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無能は去れ!

 王都。冒険者ギルドにて。


「シグルド。おまえをパーティーから追放する」


 俺の宣告に、Eランク冒険者のシグルドが顔を戦慄かせた。


「……は? いまなんて?」

「だから言ったろう。追放だ追放。おまえは今日をもってギルドを去れ」

「な……な……!?」


 もう40歳にもなるシグルドは、新米冒険者が身につけるような安物防具を震わせ、恨みのこもった視線を俺に向ける。


「……ひでぇな。ここまで頑張った俺を――ここで捨てる気かよ」

「おいおい人聞きが悪いな。解雇通告は事前にしてただろうが」

「あんな通告認められるか! 俺はそんなもん許さねえぞ!」


 困ったなぁ。


 ――40歳を過ぎてもランクD以上に上がれない者は、その日をもって除籍処分とする。

 そんな規約があるはずなんだが。


「はぁ……」

 俺は盛大にため息をつくと、シグルドをジト目で見やる。

「はっきり言って、おまえの剣の実力は絶望的だ。魔法も使えないし、かといって知識に優れているわけでもない。Dランクくらい、努力すれば誰でもいける。その境地に――おまえはいけなかった。いや、いかなかった・・・・・・


「……っ!!」


 シグルドの目が怒りのそれに変わる。


 ああ、その目。

 今まで何度向けられてきただろう。

 そんな取り留めのない思考を巡らせながら、俺は容赦なくおっさんに現実を突きつける。


「はっきり言おう。おまえは冒険者に向いてねぇよ。他の安定した仕事やって、綺麗な奥さん見つけて……ガキこさえて死んだほうがよっぽど幸せだと思うぜ?」


「…………」


 シグルドはなにも言わない。

 ただ下を向き。

 両の拳を強く握りしめ。


 暴発するネガティブな感情を、必死に抑えつけているようだった。


「はん……いいよな、おめぇはよ」

 そして放たれた言葉は、俺に対する怨嗟えんさの声だった。

「まだ18のくせに、Sランク冒険者でギルドマスター代理。顔も俗に言う《イケメン》ってやつで、女も取っ替え引っ替え。いいよな……。おまえみたいに、最初から全部持ってる奴はよ」


「……あのさ、なに勘違いしてるワケ?」


「あ……?」


「なんかわかってそうな感じて語ってるけどよ。おまえに俺のなにがわかるわけ? 才能だけ・・・・で上がってきたって、なにを根拠にしてんの?」


「…………」


「いるんだよなぁ。中身も知らねえくせに批判する奴。俺らはそういうのニコニコしながら受け止めるしかねぇけど……内心はな、努力もしねえでコソコソ陰口叩いてるおまえらをすげぇみっともねえと思ってるよ」


