第七部 真夜中の産鬼 《三》
真夜中の産鬼と言うタイトルなのに、産鬼出てこず!(゜ロ゜;ノ)ノ
もともと産鬼はそんなに特徴がある妖怪ではありませんでした。(>_<)
そのかわり、もう少し後に持ってこようと思っていた悟浄の父親の話が…。(T_T)
八戒はとっさに飛び出し左手を前に差し出す。中指にはめられた孔雀石でできたような指環が輝きを放ち、指環の掌側から握りの部分が現れそれを握りしめるとその握りの部分の上下から淵・蕭が現れ弦が現れた。見まごうことなき弓の出現である。
その弦にそっと右手を近付ければ、右手人差し指と細い鎖のようなもので繋がれた小指の二つの銀製らしき指環の間から三本の箭が現れた。
「火華弾!」
八戒の言葉と共にその指先から放たれた箭は一際高く弧を描きながら敵に向かって飛んで行く。そして、後ろから沙麼蘿を襲おうとしていた者達の真上で音をたてて爆発する。
大きな音と共にそこに無数の火の花が咲く。それはまるで、大空に打ち上げられた花火のような輝き。その一つ一つが敵に降り注ぎ爆発を繰り返す。
「ほう、宝具か。宝具はいくらあってもいいからな」
悟浄の父親は、八戒の弓を見て面白そうに言った。邪神は宝具を欲している。天上界との闘いのため、天上の桜を奪い取るために。
「どれ、お前の宝具をいただくか。その腕を、切り落としてでも」
悟浄の父親が八戒の元まで飛ぶ、とっさに二人の間に沙麼蘿が滑り込み、その刀を受けた。“キーン”と 沙麼蘿の剣と悟浄の父親の刀がぶつかり合う。
「お前の相手は、この私だ! 八戒、雑魚どもは任せる」
沙麼蘿の剣が、悟浄の父親の身体を飛ばす。沙麼蘿の髪が灰簾石色から白金に変わるたびに、その双眸が灰簾石色から鳩の血に変わるたびに、剣と刀が重なり火を吹いた。
そして沙麼蘿のその睛眸が、悟浄の父親の睛眸を覗き込むように見た。そう、見たのだ。下級神であれば、沙麼蘿のその睛眸の威力に耐えられるわけがない。だが、しかし…。
「お前は、刀か」
顔色一つ変えぬその姿に、悟浄の父親の真実を見た。刀に、身体と心を支配された、その姿を。
「雪花弾」
八戒の箭が、悟浄の父親に向かって投げ込まれる。悟浄の父親は、その粉雪のような白銀をすべて薙ぎ払う。
「沙麼蘿、こっちはすべて片付きましたよ」
「そうか、こっちも確認は終わった。」
八戒の言葉に沙麼蘿が答えれば、周りを見回し“あの役立たずどもめ”と悟浄の父親が呟く。そして自らの刀を鞘に収めると、
「今日のところは引こう。だが忘れるな、我らは必ず天上の桜を手に入れ、その力を持って天界に攻め込む」
と言うと、ふわりと浮きだち真っ暗な夜の闇の中に消えて行った。八戒は沙麼蘿を見て
「何をどう確認したのか、お聞きしても」
と、言った。だが、その言葉に沙麼蘿は静かに首をふる。今それを知ったところで、どうにもならない。
「八戒、見ぬが仏、聞かぬが花だ」
仲間のどうすることもできない運命を聞いたところで、八戒の苦しみが増えるだけだ。これから先悟浄に待ち受けるのは、悲劇でしかない。
沙麼蘿は“行くぞ”と言うと、宿屋に戻って行った。
宿屋に戻れば、中は赤子の泣き声で満ち溢れていた。そして美友の部屋には、入り口・窓辺に雨傘が置かれている。
「雨傘で、産鬼の侵入を防いだか」
沙麼蘿がそう言えば “まかさ、そんな物で” と、八戒が呟く。その時
「あっ、姉ちゃん! 大神ってすごいな!」
と、悟空の声がした。聞くところによると、沙麼蘿と八戒が宿屋を出た後、玄奘・悟浄・悟空は別れて産鬼を探した。だが、なかなか産鬼は見つからない。
玄奘は、まず美友の寝室に雨傘を二本置き産鬼の侵入を防ぐ。そして手分けしていた玄奘達の元に琉格泉がやって来て、『ついてこい』と言った。
その後をついて行くと、屋根裏と裏の井戸近くに産鬼がいたらしい。もともと産鬼は妊婦と生まれてくる赤子の命を奪い取るだけの妖怪だ。玄奘が経を読めば苦しみだし近寄ることもかなわない。その隙に悟浄と悟空が手をくだし産鬼を倒したそうだ。悟空の話を聞き終わったちょうどその時、美友の部屋から玄奘が出てきた。
「三蔵法師様に一番に赤ん坊を見ていただけるとは、これほどありがたいことはございません!」
玄奘の後ろからは宿の主人が出て来て、玄奘に深く深く頭を下げている。玄奘は沙麼蘿の姿を見つけると ”どうだった” と言った。
「どうだった、とは」
「見極めるために行ったんじゃないのか」
玄奘と沙麼蘿の双眸が重なり合う。沙麼蘿は玄奘を見て、ニヤリと笑った。
「何を、知っているつもりだ」
「それはこっちのセリフだな。何を見てきた」
玄奘の言葉には、何か確信があるようだった。“言葉遊びをするつもりはない”そう呟くと
「悟浄の姉は、玉英と同じなんじゃないのか」
と言った。玄奘は数日前、偶然あの見世物小屋のあった場所で悟浄と花韮の姿を見つけた。そして花韮が苦しむ姿を見て、その姿が自分のよく知っている玉英と重なったのだ。
「お前、妖刀を知っているか」
突然の沙麼蘿の言葉に、“妖刀?”と玄奘が呟く。
「妖刀は、華魂と同じだ。生きながらにして、刀を持つ者の命をすいとる。今、悟浄の父親が手にしているものだ」
「っ……!!」
あまりの言葉に、玄奘は言葉を失った。悟浄にとって、残っている家族は父親と姉だけだ。だが、その二人ともが華魂と妖刀に身体を、いや魂もすべて奪われていると言うのか。
「この世の地獄とやらを、見ることになるかも知れぬ」
「助ける方法は!」
思わず叫んだ玄奘に、“お前は、玉英を助けられたか”と沙麼蘿は呟いた。此れから起こりうることは、悲劇でしかない。だが、そこに進むための道筋は、もう決まっているのだ。その場まで、あと僅か。
一際→他と比べて特に目立っているさま。一段と。
雑魚→地位の低い者。取るに足りない者をたとえて言う。小物
白金→プラチナ
薙ぎ払う→刃物などで、勢いよく横に払う
見ぬが仏聞かぬが花→知れば気を病むようなことでも、知らなければ平静でいられるということのたとえ
この世の地獄→この世にある物で地獄のように過酷、酷いと思う物
次回更新は25日か26日が目標です




