004 冒険者ギルド
フローラに担がれて移動中である。
ギルとネロとフローラの3人が、森を抜けて町までやってきた。
大楯に擬態しているが目を出すと怪物とバレるので、直接外を見る事はできないが、フローラの視界を一緒に共有出来るので間接的に外の状態はすぐにわかる。
盾を装備している人の考えや記憶や感覚が流れ込む魔力によって手に取る様にわかる。
魔力って奥深いなぁ。
しかし、私から離れているギルとネロに関しては言葉に出した内容だけが思考として意味を感じることが出来るが、何を考えているかまではわからない。
直接触ればわかるのだろうか?
フローラの記憶から冒険者ギルドに向かっている事がわかる。
まだ昼になったばかりなので、もう一件依頼を受ける様だった。
町の中にありる大きな建物に入ると、そこは冒険者ギルドの受付がある場所だった。フローラらがゴブリンの討伐証明としてゴブリンの耳を取り出して報酬を受け取っている間に、ギルとネロがさまざまな依頼が貼り紙で張り出された掲示板を見に行っている。
ゴブリンの報酬は耳の素材買い取りが5体で銅貨50枚で、駆除の依頼料が銀貨1枚だった。
フローラの記憶から元の世界と比較すると金貨が10万円で銀貨が1万円。銅貨は100円相当だと考えられる。
大楯の収納へ受け取った銀貨と銅貨を入れるとギルとネロが戻って来た。
『しけてる依頼しかなかったから今日は終わりだ』
『預けてる金を出せ』
先程しまった銀貨と銅貨を取り出すとフローラが殴られた。
『全部って言っただろ! これだけの訳ねーだろ! お前が金を貯めてるのは知ってるんだぞ』
『え? それは私にくれたんじゃ?』
『奴隷に報酬なんかないんだよ! 食事代渡しても食わずに貯めてるだろう? 今日から食事代は渡す必要ないな。だけど出してくれたら考えようかな?』
震える手で大楯からフローラが銀貨17枚を取り出した。
すぐに乱暴にネロが奪い取りフローラを蹴り飛ばす。
大楯の結界でダメージはないが見ててやな気分になる。
『初めから素直に全部出せばよかったんだよ屑が!』
『それじゃ今日から食事代はなしだな』
『そ、そんな!』
『考えようかなって言っただけだろう。物乞いでもすれば良いだろ? 隠れて貯めてた罰だ』
『明日、またここで待ち合わせだ。じゃあな』
ギルとネロが去って行った。
フローラの記憶だと過去にネロが金貨10枚貯めたら奴隷から解放すると言った事があったようだ。
それを信じて、毎回もらえるやっと食事ができる最低の賃金をさらに無理をして貯めたお金だった。
ギュル……ギュル…
冒険者ギルドからフローラが出ると、お腹が鳴った。
流石にせっかく出会った宿主に倒れられるのも困る。
収納に隠した自分の体の一部から摂取した鉱石の成分を集めて偽造銀貨を一枚作り出す。
金貨、銀貨、銅貨は単純の作りだった為か私の想像力でも本物のように出来た。
そのうちに本物を吸収して精度を上げておこう。
冒険者ギルド横の狭い通路にうずくまっているフローラの目の前に、大楯からちょっとだけ触手をだして偽銀貨を置いてみた。
偽銀貨が落ちているのを発見したフローラが周囲を見るが不思議そうに偽銀貨を拾った。
再び冒険者ギルドに戻って落とし物として届けてしまった。
ちょっと! 正直なのは良いけど私の努力が無意味になってしまった。
話しかけるしか助ける方法がないのかな?
