011 テンプレは突然に
屋敷に泊まることになり、レオに部屋に案内されて落ち着いた所で食事に呼ばれた。
屋敷の中にメルとレオの二人しかいないかと思っていたら初老のメイドが呼びにきて、食事が出来る場所まで案内された。
既にレオとメルが、大きなテーブルの席に着席していて豪華な料理をレオが化けてない執事が持ってくる。
フローラと私が着席するとレオが口を開いた。
「食事で鎧を脱ぐ事も習って無いのか? これだから、貴族じゃない奴とは一緒にいたく無い」
そういえば、呪われてるとかレオが言っていたから、そんな設定にしてしまおう。
「それは失礼した。実は呪われた鎧で一度装備すると装備を外す事が出来なくなった。王都にその方法がないか調べに行く途中なんだ」
「ほう! 俺の予想通りだったようだな! 即死魔法が効かないのもその呪いの鎧のせいだな。たかが冒険者風情が防げる訳がないのだ」
「レオ! 失礼ですよ。ちゃんとした自己紹介がまだでしたね。私は第二王女のメル・バーグスです。そこにいるレオは王宮魔導士で私の従者になりますが、この屋敷の持ち主で侯爵です。口は悪いですが私を守る為に仕方がないのです。許してやってください」
王女!? なんか良くある話の王族の相続絡みの揉め事に巻き込まれてる気がする。
レオに関しては、口が悪いと言うよりも殺そうとして来てるから普通の感覚だと許す訳がないんだが?
メルと言う王女も大概な王族的な価値観だな。
まぁ、私達に怪我もないし戦ってもなんの利益も無さそうなので争う気はないが、なるべく距離を置きたい。
「わかりました。謝罪を受け入れます。明日の朝までここに居れば良いのですね」
「ありがとうございます。実は私達は王位継承権を巡って……」
「ちょっと待ってください。それ以上聞くと私達も巻き込まれる恐れがあるので、その話は話さないでもらえますか?」
「貴様! メル様が優しいからと無礼だろうが! 王族のお話を途中で遮るとは、許せん」
「レオ! 止めなさい。わかりましたこの話はいたしません。夕食を食べ終わりましたら部屋にておくつろぎください」
レオがまた暴走しそうだったがメルのおかげで収まった。
話が大きすぎて私とフローラ巻き込まれたら非常に厄介だと感じる。聞かないのが一番だった。
食べるように見せかけて収納に食べのをしまっていく。
フローラは、マナーを知らないようだが頑張って上品に食べようとしていたが上手くいっていなかった。
その後にフローラと部屋に戻り、フローラと私で2箇所の部屋用意されていたが、私がフローラの護衛であり、呪いの鎧の為に脱げないから立ったまま寝ることを伝えると、やな含み笑いをして初老のメイドが大きい方の部屋に案内してくれた。
何故かフローラの顔が赤かった。
そもそも睡眠欲が無いので私は寝ないからね。
何事もなく、フローラが寝て屋敷が静かになった。
ベットに寝たフローラは、柔らかい寝具に初めは感動していたがすぐに寝息が聞こえた。
私は部屋のドアで直立したまま考え事をしていた。
まさか、フィクション作品やゲームの物語などに多い王族関連の揉め事に巻き込まれそうになると思わなかった。
まだ、この世界に来てからまもなくて、自分の力も完全に理解していない状態では、避ける選択肢しか浮かばない。
私が魔物とバレた時の対応も想像がつかない。
いつのまにか、深夜を過ぎた頃に窓の外が赤く明るくなって来た。
「火を付けられたぞ! 逃げれる者は逃げろ」
「第二王女を探し出せ!」
「証拠は残すな!」
屋敷が何者かに襲撃されてる気がする。
外が赤いのは屋敷が燃えている?
まさか、既に回避不能な王族の継承権を巡る争いに巻き込まれていたのか………
外から聞こえる怒号が大きくなり、すぐにもこの部屋に襲撃者が来そうだ。
この騒ぎの中、フローラはヨダレを出して爆睡していた。
「フローラ? どうやら何者かが屋敷を襲撃してるようです。逃げる準備をしてください」
「へ? もう食べれません」
寝ぼけるフローラに服を着せて魔力を流せば結界が発動する盾を待たせる。
私は腰に帯剣したオリハルコンを表面にコーティングして創った剣を装備する。
この部屋は2階だから窓から飛び降りても大丈夫だろう。
剣で窓ガラスを割って外に出ようとすると、外にレオとメルがいた。
レオが防御の魔法でメルを守っているが、周囲を20人を超える騎士が囲んでいて、一目で追い詰められている事がわかる。
窓から逃げると二人の争いに巻き込まれるので、部屋のドアから逃げようとドアを開けるとドアの向こうは火の海だった。
煙がいきよいよく部屋に入ってくるので急いでドアを閉めた。
火の勢いが凄い。この屋敷は木造なのか?
ゴホ! ゴホ!
背後でフローラが煙で咽せていた。
なんかレオとメルに巻き込まれた! 回避不能の運命って奴なのか?
再び窓の外を見るとメルに対して、豪華な鎧を装備した男が罪状を叫んでいた。
「……第一王子殺害及び第ニ王子殺害未遂の件で暗殺者が拷問の末に第二王女であるメル・バーグス様の名前を吐いた。よって、拘束します。拘束出来ない場合は殺害しても構わないと第二王子から命令を受けています。王宮魔導士であるレオ様も罪人を庇う事をやめられよ!」
「わかりました。素直に従いますので屋敷の人々には危害を加えないでください」
「メル様! 騙されてはいけません! 元より殺害が目的です。そうでなければ屋敷に火を放つ必要性はないです」
「あははは。さすがはレオ様だな。建前は拘束しに来た事になっているが逆らわなくても全員殺せと命令を受けている。いかに王宮魔導士で最強と言われるお前が強くても近衛騎士団100人に勝てるかな?」
よくある話っぽい流れになって来ている。そもそも会話しないで、すぐにバチバチやり合えば良いのになぁ。
「デスミュート!」
「即死魔法か? 無駄だよ。お前が得意な即死魔法は脅威だが、魔力が高ければ即死確率が非常に低い事は分かっている。対策として近衛騎士団全員に一時的に魔力を増幅する腕輪を装備させている。残念だったな」
会話中もレオの防御結界を騎士が剣で攻撃して突破をはかっていた。
メルは、下唇を噛んで悔しそうにしている。
さて、実は夜に考えた事があった。
地球にアクセスした際に体感速度が非常に下がって、自分では一瞬だったが現実では1週間以上経過していた。
これは、私がコンピュータの様な仕様に近いのでは無いかと思ったのだ。
対処する情報量が多く処理が重ければ、私の思考が遅くなるって事だ。
逆に最低限の情報だけにすれば処理が速くなるんじゃないと思った。
まず、感覚の停止……聴覚の停止……視覚と全身鎧の動きだけに集中!
雑念を払っていくと………
レオの防御結界に対して攻撃している騎士の動きが遅くなっていく。
これは私の思考速度が上がった為だろう。
成功だ。
フローラを見ると盾を装備して、窓の外を見ている。
フローラは結界があるから大丈夫だろう。
どのみち、騎士団の会話を聞く限り私達も殺害対象の様だ。
騎士団を倒さなくてはならないようだ。今の私では手加減など出来ないが許してくれ。
私は2階の窓からレオとメルがいる場所へ飛び出した。