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天上の桜   作者: 乃平 悠鼓
第一章
78/203

第十部 残花、その名残を 《一》

 その日の夜、人々が眠りにつき草木さえも動きをなくした頃、暗い夜空に閃光(せんこう)が走り消えた。


『火球…か。不吉な』


 窓からその光を見ていた琉格泉(るうの)が呟く。あれだけの大きな閃光を放つ火球でありながら、音の一つ振動の一つもなく消えた。


『ぴゅ、ぴゅ!』


 “何処(どこ)かで、災厄(さいやく)が起こるよ!”、玉龍(ハムスター)は古い言い伝えを思い出す。


「あれは、全てをなくす悟浄への手向(たむ)けの光だ。あの火球のように、華やかに光り消えて行く命のな」


 その火球の色は赤かった、まるで誰かの血の色のように。沙麼蘿(さばら)はその火球の中に、()れから起こる光景を垣間見た。


「この世の地獄とやらが、始まる」


 玄奘一行は眠りにつく。穏やかな、この見せかけだけの静寂の中で。目覚めれば、どんなに残虐な世界が待っているのかも知らずに。


「今はまだ、一時の幸せな夢を見るがいい」


 沙麼蘿は呟いた。この後、嘆き悲しむであろう彼らのその姿を見つめながら。










「……ッ、父さん!」


 花韮(かきゅう)は走る、自分の意識がある間に。この数日、花韮の意識が浮上する時間が増えている。何時(いつ)もなら自分の身体でありながら、意識だけが深い海の底に封じられたかのように目覚めることはないのに。それはさながら、最後の命の輝きのようにも花韮には思えた。

 長い間意識が封じられている時は、その間自分が何をしているのかもわからなかったし記憶も全くなかった。だが、短い間で意識が浮上しているこの数日は、身体を奪いとられている間も自分が何をしていたのか記憶がある。

 そこで聞いてしまった、自分の身体に植え付けられたものがなんであるのか、自分が何をしようとしているのか、そしてこれから自分がどうなるのかまで。しかも、それだけではない。自分だけでなく、父親まで同じ目にあっているなんて。

 “(ダオ)が、父さんの身体を奪おうとしている!”、それがどう言うことなのか、詳しく聞いたわけではない。でも、多分自分も父親ももう助からない。“ど…うして……。どうして、こんなことになったのッ! 悟浄だけ、悟浄でも助けないと!”

 少なくとも、自分と父が家族である悟浄の命を奪うことだけは、避けなければならない。家族の中で唯一無事だった悟浄、母が命懸けで助けた悟浄。自分の意識があるうちに、どんなことをしても悟浄を守らなければ。


「あ…ぁ、誰かッ! 誰か、助けて…!」


 誰もいない場所を走りながら、父を探す。彼奴(あいつ)らは言っていた、“すでにアレは息子を忘れている”と。刀に意識を支配され、息子の記憶を消されているのだと。

 娘の記憶だけを残し、“娘の命を救うためだ”そう言えば、身内に甘く家族に何よりも深い愛情を注ぐ鬼神は、すぐに言うことを聞くと。


「と、父さん!」

「花韮、どうした」


 花韮は、人気のないその場所で父親を見つけた。父は何時(いつ)になく優しい顔で花韮を見る。


「父さん、悟浄…、悟浄のこと、覚えてるわよね!」

「花韮…。悟浄とは、誰だ?」

「父さん…」


 花韮は見つけた父親に駆け寄り、その胸元を握りしめすがるように聞いた。なのに、なのに父親は、すでに悟浄のことを忘れていた。花韮は、絶望に近い表情をして後退る。


「花韮、何かあったのか。また身体の具合が、悪くなったのではないのか」


 父親の言葉に、花韮はただただその首を左右に振る。その時、父の手の中の刀が“カタリ”と音を立てたような気がした。


「父さん、前に持っていた刀はどうしたの」

「あぁ、あれか。あれは、若様に差し上げた。今の私には、若様からいただいたコレがあるからな。あの程度の刀は必要ない。あんなものでも若様の役に立つなら、喜んで差し上げるさ」

「…ッ!」


 父は知らないのだ、若様から父に渡された刀がどんなものか。確かに、どんな刀よりも自分の思うままに動き、我が腕のように動くことだろう。

 だって実際は、刀が父の身体の一部になっているのではなく、父が刀に魂をすいとられているのだから。妖刀(ようとう)が父の魂を全てすいとった時、父は息絶える。そしてそれは、自分も同じこと。


「父さん、思い出して!! 父さんの生きている子供は、悟浄だけなのよ!!」

「何を言っている花韮、私には子はお前しかおらぬ」

「父さんは騙されているのッ! 私は、私はもう、死んでいるのッ!! 思い出して、父さん!!」


 “そう、私はあの時に死んだ。生きているはずがない”

 あの時、最後の吐息を吐き出した後、自分の魂魄(こんぱく)は確かに(ことわり)に従い、魂は天に帰し魄は土に帰すはずだった。

 それを奴等(やつら)が、私達の村を襲った奴等が、素知らぬ顔で何も知らぬ父に近づき、これを娘の身体に埋め込めば助かるといい、この胸に華魂(かこん)を植え付けさせた。

 既にこの時には、花韮も父親も邪神達の手の内に落ちていたのだ。鬼神である父が、華魂を知らぬはずがない。この華魂を植え付けられれば、この後花韮がどうなるのか、知らぬはずがない。でも、それでも、若様の言うがままに花韮の胸元に華魂を植え付けた。

 愛する家族を奪われ取り乱した父を、若様が思うがままに操ることは簡単なことだったのだ。そして父は、自分でも気づかぬ間に、自らをも差し出してしまった。

閃光→瞬間的に発する光

災厄→災い。災難

手向け→別れる人へのはなむけ。餞別

垣間見る→ちらっと見る

魂魄→魂は精神を支える気、魄は肉体を支える気。合わせて魂魄

理→物事の道筋。道理。当然であるさま

花魂→生きながらにして植え付けられた者の魂を吸いとる。宝具のもとになるもの



すみません、次回投稿少し遅れます(>_<)

話的に大事なところなのですが、猛暑もあってかスマホの電池の減りは早いし、私の体力も持たないし…。

と言うことで、次回投稿は9月4日か5日が目標です。


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