの茂みからも男二人の悲鳴が聞こえた。
どうやらラリィも無事、拘束できたみたいだな。
「あ……あなたたちは!? イメルダ、サヴァス、元冒険者ともあろう者が、いったいなにをしているの!?」
「く、くそ……!」
「ぬかったか……!」
ふーん、やはりな。
イメルダ。そしてサヴァス。
二人の名には聞き覚えがある。
たしか、こっちはシグルドと同じだな。40歳になってもDランク以上に昇格することなく、規約に則ってギルドを除名。
なんの偶然か、二人に追放宣告をしたのも俺だ。
「ふーん、なるほどねぇ……」
突発的に現れたエメラルドドラゴン。
その近辺になぜか潜んでいた、元冒険者たち。
その全員が自主退職ではなく、ギルドから《追放》され……そしてみな、去り際にひどい形相で俺を睨みつけてきた連中だ。
死ねクズ、おまえに俺らの気持ちはわからない……散々なことを言われたもんだよなぁ。
「で、タンバ」
「ひいっ」
実際に睨みつけりゃ、かなり小心者の連中だ。情けなく尻餅をつき、びくびく怯えている。
「おまえ、さっき面白いこと言ってたな。これは違うってのは、いったいなんの話だ?」
別にこれはカマかけてるわけじゃない。
あいつから勝手に喋ったことだ。
いわゆる自爆だな。
「知らない、俺はなにも知らない!」
「ふーん」
まあ別にいいんだけどさ。
そうやって必死こいて否定しているあたり、半分自供しているようなもんだよね。
まだ全容は掴めないが、エメラルドドラゴンとなにかしら関わっている可能性があるだろう。
「まあいいや」
俺は手頃な岩を見つけると、そこにどしりと座る。
「……で、どうなのよ?」
「は? な、なにが」
「なにがって、近況だよ近況。噂じゃ防具屋で働いてるって聞いたけど?」
「…………なんで知ってる」
「それはまぁ、一応ギルドマスター代理だからなぁ。追放されたおまえたちがどんな道を辿ってるか……知りたくもなるだろうよ?」
「けっ」
タンバはつまらなそうにそっぽを向いた。
「楽しいかよ? 無能が落ちぶれていくのはよ」
「そりゃ楽しいね。特におまえはやっちゃいけないことをやったんだ。馬鹿な人間がどんな末路を辿るか……誰だって気になるだろうさ」
「…………っ!!」
タンバがぐにゃりと表情を歪ませた。
「くくく、ははは。あーはっはっはっはっはっはっはっは!」
そして何かが吹っ切れたのか、甲高く笑い始める始末である。
「ははは……。やっぱりそうだったんだ。ロア、てめぇは性根の腐ったゴミクズで、腹いせに何人も多くの冒険者を追放してる。……その噂は、本当だったようだな」
「…………」
マジか。
そんな噂まで流れているたぁ、さすがに知らなかったぞ。
しかし驚いた。
いったいなにを根拠に、そんな妙ちくりんな噂が広まっているのだろうか。
そしてなぜ、タンバはそんな確証のないことを信じられるのだろうか。
「……ふん、そもそもおかしいと思ってたんだよな」
俺が黙りこくっているうちに、タンバは聞いてもいないことをペラペラ喋り始める。
よほどストレスが溜まってたんだろうな。
「ロア、おまえやっぱり違法のクスリやってんだろ? それをギルドマスターから格安で買ってんだ。おまえとギルドマスターは妙に仲が良いし、そのギルドマスターは元を辿れば……」
その後も訳の分からん演説がべちゃべちゃと繰り出される。
まあ要は、俺はインチキによって現在の強さを手に入れたことになってるらしい。
そしてそのインチキを使いまくっている割には「弱い」だの「剣の使い方がなってない」だの、謎の上から目線だ。
――ああ、タンバ。
知ってるか?
おまえが追放処分を喰らわないよう、本部に頼み込むのめちゃくちゃ大変だったんだぞ。
もちろん、Cランク冒険者を失いたくなかったのもあるが――
なあ、タンバ。
おまえ、あのとき結婚を約束してた女がいたんだよな?
それで女絡みの事件を起こしちまったもんだから、奥さんに逃げられたの知ってるよ。
職も家庭も失うなんて、嫌だろ?
孤独にゃなりたくねえだろ?
俺に追放宣告を受けたときのおまえは、本当に絶望に染まったみたいな顔してた。だから自殺なんかしねえで、防具屋で働いてるのを見て一安心してたのによ。
「……だからおまえは、クスリがないと何もできねえクズ野郎だ! どうだ、違うか!!」
顔を真っ赤にして俺がクズであることをまくし立てたタンバは、それこそ清々しい表情をしていた。
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