死の理に反した者
すぐに二人に生命力を返して、縄を切った。
二人はバッと体を起こして周りを見渡す。
「あれ?」
寝起き早々ジャックが言った。
「どうなった? 作戦は成功?」
「今のところは」
「なるほど」
周りを見渡してみる。長い廊下? ただの一本道だ。
「どこか部屋に隠れよう。追っ手が大勢来たら大変だ」
二人の顔を見てそう言ったとき、二人の奥で四足歩行のなにかが動いた。犬? いや、……フォンテスだ!
「危ない!」
俺は叫びながら、二人の体を倒した。雷撃が俺たちの頭上を通る。
「残念だったな」
さらに俺の後ろからガルクスギルテの声。
「俺たちが追っ手だ」
俺は二人と顔を見合わせた。
「フォンテスは頼んだ。俺はガルクスギルテをやる」
口笛を吹いて、ヘルェル、ジェイド、イヴの三羽を呼んだ。
「みんな頼む」
俺はガルクスギルテを向いて剣を構えた。
「ケラヴロスはどうした?」
「あの方が貴様ごときにわざわざ動いたりしない」
「そうか。じゃあ大丈夫だ」
「なに?」
「お前とケラヴロスを同時に相手するのは圧倒的にフリだった。俺たちが逃げたらやつは自分は動かず部下に行かせるはずだ。あれだけやつのことをバカにしたんだ。怒り狂ったお前は必ず一番最初に俺たちを見つける」
「なるほどな。たしかにフェニーチャーを使えば俺に勝てるかもな。だがそのあとはどうする? 俺を倒し、そのあともあの方を相手に戦えるほど、フェニーチャーは回復したのか?」
「いいや。けどそれでいい」
俺はガルクスギルテに手を向けた。
「リフュムーロ!」
ガルクスギルテは棍棒で簡単に弾く。その隙を逃さない。一気に突撃して切りかかる。けど、これも横に避けられた。
「貴様一人で俺に勝てるとでも?」
「一人じゃない。二人で、だ」
俺は意識を力に集中させた。持てる限りの力全部を使って、気流でガルクスギルテを壁に押し付ける。壁にクレーターができた。
壁に密着して動けないまま、ガルクスギルテは笑う。
「なるほど。たしかにこれなら俺は動けない。だがそれはお前も一緒。それにこの力、長くは持つまい。この程度では俺を潰せないぞ!」
「十分だ。フェニーチャー!」
俺の背中から左右一枚ずつフェニーチャーの翼が生える。炎をまとった羽根がガトリングガンのようにガルクスギルテに襲いかかる。ガルクスギルテは悲鳴を上げた。
俺は力を止めた。ガルクスギルテは血だらけの状態で、ぐったりと座っている。
「これで最小限の力でお前を倒せる」
「……俺はな。あの方は貴様には負けない」
「負け犬はなんとでも言える」
真っ直ぐ剣を振り下ろした。ガルクスギルテは真っ二つになると、黒いモヤになって消えた。
ジャックたちの方を見る。戦いはまだ続いていた。
フォンテスの放った雷撃を、ヘルェルたちが体で防ぐ。ジャックはフォンテスの攻撃を器用にかわしながら、二本の剣で切りかかる。
フォンテスが毒ガスをまいた。それをジェイドが波動で吹き飛ばす。怯んだ隙にジャックが剣を振る。ナイスコンビネーション。首にかすり傷だ。
「おのれ……!」
フォンテスが前足でジャックを引っかいた。剣を弾き飛ばされる。ジャックは急いで後退しようとするけど間に合わない。雷撃が胸に直撃して、後ろにふっ飛んだ。
倒れてピクピクするジャックを見て、フォンテスは笑った。その瞬間、
「こっち!」
チェイミーが上からフォンテスの体に飛び乗った。フォンテスは振り落とそうと体を振る。
「貴様! どけ!」
「無理。じゃあね」
チェイミーはナイフを両手で、そのままフォンテスの頭に突き刺した。
フォンテスは悲鳴を上げると、黒いモヤになって消えた。
俺もチェイミーも、急いでジャックに駆けよった。
「ジャック! 大丈夫か?」
大変だ。胸が焦げてる。
それでも、ジャックは俺たちに「へへっ」と笑って見せた。
「作戦成功。さっすがチェイミー」
「もう。無茶すぎ」
「チェイミーの言うとおりだ。死んでたかもしれない」
「けど生きてる! ガルクスギルテもフォンテスも死んで、俺はまだまだ元気。ピンピンしてる!」
こんな状況でも、相変わらずジャックはジャックだ。
「ガルクスギルテは倒した。次はケラヴロスだ。追っ手が来る前に移動しよう。ヘルェルたちはもう逃げていいよ。天界に帰ったら呼ぶから」
「御意」
ヘルェルたちを送り出して、俺たちは移動した。
たまに会う追っ手を倒しながら、さっきの部屋に進む。その途中で、武器庫って部屋を見つけた。ジャックの提案で中に入る。
