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参上したSJC悪戯同盟

 『戦闘天術学』準備教室。リゼフは紅茶を飲んで、椅子に座りながら、ため息をついた。


「それで、今日一日授業をサボって私に懇願に来たというかわけですか」

「あはは、ごめん」


 俺たちはリゼフに一通り計画を話した。

 勝つ方法はチェイミーが考えてくれるけど、ただ勝つんじゃ面白くない。ポールへの期待を最大限煽って叩き潰す。そのためには、史上最年少のチャレンジャー、すなわち一年生って肩書きは絶対必要。

 もちろん。無茶は承知の上だ。参加禁止ってことは安全が保証できない、もっと言えば命の保証ができないってことになる。


「けど、俺の頼みならどんな無茶もリゼフは聞かなきゃいけない。だろ?」

「子どもの考えることは恐ろしいですね。まったく……。そのとおりですよ」


 俺とジャックは笑っていえーい! って感じでハイタッチをした。もちろんチェイミーともしようと思って手を向けたんだけど、チェイミーはチラッとこっちを見ると、本を読みながら片手だけ不承不承って感じで軽く触れた。超クールだ。


「次はゲログンさんを説得に?」

「正解!」


 ジャックがニッコリ笑うと、リゼフはまたため息をついた。


「彼は今でこそ教師をやっていますが、学生時代はジェット・アルマスと共にやんちゃをしていた男。そういうイベントは大好きでしょうし、特別な何かをしなくても、お願いすれば私同様簡単に了承してくれるでしょうね」

「やっぱり?」

「そして、私たち二人を味方につければアネット君と校長先生を説得できると踏んだわけですか」

「さっすがリゼフ先生! 話がわかるなぁ」


 ジャックが調子よく手を叩いた。


「しかし意外ですね」


 リゼフはそう言って目でチェイミーを指した。


「彼女が君たちの仲間になるなんて。私の授業のときも今も、ずっと本を読んでばかりいる彼女が、君たちの計画に興味を示したということですか」

「まっ、そういうことかな」


 とジャック。


「私はワクワクするって聞いたから」


 とチェイミー。


「なるほど……。しかしそれも、」


「じゃあ、また後でよろしくな! 俺たちは早速ゲログンのところに行くから」


 俺たちはリゼフに別れを告げて、ラビリンスの中に入った。チェイミーはもうさっきとは違う本を読んでいる。辞書みたいに厚かったのに、びっくりするくらいの速読力だ。

 ラビリンス内の時間で一分くらい歩いて、俺たちはゲログンの家の前に出た。

 時間的にはちょうど昼休み。ゲログンも家にいるはずだ。

 俺たちが家のドアをノックする。


「おぉ、お前らか。相変わらずのおサボり不良ボーイズめ」


 ゲログンは呆れた感じで笑って、俺とジャックに一発ずつデコピンを入れた。

 

