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天上の桜   作者: 乃平 悠鼓
第一章
12/199

第一部 出会い、そして西へ《七》

 八戒の右手から放たれた三本の(せん)は、真っ直ぐに暗闇とかした空に向かい、空中で音をたてて爆発した。するとそこから、粉雪が舞い散るよに白銀が踊り出す。空を飛んでいた妖怪達の上に白銀が落ちていく(さま)は、どこか美しくひと事に思えた。そしてその白銀が妖怪達に触れるやいなや、凄まじい音をたて爆発を繰り返す。悲鳴ともうめき声ともつかぬ声が、白銀と共に消えた。

 その次の瞬間、こんどは(アレ)が右足を一歩引き右手に構えていた(ジエン)を後ろから前方に振り下ろす。すると、剣から紅色の氣が一条の光となって現れ、その光は空中で大きな鋭い剣先となり、一気に空に浮かぶ者達を二つに切り裂く。空中にいた一部の者達は、声をあげる間もなく消えさった。


「えげつねぇ。」


 呟く悟浄の前に、空から落ちてなを此方(こちら)に向かって来ようとする妖怪達が、まるで蠢くように近づいてくる。


「悪いな、此処(ここ)から先に通すわけにはいかないんだよ。」


 ふん、と鼻で笑うような態度を見せながら、悟浄は直立して身体を左側にひねり右手で(クン)を持ち、前方で水平に回した。三節棍(さんせつこん)の動きは機敏で変化に富む。用法によって長くも短くも使え、それはあたかも伸縮自在な生き物のようだ。傷ついた者が敵う相手ではない。

 前方の二人が圧倒的な力で数を減らし、生き延びた者が悟浄の手で(めっ)せられる。それでも数の多さに物を言わせ、無傷で空から宿屋へと抜け出る者がいる。


「オレの横をとおり抜けられると思うなよ! 伸びろー、如意金箍棒(にょいきんこぼう)!!」


 悟空の声に答えるように、如意金箍棒は凄い速さで横に伸びていく。そしてそれを、悟空はいとも簡単に扱う。キン斗雲(とうん)に乗り右に左に、時に上に時に下に、妖怪達の行くてを素早く遮り叩き落とす。それはどこか楽しげで、遊んでいるようにも見えた。

 落とされた妖怪達は、封印の玉に引き寄せられるように宿屋の前に向かう。立ち向かう丁香(ていか)は、足を開き腰を落として(チィアン)を構えた。槍は突くことに特化した武器だ。切る必要はない。槍頭(そうとう)は短く軽い、だから槍全体の長さの割りに扱いやすい。しかも、槍は刺すだけでなく、長さを利用し打撃することも槍先で切り裂くこともできる。だから丁香は、槍を好んで使う。構えた槍を前方に突き出し敵を刺し、槍を上方から振り下ろし打ち付ける。

 そんな中、玄奘は静に己の帯革(ベルト)尾錠(バックル)の前で両手を交差させた。そしてその両手の(てのひら)を開くと、そこにすっと双剣(そうけん)が現れる。玄奘は現れた二つの剣を両手で掴み取ると、まるで剣舞を披露するように、軽やかに妖怪達を斬り倒していく。左右両方の剣は、攻撃にも防御にもなる。玄奘は(ジエン)を寺で、(ダオ)を道観で教えられた。両方のよいところを自分なりに取り入れ、それを身を守り人々を救うために使うと決めた。故に、自ら血に染まることを厭わない。だが、その(さま)は僧侶とは信じがたい。この血に染まる姿が三蔵とは。

 その時、“キャー” と宿屋から叫び声が聞こえた。中庭の上に、翼を持った妖怪が現れたのだ。恐ろしい顔をして、つり上がった目に口元には牙もあった。鋭く光った指の爪が、まるで獲物を狙うように此方(こちら)に向けられる。


「ハ、ハムちゃん……」


 鈴麗(りんれい)は恐怖に震える声で、自らの掌に乗る玉龍(ハムスター)の名前を呼んだ。小さなハムスターは、恐ろしく鋭い瞳で頭上の妖怪を見た。“使いどころを見誤(みあやま)るな”、そう言われた。まだだ、まだ。


「構えろ!」


 丁香の弟子達が声を上げ武器を構えたとき、妖怪が中庭に向け急降下してきた。そのとき


「びゅ!」


 とハムスターの鳴き声がして、宿屋の周りを赤い何かが包み込んだ。(アレ)の、絶対的な力により創られた結界だった。急降下してきた妖怪がその結界に触れると、断末魔の叫び声を上げ消滅していく。三十分しか持ちこたえられない、けれど絶対的な守り。

 外にいる六人は息つく間もなく、闘いを続ける。その時、大神(オオカミ)の遠吠えが聞こえ、琉格泉(るうの)が戻ってきた。すると、その琉格泉のあとを追うように、月から鬼のような顔をした翼を持つ者達が舞い出て近づいてくる。その中のもっとも大きな個体が女に近づき、その前に(ひざまず)き頭を垂れる。しかしすぐさま反転すると、仲間を連れて妖怪達に襲いかかって行った。

 宿屋の結界が発動して、もうすぐ三十分がたつ。圧倒的な数だった妖怪達が、月からの加勢で数を減らす。だが、終結はまだ見えない。


「びゅ」


 “どうする” と、ハムスターは考える。もうすぐ結界が消える。考えていた小さなハムスターの耳に、遠くから何かの音が聞こえてきた。これは……、これは……! 神の降臨を示す先触(さきぶ)れの音だ。先触れが出るほどの神が、降臨しようとしているのだ。先触れの音は、神によって違う。この音は、ナタ太子だ。ハムスターは、音のする方を見つめた。

 その時、(アレ)も音のする方を見つめていた。


「働け!」


 いつ終わるともしれない闘いを繰り返していた玄奘は、じっと一方向を見つめている女に声をかけた。


「ナタが、降りる」


 その言葉に、こんな場所であるにも関わらず、一瞬すべての時が止まった。

闘いの場面は難しいです(>_<) 詳しく書こうとすると武術用語が満載に。わかるようにと思うと、何がなんだかわからない文面に(T_T)


次回投稿は6月1日か2日を目標にしています。

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