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プロローグ2 遺体は語る

貧民街で起きた惨殺事件の翌朝、

スペンサー警部は現場からほど近い分署にある

遺体解剖室の前にいた。

昨夜遅くに部下の警官が運び込んでくれた遺体の

検死解剖が行われている所だった。


あれから日を跨ぎ午前2時過ぎまで捜索を続けていた。

数名の近隣住民が、やはり仮面を被った不審者が

逃走するのを目撃していた。

しかし、逃走経路が滅多に人の通らない路地裏に差し掛かってからは

目撃証言が得られなくなり、足取りが途絶えてしまったため

それ以上の決定的な証拠は得られなかった。


また、犯行に使われた短剣は王都中の武器屋の

大半で取り扱われるほど広く普及しているため

販売記録から容疑者を割り出すのも困難だった。


解剖室のドアが開き、検死官が現れた。

「警部、お待たせしました。遺体は一通り調べ終えましたよ」

検死官はそのまま報告を続けた。

「死因は言うまでもなく失血死で、首の切り傷は

気管と頸動脈を切断する深さに達していました。

また、抵抗創や着衣の乱れが認められないことから

被害者は抵抗する暇もなく殺されたと推測できます。

それと被害者の顔の爛れは酸による化学熱傷ですね。

ただ他人に薬品をかけられたなら、あのような規則的な爛れ方はしないので

“被害者が自分でつけた”と見るべきでしょうね。

そんなことをする理由は一つ……」


「無論、人相を変えるためだな。

被害者は自分が命を狙われていることを知っていた可能性が高い」

スペンサーが言葉を引き継いだ。


「それだけ用心していたはずの被害者に初撃で致命傷を負わせたとなると

鉄仮面なる犯人は相当腕の立つ殺し屋のようですね。」

検死官は話を続けた。

「被害者の身元については、修復魔法を使って

爛れる前の顔を復元すれば何かわかるでしょう。

それまで遺体は安置室に運んで保管しておきます」


「ちょっと待った。その前にもう一度遺体を確認させてくれないか?

昨日は薄暗い路地裏でよく見えなかったからな。

どうも被害者の顔に見覚えがある気がするんだ」


検死官は不思議に思ってスペンサーを見た。

遺体の顔は大きく歪んでいた上、前述の通り顔の大半が爛れていた。

あれでは被害者の友人でも簡単には誰だかわからないだろう。

スペンサーは検死官が訝しんでいるのを意に介さず

解剖室に入っていった。


防腐処理のされた遺体が置かれた解剖台の前に立つと

スペンサーは遺体の顔をじっと凝視した。


「先ほど本署に連絡してロジャーズ警部補を呼んだので

彼に修復魔法をかけてもらいましょう。これだけ顔が爛れていてはどうにも……」

検死官はそこまで言って言葉を止めた。


遺体を見るスペンサーの顔つきが明らかに変わったのだ。


「もしかして……まさかこの男は……」


スペンサーは血相を変えて持っていた手配書リストを慌ただしく捲り、

あるページで止まり、しばらく手配書の人相書きと遺体の顔を見比べていたが

やがて口を開いた。

「何てことだ……この被害者はあの

悪名名高い盗賊団の首領グリマだ!」


「……な、なんですって!?」

検死官は衝撃を受けた。


「君もグリマの名前はもちろん知っているだろう。

いくつもの凶悪事件を引き起こしている悪辣な盗賊団の首領で

生死問わずの賞金首に指定されている……」


――盗賊グリマ

王都でその名を知らぬ者はいないだろう……

金のためならどんなことでも躊躇せず実行する残忍で強欲な男で

王都周辺で数えきれないほどの窃盗、強盗、殺人を繰り返していた。

部下の団員ともども高額の懸賞金をかけられており

警察のみならず冒険者や賞金稼ぎからも狙われていたが、

その居所は掴めていなかった。


「信じられない……あのグリマが、まさかこんな形で……」

検死官は心底驚いた様子でつぶやいた。

スペンサーから手配書を受け取り

人相書きと、遺体の顔を何度も見比べたが

同一人物だという確信は持てなかった。

「しかし髪型はもちろんですが顔もこれだけ

変わり果ててしまっているのに、よく奴だとわかりましたね。」


「いや、私はこの男を追っていたんだ。個人的な理由でな。

なんとしても私の手で生かして逮捕したかったのだが、

叶わなかったか……失礼、今はこの男と私の

個人的な因縁について話している時ではないな」


スペンサーはうなだれた様子だったが、

やがて自分を奮い立たせるように言った。


「私はもう一度現場に向かう。何としてもグリマを殺した犯人、

鉄仮面の手掛かりをつかまなくては……」


そう言うとスペンサーは分署を出て、再び現場へと向かった。

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