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天上の桜   作者: 乃平 悠鼓
第二章
91/203

第一部 雪中四友 〜蠟梅の咲く頃〜 《一》

あけましておめでとうございます m(__)m

今年一年の皆様のご多幸とご健康をお祈りいたします(人*´∀`)。*゜+


本年も、よろしくお願いいたします。\(^O^)/

「いったい、どうするんだよ!」

「なんでこんなことに!」


 頼れる者は誰もいない。死んだように眠り続ける父と母を前にして、幼い兄弟に何ができるだろうか。


「お父様とお母様を、助けたいですか」

「だれだ!」

「おまえ…は」


 兄弟の前に現れたのは、一ヶ月前に母が拾ってきた女怪だった。










 平頂山(へいちょうざん)にある洞窟蓮花洞(れんげどう)の奥には、一つの村が広がっていた。洞窟の中とは思えないその場所にある妖怪が住む村は、今は百角大王(ひゃっかくたいおう)が治めている。

 この村を築いたのは、百角大王の父親である千角(せんかく)大魔王。今は隠居して孫の金角(きんかく)銀角(ぎんかく)の相手をしたり、元部下の年寄り達と趣味に(きょう)じたりして、気ままな生活を送っている。

 そんなある日、母親が洞窟の外で行き倒れの女怪を拾ってきた。思えば、平穏な村に少しずつ異変の足音が近づいて来たのは、この女怪が現れてからだったかも知れない。




「じいちゃん、どっかいくのか!」

「オレらも、ついてっていいか!」


 金角と銀角が洞窟の入口で遊んでいると、出かける準備をした千角大魔王が出てきた。二人はすぐさま千角大魔王にまとわりつくと、“自分も行きたい!” と訴える。大魔王は、まだ幼い双子の孫の顔を見て


「金角、銀角、急ぎの用事じゃ。しばらく村を留守にすることになった。土産をたくさん買って来るからの、父ちゃんと母ちゃんを頼むぞ」


 と言って、その頭を撫でた。土産と聞いて


「まかせとけ、じいちゃん!」

「かあちゃんは、みおもだからな!」


 と、“任せろ!” と言わんばかりに、金角と銀角はその腰に両手をあて、“フンス!” と胸を張った。大王の子供として父の手伝いをすることも、身重の母の手伝いをすることも当然のことだ。

 特に、弟か妹の誕生を楽しみにしている金角と銀角は、身重の母の手伝いをよくしていた。その大きなお腹に耳をあて “うごいた!” “はやくうまれておいで!” と話しかけることも、二人は大好きだった。

 金角と銀角の見た目は人間で言えば七歳くらいの子供で、人間の七歳よりは遥かに長生きだが、妖怪としてはまだまだ幼子だ。

 この時、金角と銀角はまだ知らなかった。よそにある妖怪の村で異変が起こっていること、そのせいで “助けて欲しい” と連絡があり、祖父がでかけたこと。その異変は、この蓮花洞の中でも起こっていることを。




「とうちゃん、かあちゃん、おきてくれよ!!」

「なんでおきてくれないんだよ、とうちゃん、かあちゃん!!」


 祖父が出かけて数日。金角と銀角の身に、突然その異変は降りかかった。ある朝 “どう声をかけても大王様と奥様が目を覚まさないのです” と、下働きの女が慌ててやって来たのだ。

 金角と銀角がどんなに父と母の身体を揺さぶっても、大声で話しかけても、父と母が目を覚ますことはない。それが一日、二日と続き、七日が過ぎても二人が目覚めることはなかった。

 このまま父と母が目覚めなかったらどうしょう、母のお腹の中にいる赤ん坊は、果たして無事だろうか。だんだんと金角と銀角の不安は大きくなり、何かに押しつぶされてしまいそうだった。


「こんなとき、じいちゃんがいてくれたら」

「オレら、どうしたら…」


 今の二人に、助けてくれる者は誰一人としていない。なぜなら、父と母たけでなく、村の長老達も眠りについているからだ。起きる気配がない大人達を前にして、助言してくれそうな人は誰もいない。今全てを考え決定する立場にいるのは、大王の息子である金角と銀角だけのだから。




 それから、更に数日が過ぎた。父と母が目覚める気配は、一向にない。いよいよ金角と銀角は、どうしたらいいのかわからなくなった。


「いったい、どうするんだよ!」

「なんでこんなことに!」

「このままじゃ、とうちゃんとかあちゃんが…」

「あかんぼうは、どうなるんだ…」


 頭を抱えて悩む小さな子供達。そんな二人の子供を、少し離れた場所にある柱から隠れ見つめる女が一人。その顔は(わず)かな笑みをたたえ、この状況を楽しんでいるようにも見えた。女は、そっと柱から姿を現すと


「お父様とお母様を、助けたいですか」


 と、二人に言った。突然聞こえた声に、驚き振り返る金角と銀角。


「だれだ!」

「おまえ…は」


 そこに居たのは、少し前に母が拾ってきた女。二人は母から、この女が蓮花洞の近くで行き倒れていたと聞いた。住んでいた村が人間の(いくさ)に巻き込まれ、命からがら逃げて来たのだと。

 母は女の話を聞いて哀れに思い、自分の下女としてこの村に迎え入れた。とても気立ての良い娘だと父に話しているのも、聞いたことがある。


「なにかしってるのか」

「どうしたらいいか、わかるのか」


 二人だけで、どうしたらいいのかわからない。そんな時に、母がとても良い娘だと言っていた女が声をかけてきた。金角と銀角は、何かにすがるような睛眸(ひとみ)でその女を見た。


「金角様と銀角様は、“天上の桜” をご存知ですか」


 優しげな表情で、二人の視線に合わせるように両膝をついた女が語りかける。


「てんじょうのさくら?」

「なんだ、それ?」


 女の言葉に金角と銀角は顔を見合わせて、その首を傾けた。

雪中四友→玉梅・蠟梅(ろうばい)茶梅(さざんか)・水仙の4種のこと。雪中は、雪の降る中、または雪の降り積もった中

興じる→興ずる→おもしろがって熱中する、楽しんで愉快に過ごす、の上1段化

命からがら→「何とか命だけは失わずにぎりぎりのところで」といった意味の言い回し

身重→妊娠していること

下女→雑事に召し使う女。女中

果たして→本年に

一向→全然。まったく

気立て→他人に対する態度などに現れる、その人の心の持ち方。性質。気質



次回投稿は14日か15日が目標です。

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