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天上の桜   作者: 乃平 悠鼓
第一章
52/203

第五部 天の原と戦の原に舞う紅の花《九》

次回三蔵一行に戻るため、足早に進んでしまった(>_<)

 (すめらぎ)は老人の話を聞き終えると、連れていた大神(オオカミ)の一頭須格泉(すうの)花薔(かしょう)を連れて来るよう命じた。




 ほどなくして現れた花薔仙女(せんにょ)は、蒼宮(そうきゅう)から荷物を持たせた下男(げなん)二名を連れて来ていた。須格泉から連絡を受けた花薔は、皇の意図(いと)をすぐに理解したからだ。

 母親である聖宮(せいぐう)を亡くし、義妹(いもうと)と呼んでいた沙麼蘿(さばら)まで亡くした皇は、もう()()のない状態だった。皇が誰にも負けぬ力を得るには、その手足となって自らの命を(かえり)みず働いてくれる者達が必要となる。その時花薔の頭に浮かんだのが、天都(てんと)(はし)に捨て置かれた(まだら)達だった。

 きっかけがつかめぬまま今日まで来てしまったが、斑達の生活環境については調べ終わっていた。阿修羅王(あしゅらおう)から与えられた宝具(ほうぐ)愛染明王(あいぜんみょうおう)からいただいた猩々緋(しょうじょうひ)色の(きぬ)、それに斑達の力が集まれば、皇はこの上界(じょうかい)において誰にも引けをとらぬ一大勢力を得ることができる。

 そのためには、決して皇を裏切らぬ忠誠心(ちゅうせいしん)、皇のためならば命も(いと)わず身体を投げ出せる、そんな強固な結束が必要だった。皇のため、その強固な結束が得られるのなら、自分は喜んでこの身を捧げよう。花薔は、はじめからそう思っていた。

 花薔自らが作り出した薬と、下男に持たせていた食料や衣服を斑達に配って行く。その間、皇は妾季(しょうき)花梨(かりん)を通して大方の状況を理解していた。


「俺達に、職をくれると」

「そうだ。お前達に働く気があるのなら、私がその職をやろう。すぐに、とは言わぬ。よく考えて蒼宮に返答に来るがいい」


 皇は妾季達にそう告げると、斑の地をあとにした。


「花薔、よかったのか」

「構いません。これで彼らの心がつかめるのならば、安いものでございます」


 花薔が斑達に与えた薬、それは地仙(ちせん)が作る薬の中でも大変貴重なものだった。地仙の作る薬は須弥山(しゅみせん)で作られるため、薬の中には須弥山の霊気が込められている。

 だが、花薔が斑達に与えた薬は須弥山の霊気だけではなく、その薬を作る仙本人(せんほんにん)の気が練り込まれたものだったのだ。仙本人の気、それは命の灯火(ともしび)そのもの。花薔は自らの命の火を削り、その薬に練り込んでいたのだ。

 仙の気が入った薬、それは通常の薬では考えられないほどの効能を持つ。病に()した聖宮が、それでも長きに渡り生きていられたのは、この花薔の作り出す薬と沙麼蘿の力があればこそのことだった。

 その後も、花薔は皇と沙麼蘿のためこの薬を作り続け、常に二人に持たせていた。もしも何かあった時にはこの薬を使うように、と。

 今日斑達に薬を与えたことで、(びょう)をかかえていた者達の状態は一気に改善するだろう。重い(やまい)をかかえた者にはさらに薬を与えてもいい。それで皇に対する忠誠心を得られるのなら安いものだ、と花薔は思うのだ。

 それから数日後、妾季がやって来て斑達は生きるための職を得ることになる。









「いいなぁ、こんな所に住んでみたいよ。ここなら雨風しのげて、じいちゃんも深里(シンリー)ももっと元気になれるのに」

深永(シンエイ)。皇様と花薔仙女のおかげで、二人とも十分に元気になったでしょう」

「そりゃ、じいちゃんも起き上がれるようになったし、深里ももらった杖でなんとか動けるようになったけどさ」


 此処(ここ)は、皇が住まう蒼宮の手前に位置する何もない土地。皇が斑達に与えた職は、ここにたくさんの家を造ることだった。男達は木材を担ぎ家を造り、女子供は掃除や片付けをしながら働いていた。

 床を拭きながら深永の話を聞いていた花梨、確かに岩場で雨風をしのぎながら暮らす自分達からすれば、この木造の家など夢のまた夢。こんな立派な家に自分達が住める日など、来るはずもないのだ。

 それでも、お給料がもらえて毎日食べ物を食べられる。そんな幸せな日が訪れるなんて思いもしなかった。病気が治った者も多い。だから(みな)、一生懸命に働いた。

 そしてすべてが完成した時、皇は言ったのだ “好きな家に住むといい” と。


「この私に忠誠を誓うなら、家臣(かしん)として取り立てよう。そうでない者は、此処に住み自分の進むべき道を決めるがいい。」


 と。病気を治してくれただけでなく、住む場所もくれると皇は言う。誰にも(かえり)みらせれず捨て置かれ、生きて行くことすら難しかった自分達に安寧(あんねい)の地をくれると、皇は言う。

 ならば、与えられた分、いやそれ以上を皇にかえそう。そう誓った者は多かった。皇と花薔仙女はそれらを見極め、信頼できる者達を身近に置いていく。

 そしてそれと共に、皇は最後まで斑達に支援し続けた大店(おおだな)の前当主と話をつけ一つの商会を立ち上げた。幼い沙麼蘿が力を制御(せいぎょ)できず飛ばされた先で手に入れた珍しい種を、皇はたくさん持っていた。

 それは日ごとに色を変える花、見たこともない果物など様々だ。これらを蒼宮が所有する土地で作り、商会を通して売り出して収入を得る。

 天人(てんじん)達は知らなかったのだ。いや、知ろうとはしなかったのだ。斑の血が如何(いか)なるものか。闘いのための武器として作り出された斑だが、その血は尋常(じんじょう)ではない。その能力を発揮できる場所で仕事を与えれば、天人達以上の力を発揮すると言うことを。それは闘いでも商売でもかわりない。各自の力を伸ばしてやれば強固な軍を作り、大きな商会になるまでにはさほどの時間はかからなかった。

 こうして軍事、財源においても皇は一大勢力の(ちょう)となり、ナタ率いる軍を天界軍、皇率いる軍を蒼宮軍と呼ぶようになる。

下男→雇われて雑用をする男。下働きの男意図→こうしようと考えていること。めざしていること。何かをしようと考えること

寄る辺ない→周囲に頼りにできる人物がいないさま

顧みる過ぎ去ったことを考える

一大勢力→強い力を持った組織や団体などのこと

忠誠心→忠誠を誓う気持ち

厭わず→いやな感じがするとか不快だとかいって避けようとしないさま

強固→強く固いさま。主に精神的なものについていう

大方→物事の事柄の大体。大部分。あらかた

灯火→ともした明かり。存在、実在などのあかしのたとえ

効能→ある物質の作用によって得られる効果。ききめ

臥す→横になる。寝る。寝かせる。床につかせる

安寧→無事でやすらかなこと。特に世の中が穏やかで安定していること

制御→おさえつけて自分の意のままにすること

如何なる→どのような。どんな

尋常ではない→異様。常軌を逸している。途方もない



次回更新は25日か26日が目標です。

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