008 人間の姿になろう
フローラの話を聞くと王都のそばの村に家族がいる。
奴隷として売られた後の家族が気になるので一度行ってみたいとの事。
反対する理由もないし、私は一人では町にも入れない魔物なので今はまだ一人で生きて行く自信がない。
そこで一緒に行く事にした。
一緒に旅を今まで通り大盾の擬態のままでも良いが、ギルとネロから別れたフローラには防御する手段しかない。
魔力があっても発動させるキワードを知らないからネロの様に攻撃魔法が使えないから攻撃方法がない。
私が地球にアクセスすればナノマシンが魔法を使うキワードを手に入れる事が出来そうだが、私が一瞬で手に入れて戻ってもフローラの時間では、かなり経過している可能性がある。
私が元の姿に戻って助ければ魔物なのがバレて問題になるかもしれない。
今ある技能でどうにかしなくてはいけない。
私が人間の姿に擬態できれば良いかもしれない。
人間の姿になれるかチャレンジしてみた。
怖い話だが取り込んだら擬態できる機能がるのだから人間を食べれば化けれるのではと思ったが、植物や動物を実験で取り込んでみようとしたが出来なかった。
メタルスライムは、鉱物などの無機物しか取り込めないようだ。
逆に普通の体が有機物主体のスライムだったら可能だったかもしれないが、そうであったならば地球とアクセスできなかったと予測出来る。通常のスライムは鉱物などは取り込めないようなので、盾に擬態も出来なかっただろうからフローラに出会えず、ただのスライムで人間に討伐されて朽ち果てたかもしれない。
メタルスライムに転生した事を感謝したが、だったら人間に転生させろと思った。
フローラと一緒に野宿をして朝になって移動を開始した。
しばらく歩いて行くと王都迄の道のりにある小さな町に入った。
フローラに聞くと王都まで徒歩で向かうと10日はかかる道のりだった。
徒歩だと1日で30km移動するので300km離れている事になる。今いる所は結構大きな大陸で、過去の世界だとアジア大陸なのかなとかフローラに担がれながら思っていると、武器屋が見えた。
武器屋を表す為か店先に安っぽい金属で出来た全身鎧が看板がわりに設置されていた。
だが外見は看板だけあって厨二病の様な格好良さ!
街中では口を作って喋れないのでフローラに思考を送る。
『あのお店にある全身鎧を手に入れられないかな?』
『ガーディアンさんが物を欲しがるって珍しいですね』
『考えがあってね』
『わかりました。聞いてみます』
店に入ると店主が顔をしかめる。
考えたらフローラの外見を、もっとまともな服装にすべきだった。
ボロボロの布服で靴も薄手の革製。今考えると奴隷が靴を履いてる自体が珍しい事だからギルとネロは本当は良い奴だったのかもしれない。あくまでこの世界ではの話だがな。
そして傷だらけの大楯をもているとなれば、怪しさ満点のフローラさんだった。
店主が顔をしかめるのもわからなくもない。
「すみません。表にある鎧を買いたいのですが」
「ん? 奴隷か? ありゃ鉄屑で作った柔らくて薄手の飾りみたいな物で実際は使えないぞ? それで良いなら金貨1枚なら譲っても良いぞ」
高! まぁ実用性はなくても作る手間はかかってそうだからなぁ
『ガーディアンさん! 前の報酬は飲食で使ったので金貨を持っていないのですが……』
『大丈夫だよ。収納に入ってるから買ってください』
『え!?』
収納から金貨を取り出して、フローラが驚いていた。
その金貨は偽金貨だよ。まぁ、ほぼ一緒だから誰も見破る事はできないだろうけどね。
今まで取り込んだ鉱物から少しづつ金の成分を貯めて1枚作っておいたのだ。
備えあればなんとやらである。
「これで良いですか?」
店主に金貨を渡すと、店主が僅かににやけた。
「まさか、買われるとはな。気が変わらない内に持っていってくれ」
フローラが店の外に追い出される。
外にある全身鎧を収納でしまった。
その場を離れようとすると、店から店主が出てきて叫び出した。
「俺の所の看板がわりの鎧が無くなってる! お前が盗んだんだな!」
フローラを指差した。
通行人が店主とフローラに注目する。
おいおい。金貨1枚で買ったはずだが無かった事にしようとしてる。
この世界は、本当に殺伐としているのだな。油断できない気がする。
『ガーディアンさん! どうすれば?』
『フローラ。私の言った事をそのまま店主に伝えてくれ』
『わかりました』
「誰か衛兵を呼んでくれ! 窃盗だ!」
