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天上の桜   作者: 乃平 悠鼓
第二章
159/206

第七部 厄災の大地《二》

 それは太古、神や仏によって封印されし悪しきモノ。恐らくは、鬼神や邪神達が神仏と闘うために創り上げたモノだったはずだ。形は人の姿をしており、その体は小山ほどに大きい。


「嘘…だろう」


 そう呟いたのは、誰だったか。血塗られた深紅(しんく)の世界には、もはや何もない。先程まであった緑から禿山(はげやま)に変わり果てた山も、行くはずだった街も、その先の村や街、その全てが消え去り深紅だけが残った。


「この先にあった街や村はどうなった!」

「その前に、コイツは何処(どこ)から来たんだよ!」

「どうするんだ、オレらたち!」

「たたかうのか!」

「こんなモノと、(たたか)えると」


 沙麼蘿(さばら)が結界で如何(いか)灼熱(しゃくねつ)を防ごうと、限度と言うものがある。邪神や鬼神の血を引く八戒や悟浄、石から生まれた悟空、妖怪である金角や銀角ですら熱風と揺れから身を守るだけでも大変だと言うのに、人間である玄奘ならば(そく)命に関わりかねない。


琉格泉(るうの)(すめらぎ)は!」

『まだだ!』

「ピューー!!」


 “僕に任せて!!” 玉龍(ぎょくりゅう)はそう言うと、急いで斜め掛けしている(かばん)に手を入れた。鞄から取り出したのは、黄仙桃(こうせんとう)。あの、金角と銀角と出会った場所、蠟梅(ろうばい)園の近くにあった天上界に存在する蟠桃果(ばんとうか)によく似た桃だ。

 龍神の嗜好品(しこうひん)であるそれを、玉龍は元の姿に戻った時にこっそりともいでおいた。龍神以外が手にすれば黄仙桃はすぐに溶けてなくなるが、玉龍であれば嗜好品として持っておくことができる。玉龍はすぐさま黄仙桃を食べると


「キュウゥゥゥー!!」


 と鳴いて龍神の姿となり、沙麼蘿の結界の中と外に恵みの雨を降らす。辺りの温度がグングンと下がって行くがこれは一時的なこと、子供(だま)しでしかない。それでも、玄奘一行はなんとか一息つくことができた。






『皇』

「手間を取られた、下界の様子はどうだ」

『今は大丈夫だ。だが、状況は(きび)しい』

「そうか」


 須格泉(すうの)と共に、皇は急いで紫微宮(しびきゅう)から出る。皇が下界へ行くためには、どうしても鶯光帝(おうこうてい)の許可が必要だったからだ。生憎(あいにく)今日は、下界の違う場所でも天界軍を動かず事態が起きており、哪吒(ナタ)が先に出てしまった。そのため、哪吒と皇の両方が天界を降りる許可がなかなか出なかったのだ。

 “嫌がらせか” と思いながらも、皇は待った。そして、いささか乱暴な行動ではあったが、許可をもぎ取ったのだ。


「この安穏(あんのん)とした上界では、私と哪吒がいずとも問題などあるまいに」


 皇がそう呟きながらも急いで移動すると、そこには(すで)蒼宮(そうきゅう)軍が待っていた。


「今より、下界に降りる!」


 皇のこの一言で、蒼宮は下界へと降りて行った。






 ()れは、突然のこと。何か獣の叫換(きょうかん)のようなものが聞こえ、一筋の炎が立ち上がる。炎は次第に渦を巻き、真っ赤な竜巻となってこちら側に向かって来た。玉龍の降らせた恵みの雨が地面から蒸発するように消え、玄奘一行は声を出すのも難しいほどの(のど)(かわ)きをおぼえ見る。