「なにか強力な武器が手に入るかもしれないだろ?」
「まぁ、そうかもだけど、少なくとも俺にはインテッレクトゥスがあるし」
「もう一本くらい予備のために持ってても悪くないだろ?」
「それもそっか」
俺は二人と一緒に、置いてある武器をあさった。
おぉ、これなんか良さそうだ。ロングソードで、結構手になじむ。二、三回振って、腕輪に戻した。
「おい! 来てみろよ。これやばいって」
ジャックが大興奮って感じで声を上げた。
「そんなにいい武器が?」
「武器なんてレベルじゃない。大量の火薬だ」
「火薬?」
「あぁ。いいこと思いついた。この火薬で爆弾を作る。ボタン式の。ショートは先にケラヴロスのところに行け。俺とチェイミーでこの宮殿内に爆弾しかける」
「けど、そんなの危ないって」
「危ないのはお前もだろ。それに、爆弾が作動したら大量の悪魔を倒せる。この宮殿も落とせる。これ以上いい策はない。だろ?」
「……わかった。一応これ渡しとく」
ジャックに香水を投げ渡した。
「サンキュ」
「けど無茶はするなよ」
「そっちこそ」
俺は武器庫を出て、階段を駆け上がった。
もうすぐさっきの、ケラヴロスがいた部屋に着く
『おい。中にもやつの手下は大量にいるぞ。ガルクスギルテほどじゃないにしても、いっぺんに戦うのは無理がある』
「わかってる。それももう考えてある。俺に任せてくれ」
『オーケー。好きにしろ』
俺は部屋の前に立って、扉に手を当てた。
意識を力に集中させる。
「ほんのちょっとだけど、時間を稼げる。それでもいい?」
『任せろ』
「さっすが」
空間が激しく揺れる。部屋の中から、悪魔たちの声がした。
感じる。ひときわ大きい力を持って、イスに座ってるのはケラヴロス。その手下、十五。いや十……七。全員、ジャックやチェイミー、それからこの部屋。その三点からできるだけ遠いところに!
ドンッと大きな音がして、手下たちは全員ワープした。
上手くいった。触れずに、自分以外のものをワープできた。
けど、体力もそろそろ限界だ。ポケットから最後のドラゴンシャドーを取り出して食べる。
「あとはよろしく」
意識がフェニーチャーに切り替わる。
扉を燃やして、勢いよく中に飛び入った。
「来たかフェニーチャー!」
「久しぶりだなケラヴロス!」
炎と雷が激突する。すさまじい衝撃だ。
「玉座に座ったまま俺と戦うか?」
「ガキの体を借りなきゃ生きられない不完全体が相手ならば恐ることはない」
「不完全体? お前もだろ。そのイスに座らなきゃ、長く持たないんだろ? お前のその後ろ!」
ケラヴロスの後ろには、四角い大きな黒曜石がある。そこに剣が突き刺してある。刃は金。グリップは波打つ闇。真ん中に深紫の宝石。ガードは銀色の翼。なにからなにまで、インテッレクトゥスと対称的。多分あれが、野望を意味するもう一つの最強の剣──フィロドクスィア。
黒曜石から玉座まで、コードみたいなのが何本も繋がっている。なるほど。多分、あの黒曜石はフィロドクスィアの力を引き出す特別な石で、その力をコードを伝って玉座に繋ぎ、それをケラヴロスが受け取ってるんだ。
つまり、あの石を壊せば……
「そのイスと石。俺が壊してやろうか?」
「結構だ」
縦横上下。斜めからも。全方向から雷が降り注ぐ。俺にしたときとは比べ物にならない威力だ。けど、フェニーチャーもさすがだ。炎が踊るように舞って、雷を全部防いでいる。いや、それ以上だ。ケラヴロスは防戦一方。フェニーチャーが押している。
俺の右手が、肘までフェニーチャーにものに変わる。
フェニーチャーは笑ってケラヴロスに飛びかかった。右手で触れれば燃やし尽くせる。手を伸ばして触れる直前、ケラヴロスがつけていた指輪が変化して、剣が握られた。雷をまとって、まばゆく光る。フェニーチャーの攻撃を弾いた。
後ろに飛んで距離を取る。
「私専用の剣だ。雷をまとって強くなる」
「たかだか強い剣一本。俺の相手じゃない」
「座っていればな」
「は?」
「たしかに。このイスに座らねば私は生きていけない。まだ完全に力を取り戻してないからな。だがすぐじゃない。お前と一緒だフェニーチャー! たとえ離れても、多少はもつ」
ケラヴロスが立ち上がった。たったそれだけなのに、なんて迫力だ。
ガルクスギルテも、ブルルスグルフとも格が違う。ジャンカルロのすごみも今じゃ赤ん坊に感じる。
肌に直接触れるように感じる強さって意味じゃ、エル・シッドの方がまだ何十倍も強かった。けど、ケラヴロスは違う。強さじゃない。鋭くて、痺れるよう。トゲトゲしい、これはそう。殺気だ。とても天使や人間のものじゃない。悪魔以上に悪魔。まがまがしくてくらくらする。
