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天上の桜   作者: 乃平 悠鼓
第二章
200/203

第十一部 泥中蓮花《八》

(すで)に、沙麼蘿(さばら)が作り出した冷たい炎の海は見えない。見えるのは、その上を()()くす妖魔と、妖魔の体の上を走り抜けて来る邪神達のみ。

だがそれを、沙麼蘿が容赦(ようしゃ)なく次から次へと()り倒し、その右横では金角が此方(こちら)側に降り立とうとする邪神達に向かって団扇(だんせん)の形をした芭蕉扇(ばしょうせん)(あお)ぐ。芭蕉扇から立ちのぼる風は、炎となり邪神達を燃やして行く。その隣では李子(りし)が、天女の羽衣(はごろ)を攻守に使い分けながら動き回っていた。

また沙麼蘿の左横では、須格泉(すうの)琉格泉(るうの)阿吽(あうん)の呼吸で妖魔達を蹴散(けち)らし、小さな妖魔相手にはあの玉龍が飛び()りとも体当たりとも言える攻撃を加え、それら全てを銀角が手に持つ双刀で舞うように遊ぶようにしながら斬り倒す。


「オレもオレも!!」


後方から悟空の声が聞こえ “伸びろ、如意金箍棒(にょいきんこぼう)!!” と言う声と共に、悟空の持つ如意金箍棒が後ろからどんどん伸びてきて、邪神の身体に当たり弾き飛ばす。


「そう言うことなら私も、孔雀弓(くじゃくきゅう)


八戒が左手を前に差し出すと中指にはめられた孔雀石(マラカイト)のような指環(ゆびわ)から(ゴン)が現れ、その弓に近づけた右手の人差し指と小指の銀の指環を繋ぐ細い(くさり)のようなもの間から三本の(せん)か現れた。


雪華弾(せっかだん)


八戒の右手から放たれた三本の(せん)が邪神達目掛けてではなくその上空へと向かい、邪神達の真上で音をたるように爆発した。爆発と共に、粉雪が舞い散るよに雪にも似た白銀が舞い踊り、一瞬美しくも見えたその白銀は邪神達の身体に()れたとたん凄まじい音をたて爆発して行く。


彼奴等(あいつら)、やることなすこと全部がえげつねえ。だが今の状況じゃ、(ダオ)(ジエン)には出番がない。そうだろう玄奘」


悟浄の言う通り、前方にいる沙麼蘿達の攻撃に加え、此方(こちら)側いる悟空や八戒も加わった攻撃は、まさにえげつないと言えるだけのものだった。それには玄奘も(うなず)くだけの答えを返しはしたが、全く安心できないのは敵の数の多さだ。

戦力的には五分五分、いや此方が上だとも思えなくはないが、いかんせん妖魔の数が多い。向こうは黒山かと思う程の妖魔がいるのだ。あれを全て始末するのに、どれ程の時間を要することか。


「おい、何だよアレは!!」

「見ての通り、妖魔だろう」

「そんなことはわかってる! けどよ…」


悟浄の声に玄奘はただ淡々と言葉を返しはしたが、その視線は前方に現れたソレから離せないでいる。黒山の妖魔を前にしても、それをしのぐ程の巨大な妖魔が現れたからだ。


「でけぇ!!」

「あれでは、燃やすにしろ爆破するにしろ、それなりの時間がかかる」


悟空や八戒もその巨大な妖魔の姿に呟く。だが、前方で闘いを繰り返す沙麼蘿(さぱら)達は違ったらしい。


「でかいな!」

「にくのたかまり!」


まるで、山で見つけた兎や猪を見るように、何処(どこ)か楽しげに声を上げた金角と銀角。


「図体だけ大きくても、中身がなければ同じことです」


何故(なぜ)李子(りし)までがやる気満々で、須格泉(すうの)琉格泉(るうの)は戦闘態勢を整え、玉龍は気合を入れるために琉格泉の上で一度ぴょんと飛び上がった。


「いやいや、何で彼奴等(あいつら)はあんなやる気満々なんだよ」

「妖怪と、闘いを義務付けられた天人の本能だろうな。だが…」


そう言うと玄奘は、沙麼蘿を見た。本能だけで言うのならば、闘うことを楽しみとも喜びともする鬼神はどうか。ほぼ無表情でありながら、口角を上げ(ジエン)を振るう沙麼蘿は、一瞬動きを止めると


「覚悟はあるか」


と、その場に響き渡る声で言った。その声に


「まかせとけねえちゃん!」

「オレらいつでもいける!」

「私も行けます!」


と金角と銀角、そして李子は叫んだ。その言葉に沙麼蘿は、左足の足裏で地面を二度叩く。すると妖魔達が()()くす炎の海がさらなる火力を上げるようにして燃え上がった。


「あれ、大丈夫なのか!?」

「行くからには、大丈夫…なの…では」


思わず叫ぶ悟空に答えるように言った八戒だったが、その瞳は驚愕(きょうがく)に見開かれたままだ。燃え盛る炎を前にして、沙麼蘿が氷龍神剣(ひょうりゅうしんけん)一太刀(ひとたち)大きく広範囲に振るう。そしてその後を追うように、金角が手に持つ芭蕉扇(ばしょうせん)(あお)いだ。

スッーと沙麼蘿の氷龍神剣の太刀跡と、芭蕉扇で燃え上がった跡に、妖魔も邪神達も消え失せた一本の道ができるように広がった。揺らめく青白い炎だけが立ち上るその場所へ、沙麼蘿が、金角と銀角が、そして李子(りし)が、須格泉(すうの)琉格泉(るうの)がと、次々と炎を恐れることもなく中へと入って行く。






「大丈夫でしょうか」


そう呟いたのは、結界の中にいる百花羞(ひゃっかしゅう)だ。


「あの炎は、見せかけではないのよ。妖魔や邪神達のように、触れれば燃え上がる本物の炎」

「では聖宮(せいぐう)!」

「あの炎の海に飛び込んだ者達に、少しでも疑念が生まれれば、(またた)く間に燃え上がる」


それは、絆と信頼だけが物を言う世界だった。聖宮の言葉に、花薔(かしょう)仙女が続けるように呟く。


「お嬢様の創り出す炎は、味方を燃やすことはない。けれどそれは、中に入る者達の心によるのです。ほんの少しでも、この炎は熱いのでは、燃えるのではなどと思いでもしたら…。そして何より、お嬢様を信じ切ることができなければ、瞬く間に燃え上がる。須格泉(すうの)琉格泉(るうの)は、どんなことがあっても燃えることはないと断言できます。でも、他の者はどうでしょう」


これが皇や花薔(かしょう)仙女なら、勿論(もちろん)燃え上がることなどあり得ない。聖宮を含め須格泉や琉格泉も、共に生きお互いを支え合い強い絆で結ばれた家族であると思っている。だが他の者はどうか。

その言葉に百花羞(ひゃっかしゅう)は心配げに前方を見つめ、近くで話を聞いていた月亮(げつりょう)も炎の海を見つめ呟く。


「大丈夫、僕達はお姉ちゃんを信じてる。金角と銀角も李子(りし)だって、皆で支え合って信じ合って旅を続ける仲間だもん」


玄奘一行達は、今は炎の中で闘う仲間達の背中を、ただ見ることしかできないのだ。




箭→や(矢)

団扇→円形のうちわ



次回投稿は11月13日か14日が目標です。


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