ヒロインがまたまた言いたいことがあるようです
勢いだけの第二弾。第一弾もぜひ…
「なんなのよーーッ!!」
ここは物語の舞台裏。異世界恋愛ものヒロイン担当である少女は物語が終わった途端、雄叫びをあげた。
彼女の名前はレラ。そして「また始まった…」という様子で彼女を見ているのがヒーロー役のローである。
「はいはい、今度は何?はい、ピーチティー。好きだったよね ?」
「ありがとう…でも私はピーチティーよりレモンティーの方が好き。ピーチティーが好きなのはフリーティアよ」
「あっ、そうか。今回は中々長丁場だったものだから」
「そうよ、ホントに!!なーーんで最終的にイケメンに好かれつつ一番優良物件とくっつくのにそんなに時間かけるんだか!!」
「レラ、それを言ったら終いだから」
急に興奮するレラをローがたしなめる。
「久しぶりに新しいタイプかと思ったらまた悪役令嬢ものだったの!もうそれは廃れても良いわよ、ブームは去ったわ」
「あー、一時期凄かったよね」
ああいう現場は人が多くて楽しいんだ、とローが笑う。
そんなローを睨んでレラが続ける。
「私はまだ!攻略対象と仲良くなってバッドエンド回避☆とかの方が好感持てるわ。バカ間抜け王子を逆断罪して他国の王子やら皇帝とくっついたりするのは何なの!?国のトップレベルの男がそんなバカばっかのことある!?」
「あと攻略対象は死亡フラグ!近づきたくないのに向こうから関わってきて__!?系は何!?何もしてない奴を殺したりしないだろ!むしろ避けてどうする!関わり無かったら何かあった時簡単に疑われるだろ!」
「また今回はすごい熱量だね…」
レラはピーチティーに口もつけずにまくし立てる。せっかくの熱々が冷めてしまう、とローは眉をひそめた。
「んっ、くっ、くっ…ぷはぁ、おかわり!」
そんなローを見て、自分がまだ飲んでいないことに気づいたのか、レラは一気にそれを飲み干した。とても紅茶の飲み方ではないが、ローはもう諦めることにした。
「ていうかそもそもなんだけど…乙女ゲームに悪役令嬢なんて出てくるの?」
「本当にそもそもだね。なんで?」
「ライバルとかならまだしも、婚約者いる相手を寝取る前提のゲームなんかあるかしら。NTR好きしかやらないわよ、そんなゲーム」
乙女ゲームなどやったことのないローは首をかしげるしかないが、言われてみればそんな気もする。
「そんなこと言ったら、貴族がみんな通う学園なんて実際なさそうだしね」
「それは良いのよ。ゲーム内の設定なんだから、飲み込むのよ」
思わぬ反論に、ローはそれなら物語の設定も飲み込んでしまえ、と言いたくなったが耐えた。言えばこの暴走ヒロインに半殺しにされること間違いなしだ。__機嫌の悪いレラには近づくな__この異世界恋愛界隈では昔から言われている。
「まぁやっぱり、一番気に入らないのはやたらとゲームのヒロインを悪役に仕立て上げることね。仮にもゲームではヒロインよ?性格良いに決まってるじゃない!私みたいに!」
最後の一言で一気に説得力が無くなった。
「あとやっぱり登場人物をバカにするのは嫌ね。ほらあのイケメンファイブ、ヒロインの腰巾着にされる役ばっかでIQが30ぐらい下がった気がするってボヤいてたし」
「あー、彼らね。引っ張りだこだよね、各所から」
イケメンファイブとは、頭脳系、脳筋系、ワンコ系、クール系、ミステリアス系のイケメン5人ユニットである。王道系がいないことによって当て馬にもできることから近年ブレイクしている。
「あと美女ファイブも寝取られるばっかりで飽きた、そろそろ学園アイドルとかやりたいって言ってたわよ」
美女ファイブは委員長系、ツンデレ系、天然系、無気力系、お姉さま系の美女5人ユニットだ。ハーレム系の出演が多かったが、攻略対象達に婚約破棄される婚約者側として、異世界恋愛への出演も増えている。
「ああ、いいよね学園アイドル!僕、『現役JKアイドルの同級生が俺を取り合いしているので毎日がパラダイスなんだが』、通称『取りパラ』のファンなんだよね」
「…某女児向けアニメを想起させる略称ね」
レラは知っている。コイツは現実世界恋愛ものの男主人公を志望していたが、「イケメンすぎる」という理由で全落ちしたことを。
***
「最近は逆にゲームのヒロインと悪役令嬢結託パターン、あと悪役令嬢側が婚約破棄したいパターンもあるのよね」
「もう完全に一大ジャンルと化してるね」
「結託パターンはまぁ良いのよ、なんだかんだ終始平和に終わるのが多いから。問題は後者」
「僕もそっちはめんどくさいから好きじゃないな…婚約破棄したがってるヒロインを追いかけるの、結構怠い…しかも中身はレラだし」
「あ"?なんか言った?」
「イエナンデモナイデス」
「さっきから文句しか言ってないけど、レラは何ならいいわけ?」
「そうね、やっぱり攻略対象と友達になるのがいいわね!平和じゃない、変に捻ってないし。長く演じてて疲れないわ」
奇抜なのは疲れちゃうもの、と毛先を弄りながら呟く。
「そうだね、出オチ感あるのは僕も段々テンション下がるな」
「なんだかんだ王道は安定するわよね、こっちとしても」
そんな会話を繰り広げつつ、二人はなぜか、大変不思議なことに、見えないブーメランが突き刺さっているような気がしていた。
「そうだ、気になってたんだけど」
「何?」
「階段から突き落とされたり、突き飛ばされたりする時って本当にやってるの?」
「まっさか!…やってるわ」
まさかの返答にローは思わず声をあげた。
「本当かい?」
「ええ、だってリアリティー必要でしょ?」
「なんでそこは追求するんだ…」
「そうよ、全部やってるの!今流行りのCGに頼ってないの!ねぇ!痛いシーン、全部やってるの!あんまり書かないで!」
レラは立ち上がって空に向かって叫ぶ。
「はああ、誰か終始バカな王子とかが出てこなくて、性格悪い人も居なくて、婚約破棄も起こらなくて、虐げられたりしない小説、書いてくれないかな!!!」
「今更どこに需要あるのそれ」
「…無いわね」