孤島に上陸
島に着き、早々に下船した。
「……」
かつては漁船が並んでいたはずの港。港には虚しく二隻の船が波にゆられるだけ。汚れが酷い方が兄の知人の学者のクルーザー、残ったのは兄のもののようだ。一応、中を確認する。
船室には持ち込まれた本と大学ノートが散らばっている。その一冊を手に取る。
大学ノートには稲村 光照と書いてある。
この稲村という人が兄の知人の学者ね。
「日記みたいね」
悪いとは思いつつ、此方も任務出来ている。
『3月20日 朝0530に本島を出立。海はやや時化ている。だが、往くしかない。小説家の朝霧くんはまだ眠そうではあるが、小説の取材に余念がない。
助手の祢堅くんはキッチンでパンドリーに詰め込んだ食材で軽い軽食を作ってくれている。
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同月21日 0630に海石島に到着。
島に近くほど何かに見られているような気配がする。雰囲気に呑まれてしまっているのかも知れない。やはり緊張感は拭えない。早速だが一度船から降りてみることにする』
その様な後の記述は島の様子が書かれていた。三人は外側から内へと順に調べて行ったのだろう。
遺された日記の最後の一冊には代結山に続く深鼓守ノ杜に入ると書いてあった。
他に手懸かりはないか探ってみたが必要なものは持ち出しているようだ。