「いってーな」


 ジャックがデコをさすりながら言った。


「そりゃ誤解だぜ、ゲログン」

「ほう。何がだ?」

「俺たちはボーイズじゃねぇよ」


 そう言って、俺たちの後ろにいるチェイミーを指した。ゲログンは一瞬目を見開いて、すぐにニヤリと笑った。


「学年一の天才。どうやら面白いことを企んでるようだな?」


 ジャックがウインクで答えた。


「まぁ、とりあえず中に入れよ。茶くらい出すぜ」


 俺とジャックはソファに座って、出されたアップルティーを飲んだ。

 俺たちはもう何回か入ってるけど、チェイミーは初めてだ。一通り中を見回って面白い物がないことがわかると、俺の隣に座って読書を再開した。


「そんで? 今回は何を考えてんだ?」

「CB選抜戦のTWAに出場したいんだ」

「なるほどなぁ……。お前ら三人ともか?」

「いいや。ショートだけさ」


 ゲログンは顎に手を当ててふむふむと頷いた。


「出場して何をしたい?」

「わかんない? 俺たちは今、底辺以下だ。けどここで天才のポールを倒せば、俺たちは一気に成り上がる。このつまらない学校生活を、俺たちの手で盛り上がるんだ!」


 ゲログンは腹を抱えて笑って、チェイミーを指した。


「それで、チェイミーもお前らの仲間に?」

「当然!」


 ジャックが言った。


「俺たち三人合わせて、SJC悪戯同盟なんだから」

「SJC? ……あぁ。ショート、ジャック、チェイミーのことか」

「そういうこと。どう? いいだろ?」


 ゲログンは「うーん」と唸って、静かにゆっくりと口を開いた。


「初めてジェットと会ったのは、入学式のときの行きの天空馬車の中だった。それが運命の始まりさ。別の寮だってのに毎一一日中一緒にいて、とにかくバカやってた」


 ゲログンは昔を思い出して、目をキラキラさせている。


「あの頃は楽しかった。間違い人生の全盛期さ! ジェットはMr.ウィンディ。俺は赤の魔人。自分たちで青臭い二つ名決めて……。俺たちならなんでもできる気がした。だがな、そんなジェットもできなかったことがあったんだ。学校を卒業してからもずっと悔しがってたよ」

「お父さんが? 一体何を」


 ゲログンが俺を指した。


「お前らだよ!」

「俺たち? ──あっ」

「そうさ! 一年生からの市場最年少TWA出場! ジェットは二年生から優勝続きだったからなおさらな。当然、俺も出場したかったし、昔も今も悔しくて仕方がなかったよ。だがどうだ? 俺たちと同じ目を持った──ジェットの息子たちが俺たちができなかったことをやろうとしてる。これを止める理由があるか? ない! 応援はいくらでもしてやる。精一杯頑張れよ!」

「ぃよっしゃぁー!」


 俺とジャックは飛び上がって拳をぶつけた。


「じゃあよ、じゃあよ!」


 興奮を抑えられないままジャックが言った。


「俺たちと一緒にアネットちゃんとデルマートを説得してくれるか?」

「もちろんだ。任せておけ。必ずあいつにうんと言わせてやる」


 そう言って、ゲログンはニッコリと笑った。


◇◇◇


「ダメです。認められません」


 椅子に座って机に肘を置き、グアルディーは冷たく言い放った。

 俺たちはあの後すぐにゲログンの家を出て、ラビリンスを通って校舎に出て、リゼフを呼びグアルディーのいる部屋に向かった。

 ゲログンは後から行くって言ってたから、俺たち四人でグアルディーを説得しようとしたんだけど、完全につっぱられた。


「なんでですか?」

「危険だからです」

「だから、危険も何も俺たちは優勝するんだから」

「寝言は寝て言いなさい」

「寝言じゃなくて事実だって」

「その信用たりえないと言ってるんです」


 俺は少しむっとして前に出た。


「俺の何がそんなに」

「わかっています。たしかにあなたは素晴らしい力を持っている」


 グアルディーは俺の右目をチラッと見た。多分ここで言う素晴らしい力は支配元素だけじゃなくて、フェニーチャーのことも含めてる。


「ですが現状、あなたは天術も天啓を纏うこともできない。おまけに前提として必要なペットもいない。ニュースルクスのTWAはコース距離こそ公式大会の半分ですが、障害の危険度は同じ。本来なら二年生ですら出場禁止にすべきと世間で言われてるものも無理やり通してるのです。それをあなたが」

「天術も天啓も使えます」

「え?」


 グアルディーが立ち上がって目を見開いた。


「リゼフが言ってた大きなきっかけ。白凰堂の──いや、ゴブリンたちとの戦闘がそれでした」


 俺は右手を胸くらいの位置で上に向けた。


出水せよ(ネロ)


