最強の冒険者と、神剣。
「ちょっと! ロア!」
ギルドを離れてから数分後。
ラリィが不安そうな声で呼びかけてきた。
ちなみに、ここまでは強引に彼女の手を握ってきた。そうでもしないと聞き入れてくれないと思ったからな。
ありがたいことに、ラリィはそれについては嫌がっていないようだが……
どうやら別件で不満を抱いてるようだな。
――まあ、おおかた察しはついてるけど。
「どうした?」
俺はラリィから手を離し、素知らぬふうに訊ね返す。
「どうしたじゃないよ! ロア、昨日も徹夜で作業してたじゃない! 絶対疲れてるのに、今度はエメラルドドラゴンだなんて……!」
「あんれ。なんのことかね?」
とぼける俺の前に回り込み、ラリィはぷくぅと頬を膨らませる。
「さっきの、シグルドって人。あの人がすこしでもギルドに在籍できないか動き回ってたじゃない! ほとんど眠れてないの、知ってるんだよ!?」
あちゃー、見られてたか。
こりゃもう少しコソコソ行動する必要があるな。
「勘違いすんなって。あれは俺がそうしたかったから。シグルドのためじゃねえよ」
「…………っ」
「追い出す以外に選択肢がないってわかったらよ。気持ちよくクビにできるってもんだろ? だから自分のための行動だ。つまり自己責任」
「嘘!」
「嘘じゃない」
まあ、本当に嘘ではない。
……すべてが嘘でもないけどな。
「仕方ねえだろ。ただでさえ俺ゃあ一部の人から評判悪いんだ。すこしくらい良い顔しないとよ」
「だって、ひどいよ……。ロアがこんなに頑張ってるのに、シグルドはあんなこと言って……」
それも仕方ない。
人の一部分だけを勝手にラベリングして批判する連中ってのは、どこにでもいるもんだ。
俺もさんざん、「ゴミカス」とか「出来損ない」とか「運がいいだけ」と言われてきた。
反論したくなるときもある。
けど、それで納得するような連中じゃない。
「ま、仕方ねえだろ」
そう言いながら、俺はにまっと笑い、自身の顔を親指で指し示す。
「こんだけ顔がよくてよ。才能もあってSランク冒険者でモテモテで……やっかみを受けないほうがおかしいだろ?」
「……やっぱり慰める気失せてきたよ」
「だろ?」
さて、そんなどうでもいいやり取りは、文字通りどうでもいい。
エメラルドドラゴンが現れたっていうトラッド平原に向かわないとな。
今はただ周囲をうろついているだけらしいが……いつ暴れ出すかわからないし。
なるべく早く行きたいところである。
よし。
じゃあ行くか。
「ラリィ。捕まれ」
「ん」
ラリィはこくりと頷くと、俺の腕をぎゅっと掴んできた。
「……おい、そこで胸当てるとサービスシーンになるぞ」
「ばか!」
「いてっ」
頬をペチンされた。
全然痛くない。
こういう可愛らしいところが、ラリィの有名人たる所以だろうな。
見れば、男たちの羨望の視線が突き刺さっているのがわかる。
うんうん、気持ちわかるよ。
可愛いもんなラリィ。
……だけど、今日だけは独占させてくれ。疲れてるのはマジだからな。これくらいの役得は許してほしい。
「ほんじゃ行きますか。――はっ!」
俺は体内に魔力を巡らせる。
――時空魔法、終焉の一。
――空間転移。
心中でそう唱えた途端、俺とラリィを灰色のオーラが包み始めた。それと同時に視界も灰一色に飲み込まれ――そして瞬きしたときには、俺はまったく場所にいた。
――すなわち、ドラゴンの目の前だ。
「こんちゃーす」
「グオッ!?」
エメラルドドラゴンがヘンテコな悲鳴をあげる。
……へえ、ドラゴンってこんな声だすんだな。
「てなわけでドラゴンさん、悪ィけどお引き取り願いたいんだわ。わかってくんね?」
俺は鞘から剣を抜き出し、横一文字にエメラルドドラゴンを切り裂く。
「ガァァァァァァァアア!?」
俺の何倍はあろうかという巨体が、なすすべもなく吹き飛んでいった。
「ち、ちょっとロア!」
俺の腕にしがみつきながら、ラリィが頬を膨らませる。
「いきなりこんなとこに転移して、危ないじゃないの! 殺す気!?」
「まさか。余計な手間省いてドラゴン殺して『キャーカッコイイー』って言われたかったんです」
「ばか! それでロアが怪我したらどうするの!」
おや。
あくまで自分ではなく、俺を心配してくれるのね。
こういったところが人に好かれるんだろうなぁ。俺と違って。
「ガァァァァァァァアア!!」
と。
起きあがったエメラルドドラゴンが、怒り心頭といった様子で立ち上がる。
すげぇ咆哮だな。
一般の冒険者が聞いたら死ぬんじゃないか。知らんけど。
さて。
――じゃ、いっちょ俺もいきますか。
「ふう……」
俺は深呼吸し、静かに構えを取る。
余計なことは考えない。
すべての雑念を捨て、自分の息遣いだけに意識を集中する。
途端、俺の周囲を金色のオーラが包み始めた。
ゴォォォォォォォォオ……! と。
俺が乱気流の中心に立っているがごとく、一帯に激しい風が舞う。
これが俺の神剣、神剣ロアヌだ。
面白いことに、俺も神剣も、ほぼ同じ名前なんだよな。
由来はどちらも同じだ。
ロア――つまり孤独。
「さて、ちょいといくか。ラリィ。サポートは頼むぜ?」
「待って」
ラリィはそう言うなり、静かに俺の背中に両手をあてがう。
「どうか無茶だけはしないって約束して。いくらロアが強くても、こんな毎日をずっと送ってたら……」
「…………」
俺はふっと笑い、本当にできた女の子だなぁとか、そんなことを考えていた。
「ちゃんと自分の限界はわかってるつもりさ。俺はSランク冒険者。俺が動かなきゃ……誰がやる」
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