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天上の桜   作者: 乃平 悠鼓
第一章
59/203

第六部 水簾洞の小猿 《六》

「お前らーー! オレの友達に、何しやがったーーー!!」


 悟空の激しい怒りの氣が渦を巻き、見世物(みせもの)小屋に置かれていた絵が巻き込まれ、無残にも粉々に飛び散った。バリッと音をたてて落ちるソレらを見ながら


「悟空!」

「どうなってやがる!」


 と、八戒と悟浄も悟空に近寄ろとするが、氣の渦が邪魔をして近寄ることもできない。その時、“びゅーー!!” と小さな声がして、悟空が放つ氣の間から空中をコロコロと転がり玉龍(ハムちゃん)が出てきた。

 悟空の氣に、弾き飛ばされたのだ。とっさに手を伸ばした悟浄の手につかみとられはしたが、くるくると目を回し伸びている。


「どうする玄奘!!」

「止めろ!!」


 悟浄の言葉に、玄奘は悟空の頭に()められた緊箍児(きんこじ)を使うため、右手首に椀釧(ブレスレット)のように巻きつけていた玻璃(すいしょう)数珠(じゅず)を取った。


「ぐぅわあぁぁぁ!!」


 悟空の氣が荒れ、怒りが徐々に増大している。


「おい!」


 大丈夫なのかと、悟浄の声がした。


「いい加減にしろ、悟空! これで、(しま)いだ!」


 玄奘の唇が定心真言(じょうしんしんごん)を唱え、悟空のうめき声が、苦しみや叫び声に近くなったようなきがする。悟空の渦を巻いていた氣が一気に拡散し、四方八方に飛び散って行く。だが、


「効いているようだが、止まらんぞ沙麼蘿(さばら)!」


 “チッ”と、高僧にあるまじき舌打ちをして、その場にはいるはずもない沙麼蘿に玄奘は呟いた。


「仕方がありません」


 八戒が左手を前に上げると、中指にはめられた指環(ゆびわ)から(ゴン)が出現する。そして、その弓に合わせるように右手の指環(ゆびわ)からは()が現れた。


収華弾(しゅうかだん)


 悟空の頭上に向かって放たれた箭は空中で音をたてて爆発し、中から無数の(つる)が出現した。弦は()(えが)き、鳥籠(とりかご)の形を作り出す。悟空と飛び散る氣の両方を鳥籠に閉じ込め、八戒は玄奘を見た。


「今のうちに!」


 声をさらにまし、玄奘の定心真言(じょうしんしんごん)が響く。悟空の頭に嵌められた金輪が頭を締め付け、苦しみにその(かお)(ゆが)んだ悟空は、その場に膝をつき両手をついた。


「よくやった、八戒」


 玄奘は悟空に近寄ると、“このバカが” と、小さく呟く。八戒は、作り出した鳥籠をそのまま小さくしていき、そして拡散させる。消えた鳥籠のあった場所では、悟空が “はっ……はっ……” と洗い息をつき、崩れ落ちる寸前だ。


「猿どもを出せ」


 何時(いつ)からそこにいたのか、沙麼蘿(さばら)が見世物小屋の主人に声をかけた。


「遅い!」


 そんな玄奘の言葉に、フンと鼻で笑って見せた沙麼蘿は


「猿だ!」


 と、主人に言った。沙麼蘿の足元では大神(オオカミ)琉格泉(るうの)が牙をむき出しに(うな)り声を上げている。


「お、大神……!」


 見世物小屋の主人は、腰を抜かすように後ろに倒れこむ。すると、沙麼蘿について此処(ここ)にやって来ていた琅牙(ろうが)


「どうした。このお方は、お前達ごときが話しかけることもできないほど、高貴なお方だぞ。猿達を連れてこい!」


 と、叫んだ。




「オウ……シャ……マ……!」

「オウ……シャマ!」


 連れてこられたのは、まだまだ小さな小猿達だった。二匹は互いを守るように抱きしめ合い、小さな瞳に涙をいっぱい浮かべ悟空を見た。その小さな体には(むち)で打たれたような(あと)もある。

 だが、悟空がその琥珀(こはく)色の睛眸(ひとみ)を真っ赤に変えたのは、毛が焼けただれ傷だらけになった先の二匹よりも少し大きな小猿を見た時だった。


「お、お前、どうしたんだよ! 誰が、誰が、こんな(ひど)いことをしたんだよー!!」


 悟空の叫び声が見世物小屋にこだまする。あまりに可哀想なその姿。沙麼蘿は、振り返って見世物小屋の主人のその睛眸を見た。









 水簾洞(すいれんどう)の周りには、天上人が ”水簾洞の蟠桃園(ばんとうえん)“ と言うほどに、たくさんの蟠桃果(ばんとうか)の木が植えられた場所がある。その場所は水簾洞に住む猿達だけのもの。それ(ゆえ)に他の者は水簾洞には出入りを許されず、仙達によって結界が張り巡らされている。

 その場所に人間が現れたのは、何時(いつ)の日のことか。無論(むろん)、人は蟠桃果のことを知らない。彼らが噂を耳にしたのは、“黄金に輝く猿がいる” と言う話だけだ。

 彼らは、好奇心旺盛(おうせい)な小猿達に罠を仕掛け捕獲し、高い金子(きんす)で見世物小屋の主人に売り渡した。最初は、水簾洞の老猿から聞いていたとおり、人前では決して言葉は喋らなかった。

 だが、一番小さな小猿が鞭で打たれるのを見ていられなかった一番年上の小猿が、人の言葉を喋りそれを止めた。そこから、この小猿の悲劇は始まっていったのだ。

 幼い小猿達を盾に取り芸をしろと迫り、できなければ容赦なく鞭でうち、どんなに火傷をしようとも小さな火の輪をくぐれと迫った。小猿は小さな小猿達を守るため、必死に芸をした。だが、それでも、日々小さくなって行く火の輪をくぐることは、もうできなかった。


傲慢(ごうまん)なことよ」


 そう呟いた沙麼蘿の姿が変わる。猩々緋(しょうじょうひ)色の(きぬ)灰簾石(タンザナイト)色の長い髪。琅牙は、初めてその姿を見た。(すめらぎ)に瓜二つな、その姿を。

 沙麼蘿は悟空がその手に抱く小猿の元へ向かうと、その(てのひら)をかざし、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で何事か(ささや)く。すると、沙麼蘿の掌から赤い光が現れて、小猿の中へと消えていった。

 あとには、火傷も傷痕もなくなり、すやすやと安らかな寝息をたてる小猿の姿だけがあった。

旺盛→活動力が非常に盛んであること。また、そのさま

傲慢→思い上がり、おごり高ぶり、他人に対して見下すような態度で接するような様子を形容する表現



次回投稿は25日か26日が目標です。

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