 掌から一瞬、水鉄砲のように細い水柱が噴き出した。


「ほらね? それにペットも──」


 突然チェイミーが飛び出して俺の口を塞いだ。


「しゃべりすぎ」

「は?」

「それ以上は作戦に関わるから」


 チェイミーは口に人差し指を当てた。俺が頷いたのを確認して、グアルディーを見て言った。


「とにかく、ショートは色々と大丈夫です。先生が心配をするほどのことでもありません」

「ですがね。やはりアルマスはまだ」

「そうでしょうか? アネット君。君は……」


 リゼフとグアルディーの目があった。

 リゼフの目はどこか同情の色が見える。グアルディーは気まずそうに目を背けた。


「私はただ、アルマスを──」

「いいんじゃないか?」


 そう声がして、部屋のドアが勢いよくバンッと開いた。


「校長先生!」


 デルマートとゲログンが部屋に入ってくる。

 ゲログンは俺たちを見てニヤリと笑った。この様子だと、先にデルマートの説得に成功して、こっちに来てくれたらしい。


「一年生の特別出場。本人がここまでやる気があるなら、わしはさせてあげてもいいと思うが」


 デルマートは俺を見た。


「白凰堂のときとは違う。ジェットと同じ自信に満ちたその目。本当によく似ているよ。わしもあいつの一ファンだったからなぁ」

「ちょっと待ってください! そのジェットですら、一年生のときには出場を」

「規則のせいでな。出たら優勝してたと思うが?」

「しかし、ショートは……」

「もちろん。ただでとは言わん。何か条件をつければいい」

「条件?」


 デルマート以外の俺たち全員が声を揃えて言った。一番ショックを受けていたのはジャックだった。


「そうだな……。一年生全寮合わせておよそ百三十人。君たち三人とも、二週間後の期末試験で二十位以内に入ること、はどうかな?」


 リゼフは顎に手を当てた。


「なるほど。たしかにそうすればタイミングもちょうどいい」

「タイミング?」


 俺が聞くと、リゼフは笑って答えた。


「期末試験の結果を返す翌日から、TWA出場希望者の募集が始まるのですよ」

「わかりました……」


 グアルディーは椅子に座り直して、重々しく口を開く。


「ただし、二十位ではなく十位以内。これは譲れません」

「わかった!」


 意外にも、一番最初に返事をしたのはジャックだった。何かを企んでるときのニヤリとした顔。


「十位以内に入ればいいんですよね?」

「ショートだけじゃない。あなたたち全員ですよ」

「わかってますって。とにかく、認めてくれるってことでしょ?」

「まぁ……」

「よし、じゃあ行こうぜ!」


 ジャックはそう言うと、俺とチェイミーを引っ張って部屋を出て、ラビリンスの中に戻った。

 そのまま秘密基地の中に入り、俺はベッド、ジャックはハンモック、チェイミーはソファに、それぞれ飛び込んだ。


「それで、どうするんだよ?」


 俺は上半身を起こしてジャックを見た。ジャックは神パックのオレンジジュースをストローで加えながら言った。


「んー……。なぁチェイミー」

「どうかした?」


 チェイミーはまたさっきとは違う本を読みながら答えた。


「中間試験って何位だった?」

「一位よ」

「まっ、そうだよな。筆記は満点だし、実技も特に悪い点はない」

「というか、テストなんて教科書からしか出ないんだから筆記なんて全部覚えればいいだけよ」

「じゃあ、今回の期末試験も?」

「当たり前よ。一年生の範囲は全部覚えてるし」


 ジャックは俺を見て笑った。


「ほらな。筆記に関してはチェイミーに教えてもらえばなんとかなる。俺もショートも、特別勉強が苦手ってわけじゃないし、天術の要領も悪くない。こっちにはリゼフやゲログンがいるんだから、不可能じゃないぜ」

「そりゃまぁ、たしかに」

「俺はな、結構負けず嫌いだからあんだけ言われて我慢なんてできないぜ」

 

