表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天上の桜   作者: 乃平 悠鼓
第一章
40/203

第四部 幻想の箱庭に咲く華《七》

武器の説明は毎回長々と書いていますが、難しいですよね。(>_<)

 華風丹(かふに)は、氣の火花が舞い散る隣の建物の屋根に移動し、その屋根の上から前の建物の開け放たれた窓から中を見て


「まぁ!」


 と、声を上げた。見つめた視線の先には、大刀(ダァダオ)(ジエン)がぶつかり合い火花が散っている。だが驚くべきは、大刀を持つ蜃景(しんき)と剣を交えている女だ。

 白金(はっきん)の髪に鳩の血(ピジョンブラッド)双眸(そうぼう)は、かつて修羅界(しゅらかい)君臨(くんりん)していた阿修羅(あしゅら)一族の印。そして、その身に(まと)(きぬ)は……。

 華風丹は手に持つ扇をふわりと広げ、その口元を覆うと


「本当にいたなんて。お母様の昔話に出てくる、物語にだけ存在する生き物かと思っていたわ」


 と呟いた。


「華風丹様」


 驚き立ち尽くす華風丹の姿に、どうしたのかと友禅(ゆうぜん)が声をかける。


鬼神(きしん)聖人(せいじん)がまみえた結果生まれた、心を持たずこの世界を()()すと言われる()みの子。生きとし生けるもの全ての命を奪い、草木さえ生えぬ焦土(しょうど)と化すと言われた、あってはならない生き物。その存在を、否定されるべき者」

「まさ…か……! そんな生き物が……」


 華風丹の言葉を聞いて、後ろに控えていた護衛の一人苧環(おだまき)が思わず呟く。


「しかし華風丹様、すでに阿修羅王は仏教に帰依(きえ)仏神(ぶっじん)となったはずです」


 もう一人の護衛千寿(せんじゅ)が言う。華風丹は振り返って千寿を見つめ


「いくら仏教に帰依したからと言って、全力で争い合っていた修羅界の王鬼神阿修羅を、天上界が直ぐに仲間として認めると思う。いいえ、認めるはずがないわ。阿修羅王は天上界に登った後も、しばらくの間は鬼神として扱われたはずよ。()()()、あのような者が生まれたの。仏神としての力を得る前、鬼神の力を持ったままであったが故に。」


 そう言った。そして向き直り窓を見つめると


「それでも、鬼神と聖人の血が綺麗に混じり合ってさえいれば、天上界にあっても一二を争う聖人君子になれたでしょうに、見事なまでに身体の中で鬼神の血と聖人の血が分かれているわ。アレでは、化け物になってしまうのも仕方がないことよね」


 と、言葉を繋いだ。その時、まるで今の華風丹の話を聞いていたかのように、剣を手にしたままの女が此方(こちら)を見上げ、ニヤリと笑った。

 その様子に華風丹は双眸を見開き、護衛の二人は訳のわからぬ恐怖に震えた。


「さすがは、化け物ね」


 華風丹は、女の睛眸(ひとみ)を見返した。









「鬼神、だったのか」


 玄奘達がその場に駆けつけた時、沙麼蘿(さばら)は鬼神の男と闘っていた。それは、何時(いつ)もと同じに見えた。だが次の瞬間、鬼神の男の大刀(ダァダオ)と沙麼蘿の(ジエン)が重なり合った時、その姿が変わったのだ。

 沙麼蘿は、玄奘達の(べに)から生まれた。その場では、普通の人間の姿に。だが次には、神仏混合の姿になると言う驚きの姿を見せた。しかし、それもまた偽りの姿だったと言うことだ。玄奘の呟きに


「成る程な」


 と、悟浄が言った。その言葉に反応するように、八戒の視線が悟浄を(とら)える。


「沙麼蘿は水落鬼(すいらくき)の攻撃を片手で止めただろう。この俺だって、両手で精一杯だったのにだ。だが、沙麼蘿が鬼神だと言うのならそれも頷ける。力だけで言うなら、鬼神を超えられる者はいない。修羅界で生きてきた鬼神にとって、その力がすべてだからだ。鬼神は闘いを好む、だがそこに、()()()()()()()()()()()は必要ない。ただ、己の力と力をぶけ合う、それが重要だと聞いた。まさに、沙麼蘿(アレ)がそうだろう」

