003 大楯に擬態する
『助けて!』
少女の口を押さえているので叫べないが彼女の思考が私に伝わる。
やっぱりゴブリンの時も少し思ったが、これって喋ろうとしている内容の思考が読めるって特殊能力だよな。
喋ってなくても伝わるし、ゴブリンに対してもメタルスライムの私は発音器官がないので発音出来ないのに私の思考を送り込んで会話できたしな。
考えているうちに、フローラが気絶してしまった。
不味い口を押さえて窒息させてしまったのか?
急いで呼吸を確認すると、ちゃんと呼吸をしているので精神的なダメージか酸欠で気絶した様だ。
見たこともない目がついた魔物が迫って押さえ込まれたら精神的には衝撃的だったのか?
先に行った二人が戻ってきたら不味い。
フローラを見ると近くに、フローラが装備していた傷だらけの大楯が落ちていた。
金属の種類を感じる。
オリハルコン? 強大な魔力も感じる。
美味しそう!?
メタルスライムになった為か、肉や野菜ではなく鉱物が今や大好物だった。
気絶しているフローラを離して一気に傷だらけの大楯を身体で飲み込んだ。
すぐに体が大盾を吸収していく。
なんと! この大楯の能力がわかる。
装備者の魔力を利用して別次元に荷物を保存出来る機能と、結界を張って外部からの攻撃を防ぐ機能があった。
早速、大楯に擬態をしたが大楯よりも私の体が大きかったので余った体は、いま手に入れた大盾の能力で別空間に収納した。
これは、凄い!
大盾の能力が使える! 吸収するとその物の能力も取り込めるのか!
一度自分の能力を時間をかけて検証する必要があると感じた。
メタルスライムって知識があったら恐ろしい程の高性能なんじゃないか?
そういえばゲームでも経験値が異常に高かった気がする。
取り込んだ能力で強いが、馬鹿だから能力を使える個体がいないから雑魚だったのかな?
擬態しても再び外を見るために体に目を出すと、偽物とばれるのでしばらくはおとなしくしておこう。
そう思った頃に、森に行っていた二人が戻ってきた。
目は無いが盾の表面に伝わる振動でわかった。
『ん? 糞遅いから面倒だが戻ってきたらフローラが倒れてるぞ?』
『マジで使えない屑だな! 起きろ屑!』
ゲシ!
何かを蹴る音が聞こえると視界が開けた。
目を構築してないのに外が見える?
『すみません! なんか石に目が付いた魔物が襲って来て……』
『なんだそりゃ? 何処にもいないし襲われたにしては怪我もない様だが?』
『そもそもお前は盾の結界が使えるんだから攻撃は全部無効だろうが! ふざけた事言ってんじゃねえよ』
バキ!
杖を持った魔法使いの少年がフローラを殴った。
おお? 目を作って外を見ていないのに、外の様子が見えた。
フローラが見ている視界と考えている事が全て理解できる。
盾に流れる装備者の魔力でフローラと大盾がリンクして彼女の感じている事と知識が伝わってくるようだ。
これは便利だ。
しばらく盾の擬態をしてフローラを通して情報を集める為に、この集団に付き合う事にした。
『とにかく早く来いよ! 次の依頼に行くぞ!』
『はい』
リーダーの青年が言うとフローラが返事をして大楯を持ち上げた。採取したゴブリンの耳を大楯を利用して出来た別次元の入り口に投げ込むと移動を開始した。
フローラから得た知識から壮絶な彼女の過去を知る。
剣を持った青年はギルという剣士で、杖をもった少年はネロという魔法使いである。
ギルは脳筋だが剣士としての才能は高い。強い人には従うが弱い奴には容赦がない。
軽装で皮の鎧を装備してロングソードにしては少し小ぶりの両手剣を背中に担いている。
年齢は20歳前後で弱いフローラを使い捨ての荷物持ちとしか思っていない。
ネロは陰険で安全重視の石橋を叩いて渡る派の性格をしている。
体に保持している魔力は低いが知識が豊富で様々な魔法を使う。
厚手の緑のローブを羽織って魔法使いが装備しそうな帽子をかぶって手に身長程の豪華な杖を装備している。
年齢は14歳前後で全ての人を自分より馬鹿だと思っていて、フローラを攻撃魔法の詠唱時の魔物に対する囮だと思っている。
貧困に喘いでいる村に生まれたフローラは、生活に困って家族に奴隷として売られた。奴隷市場で何も取り柄がなさそうなフローラをネロが安く買い叩いた奴隷がフローラだった。
フローラは18歳ぐらいだが、栄養不足や過度の労働によって成長が阻害されて14歳ぐらいに見える外見だった。
安っぽい布に服に傷だらけの大楯を持っているだけの装備だった。
フローラ自身は、二人が自分をどう思っているかは知っているが奴隷の為に従っている。
体の首筋に奴隷紋がある為に逃げ出すことも出来ない。
奴隷紋は魔力による契約のようで、契約外の事をすれば激しい苦痛を与えて最悪の場合は死に至る。
フローラの契約内容は、ネロに絶対服従だった。
3人は冒険者ギルドと言う組織に所属していて依頼をこなして報酬をもらう冒険者である。
さっきからギルやネロがフローラを何かにつけて攻撃しているが、盾の結界によってフローラの魔力がある間はダメージは入らない。
それを二人が知ってから容赦ない暴力が日常的に行われている。
なんか、最悪な冒険者に拾われた気がする。
今は大盾に擬態しているので、自分で動かなくてもフローラが私を運んでくれるので楽だな。
自分の能力を時間があるので検証してみた。
元の世界で言えばゲームや架空の小説に出てくるスライムが私である。
その中で特殊な金属を多く含むメタルスライムのようだ。
今わかってる能力は、以下の通りになる。
・変形
ある程度、思った形と能力の物に変形出来るが精度がわるく目や手足も子供の落書きのような形にしかなれなかった。
吸収と組み合わせると精度が高い物に変形できる。
・鉱物吸収
吸収した物に擬態できる。
吸収した物の能力を取得する。
吸収した酸化する金属などは、空気中の酸素と結合させて酸化させる事により栄養として利用出来る。排泄物は酸化した金属など。
・意思疎通
付近の生物の今の思考を読み取る。逆に思考を送ることも出来る。
生物以外の無機物に対しては、含まれる成分や構造が感じ取れる。
・収納
大楯にあった能力で異空間に物体を収納出来る。
使用者の魔力によって収納出来る大きさや量が変わる。
・結界
大楯にあった能力で自分自身と装備者など任意の対象に薄い結界被膜を発生させて、ダメージを魔力がある限り無効化する。
吸収の能力のせいで、今後は能力がある装備や道具を吸収すれば無限に能力が増えてるんじゃないか?
無双できる予感がしてくる。
単純に不思議な能力でありえない気がするが、なんだか科学的な根拠がある気がしてくる。
『魔力とは何か?』がわかればもっと理解できそうな気がする。
元の世界では存在しないミスリルと言う材質の大楯を食べた時に味を堪能したのだが、人為的に作って加工された味がした。
確か質量はエネルギーに変換出来てエネルギーは逆に質量に変えることが理論上出来る。
ミスリルはエネルギーから何者かが成分したんじゃないか?
神って奴か?
それにしてもギルとネロは、元の世界から考えると人間として駄目だな。フローラは良い子のようだから助けてやりたい気持ちになった。