 ジャックが突然笑うのをやめて、真剣な目で俺たちを見た。


「俺たち三人の五位以内だ」

「意外だな。お前は真面目は嫌いなんじゃないのか?」

「おいおい。誰が真面目にやるなんて言ったんだ? チェイミー。勝つ算段はついた?」


 チェイミーは本を閉じた。


「うん。確実ってわけじゃないし、結局は努力次第になるけど。それでも、いい方法なら考えついた。ジャックの言う盛り上がり、も兼ねてるし。何より一番勝つ確率が高いから」

「ルールは?」

「破ってないよ」


 チェイミーはさっきまで読んでた三つの辞書みたいな本を指した。


「TWAの公式ルールは全部読んだし、これまでの名勝負一覧も全部」

「じゃあ、今まで読んでた本って」

「なんだ、知らなかったのか?」


 ジャックは当然って感じで言った。たしかによく見れば『タイム・ウォール・アタックの歴史』って書いてある。


「オーケー。よし! だったら話してくれ。早速作戦会議を始めよう」

「わかった。じゃあ、まずは私から。ポールに勝つ方法だけど……────」


 俺たちはチェイミーから、レース開始から終了まで事細かに作戦を聞いた。

 ジャックも俺も、あっけに取られて静かだったり、興奮で騒いだり、逆に口出ししてさらに盛り上げたり。

 結局、色々話し合ったせいでレーナが全部話終わるのには一時間くらいかかった。

 そして話が終わった今、俺たちは皆んな頭を働かせて静かだった。


「これ、やっぱり……」


 ジャックが俺を意味ありげに見た。俺もジャックを見て頷く。言いたいことはわかってる。


「俺への負担が大きい、だろ?」

「けど、これが一番現実的なの。ポールに勝ちたいならこれくらい」

「まぁ、ちょうどいいんじゃねぇか? どのみち俺たちは期末試験のために猛特訓するんだ」


 俺も頷いて言った。


「それで、ジャックの盛り上がるための作戦ってなんだよ?」

「あぁ、別に大したことはしない。俺たちも特訓会をやるんだよ。ただし、授業中はいっさい勉強しない」

「そりゃ効率が悪いぞ。いくら真面目が嫌だからって」

「バーカ。そんな理由じゃねぇよ」


 俺とチェイミーが首を傾げると、ジャックはハンモックから飛び降りてニヤッと笑った。


「授業中が一番、注目を集めれるだろ?」


 その日から、俺たちはとにかく大忙しだった。

 学校が終わったら、寝る間も食べる間もなく勉強ざんまい。俺もジャックも授業はサボってばっかりだったから心配だったけど、チェイミーは教えるのがめちゃめちゃ上手かった。それにTWA出場のためって考えたらやる気が尽きることはなかった。

 不良二人に変わり者チェイミーが加わったから、いつも以上に指差されてコソコソ話された。いつもならイライラしてるところだけど、自分たちのことでいっぱいで、どんな陰口も噂も気にならなかった。

 期末試験の実技にも、TWAの特訓にも必要なのが天術と天啓を纏った剣術。試験に必要な天術はリゼフとグアルディー、天啓や剣術はゲログンに教わった。

 TWAの作戦はリゼフだけに話して、それに必要な天術は四人で特訓した。

 TWAの作戦を実行をするために、俺にはいくつかルールが決められた。まず、作戦を知ってる三人以外の前では試験まで天術を使わないこと。鳥を操るのはいいけど、ヘルェルはもちろん白凰を従えることは絶対秘密。そして最後に──これは俺だけじゃなくてジャックとチェイミーもだけど──授業中は絶対真面目にしない。とにかく注目を集めるんだ。おかげで俺たち三人の先生に怒られる回数が跳ね上がった。

 それは例えば────


 ──ディーノ・サーバリアの『基本天術学』の場合。

 俺たちは授業開始三十分後に教室に入った。なんで遅れたかって? 色々と準備があるんだよ。皆んなは俺たちが教室に入ったとき、一瞬だけこっちを見て、またかって顔をした。ディーノがため息をこぼした。


