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宣言する男

最終回です。


 俺は後ろを振り向いた。まずは現状確認が大事だ。

 チェイミーは傷だらけ、ジャックは胸が焦げてるけど、とりあえず無事そうだ。メアは大した外傷はないけど、立とうとして立ててない。結構やばいのかも。

 レーナは……よかった。ひとまず無事だ。

 ジャック、チェイミー、レーナの三人は、俺の目を見て驚いた。


「お前、右目が……」


 俺が静かにうなずくと、三人ともなんとなく事情を察したのか、悲しげな表情を浮かべた。

 現状確認終了。俺は再びポールを見た。


「やつの心臓は破壊した。お前たちの企みは失敗だ」

「失敗? まさか。今日のもう一つの目的は仲間を引き入れること。どう見ても成功だろう!」


 内通者は思った以上にたくさんいた。見知った顔も何人かいる。たとえば、レイチェル、とか。


「お得意のナンパでたぶらかしたのか?」

「君はいつも僕の神経を逆撫でするね。……いいだろう。父さんを殺した敵、ここでとろうか」

「お前一人で? 無理だろ。どうせなら後ろの愉快なお友だち全員で来いよ」

「無理なのは君だろ。一度でも勝ったことがあるか?」

「昔はすごかったって自慢話は、あてにならない」


 同時に飛び出して、剣を振った。

 激しい打ち合い。何度も金属が鳴り響き、火花が散る。

 ポールはたしかにめちゃめちゃ強い。さっきから守るばっかりで、攻める隙をいっさい与えてくれない。

 けど、エル・シッドに比べたら、まるで赤ちゃんが剣を振ってるみたいだ。技術も速さも力も、まるでない。


「どうした!」


 ポールがあざける。


「あれだけ大口叩いたわりに、防戦一方じゃないか」

「そっちこそ。こんなんじゃ敵を取るなんて言っても、日が暮れちゃうぞ」

「ぐっ!」


 ポールの剣をスピードがさらに上がった。しかもそれだけじゃない。剣に雷撃をまとっている。受けるたびに、体が一瞬しびれる。

 このまま真面目に戦ってたら間違いなくすぐに負ける。けど、そのための『デストレ・ザ・カンペアドールの教え』だ。

 俺は大振りでポールの剣を弾いて、一気に攻めまくる。このとき、ほんの少しだけ左肩から右腹にかけての斜めのラインを空けておく。

 俺の全力の攻めなんて、ポールなら多少苦労しても完璧に防ぐ。そして、俺の空いた斜めのラインを見逃すはずがない。俺を真っ二つにするつもりで、必ず剣を振るはずだ。

 死なない程度に、体を軽く引く。切られたんだ。当然死ぬほど痛い。ポールの体に俺の血が飛び散る。その瞬間、自慢げに笑った。

 今だ!

 俺はポールの足を踏み、腕を捕まえて完璧に抑え込んだ。


「なにを!」


 切先をポールの腹に当てる。


「リフュムーロ!」


 剣の形を型どった拒絶壁が、ポールの腹を貫いて、後ろに突き飛ばした。


「あぁぁぁぁ!」


 ポールは腹を押さえて悲鳴を上げた。

 後ろの天使たちがすぐにポールに駆けよる。悪魔たちは怒りで顔を歪ませた。


「俺の勝ちだ。お前ら全員、ここから出て行ってもらう!」


 俺は意識を力に集中させた。

 飛び出した悪魔たちも、気流で無理やり押し飛ばす。そのままゲートの中にポイ捨てして終わりだ。

 血だらけの腹を押さえながら、ポールは怒りと悔しさのままに叫んだ。


「ショート・アルマス! これで終わりだと思うな! 君は、君には……いつか必ず、死ぬより辛い目に!」

「好きにしろ。今日みたく、俺が全部防いでみせる。俺の名前はショート・アルマス! お前たちの全てのお友だちに伝えとけ! ケラヴロスを倒す、世界で一番の天使の名前だ!」


 一人残らずゲート中に入れて、俺の力で無理やり閉じる。

 倒れそうになるのを、剣でなんとか支えた。まだ、戦いは終わってない。

 レーナが俺に駆けよる。


「ひどい怪我! 無茶のしすぎよ。早く手当てしなきゃ」

「わかってる。けど後で」

「ダメ! そんなんで動けるわけないでしょう?」

「けど、他にも寝返ったやつはたくさんいる。真面目に戦ってたら勝てない。必ず誰か死ぬ。それを阻止するなら、今みたく俺がやるしかない!」

「あなた、自分の傷が見えないの? 勇敢なのと無茶は違うわ」

「けど、臆病よりましだろ?」

「そんなの……」

「絶対。無事で戻る」


 俺は口笛を吹いて、ヘルェルに乗った。

 これ以上、誰も死なせない。

 ここは学校の南側。次は西。湖の方だ。

 生徒たちが大量に寝返ったことに困惑しながらも、先生たちはほとんど悪魔たちを制圧し始めてる。みんなゲートの中に逃げ帰り始めた。

 というか、心臓は破壊されてポールがもうここにいないんだ。あいつらも、もう戦う必要がない。湖の奥に目をやると、まだまだ大量の悪魔がいた。しかも、ギガンテスが五体以上も暴れてる。助けに入るとしたらあそこにしかない。