やつの周りを走る雷も激しく、鋭く、強くなった。
フェニーチャーは楽しそうに笑う。戦いが楽しくてたまらないって感じの、悪い顔だ。
「お互い時間がない」
ケラヴロスも笑った。
「すぐに終わらせよう」
今度はケラヴロスが飛びかかった。
と思ったら、もう目の前にいる。雷を操りながら、速すぎる剣さばき。
フェニーチャーも負けてない。炎で牽制しながら、右腕一本でケラヴロスの剣を全部防いでいる。ちょっと一振りするだけで、部屋中が燃えて、破壊される。
こんなに激しい接戦、初めて見た。ていうか、フェニーチャーと張り合えそうなやつなんて、俺の知る限りじゃデルマートとエル・シッドぐらいしかいない。デルマートは本気を出してなかったし、エル・シッドは油断したところをついて奇跡的に勝てただけ。
フェニーチャーがここまで本気を出したのは初めて見る。
…………いいや、違う。二人ともまだ本気じゃない。自分の力がきれて、戦えなくなるのを心配して全力を出しきれてない。
だったら、勝機はそこにあるんじゃないか? 普通なら俺の攻撃なんて効くわけないけど、支配元素なら違う。
俺は意識を力に──
『だめよ』
『え?』
「あぁ?」
俺の中で、俺でもない。フェニーチャーでもない。もう一つ、女の声が聞こえた。どこかで、聞いたことのある声……
『ショートも、フェニーチャーも。ここで力を使い果たしちゃいけない。あなたたちにはまだ、大事な戦いが残ってる』
そうだ。思い出した。夢の中で、何度も孝政さんのオフィスを見せて「ここにある」って言ってた声。
そして、俺が初めて天界に来たとき、夢の中で俺を呼んで、愛してるって言ってくれた女性。
俺の胸から、突然銀色の光の球が飛び出した。それは俺の前で止まると、どんどん大きくなっていって、形を変えていく──
「目覚めたか。レベッカ」
ケラヴロスもフェニーチャーも攻撃の手を止める。
俺の目の前には、銀色長髪の天使が立っていた。
俺の方を振り返って優しく微笑む。その目にはわずかに涙がたまっている。思わず見惚れそうになるくらい、綺麗な女性だ。
いや、今はそんなことどうでもいい。
涙が止まらない。顔を見た瞬間、確信した。声なんて聞く必要ない。本人に確かめるまでもない。間違いなく、俺の、お母さん……
「お母──」
「大きくなったわね。ショート」
なんて、なんて温かい。
「俺、話したいことたくさんあるんだ」
「私もよ」
「ほんと、色々。あの……あれ? ちょっと待って。なんでここに?」
ケラヴロスが吹き出した。
「意外と冷静だな」
「なにか知ってるのか?」
「当然だ。それこそが、お前の知らないお前の秘密だ」
「は?」
「俺と同じさ。妹も、死に逆らった。そいつは死ぬ直前に、フェニーチャーとともにお前の体の中に入った! そうすることで生き延びた」
「えぇ。兄さん、あなたの言うとおり、私は死の理に反した者。結局はあなたと同じ、天使の恥晒し」
「ほう。それで?」
「私は恥で構わない。それでショートが救えるなら。あなたを倒せるのなら」
お母さんがケラヴロスに両手を向けた。ケラヴロスにも引けをとらない、強力な青色の雷を無数に放つ。ケラヴロスはすぐに反撃の雷を放つ。威力は互角。互いに一歩も引かない。
「お母さん。俺は……」
「ごめんね。私も、長くは持たない。こんな状況だし、ゆっくり話すことも無理。だから、私の言うことを聞いて?」
「わかってる。なんでも」
「まず。神山孝政のこと」
「孝政さん?」
「そう。あなたを育ててくれたこと、できれば感謝して。そして許してあげて。私たち二人が彼にしたことは到底許されることじゃない。だから、彼の気持ちも、ほんの少しでいい。くんであげて」
「わかった」
「それから、アネット・グアルディー」
「先生のこと?」
「そう。私たちにとっては、本当の妹のような存在だった。まぁ、彼女は私のことは恨んでたかもしれないけど」
「え、どういう……」
「だめよ。自分で考えなさい。彼女はね、きっと自分を今でも責め続けてる。だから、これからはあなたがそばにいて、彼女を支えてあげてほしい。そして伝えて。私たちは、彼女を愛してる。だからもう、自分を責めるのはやめてって」
「わかった。約束する」
「それからフェニーチャー」
「…………」
「大好き」
俺もお母さんもしゃべるたびに涙があふれ出てくる。
「そして最後に、ショート」