「君たち……サボりの次は遅刻かい?」

「すみませーん」


 俺たちは一番後ろの席に座った。隣の机にはノーマンとレーナがいる。レーナはこっちを一瞬睨んだ後、すぐに目をそらした。

 ディーノが前で話をしている間、俺たちは早速準備を始めた。そのうち皆んなは風を起こすテストをするから、どうせ大して目立たない。

 俺たちは道具を広げた。ジャックが考えて、チェイミーが微調整した設計図をもとに作り、俺が実行する。


「次。ショート・アルマス! 見せてくれ」


 ディーノが笑顔で手招きした。俺はもうずっと天術が使えないのに未だに期待してる。こりないやつ。けど好都合だ。俺は前に出て、ディーノの正面に立った。


「今度こそ、期待しているよ。なんせ君の父上であるジェットの支配元素は風!」

「わかってるよ」


 皆んなは俺を見てクスクス笑っている。「どうせ今回も無理だろ」って。

 俺は意識を力に集中させた。教室が揺れて、教室中の机と椅子が宙に浮いた。皆んなは話すのをやめて悲鳴を上げた。ディーノが慌てて止めた。


「アルマス、やめなさい!」


 俺はポケットから二本の筒を出して叫んだ。


「今だ!」


 俺は後ろに筒を投げた。と同時にチェイミーもジャックも筒を投げた。全部で六本。空中で重なった瞬間ジャックは唱えた。


「レクシィ!」


 筒から伸びた紐に火が着火される。紐は一瞬で燃え尽きて、火は筒に届く。そして爆発。花火だ。七色の火花が教室中に舞った。花火が止まると、今度は煙が教室が覆う。俺は揺れを止めて教室出た。教室を出る直前、ジャックが教室の天井にくす玉を投げた。開かれた紙に書かれた文字は『SJC悪戯同盟これより参上!』。

 俺たちは──無口なチェイミーでさえも──大笑いしながら廊下を駆け抜けた。


 ──グアルディーの『天界動物学』の場合。

 今回の授業内容は簡単。ウリエル寮との合同で、時計台から西に真っ直ぐ向かったところにある、ガブリエルの湖で行われる。

 どでかい湖を一周して旗を取ったやつが優勝。途中でちょっとした障害がある。つまりは、模擬TWA。もちろん妨害もありだから皆んな武器を持参している。

 ちなみにペットのサイズ的に上に乗れない生徒はこないだ習った天術『生物拡大呪文』を使う。


「どっちに乗るよ?」


 ジャックが自分とチェイミーのペットを指した。

 ジャックは体高が俺の腰くらいまである黒い犬、ケル。チェイミーは白い──水がなくても、泳ぐみたいに宙を浮いて生きていける全長二十センチくらいの──天空クラゲ、マルリロス。


「速そうなのはケルだろ」

「そうだな。じゃあそうすっか」


 ジャックが天術でケルを少しだけ大きくして、俺は上に乗った。


「二人はサボるということですか?」


 いつのまにかそばにいたグアルディーが言った。


「一応全員参加なのですが、こうも簡単にサボる判断をするとは」

「これは言わばショートの模擬戦。本番だって、俺たちは三人で優勝を狙うわけだから、これでいいんすよ」

「では、ショートは本番もあなたの犬に?」


 ジャックはチェイミーと顔を見合わせると、笑いながらウインクして答えた。


「さぁね? まっ、せいぜい期待しててよ」


 グアルディーはため息をついて叫んだ。


「全員スタート地点に並びなさい!」


 俺は人混みを避けるために一番後ろの少し離れたところに立った。前ではレーナとノーマンが笑って話している。ノーマンは不安そうだけどレーナは自信満々で、励ましている。まぁそれも当然だ。レーナとノーマンが乗ってるのは黒燕。白凰を除けば一番速い鳥なんだから。