「ヘルェル! あの悪魔がいっぱいいるところに──」


 行け! という俺の声は、轟音によってかき消された。

 天空から降り注いだ、半径二メートル以上はある、一本の巨大な光の柱がギガンテスの体を貫いて爆発した音だ。

 光が出た方向を見ると、雲を払って、白凰と同等のスピードを持つ巨大な生き物。エル・ペガサスが現れた。その頭上には、ものすごい覇気を放っているデルマートが乗っていた。

 てことは、デルマートのペットはあのエル・ペガサス? 規格外だ。

 次々と巨大が光線が放たれる。このままいけば、二百以上はあるあの悪魔の大群も、あっという間にチリになる。

 ひとまずここに助けはいらなそうだ。

 てことは、残りは北。森の方だ。


◇◇◇


 ビンゴ。森は逃げやすい場所だからか、今までで一番寝返った生徒が多かった。今立って戦ってるのは、ソニアとクラフトの二人だけ。

 俺は二人の前に飛び降りた。


「よぉ、久しぶり」


 俺がそう言って笑いかけると、クラフトは嫌そうな顔をして、ソニアは笑い返してくれた。

 ソニアと会うのは、なんだか気まずい。変な空気のまま疎遠になっちゃったし、人づてに聞いた話じゃ、彼氏ができたとかなんとか。それは多分ソニアも一緒で、すぐに顔をそらした。

 仕方がないからクラフトに話しかけた。


「調子はどう?」

「最悪だね! ……ウォーリーが裏切った」

「俺はむしろ、お前が残ってることが不思議なんだけど」

「たしかに、お世辞にも俺は性格はいい方じゃない。けど、天使としての誇りはある! 堕天使なんかに成り下がるわけはない!」

「あっそ。気に入った。ちょー嫌いだけど」


 俺は意識を力に集中させた。


「まだ制御できないから、できるだけ離れてて!」


 悪魔の大群を、気流で吹き飛ばした。


◇◇◇


 ニュースルクスを守るための戦いが終わって、俺は三日間眠り続けた。今回は体力が切れたってよりも、傷の方がやばいらしい。ユニコーン特効薬を塗っても、全治二週間だ。

 結局、ポールに誘われて寝返った生徒は、約三分の一もいたらしい。しかも、そのうち七十パーセントが女子生徒だ。ジャックは小馬鹿にしたように「これだから女は」ってつぶやいた。


 俺、ジャック、チェイミーは、目が覚めてからすぐ先生たちに冒険の旅の内容、それからリゼフのことを報告しに行った。


「フェニーチャーは死にました」


 俺がそう言うと、デルマートは少し寂しげな表情を浮かべて、「そうか……」とだけ答えた。

 たとえ悪魔でも、フェニーチャーはみんなの英雄だった。それが死ぬのは、当然辛い。俺はまた、泣きそうになった。


「リゼフ・ネージェンだが、この国の最高要塞に送られることになった。何年後、何十年後はわからんが、死刑はまぬがれんだろうな

「そう、ですか……」

「同情も、悲しむこともしてはならん」


 デルマートは俺の心を見抜くように言った。


「彼のしたことを、忘れてたならん」

「はい。分かってます……。けどできれば、一度でもいいから、本音で話してみたかったです」


 俺の右目のことは、事情を知る人以外には適当にカラコンをつけ始めたとか言っといた。いつかはバレるだろうけど問題ない。それまでに、みんなが納得するような嘘を思いつけばいいだけだ。