「ぐっ…………!!」

 シグルドの怒りはここで限界に達したらしい。

「……本当に、いいんだな」


「は? なにがだよ」


「こう見えても、俺はずっとギルドを支えてきた。俺のスキル《ステータスアップ1.1倍》がなくなりゃ……ギルドの戦力は確実に落ちるぞ」


「ああ、はいはいおっさんの妄想乙」


 たしかに戦力は落ちるだろう。

 そもそも冒険者を追い出すわけだから、その時点で戦力低下は免れない。


 だが、さっきから論点ずれまくってんだよな。


 俺はシグルドが40歳になってもDランク以上に昇格しないから、ギルドマスターに代わって追放を言い渡しているだけ。


 戦力どうのこうのは関係ないし、そもそもシグルドが本当に役に立ってたらとっくに昇格してる。


 おまえはどれだけ俺たちを悪者にしたいんだよと。


「へへ……本当にいいんだな。後悔しても知らねえぞ?」


「いいからとっとと行け。馬鹿野郎が」


「はん。こんなクソギルドなんざこっちから願い下げだ。せいぜい後悔するんだな、クソガキがよ!!」



 ★


 室内に平穏が戻った。

 緊張した面持ちで俺たちを見やっていた冒険者も、ほっとした様子で日常に戻っているようだ。


 だが、俺にとってはこれ・・がいつもの一日だった。


 なまじ注目されているだけに、一挙手一投足が注目を集める毎日。なかにはシグルドのように、最初から敵視してくる者も多い。


「ふう……」


 深く椅子に腰かけながら、俺はため息をついた。


 疲れていない――といえば嘘になる。

 いくら慣れつつあるとはいえ、他人にあそこまで恨まれるのは気持ちのいいものではないからな。


「ロア。お疲れ様」


 ぼーっと天井を仰いでいると、ふいに聞き覚えのある声に呼びかけられた。


「なんだ。ラリィか」


 ラリィ・ヴァレスト。

 由緒正しい剣聖の家系の末裔まつえいで、ラリィも一族同様に抜きんでた強さを持つ。


 18歳ながらにSランク冒険者として活躍し、王都では彼女の名を知らぬ者はいないだろう。


 ……だが、彼女のいいところはそこだけではない。 


「ロア。なに考えてるかわかるよ?」

「正解。今日もいい胸してるなぁって思ってた」

「はぁ。ほんと最低」


 ラリィはうんざりしたようにため息をつく。

 いや、実際、ラリィは男性の羨望を一気に集めるような外見だからな。


 現に、気さくに会話している俺とラリィを、他の冒険者が羨ましそうに見つめているところだった。


「こほん」

 話題を替えたかったやねか、ラリィはわざとらしく咳払いをかました。

「さっきの、見てたよ。大変だねロアは」


「……だったらおまえが変わるか?」


「できることなら代わってあげたいけど……でもギルドマスターが許さないと思うよ?」


「まあ……そうだろな」


 いくらSランクとはいえ、ラリィはまだ年端もいかぬ女の子。

 もしさっきのシグルドがラリィに追放宣告されたら――プライドがズタボロに傷つけられるだろうな。


 下手したら傷害沙汰になりかねない。


 まあ、シグルドが暴れたところでラリィなら一瞬で抑えつけられるだろうけどな。

 問題は、肉体的な傷ではなく――ラリィの精神面だ。


 ラリィは心優しいから、こんな大損な役回りは任せられない。


 大方、ギルドマスターのジジイはそんな算段だろうな。


 だから俺に任せているんだ。

 ほんっと、間抜けに見えて計算高いジジイである。


「た、たたた、大変です! ギルドマスター!!」


 勢いよく扉が開けられたのはそのときだった。


 見れば、息せききって現れた人物がひとり。

 ギルド職員のひとり――名前は忘れた。

 どことなく嫌な予感を覚えた俺は、立ち上がりながら問いかける。


「……どうした?」


「エメラルドドラゴンが現れました! 場所はトラッド平原です!」


「エメラルドドラゴン……しかもトラッド平原か……」


 こりゃまずいな。


 エメラルドドラゴンは《S級》の魔物として知られている。

 魔物のランクは冒険者と同じくE~Sまで振られており、当然、ランクが高いほど強敵だ。


 エメラルドドラゴンはその最上位。

 つまり、そこいらの冒険者ではまるで敵わない魔物が現れたわけだ。

 しかもその場所はトラッド平原……王都からほど近い平原地帯だというから驚きだ。


「参ったね……こりゃ」


 正直、シグルドのおっさんの相手はかなり疲れたんだが。


 ぶっちゃけ休みたいのが本音だ。

 けど。

 俺は気づいてる。

 みんなの視線がちょくちょくこちらに向けられていることに。


「ふむ……」


 まあそれも当然だ。

 Sランク冒険者でないと勝てない相手なんだから、安易に討伐しにいけるものではない。


 Sランク冒険者はそもそも数少ないし、多くのAランク冒険者は出張中。しかもエメラルドドラゴンの現在地はトラッド平原。


 ……仕方ないか。


「よしわかった。俺が出よう」


 おおおおおおおお! と。

 大きな歓声が沸き上がった。


「さすがロア様!」

「お願いします! エメラルドドラゴンなんかぶっ飛ばしてください!」


 パチパチパチと拍手までされる始末である。


 俺は腰に両手をあてがい、「どうどう」と言い切った。


「そんなに持ち上げるなよ諸君。このロア様が、エメラルドドラゴンなんざ確実に倒してきてやんよ。その代わりアレだ。焼き肉おごれよ?」


「もちろんです! ロア様のためなら!」


 予想通り、Aランク冒険者のバズが大声をあげた。俺を異常に崇拝していて気持ち悪いが、実力はたしかだ。


「じゃあバズ。俺がいない間はおまえがギルドマスターの代理の代理な。よろしく頼むぞ」


「はい! ロア様のために!」


 うん。

 問題なく引き受けてくれた。

 さすがにマスターがいない状況はまずいからな。


「よしじゃあ行くか! ラリィも頼んだぜ!」


「え? う、うん……。いいけど、ロアも今日は疲れて――」


「さぁみなさんみなさん! エメラルドドラゴンはこの俺様が倒してくるので、ちょっとの間、ギルドはよろしく頼むねーー」


 ラリィの声を黙殺し、俺はぐいぐいと歩き出す。


「ちっ、いっつもうぜぇな……」

「Aランク冒険者でも大人数なら勝てるだろ……おまえはギルドマスターやってろよ……」

「ふん、どうせ名声目当てだろうなぁ」


 その間、底辺冒険者がぶつぶつ言っていたが、それは気にしないでおく。


 だいたい的外れ……っていうより、全部的外れだからな。


「さて、じゃあいっちょエメラルドドラゴンぶっ倒してくるかね!」


 今日も今日とて、俺は注目のSランク冒険者です。


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[気になる点] 適齢期過ぎてて伸びしろもなく努力せずいつまでも底辺でくすぶってるおっさんが分相応に追放(クビに)されるだけならざまぁ要素一切なくて只の復讐だな。タイトルにざまぁがどうたら書いてるのにも…
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