第十一部 泥中蓮花《七》
力と力がぶつかり合う。邪神が振るい上げる刃と、沙麼蘿が迎え討つ剣。二つの力がぶつかり合い沙麼蘿がその色を変えれば、辺り一面に強い力の渦が撒き散らされる。
それは気の波動となって飛び散り、聖宮達がいる結界の外にある木々や植物を薙ぎ倒すが如き勢いで吹き荒れた。その気の波動に、小さな草木などは一瞬にして傷つき倒れる。
“数だけは山のようにいるのだ”、そう邪神の男が言った通り、どこからともなく現れる妖魔の一団にはきりがない。冷たい炎の海を妖魔達の燃える亡骸で埋め尽くし、それすら見えないほどの妖魔達が次から次へとそれに乗り上げ、後ろに控えていた邪神達が更にそれらを踏み台にして近づいて来る。
「残念だったな、此処は我等の箱庭だ。お前はあの泉からこの場所に繋がる空間を遮断するつもりだったのだろが、既に玄奘三蔵がこの地に足を踏み入れたことで、別の場所が他の泉と繋がっている。そこから妖魔など幾らでも呼べるのよ。所詮は黄泉など、我等修羅界の泉の下にある、泥に塗れた箱庭に過ぎぬのだ」
「ならば、お前達も泥に塗れ消え去るがいい」
「いつまでそんな口が叩けるのか。見てみるがいい、既にこの場には炎の海など見えはしない。見えるのは、それを埋め尽くす妖魔達の体だけだ」
この邪神の男が言う通り、火の海を妖魔の体で埋め尽くした場所の至る所から、此方へ向かってこようとする邪神達が見える。既に、須格泉がいる場所とも、沙麼蘿が邪神の男と剣を交える場所とも違う別の所から、一人の邪神が生きた大地とかした妖魔達を踏みしめながら此方に走って来る。
だが、その邪神が妖魔達の体を飛び越え、地上に降りることはなかった。何故なら、邪神がこの地に降り立つ直前に、細く長い布がスルスルと伸びてきてその首に巻き付き、邪神が大地の上に降り立つことを許さなかったからだ。
「此方はお任せを!!」
「李子!」
切り立った崖から飛び降り玉龍に乗った玄奘一行は、真っ暗な場所へと落ちて行った。そんな玄奘一行が辿り着いたのは、何もない荒れ果てた大地。その場所から行く当ても分からず玉龍の感だけを頼りに歩き、やっと金角や銀角、琉格泉と合流することができたのだ。
そうして歩いて来た先で玄奘一行が目にしたのは、視界を埋め尽くす程の妖魔と、その上を移動している邪神達。その先で、邪神達や妖魔を迎え討ち闘う沙麼蘿と須格泉の姿だった。それを見た李子と琉格泉の行動は早かった。
李子は素早く天女の羽衣を掴み取ると、それを妖魔の体の上から大地に降りようとしていた邪神の首めがけて放ち捕らえる。羽衣はその男の首に巻き付くと絞め上げ、邪神をその場に引きずり倒した。
途中邪神が羽衣を断ち切ろうと刀を振り下ろしたが、攻撃にも防御に使える普通の布とは違う天女の羽衣が、たかが一太刀で切れるはずもない。片手で首に巻き付く羽衣を握りしめ、なんとか男が体勢を立て直そうとした時、男の横から鋭い一太刀が浴びせられ邪神が崩れ落ちる。
「まにあったみたいだな。オレラがもどってきたからには、ここからさきにはいかせないからな!」
見た目はまた幼い金角が、両手に持つ双刀である柳葉刀を持ち、片手を此方に向かってくる邪神達に向け言い放つ。同じように、誰よりも早く須格泉に駆け寄り妖魔を火の海に沈めた琉格泉横で、大地に降りようとした中型の妖魔を銀角が斬り倒す。琉格泉の上には玉龍もいる。
「おまえら、だれもここにはあしをおろさせないからな! かくごしろ!!」
銀角も、柳葉刀を持った片手を邪神達に向け言い放った。妖魔達で埋め尽くされた火の海を前にして、此方側の中央に沙麼蘿、左側に須格泉と琉格泉と銀角。そして右側に李子と金角が立つ。
「おいおい、これはどう言う状態だ」
「まぁ、沙麼蘿が何かやらかしていることは間違いなのでは」
此処に辿り着くまでの間に、金角や銀角、そして琉格泉から黄泉についての簡単な説明は聞いた。修羅界にある泉とこの場所が繋がっているらしいことも、邪神の箱庭と呼ばれていることも。
だがこの場所に出た途端、結界の前方に雪崩のように押し寄せるこれだけの数の妖魔や邪神がいたのだ。こんな状況になっていると誰が思う、それこそ聞いていない。こんな状態を見て、悟浄と八戒が思わず呟くのも無理はないことだろう。
「すっげぇー! 姉ちゃん、オレもやる!!」
「待て悟空、お前はこっちだ!」
「えぇー」
「邪神達の狙いは、十中八九この結界の中にいる誰かだ」
一瞬にしてこの場の雰囲気からそれを感じ取った玄奘は、最前線を沙麼蘿や李子、金角や銀角に任せ、自分達は結界についた方が良いだろうと思う。だから玄奘は、今にも金角達の元に駆け寄りそうな悟空をとめ、目配せをしながら四人で少しずつ距離を取り、結界を守るようにしてその前に立った。
「月亮!」
「わかった!」
玄奘の声に、月亮は一人走って結界の中に入り込むと、自らの右手にある腕釧を鞭に変え構えた。この結界の中にいる人々の最後の砦は自分になるのだと言い聞かせ、まだ外で戦う実力のない自分でも、この中にいる人は守ってみせるのだと、外でそれぞれの武器を構える仲間達を見つめる。
この状況に、一瞬全ての動きが止まったような静寂が訪れた。そしてそのすぐ後には、再び雪崩をうつように邪神達が妖魔の体の上を次々と走り抜け此方に駆け寄ってくる。
その邪神達の間には、小さな部類の妖魔達もいた。一気に数を増やしたそれらは、此方側で迎え討つ沙麼蘿達めがけて刀や剣を向ける。
行く当て→行くための目的、目的地。行った先で当てになる場所、人
十中八九→十のうちの八か九まで。ほとんど。おおかた
次回投稿は10月20日か21が目標です。