『私が呼びにいって来ますよ』
「私が呼びにい、いって来ますよ」
「何言ってんだ! お前が犯人だろうが!』
『私が何故犯人なんですか?』
「私、何故、犯人ですか?」
「盗んだ鎧を出しやがれ! 収納の道具があるだろう出せ!」
『そんな物は、持ってませんけど?』
「そんな物。持ってない」
「嘘をつくんじゃない! お前が鎧をしまうのを見たんだ!」
ピーーーー
笛を鳴らしながら衛兵が走って来た。
「どうした!?」
「こいつからが店の前に置いた鎧を盗みやがった! 収納する道具を持っているはずだ!」
店主は、フローラが持っていると思う収納の道具が欲しい為に罠に嵌めた感じのようだ。
だが、ガーディアンの私がいる限りフローラは守る。
そもそも盾に収納の機能があるのは珍しいというか異常である。通常は鞄や指輪などに付加される能力である。
連れて行かれても店主が思っているような収納道具はないから、分からずに釈放されるだろう。
『すまない。騒ぎが大きくなってしまった。大人しく捕まってくれ』
「大人しく捕まります」
「そ、そうか! じゃあ詰所に来てもらおうか」
抵抗もせず素直に従うフローラを不思議そうに見ながら衛兵がフローラの手を拘束して店から離れた。
離れる際に周りに聞こえないような小さな声で、店主が衛兵に話しかける。
「必ず収納の道具を持っているはずだ。見つかったらよろしくお願いします。後はいつも通りで構いませんから」
「わかった」
ん? この店主と衛兵は仲間っぽいな。まぁ行けばわかるかな。
衛兵の詰所の奥にある牢屋にフローラを入れると、大盾の姿である私を牢屋の外に放置して衛兵はその場を離れていった。
その時に大楯の私を取り上げられるとフローラが不安そうな顔をした。
衛兵が離れてからしばらくして、先程の衛兵ともう1人の衛兵が戻って来た。
「隊長が留守のは良かったぜ」
「後はひん剥いてからお楽しみだな」
「俺が連れて来たんだから金は俺がもらうからな」
「いつも通り逆らったからって事で殺せば証拠が残らない」
物騒な事を話しながら牢屋の前に2人が立った。
「冒険者の奴隷のようだから仲間が居ないか調べたら、一人でこの町に来たようだな。運が悪かっ………」
大楯から手を出して私に対して無警戒な二人の後頭部を背後から殴った。
メキ!
嫌な音がして二人の後頭部が被っている薄手の兜ごと拳の形で陥没した。
不味い! 手加減したつもりだったが! 私の腕は金属製だったな!
殴った瞬間に二人の思考が伝わってきたが、過去にも悪い事を多く行ってきて殺されて当然な人物だった。
だけど、わざとじゃないんだ……
「ガーディアンさん。手がいつもと違う」
取り込んだ鎧の腕部分が大楯から生えていた。
成功したな。
大楯から足、胴体、頭と展示してあった全身鎧に擬態した。
取り込んだ鎧は、質が悪い金属で表面は汚れていたが、大楯に使われていたオリハルコンをベースに擬態したので、形は取り込んだ鎧だが表面は光り輝く白い全身鎧として生まれ変わった。
自分の想像力では落書きのような姿だったが、鎧を取り込んで擬態した新しい体は、見る人が中に誰か人間が入っていると勘違いすれば完全に人である!
魔物で言えば頭があるデュラハン? みたいな感じだが外見が聖的な感じの真っ白だから魔物と勘違いする人はいなそうだ。
頭の部分の内側に発音できる口を作って完成だ。
「おお! これで普通に町に入れるぞ!」
「ガーディアンさんが騎士になった!」
驚くフローラに対して、人間のような体が手に入って有頂天になった私は自慢したくなった。
その場で一回転して感想を聞く。
「どうだ?」
「どうと言われても?」
冷めた目で回答された。
「本当は騎士さんだったんですか?」
「いや違う……」
想像した感想と違う反応だったので落ち着きを取り戻した。
衛兵は息がなかったので、収納で取り込んだ。
収納は生命がある有機物というか魂がある存在は収納出来ないが、死んだ死体は容易に収納できた。
私の場合は、しまっている部位が余剰な身体の上に無機物で魂が入っていないから例外で、生きてるのにほとんどの身体が収納に入ってしまっている。
衛兵は、旅に途中で捨てよう。
フローラが閉じ込められている牢屋の梯子を触って吸収した。
単なる鉄ではなく合金を利用して強化されていた。
この世界の金属加工は、技術が結構高い事がわかった。
空いた格子の隙間からフローラが出てきたので、騒ぎが起きる前にこっそり町から逃げ出した。