フローラがギルドを離れて野宿先を探して、人気の無いところに移動してから意を決して話しかけた。
『初めてましてフローラ』
『誰!?』
突然、私に話しかけられて驚いて周囲を見渡す。
『驚かせてすまない。君が持っている盾です』
『え!?』
その瞬間に過去のフローラと傷だらけの大盾の出会いが頭に一気に流れた。
非常時の魔物に対する囮と荷物運び用に買われたフローラが、奴隷として辛い日々を送っている時にギルとネロが、自分達の防具を探してとある店に入った。陳列される防具の片隅に傷だらけの大盾が置いてあった。
売り物なのに酷い傷だらけの盾が気になってフローラが見ているとネロが興味を持ったようだ。
「囮の癖に防具に興味でもあるのか?」
「いや、少しでも時間を稼げるなら持たせるのもアリでは?」
「運べる荷物が少なくなるだろ?」
ギルとネロが話していると店主が話しかけてきた。
「これは掘り出し物ですよ」
傷だらけの大楯を持って店主がこういった。
「ボロボロですが、魔力が高いものが持つと隠れた機能があるんですよ」
そう言われてネロが盾を持ったが何も起きなかった。
「は? 何も起きないぞ? ゴミを売りつけるつもりか?」
店主もギルもネロも傷だらけの大楯がオリハルコン製である事に気がついていない。
理由は傷だらけだからだった。私はメタルスライムになっているからわかるが、オリハルコンって超高分子で分子間の結合力が高くて通常は傷などつけれない。彼から勘違いするのも仕方がないと思った。
「ここまで傷があるなら中途半端な鍛冶屋が質の悪い金属で作った大きいだけの盾だろ? 安くしろよ」
「お客さんには敵わないなぁ。だが魔力があれば発動する機能があるって鑑定師が言っていたんだがな?」
「俺が魔力が無いって言いたいのか?」
ネロが手に野球のボール程のファイヤボールを出現させた。
「え! いや! 違いますよ!」
店主が慌てて謝る。
「詫び料としてもらっていくからな」
ネロが盾を持って店を強引に出て行った。
「お客さん困ります!」
店主が引き止めようとしたが、ギルが店主に首筋を背後から叩いて気絶させた。
店から離れてネロがフローラに盾を渡した。
「ほら、お前が欲しそうだったからもらってきてやったぜ。俺が魔法を詠唱してる時の時間稼ぎを少しでも長くしろよ」
渡されたフローラが盾を持った瞬間に、盾の機能がフローラに伝わった。
「え!?」
「ん? まさか本当に機能があったのか? 何を感じた?」
「物を収納する機能と身を守る機能?」
聞いた途端にネロの機嫌が悪くなる。逆にギルの機嫌が良くなった。
「スゲーあたりじゃん! 魔道具のような機能あるんだ!」
「それは俺の方がお前より魔力が劣るって事か!!」
ネロが手加減なしにフローラを蹴り飛ばす。
派手にフローラが倒れるが、盾の結界によってフローラにはダメージがなかった。たいしてダメージがないように立ち上がったフローラを見てギルが驚く。
「マジでスゲー! 身を守る機能って奴か?」
ギルがネロと一緒になってフローラを蹴り始めた。
二人が疲れるまでフローラは攻撃を受け続けた。
それから荷物運びは全てフローラになり、ギルとネロは最低限の装備しか持たなくなった。
戦闘になると前衛がフローラになった。
攻撃を受けているフローラに、フローラの事など考えない攻撃が後衛のギルとネロから行われるのだった。
ネロの魔法に魔物と一緒に吹き飛ばされる記憶
ギルの剣が魔物を倒した際にフローラを一緒に吹き飛ばす。
盾を手に入れてからのフローラの扱いが、盾が無い時よりも酷くなりギルとネロは最強の囮を手に入れて成り上がっていった。
気がつけば初級冒険者だったギルとネロが中級冒険者になって、ますます増長していった。
最低最悪の二人だった。
結界に守られた高い魔力を持つフローラを二人が妬んでいる気がする。
実はフローラは、盾の私を恨んでいるかもしれないと考えたがフローラの思考が伝わってきた。
『ありがとう。貴方が私を守ってくれていたんですね』
恨むどころか出会いを感謝していた。なんか泣けてきた。
転生してから食欲と生存本能と好奇心しかなかったが、まさか母性に目覚めるとは!
フローラを守ってやりたくなった。