「そうかも知れませんね。同じ修羅界に住む邪神は、()()()()()()()()()()()()()が何より大事らしいですからね。いかに相手を傷つけ踏みにじり倒すか。ですが、沙麼蘿は何時(いつ)でも剣を交え相手を力ずくで倒すことを楽しんでいる」


 二人の鬼神を目にし語り合う悟浄と八戒の横を通り抜け、玄奘は()緑松(りょくしょう)(こう)丁香(ていか)に声をかけた。


「お怪我はありませんか。李道士、黄道士」

「あぁ、大丈夫だ」

「玄奘はどうだい」


 緑松と丁香に “自分は大丈夫です” と、玄奘は言葉を繋ぐ。その様子をまるで見ていたかのように “フン” と鼻で笑った沙麼蘿は


「さぁ、終わりにしようか」


 と眼前(めのまえ)の男、蜃景(しんき)に言った。


「そうだな、と言いたい所だが邪魔が入るようだ」


 その蜃景の言葉通り二人の間、沙麼蘿の眼前に(チュワン)が飛んできた。沙麼蘿はその圏をいとも簡単に()ぎ払う。

 圏は(かん)とも言われる金属で作られた円環。法具を起源として発展したと言われ、環の直径はおよそ一尺一寸(やく25センチ)ほど。外縁部にはたいてい刃がつき、さらに握るための部分がある。多くは一対で使う双環(そうかん)

 主な用法は振り回す、撃ち砕く、かぶせる、巻き込む、受け止める、圧す、などだが時に敵に向かって投げることもある。今、沙麼蘿に向かって投げられたのは乾坤圏(けんこんけん)と言われる圏(環状兵器)の一つ。

 形状は手持ち燭台(しょくだい)に似て直径は一尺と少し(やく24センチ)。円環の4分の1は握るための部分で、太さは手に収まる程度、円形をしている。残り4分の3には(とが)った刃が生え、扁平で湾曲している。

 扁平な部分は幅一寸と少し(やく3センチ)ほど、厚さ七分(やく1.4センチ)。内縁寄りの部分はやや厚めで、外縁部は薄いが刃は立っていない。

 外縁部には鋭利(えいり)な三角形の刃が(いく)つか生えており、それぞれ長さは二寸(やく4.5センチ)ほど。先端は湾曲して一方に寄り、(ノコギリ)の刃に似ている。

 湾曲部分にはさらに、狼牙(ろうが)(猛獣の牙に似た三日月状の(とげ))が幾つか生えている。先端は尖って刃は薄く、鋭利なことこの上ない。

 円環の外縁部には、持ち手を除いてことごとく円錐形(えんすいけい)の棘が生えている。棘の先端は鋭く、間隔は七分から(やく1.5〜)八分(1.8センチ)ほど。

 圏一つにつき八本から十本の棘がある。乾坤圏の重さは一個あたり四斤から(やく1キロ〜)六斤(1.5キロ)。一つの革袋にこれを三個並べて入れておき、持ち手の部分は直ぐに取り出せるよう袋から露出させておく。

 投げた際は高速で回転しながら敵へ飛んでいき、顔面や首を切り裂く。そんな物騒な武器を、沙麼蘿に向かって投げつけたのは。

まみえる→ここでは結婚

無に帰す→失われて元の何もなかった状態に戻ってしまう、という意味で用いられる言い回し

焦土→焼けて黒くなった土

聖人君子→知識や徳の優れた、高潔で理想的な人物

紅→ここでは血

燭台→ろうそくを立てるための台

扁平→凸凹が少なく、平べったいこと。また、そのさま

湾曲→弓形に曲がること

鋭利→刃物等が鋭く、切れ味のよいこと。また、そのさま

円錐形→円を底面として持つ(きり)状に尖った立体のこと

一斤→重さの単位。ここでは、一斤250グラム



次回投稿は16日か17日が目標です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