「なに……?」
「あなたの中でずっと見てた。学校は楽しそうでよかった。本当に気の合う友達もできたのね。いつでもあなたを信じてくれる友達を」
「けど、たったの二人だ」
「いいのよ。そんなに多くなくたっていい。一人一人を大事にして」
「わかってる」
「つらいことも、たくさんあったわね。逃げ出したくなるようなこと」
「そりゃたくさん」
「たまには、逃げてもいいわ。あなたがそれで笑ってくれるなら。ジェットなんて関係ない。あなたはあなた。ショート・アルマスなんだから」
「そうかな?」
「もちろんよ。とっても優しくて、楽しくて、最高の天使。だから、できるだけたくさん笑って。泣いてもいいから、その倍幸せになって。それが私の──私たちの願い」
「俺は、二人と一緒に生きたかった」
「私もよ。けど、後悔はしてない。だって、あなたには頼りなる仲間がいるから」
「そうだね。俺、幸せだ」
「すっごくね。だからあなたもきちんと伝えるべきよ」
「伝える?」
「大切な友だちに。自分の気持ちを、正直に」
ノーマンやレーナのことを見透かされてるみたいで恥ずかしくなった。お母さんは余計なことまで詮索しすぎだ。俺にだってプライベートはある。
けど、これが。あぁ、少しうざいなって思うけどやっぱりすごく嬉しい。
俺今、世界で一番幸せかもしれない。
「お母さん。あっちに行ったら、お父さんにも伝えて」
「必ず」
俺は涙を強引に拭った。
「俺、二人を超える。だから全部任せろ。この世に、二人の悔いは残させない」
お母さんは微笑みながら静かに微笑むと、攻撃をさらに強めて叫んだ。
「行って! あの黒曜石は壊せない! インテッレクトゥスを使うの。同じように突き刺せば、力の供給を防ぐことができる!」
俺はインテッレクトゥスを握って駆け出した。
「させるか!」
ケラヴロスはお母さんの攻撃をいなしながら俺の前に立つ。邪魔だ。そう叫ぶ間もなく、フェニーチャーが腕を払った。火球がケラヴロスを玉座までぶっ飛ばす。
「やめろ!」
「いきなさい!」
俺はインテッレクトゥスを両手で逆手に持ち替える。
「うあぁぁぁぁ!」
雄叫びを上げて、黒曜石に勢いよく突き刺した。
玉座から黒曜石に、力が逆流するみたいにコードを青色の光がたどる。
ケラヴロスは悲鳴を上げた。体はみるみるうちに生気を失って、しわしわに。それからだんだん干からびて、ほとんど骨みたいだ。体が少しずつ分解されていく。
ふとお母さんを見ると、体中が光に包まれて、少しずつ消え始めていた。俺を見て、優しく微笑む。
「ショート。炎よ」
「炎?」
「全ての鍵は炎にある。その手に、炎を灯して」
そう言って、お母さんは完全に消えた。
ケラヴロスは死にかけガラガラの干からびた声で叫ぶ。
「なぜだレベッカ! 私はお前を愛していた! 妹よ!」
ケラヴロスは俺をギロリと睨む。
「このままで終わると思うな。ショート・アルマス。たしかに大した男だ。認めよう! そして、一番に殺してやる。私の手で、必ずだぁぁぁぁ!」
最後はほとんど悲鳴に近い。ケラヴロスはモヤになって消えた。
緊張が解けて、その場にへたりこんだ。情けないけど、仕方ない。本当に、死ぬかと思った。けど、これで全部、やっと終わったんだ。
そのとき、バンッと扉が開いて、ジャックとチェイミーが部屋に入ってきた。
俺は飛び上がって二人に急いで駆けよった。
「ジャック! チェイミー!」
二人とも体中傷だらけだ。チェイミーなんてこめかみから血がダラダラ出てる。けど、とりあえず無事そうだ。
「こっちは片付いた。二人は?」
「俺たちも、あちこちに爆弾を仕掛けておいたぜ。あとはスイッチを押せばいいだけ。ついでに悪魔もだいぶ狩っといた」
ジャックは大興奮って感じだ。もちろん俺も。二人でハイタッチなんかしたりして喜んでる。けどチェイミーだけ、どこか様子がおかしい。なにかを心配してるみたいだ。
「チェイミー?」
「なにか、明らかにおかしい」
「どういうこと?」
「だって、手下が少なすぎる。もっと手こずるかと思ってたのに、警備はほとんどいなかった」
「たまたま休暇中だったとか?」
「そんなわけないでしょ」
チェイミーは俺を睨んだ。
「この時期に、手下がいないなら、普通はどこかに行ったって考えるのが普通」
「どこかって、どこ?」
「わからないの? 彼らの元々の目的はなに? あなたをここにおびきよせて、なにをするつもりだったの?」
ちょっと待て。俺の頭の中で最悪なことばかり思い浮かぶ。冗談だろ?