 俺たちの冒険の旅のことは、先生たちからみんなに伝えられた。もちろん、ケラヴロスが復活しようとしていることも、全世界に報じられた。

 想像どおり、俺たち三人は一躍ヒーローになった。新聞には、『舞い降りた天才たち。奇跡のSJC悪戯同盟!』なんて、でかでかと見出しにされてある。


 ニュースルクスの生活はと言えば、学校の復興作業とかばっかりで、結局そのあと授業は一回もなく、そのまま卒業式、数日後に修了式になった。


「悲しい事件があった」


 デルマートの言葉に誰もが耳を傾ける。


「我が学校の生徒たちの多くが、敵に寝返った。皆大好きだったあの男。ポール・アンダーボルトの誘いに乗ってな」


 この話をするとき、必ずレーナは泣きそうで、悲しげな顔をする。

 もちろん、レーナだけがってわけじゃない。他にもたくさん、いろいろ。ただメアは、ジャックを傷つけられたことが相当頭に来てるのか、むしろイライラしてる。


「アンダーボルトは偽名。本名はポール・チェインだった」


 その言葉に、メアが机を叩く。


「アンダーボルト……。雷の子って意味だ。ずっと、私たちをバカにして笑ってた!」


 これももう何十回目かわからない。もしかしたら記憶喪失なのかもって説が、俺とジャックの間じゃ最有力候補だ。

 デルマートが酒の入ったグラスを掲げた。


「しかし時は進む。わしは、いつかまた、必ずこちらに帰って来てくれる日がくると信じている。我らが五大天使に祈りを」

「祈りを」


 全員でそう繰り返して、修了式は終わった。


「アルマス」


 天空馬車に乗り込む直前、後ろからグアルディーに声をかけられた。


「ショートって呼ばないんですか?」

「あれはとっさで……」


 グアルディーは顔を赤くした。


「こほんっ。それより、あなたは人間界に帰るんですか? お金なら大量に持ってるだろうし、休暇の一ヶ月間くらいなら」

「まぁ、一応。お母さんに言われたんです。いろいろと。だから、これで最後だろうし、もう一度あそこに帰るのも悪くないかなって」

「そうですか……。いい案を持って来たのですが、まぁあなたの満足いくようにするべきでしょう」

「はい。中途半端に負けたままじゃ終われませんし、ケリをつけてこないと」


 グアルディーは、優しく微笑んだ。


「では、また一ヶ月後に会いましょう」

「はい。じゃあ、また」


 俺はジャック、チェイミー、ノーマン、レーナの四人と一緒に馬車に乗りこんだ。

 ラッキーなことに個室も取れた。


「なにして時間をつぶす?」


 俺がジャックにそう聞くと、ジャックは信じられないって感じで顔を引きつらせた。チェイミーを見ると、全く同じ反応だ。


「どうしたんだよ?」

「あのさ。外を見てみろよ。いい天気だぜ」

「うん。それが?」

「正気か? 俺たちはなんだ?」

「そりゃSJC悪戯同盟だって言うんだろ」

「そうだよ。天下の俺たちが、大人しく先生の言うこと聞いて、座ってるわけないだろ。絶好の飛行日和じゃん。飛ぶに決まってんだろ! 冒険の旅じゃなくて、旅行だよ旅行! どうせ荷物は駅の中に預けられるんだからここに置いとけば問題ないしな」


 チェイミーがこくこくのうなずいた。

 ジャックに敵わないのは仕方ない。けど、チェイミーにまで勝てないなんて。俺は大バカだ。こんな簡単で、楽しそうなこと一つ思いつかないなんて。

 

「じゃあこうしよう」


 けど、負けてばかりじゃいられない。


「俺たち三人、同時に窓から飛び出て、一番最後までヘルェルたちを呼ばなかったやつが勝ちだ」

「チキンレースね。オーケー、おもしろいじゃん」

「乗った」


 よし!

 と、俺たちが盛り上がっていると肩をとんとんと叩かれた。

 レーナが俺をキツく睨む。


「オーケー。わかってる」


 俺は両手を上げて言った。


「もちろん。レーナとノーマンも一緒だ」


 二人は顔を見合わせて笑った。


「そう来なくっちゃ!」


 窓は結構広いけど、さすがに五人並ぶとぎゅうぎゅうだ。


「よし! じゃあカウントダウン行くぜ!」


 ジャックの声に、俺たちは「おぉー!」と返事をする。


「三……、二……、一……、ゴォー!」


 高度約五千メートルから、海に向かって大落下。


「ヘル──」


 つい叫びそうになって四人を見ると、まだ誰もリタイアしてない。誰が負けるか。我慢だ我慢だ。

 落下中の風圧は、ヘルェルに乗ったときの比じゃない。一瞬でも口を開ければ、その瞬間顔を持っていかれるかも。

 一番最初にリタイアしたのはノーマンだ。半分くらい落ちたところで黒燕のジェマを読んだ。二番目はチェイミー。結構耐えてたけど、本格的に海が近づき始めてから、すぐにイヴを呼んだ。

 三番目はジャック。高度は多分、約百メートルくらいだと思う。


「もう限界だ!」


 って叫んで、ジェイドを呼んだ。

 ジャックが脱落して、俺とレーナは睨みあった。ここまで来たら負けるつもりはない。ない。ない、けど……さすがにやばくない? もうすぐだよ?


「へ、へ、ヘ──」

「シフォン!」

「──ヘルェル!」


 わずかにレーナの方が早く呼んだ。つまりこの勝負、俺の勝ち。ガッツポーズして叫ぼうとした瞬間、俺の口は水で塞がれた。はいはい。マヌケですよ。


 悪い知らせ:俺は最下位だ。

 いい知らせ:俺は今、最高の気分だ。




続編の題名は

ショート・アルマスと天界の赤い悪魔──深海の黙示録──

です!

いずれ、暇があれば書きたいと思います。


最後に、ちょっとした解説を。

第六話のゲームした男たち、でノーマンが

「……僕が寝てても、起こして誘ったかな……」

と、つぶやくんですが、

僕の予想だと、多分起こしてなかったと思います。

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