 レーナが何気なく後ろを振り返った。俺を見かけて、一瞬で鋭い目つきに変わる。相手するのもめんどくさいから俺は剣を構えて意識を集中させた。こうしてれば真剣に勝負に挑もうとしているように見える。


「それ、ジャックのペットでしょう?」


 変なやつ。レーナはわざわざ後ろに下がって俺に話しかけてきた。


「そうだけど」

「あいつはサボり?」

「いいや。俺とチェイミーと、一緒に戦うんだ」

「チェイミー……あなたたち最近三人で仲良いもんね。三人とも、ご飯のときも寝るときも、大広間にも寮にもいない」


 そう言いながら、レーナは俺を睨んだ。


「悪いかよ」

「いつもどこで何をやってるの? 授業だって真面目に受けてないし」

「それは秘密。絶対に話せない」

「レイチェルの次はソニア。ソニアの次はチェイミー?」

「はぁ? 何を言って──」

「あの子、いつも本読んでばっかりで何考えてるかわからないし。そんな人と一緒にいたって、楽しくなんか」

「おいいい加減にしろよ」


 自分でも思ったより低い声が出て驚いた。レーナも驚いたらしくて、体がビクッと一瞬震えた。


「チェイミーはそんなやつじゃない」

「そんなに楽しい? いつもいつもバカにされてばっかりで、そんなの……」

「これでいいんだよ。それが狙いだし」

「狙いってなんの」


 俺は照れ臭くなって、頭をかきながら言った。


「……そりゃ、SJC悪戯同盟のだよ」


 レーナは一瞬目を見開いて、拳をギュッと握った。


「バカみたい! そんな変な名前つけて、なんでもかんでも好き勝手して、ただの自己満足じゃない。ねぇ、やっぱりポールと──」

「そうだよ、自己満足。わかったらもういいだろ。行けよ」


 俺が手でしっしっと払うと、レーナは俺を睨みながらノーマンの隣に戻った。一歩一歩が無駄に力強かった。ノーマンはレーナの様子を見た後、一瞬こっちを振り返って責めるような目で俺を見た。

 俺は無視して剣を構えた。とにかく今は真剣なフリをする必要がある。


「それでは始めます。よーい」


 グアルディーが叫んで、引き金を引いた。火薬がパンッと弾けて、皆んないっせいにスタートした。俺をケルの尻尾を叩いて走らせた。ケルは結構速い。五、六人くらいをあっという間に抜いた。

 まずは半分くらいまで真面目にレースをする。横にいるやつは剣で切りつけて、ペットから落としたり足止めしたり。敵の術も器用に避けて進んだ。

 コースの障害はハードルを超えたり、棒を避けて進んだり、結構簡単だった。


『こちらジャック』


 事前に耳につけたイヤホンから声が聞こえた。


『先頭が見えた。レーナだ。やっぱ速いな黒燕は』

「了解。作戦開始、だな」


 俺は指で輪っかを作って口笛を吹いた。百羽以上の鳥の群れが湖を通って皆んなを妨害した。


『オーケー。レーナも二十羽くらいの鳥に妨害されて先に進めてない』


 俺はもう一回口笛を吹いて、湖に飛び込んだ。

 水中で支配元素の力を使って、水を噴水の噴き出させた。皆んなには雨のように水が降り注ぐ。

 さっき俺が呼んだ数十羽の鳥は上空でまとまっている。


「こっちだ!」


 鳥の群れが俺を乗せて池の周りを一気に進んだ。スイミーみたいに群れが大きな鳥を模している。


「うわぁ〜!」


 ゴール前では、ところどころにある大きな落とし穴に何人も引っかかっている。三人で事前に掘った穴だ。レーナやノーマンと同じ鳥に乗るやつらは、俺が操った鳥の大群に蹴られたり突かれたりでまともに進めないし、切り傷だらけで、攻撃する暇もない。

