白昼 虫捕りの夏
総集編で触れられなかった二人の話です。
「千一夜だけじゃ全然わかんねぇよ!」って人はこっちも読んでね
過ぎ去った夏が帰ってきたような暑さだった。セミの鳴き声、記録的な猛暑だと告げるラジオ、扇風機の稼働音、それらが不揃いな音楽を奏でている。扇子で顔を仰ぎながら憂介が呟く。
「暑い」
「この程度の暑さでへばるなんて、人間は弱いね」
「その割には、扇風機の前を離れないようだが」
典子は扇風機の首振りを追いかけて動き回っている。
「というか、年中喪服だから暑いんじゃないの」
「仕方ないだろ、毎日が誰かの命日なんだ」
「あんまり無理すると自分が死んじゃうよ」
「ああ、だから夏は薄手のを着ることにしてる」
「拘るねぇ」
会話が途切れたところで、典子が立ち上がり言う。
「そうだ、虫捕り行こう」
「なんだよ、急に」
「いいから行くよ、ほら準備して」
「やだよ、餓鬼じゃあるまいし。だいたい今は仕事中なんだ、ここを空けるわけにはいかない」
突っぱねる憂介に、彼女は食い下がる。
「どうせ誰も来ないって。たまには童心に帰るのも良いもんだよ」
「こんな暑い中、外に出るのは馬鹿のすることだ」
「中だって暑いし、森の方がまだ涼しい」
「とにかく、行かないからな」
肩を落とした典子を見て、憂介は彼女の方へと駆け寄る。
「わかった、わかったよ。今日はもう客も来なそうだし、行こうか」
すぐに笑顔になった彼女に、彼は頭を抱える。
「してやられたってわけか」
「まさか」
「そういや、網とか籠はあるのか」
憂介が問うと、典子は奥へと走り去る。そして戻ってきた時、彼女は台車を引いてきた。人が一人収まるほどの檻に、バチバチと電気の流れる虫捕り網。
「やっぱり大きめがいいかなと思ってね。裏山にはデカいのがいるって聞くし」
「どんだけデカいのを想定してるんだ。新種の生物でも捕まえる気か」
「まあ、そんな感じだよ」
彼女が微笑した。
裏山は高い木々が茂り、足元に光と陰のまだら模様を描いていた。虫が飛び回る中を、二人は歩く。
「まさか、本当に虫捕りに来たかったわけじゃないよな」
「そんなに疑わないでよ。虫捕りってのもそんなに嘘じゃないから」
と、憂介が遠方に何かを見つける。それは巨大なカマキリだった。典子が言う。
「出た、妖怪かまいたち」
「いたち要素がお留守なんだが」
「人から人に伝わるうちに、言い伝えは変わっていくもんだよ」
「とにかく、封印しないと」
懐に手を入れるが、そのまま一瞬動きが止まる。
「モンスターシンボルがない、だと」
「ごめん、寝てる間に隠しちゃった」
「なんてことを。さて、どうするか」
「怒んないで、ちゃんと持ってきたから」
典子が二つの円錐を投げる。一つは空のもの、もう一つは天板に人魂が象られたものだった。
「一番弱いやつかよ。まあいい」
ベルトに円錐を差し込み、回す。モンスター・サプライズド・ユー。ベルトが告げる。
「葬着」
鎧に飛び込む。白く不完全な姿。鎌の一撃を紙一重でかわし、背後に回ろうとするが追いつかれる。振り下ろされた鎌が衝撃波を起こす。彼の頭上を掠めたそれは、背後の大木を両断した。第二波、第三波と絶え間なく放たれる衝撃波を避けるのがやっとで近づけない。
「もう少しパワーかスピードが出れば」
「ごめんごめん。お詫びにこれ使っていいから」
典子は憂介に虫捕り網を投げる。
「この網をどう使えってんだ。あの虫はとても収まらないが」
「網じゃない、アミダハンド。持ち手のボタンを押せば、象も気絶する電流が出せる」
彼はボタンを押してみる。が、何も起きない。
「おい、動かねぇぞ」
「電池切れだね」
網の柄で衝撃波を防ごうとするも、たやすく両断されてしまう。ついに彼は投げ捨てた。
「もっと、もっとだ。もっと力をくれよ」
そう言った憂介は、人魂の円錐を回す。ウルドライブ。ベルトが告げても、何度も何度も回転させた。しだいに円錐が熱を帯び、赤く光りだす。彼の身体に痛みが走る。そして赤く変化した姿の彼は駆け出す。一跳びのうちに衝撃波を飛び越え、カマキリの目の前まで近づいた。空の円錐を突き刺し、封印する。ベルトに差さっていた円錐は焦げつき、使いものにならなくなっていた。葬着が解けた憂介は倒れこむ。それを見た典子が言った。
「やっぱり、モンスターシンボルには引き出しきれてない力があるみたいだ。人間だけじゃなく、妖怪にも火事場の馬鹿力があるのかね」
夕立が迫っていた。




