表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/13

012 蹂躙

 2階の窓から地面に降りると、私には聴覚を遮断したので音が聞こえないが激しく音がしたようで、レオとメルそして騎士団がゆっくりと私がいる方向に目線を移動しようとしていた。


 自分は普通に動けるが、周囲の時間はゆっくり流れているようだ。

 剣を構えて騎士団へ走り込む。

 実際は、自分が感じる走っている速度よりも更に高速で動いている為か、鎧の間接で火花が上がっている。


 騎士団が私をみようと振り向いている途中で、既に彼らの場所に到達する。


 そして剣を彼らに振り下ろす。


 剣も普通に素振りレベルの速さに感じるが実際は超高速なのだろう。空気と剣の間が僅かに赤くなっている。摩擦熱だろうか?

 騎士の鎧を豆腐を斬るように切り裂いていった。


 もはや蹂躙だった。


 ゆっくりとしか動けない騎士へ高速で動ける剣を持った素人が襲うのだ。


 体感で5分間でこの場にいる騎士団全員を斬った。

 実際は数秒だったのかもしれない。

 鎧の関節と剣が真っ赤になっている。かなりの負荷がかかったのだろう。

 私の鎧全体から湯気まで出ていた。


 そして、通常の状態に戻った。

 時間の流れが通常になった。


 ドサ! ドタ! ジャリン!


 鎧が地面に落ちる音や、何か金属が擦れる音が聞こえる。


「な……何が起きたのだ?」


「近衛騎士団が……」


 レオとメルが唖然とした顔をして私を見ている。


「窓から物騒な会話が聞こえた。私達も殺す様な事を言っていたので対応しました。これって正当防衛ですよね?」


 この世界で正当防衛なんて価値観があるかわからないけど言ってみた。

 屋敷を見るとフローラが2階から飛び降りて、着地に失敗してお尻から地面にぶつかった。

 盾の結界が発動して、ダメージはないようだが少し痛かったのかお尻を摩って、こちらに歩いて来ている。


「フローラ! もう用はないから旅の続きをしよう」


「はい」


 レオとメルが呆然としている間に逃げよう思ったが、新たに10人ほど騎士団が現れた。


 そういえば騎士団の人数は100人と言っていたから残り80人もいるのか?


 動きで加熱した鎧の関節が冷めてきているが僅かに赤い。

 熱に強い金属で関節を作った方が良いのだなと考えながら、加速して新たに現れた騎士を一瞬で倒した。


 誰も私の動きを目線ですら追えないので、戦闘と言えないレベルの戦いである。


 通常の状態に戻ると私の斬撃が速すぎる為か摩擦による煙が倒された騎士から昇る。

 目撃者は極力減らしたいので、騎士達は全て致命傷を与えた。

 この世界に来てからフローラと共に見てきた価値観からすれば、元の世界よりも命の重さが軽いが仕方がない。


 本当なら目撃者であるメルとレオも始末したいが、私達と敵対していない者は殺さないのは、私に残された僅かな良心なのかもしれない。


 残り70人か?

 せっかく助けたメルとレオだ。一旦は去ろうと思ったが連れていく事にしよう。


「生き残りたいならついて来い」


 呆然としていた二人だったが、素直に私について来た。

 屋敷から街道と思われる場所までに30人程の騎士に出会ったが、会話もせずに問答無用で倒した。


 それを黙ってレオは見ていた。


 レオが既に倒していたのか屋敷に残っていたのか、もう少し多いはずの残りの騎士達には出会わなかった。

 街道に出てからは王都へ向かう進路をとって歩きはじめた。


 メルの衣服が貴族にしか見えないので、その外見で街道を歩くには違和感しかない。フローラの予備の服に着替えさせて王都へ目指す。


 しばらく歩いているとレオが話しかけてきた。


「危ない所を助けてもらって感謝する。貴方を誤解していたようだ。良ければ王都まで護衛を頼めないだろうか? 報酬は必ず払う」


 最悪の出会いから手のひらを返すような対応だった。

 依頼と言われてもフローラは冒険者だが、私は自称冒険者なんだがな。

 鉱物を取り込んで硬貨成分を抽出して偽硬貨を作るのも有限である。

 依頼を受けてがっぽり稼ぐのも良いかな?


