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天上の桜   作者: 乃平 悠鼓
第一章
50/203

第五部 天の原と戦の原に舞う紅の花《七》

年始だと言うのに、玄奘三蔵一行の出番がまだ来ない。(^o^;)

第五部の終わりには、ちゃんと三蔵一行に戻りますので今しばらくお待ちくださいませ。m(__)m

これから、皇と共に三蔵一行に力を貸してくれる者達の過去のお話です。

 上界と下界の違い。それは、()()()()がもっとも大きい。それ以外を除けば、人の仕事や金の流れは上界の天都(てんと)も下界の(みやこ)もたいした変わりはない。天人(てんじん)達も働き物を作り、それを売り買いして暮らしているからだ。

 ただ、()()()と言うことに関しては、上界では嗜好品(しこうひん)的な感覚が強い。上界で作られる食べ物は、それを育てる間に上界に存在するたくさんの霊気を受けるため、それを口にするだけで天人達の身体は健康になり寿命はさらに伸びる。本来、神が住まう上界では食べずとも天人達が空腹を感じることも、それにより命を(うしな)うこともない。

 だが、下界から連れてこられた(まだら)達は違う。下界で人として育ってきた彼らは栄養をとり、生きていくために食事をとらなければならない。彼らも長く上界に住み上界の食べ物をとっていれば、じきに天人達のようになったかもしれないが、上界で捨て置かれた彼らにはその手段がなかったのだ。

 しかも、嗜好品でしかない上界の食べ物の値段は高かった。故に、斑達はいつも腹を()かせ、痩せ細るしかなかった。だから、彼らは何処(どこ)まで行っても短命でしかない。天都の外れに住む彼らは、何代目になろうと、常に空腹と戦わなければならなかったのだ。




「またお前か!!」

「いい加減にしろ!!」


 天都の端にある、下界で言えば下町のような場所で、男達が集まり何かを足蹴(あしげ)にしていた。


「何をしている」


 沙麼蘿(さばら)亡き後、愛染王(あいぜんおう)阿修羅王(あしゅらおう)の後ろ楯により幽閉の身から脱した(すめらぎ)は、天都の様々な場所に足を運び今まで聞くだけだった外の世界を自身の睛眸(ひとみ)で確かめていた。


「あぁぁ! あんたには関係な……!」


 言いかけた男は振り返って、自分達に声をかけたその人物を見つめ絶句した。この世界では身につけることを許されない猩々緋(しょうじょうひ)色の(ひとえ)(まと)い、しかも単の(きぬ)の下には天華(てんか)の花が舞い散っている。天華の花は、天帝一族のみが身につけることを許された花だ。


「み、皇子(みこ)様!!」


 男は慌てふためき、その場で平伏(へいふく)する。両手を地面につけ、その手の甲に額を擦り付ける男の姿を見て、回りにいた男達もその双眸(そうぼう)を見開き次々にその場に平伏した。

 平伏した男達の中に見えたもの、それは何かを抱きしめるように抱えこんで倒れる、傷つき痩せ細った子供だった。


「何を、していた」

「皇子様、こいつは泥棒でございます! ここいらの店から食べ物を盗んだのは、一度や二度のことじゃありません。」

「何度注意しようが聞きゃしません。何度も何度も取られりゃ、こっちもたまったもんじゃない!」


 男達の話では、この子供がこの辺りで盗みを働くのは常習で、その損害もかなりにのぼると言うことだった。倒れている子供に “何故(なぜ)盗みを働く” と聞けば、“食べ物を買う金がないからだ! 病気の妹とじいちゃんに食べさせるんだ!” と言うばかりだ。“斑の俺たちに、金を稼ぐ方法なんてあるもんか! 盗むしかないじゃないか!” と。


「勝手なことを言うな!」


 俺たちがまた騒ぎ始める。話を聞いていた皇は、(ふところ)から金貨の入った財布を取り出すと、男達に向かって投げた。


「代金だ、とっておけ」


 ずしりと思いそれは、(みな)で分けても余りある金額だった。


「み、皇子様」


 皇は目線で男達を黙らせると子供に近寄り、その首根っこを(つか)み取り引きずり起こした。


「金は払ってやった。お前の住みかに案内しろ」


 声をかけられた子供は暴れた。“誰が、お前なんか連れて行くもんか! 俺たちに酷いことをするつもりだろう! そんな金なんかでだまされるもんか!!” と。

 だが、皇の後ろからのそりと二頭の大神(オオカミ)が出てきたことで子供は押し黙った。皇の左右から現れた金色の毛並みの大神と銀色の毛並みの大神。しかも、自分よりはるかに大きいのだ。


「妹に、それを食べさせたいのだろう」


 皇は、男達に足蹴にされながらも決してそれを離さず抱えこんでいた子供の手の中を見た。


「それを、くれてやると言っているのだ」


 その時、


「皇子様、こちらを」


 と、男達が果物を持ってきた。“いただいたお金は多過ぎます。お納めください” と。


「どうだ、これもお前にやろう」


 皇の言葉に子供は押し黙り、皇を(にら)み付ける。だが、目の前の果物に負けた。


「大神をどっかにやれよ!」


 と言うと、首根っこを掴まれたまま天都の外れへと向かったのだった。









 そこは、住みかと言うにはあまりに酷い場所だった。花薔(かしょう)より話には聞き及んでいたが、岩場の間に拾ってきた木を立てかけ布をかけただけの家。だが、その布も年代物で所々破れている。

 皇が子供に声をかけたのは気まぐれだった。此処(ここ)まできたのも、“妹に食べさせるため” そんな言葉に、沙麼蘿の姿を思い浮かべたからだったかもしれない。だが、


「これが、住みかとはな」


 よくもこんな所で生きてこられたものだと思う。斑と言うだけで、天都でありながら此処まで酷いものか。


深里(シンリー)、果物だぞー!」


 破れた布をあげ、子供が入って行く。その先には、()き出しの地面に使いふるされた布が敷かれただけの場所がある。そこに、小さな痩せ細った少女が寝ていた。

 だが、皇はその少女を見て顔をしかめる。何故(なぜ)なら、その紫みがかった青色の髪は間違いなく天人(てんじん)だったからだ。()うにもこまる捨て置かれた斑などではない。この世の春を謳歌(おうか)する、天都の中心に住まう天人の子供だったからだ。



足蹴→足で蹴とばすこと。ひどい仕打ちであることを比喩(ひゆ)的に言う

謳歌→恵まれた幸せを、みんなで大いに楽しみ喜び合うこと



次回投稿は2月1日か2日が目標です。

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