 そんな中、沙麼蘿は “ハッ” として(かお)を上げると右手の(てのひら)を開く。すると、手首の白金(プラチナ)腕釧(ブレスレット)(かす)かに光を放ち細かな粒子が掌に集まり渦を巻き、そして一つの形を作り始めた。そこに現れたのは白刃(はくじん)、阿修羅が持つ五つが宝刀(ほうとう)の一つ “氷龍神剣(ひょうりゅうしんけん)” 。沙麼蘿は氷龍神剣を握りしめ空に向かって(かか)げると


「来い、氷龍(ひょうりゅう)!!」


 と、叫んだ。途端(とたん)、熱風の中にいるにも関わらず背筋が冷たくなるような感じが玄奘一行を襲う。沙麼蘿の頭上にある、深紅(しんく)に染まったような雲から紅が()がれ落ちるように消え、中から氷でできた雲が現れる。

 間を置かずして、沙麼蘿の横に猩々緋(黄みがかった深い朱)色の衣が舞い皇が姿を現すと、手に持っていた沙麼蘿が保つ(ジエン)よりもやや大きなそれを天に向かって掲げ


「来い、風龍(ふうりゅう)!!」


 と叫ぶ。すると、氷の雲の隣に真っ白なモクモクとした雲が現れ、その二つの雲の中から氷でできた龍と薄柳色(うすい黄緑色)の龍が咆哮(ほうこう)を上げながら出現し姿を現す。氷龍が出て来ると、沙麼蘿は言った


()らい尽くせ、氷龍!!」


 と。氷龍は、持ち主の力に応じて全てを喰らい尽くす。(ゆえ)に、沙麼蘿の力があればこの世界を氷漬けにして全てを喰らい尽くすまでは終わらない。この氷龍を制御するのは持ち主の沙麼蘿ではない、其れは皇の役目だ。

 沙麼蘿が持つ “氷龍神剣(ひょうりゅうしんけん)” と対になり、氷龍の力を唯一制御できる風龍を呼び出すことができる “風龍神剣(ふうりゅうしんけん)” を持った皇が決める。


「行け、風龍!!」


 風龍は氷龍よりも一回り大きい、その風龍が氷龍に寄り添い壁を作り力の制御を行う。通常氷龍が喰らうのは “生きとしいける者の命” だが、今は “魔神が放つ悪しき氣” と “炎” を喰らう。まるで、バリバリと音を立てるように辺りの深紅が崩れ落ち消え、こちらに向かっていた炎の竜巻が氷の柱となって砕け散った。辺りが深紅から氷に包まれた光景になると、その寒さが増す。


「変わりすぎだろ」

「なんかさむいぞ」


 急に灼熱から極寒へと変わり、思わず声がもれる。玄奘一行の眼前(めのまえ)に分厚い氷の壁が立ち上がり向こう側が視えなくなると、氷龍と風龍は沙麼蘿と皇の頭上で細かな粒子となって消えて行った。


「今の内に後ろに下がる」

「下がれば何とかなるのか」


 皇に尋ねた玄奘の言葉に


「一時しのぎには、な」


 と、皇は答える。


何時(いつ)までも、この壁が持つと思うな」


 沙麼蘿が皇の横で呟けば


「姉ちゃんの力でも駄目なのか」


 と、悟空は聞いた。それに沙麼蘿は答えなかったが、皇は “フッ” と笑って


「下界を氷漬けにし、全ての命を奪ってよければ容易いが」


 と、言った。

太古→大昔。遠いむかし

如何に→どれほど。どんなに

嗜好品→風味や味、摂取時の心身の高揚感など味覚や臭覚を楽しむために飲食される食品・飲料のこと

生憎→期待や目的にそぐわないさま。都合の悪いさま。ぐあい悪く

安穏→心静かに落ち着いていること。また、そのさま

叫換→大声でわめきさけぶこと

白刃→(さや)から抜いた刃

掲げる→手に持って高く差し上げる

容易い→わけなくできるさま



次回投稿は9月1日か2日が目標です

 


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