 結果、俺は見事に一位通過。二人とハイタッチして喜んだ。

 レースが終わって、レーナはカンカンに怒って俺たちのところに来た。


「レースに持ち込めるのは選手一人にペット一匹。あんなのルール違反よ!」

「だーれが真面目にやるなんて言ったよ」


 ジャックが腕で俺たちを抑えて平然と答える。


「先生に──」

「当然怒られるだろうな。けど、そんなの一々気にする必要あるか?」

「あんな、あんな反則行為……」

「いいんだよ。結果的に勝ったのは俺たちだし、悔しいならお前もやればよかっただろ。ショート!」


 俺は頷いて鳥を操った。鳥たちがそれぞれ白い幕を加えて引っ張る。書いてある文字はもちろん『SJC悪戯同盟大勝利!』。

 ジャックがレーナにピースして言った。


「勝ちは勝ちだ。悔しかったら負かしてみな。ポールにでも頼んでな」


 チャイムが鳴って、授業が終わる。レーナは悔しそうに俯いた。俺たちは校舎に戻る。


「あぁ、それからな」


 俺は振り返って言った。


「期末試験。俺たち三人でトップ五に入るつまりだ。俺はお前に勝つぞ。宣戦布告ってやつだ」


 俺は二人の後を追った。


 ──ゲログンの『基本格闘学』の場合。

 これは結構前準備が大変だった。まぁ、前準備さえすれば授業中はすることがないんだけど。

 今日はルシファー寮と合同授業。誰でもいいからペアを作って、それで勝負をする。ただし、ペアを作る相手は同じ武器を使うやつってのが限定。剣使いなら剣使いなら。弓使いなら弓使い。

 皆んなの武器や、授業用武器をこっそりマジック用にすり替えた。天使がマジックなんかに驚くのって感じだけど、天術を使わなきゃ人間と変わらない。

 だから、皆んな剣を振ったり弓を放った瞬間、黒いステッキになって鳩が飛び出すなんて思ってなかったみたいだ。飛び出した鳩は俺の命令で使用者を襲う。

 全然勝負にならなくて、授業はめちゃくちゃ。皆んな驚いて変な声を出した。特に、クラフトたちの間抜けは顔は最高だった。

 俺たち三人は腹を抱えて笑った。


 ──リゼフの『戦闘天術学』の場合。

 試験の範囲は全部終わったから、あとはこの授業も一対一の天術の撃ち合いで、レベルアップを図る。

 どうせ俺たちと組もうとするやつなんていないから、俺たちは三人、教室の後ろに固まって試験勉強

 この時間だけは誰よりも真面目だった。


 ──夕食の時間の場合。

 その日、俺は早めに夕食を済ませて中庭に出た。

 まずは鳥を使ったり、ジャックやチェイミーの誘導で皆んなの視線を外に集める。

 俺一人なのは理由がある。バレるわけにはいかなかったからだ。

 俺は木の陰に隠れて言った。


「準備はいいな? フェニーチャー」

『オーケー、できてるよ。……ったく、なんで俺がお前らの遊びに付き合わなきゃいけないんだか』

「あはは……ありがとな」


 炎を纏った右腕を勢いよく振り上げる。中庭の真ん中から、大きな炎の柱が立つ。大広間が明るく照らされて、皆んなが完全に中庭を見た。

 炎の柱は空高く上がったところで形を変えた。巨大な鳥。あれはそう、不死鳥──フェニックスの形だ。翼を広げて炎を吐いた後、学校中を飛び回った。

 皆んなは歓声を上げて外に出た。

 一通り飛んで、フェニックスは大広間の上に戻った後、打ち上げ花火のように何度も爆発した。

 そして最後に文字。何が書いてあるかって? わかるだろ。もうお馴染みの『SJC悪戯同盟』さ。

 皆んなが騒いでる中、ジャックとチェイミーが俺の横に立った。


「あの炎、一体どうやったんだ?」

「あぁ、リゼフに手伝ってもらったんだ」

「ふーん」


 花火を余韻を楽しんで、今度は穏やかに、俺たち三人は笑った。




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