「わかった。依頼を受けるが冒険者ギルドを通さずに直接の依頼であればの話だが?」


「………わかった。報酬はどれぐらいが良いのだ?」


 相場がわからない。相手に任せよう。


「そちらの言い値で構わない」


 驚いたような顔をしてレオが頷いた。


「更に誤解していたようだな。わかった王都に着いたらすぐに用意しよう」


 それから既に巻き込まれたので、諦めてメルから今回の経緯を聞きだした。


 メルが襲われているのは、意外な理由からだった。

 私達がいる国はキュリ王国と言われていて、多くの国が戦争をしている中で初代のキュリ・バーグスが人類……いや人間を統一したはじめての国であり、人間の国はキュリ王国しか存在しない。現在はその血を受け継いだバーグス家が王族として支配している。


 人間の国以外は、耳長族(エルフ)剛腕族(ドワーフ)獣人族(ビースト)小人族(ホビット)など各種族で国があり、そして全ての国が敵対している魔族の国や全ての支配者で他種族は埃だと思っている天界人が住む天空城なるものがある。

 まさにゲームやファンタジー小説のような世界だ。


 バーグス家の王族には3人の王子と2人に王女がいる。

 その第二王女がメル・バーグスである。


 事の発端は、エルフの国への戦争をするかしないかでの内輪揉めであった。

 平和を望む第一王子と第二王子と第一王女が戦争反対派であり、第三者王子と第二王女が戦争推進派であった。


 そう、メルは戦争推進派だったのだ。


 現国王のモスト・バーグスが病気で倒れると世継ぎ問題が発生した。


 戦争推進派の貴族達をまとめる為に王都を離れている時であれば、第二王女のメルが第一王子と第二王子の暗殺を実行したとは思われないと考えて王都を離れていた時に、メルは暗殺を実行した。


 しかし第一王子の暗殺は成功したが第二王子の暗殺は失敗してしまい、逆に暗殺の事実を第二王子に利用されて、支援していた第三王子を危険な立場にしてしまった。


 現在、第三王子は暗殺に関して全く関係なかったのだが、第一王子暗殺に関わったと第二王子に冤罪を押し付けられて幽閉されている。このままでは第二王子が王様になってしまう。


 そこで第三王子は無実で、全ては第二王女のメルが実行した事を証明する為に王都へっ戻る必要があった。


 第三王子の為に死にに行くような行動だった。


 街道を歩きながら話を聞いていると、何個か疑問が湧いてくる。ストレートに聞いてみる事にした。


「何故、エルフと戦争をする行動をとっているんですか?」


「…………エルフの国には、人間の奴隷が沢山います。それを救う為です」


「王国にも奴隷がいて、そこにいるフローラも元奴隷でした。王国で買い戻せば良いのでは?」


「今や腐敗した王国には買い戻せるような予算などありません。人間を奴隷として扱う種族など滅んでしまえばよいのです」


 メルは言ってる事の矛盾がわかっているのだろうか?

 王国がエルフの国へ奴隷を売っている訳で、それをエルフが人間を奴隷にするから許せいとは?


 てっきり正義と言われる方が第二王女のメルで、悪と言われる方が第二王子かと思ったが、両者の言い分を聞かないとわからなくなってきた。

 今のところ逆で、メルがとんでもなく悪い奴に感じて来た。


「素直に捕まって第一王子の暗殺には、第三王子は関係無いと訴えれば良いのでは?」


「捕まってしまっては、王都に着く前に第二王子に暗殺されてしまいます。直接王都に戻って王に伝えなくては意味がないのです」


「伝えた場合は、暗殺の首謀者として大変な事になるにでは?」


「構いません。キャスお兄様さえ無罪であれば、ヒルカ王子など倒して必ずエルフを滅ぼしてくれるはずです」


 第三王子がキャスと言う名前で、第二王子がヒルカと言う名前なのかな?

 言葉と言葉に含まれる思考に食い違いがなかったので、全て本音で話していることが逆に恐ろしかった。

 なにかドロドロした思考を感じるが、王都まで護衛をして報酬をもらったら早めに別れるべきだと感じた。


 話を聞いていると背後からレオの殺意に似た思考を感じた。

 ここまで知ってしまったからには、口封じも予測して動いた方が良さそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