「まさか。じゃあ、その。ケラヴロスの大量にいた手下たちは全部……?」
「ニュースルクスを攻めに行った考える方が自然ね。主人の心臓を、取り戻すために」
「そんなことしたら! どれだけ死ぬと思ってるんだよ。それに、せっかく倒したのに、意味が……」
「だから。休んでる暇なんてない。このことを知ってるのは今ここに私たちだけ。彼らよりも早く学校に帰って、このことを伝えるの。そして、心臓を完全に破壊する」
お母さんが言ってたこと。俺とフェニーチャーにはまだ大きな戦いが残ってるって。つまり、そういうことだ。
「けどどうやって天界に行く?」
ジャックが言った。
「もう一週間すぎてる。中国のゲートは閉じられた。ていうかそもそも、一々そんな移動してたんじゃ間に合わない」
「それなら大丈夫」
チェイミーが言った。
「ここに必ずあるはず。手下が通ったゲートゾーンが」
「けどどこに?」
「俺だ。俺の支配元素の力を使えば、ゲートの場所を探れるかも」
自分の意識を最大限まで広がる。この宮殿の全部を覆いつくすくらいまで。どこになにがどれだけあるか、手に取るようにわかる。ゲートだって、簡単に見つけられるはずだ。
よく周りを探すんだ。この階じゃない。もっと下。
「見つけた。二階、ここの真下。大量の悪魔が集まってる」
「よし。どうやって降りる?」
「それなら簡単。フェニーチャー」
燃える右手で地面を叩く。炎のトンネルで二個したまで焼きつくす。俺たちは高さ約十メートルを落下した。
着地も失敗。普通に痛い。無茶しすぎたかも。けど、時間はないし。
突然天井を破って落ちてきた俺たちに困惑する悪魔たち。ざっと見ても、多分五十はいる。
改めてゾッとする。この何倍もの悪魔が、全部学校に? どれだけの怪我人が出ると思ってるんだ。俺が、防いでみせる。
「おい見ろ」
ジャックが俺たちの前を指さした。
ラッキーだ。目の前にゲートがある。
「んじゃ、みんなバイバイ」
ジャックはバッグから残りの爆弾を周りにばらまいた。
「飛びこめ!」
ジャックがスイッチを押すのと同時に、俺たちはゲートの中に飛びこんだ。最後に見えた魔界の光景は、炎が一瞬で広がって、宮殿が揺れていた。
……おいおい冗談だろ。ゲートゾーンの中にまで爆炎が広がってる。
「ディフェクト!」
せっかく張ったバリアも破られた。爆炎の威力をもろに受けて、俺たちは天界に押し出された。
ドアから十メートル以上ふっ飛ばされて、草の上を勢いよく転がった。
ここ、どこだ?
周りは木に囲まれた平野。森? 林? どっちでもいいや。
二人を見る。ちょっと燃えて焦げてるけど、まぁ動けそう。
約束どおり口笛を吹いてヘルェルたちを呼んだ。
「我が主人よ。お久しぶりです」
「急行だ。ニュースルクスまで。誰よりも早く。行ける?」
「もちろん」
これで最後だ。俺たちの冒険の最後の締めくくり。長い戦いが、もうすぐ終わる。
ヘルェルたちは、今まで一番速かった。




