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天上の桜   作者: 乃平 悠鼓
第二章
100/199

第一部 雪中四友 〜蠟梅の咲く頃〜 《十》

冬の期間は更新速度が遅くなっていましたが、諸事情によりもう少し今のままの更新速度が続きます。m(__)m



「えぇ~、こんなところで終わるの!Σ(゜Д゜)」的な終わり方ですが、今回で“雪中四友”は終わりです。(^_^;)

この後の話は、また別の所で出てくると思いますのでその時に。



私は全てスマホからの投稿なのですが、昨年末に機種変した結果、これまでは出てこなかった漢字が出てくるようになりました。\(^o^)/

今までは “觔斗雲” の觔の漢字が出ず “キン斗雲” で通して来ましたが、第二章からは全て “觔斗雲” となっております。そして、“哪吒” の哪が出ず “ナタ” とカタカナで通してきたナタも、今回から “哪吒” と漢字になっております。今後も、漢字で出てくるものがあれば漢字で書いていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。m(__)m

 神にとて、領分(りょうぶん)と言うものはある。天上界においては樹廻廊(じゅかいろう)を挟んで道神(どうじん)が住まう領域と仏神(ぶっじん)が住まう領域が別れており、またその仏神が住まう領域の中も阿弥陀如来(あみだにょらい)極楽浄土(ごくらくじょうど)薬師如来(やくしにょらい)瑠璃光浄土(るりこうじょうど)など多岐に別れている。

 下界においても、それぞれの神の権限(けんげん)や能力が及ぶ範囲があり、それを示すために己の力を込めた()()()をその場に置く場合もある。此処(ここ)で言えば、未だ神力が残るこの土地だろう。

 この神力の中で咲き誇る蠟梅(ろうばい)はもはや普通の蠟梅ではなく、そこから作られる数々の品の中には(わず)かな神力が入っている。その神力は龍神(りゅうじん)がこの大地に雨として力を降り注いだものだが、この力の領分は龍神が属する道界のものだった。

 龍神や天女は、道界と仏界では僅かに役割や力が違うため、同じ龍神の力が込められた土地でも、その神力で道界の領分か仏界の領分かがわかる。その道神の領分で、愛染明王(あいぜんみょうおう)の血筋である鬼神(きしん)沙麼蘿(さばら)が仏界の力を使うのだ。

 沙麼蘿も領分がわかっていればこそ、金角と銀角が自分達の力で黄仙桃(こうせんとう)をもぎ取ることができたなら、蓮花洞(れんげどう)まで持ち帰らせてやると言う最小限の力を使うだけで済ませるつもりだった。だが、玄奘の言う()()()()()()()()()は、それとはわけが違う。

 道界の領分で、黄仙桃が持つ(ことわり)を無いものとして、沙麼蘿がいいように実をもぎ取らせて、その実の力さえも書き換えるのだ。それを見た道神達はどう思うか。

 己の領分で力を使う異物。自分達と見た目だけは同じような姿をしておきながら、()()()()()()()()()()と彼等は言うだろうか。


「とれた!」


 銀角は、悟空の觔斗雲(きんとうん)に乗せてもらい、上から一番大きな黄仙桃の実を両手で抱え込むようにしてもぎ取った。本来なら身体に異常がある者が、自分の身体を血に染め上げてしか取れないはずのソレを、健康優良児の銀角がいとも簡単にもぎ取り、大事そうに抱きかかえながら觔斗雲を降りると、沙麼蘿の元までやって来る。

 沙麼蘿はその実に手をかざすと、真言を唱えていく。今この時より、これから先十日の間は決して溶けて無くならぬように、腐らぬようにと。


「ほんの一口、一口だけでいいんですよね」


 銀角が悟空に連れられて觔斗雲に乗ってから、金角のことは悟浄と八戒が見ていた。血に染め上げられたその身体を悟浄が抱きかかえ、今銀角が持って来た黄仙桃の実を八戒が少しだけそぎ取り金角の口元へと運ぶ。


「あぁ、ほんの一口。ただそれだけだ」


 それは、鴨梨(ヤーリー)に似ていた。黃仙桃と言うからには桃なのだろうが、その見た目はまさしく鴨梨を大きくした物で、ナイフを入れればシャリシャリとした感じがあるが、八戒には香りは全く感じられない。


「きんかく、こうせんとうだぞ!」


 何とか荒い息をする金角に黃仙桃を食べさせようと、銀角が声を上げる。だが不思議なことに、八戒がその口元に黃仙桃を運べばポトリと果汁が滴り落ちて、不意に金角の口が僅かに開いた。

 そこに黃仙桃を押し込むように入れれば、それはスルリと形を変え溶けるように口の中へと消えて行く。次の瞬間には金角の身体から薄っすらとした光が発せられ、後には身体中の傷が消えてスヤスヤと寝息をたてる金角がいた。


「これが、神の慈悲(じひ)か」


 玄奘が呟いた言葉は、流れる風に乗り消えて行った。


「ハムちゃん、これでいいのか」

「ぴゅ〜!!」


 皆が金角に黃仙桃を食べさせている中、悟空は “黃仙桃を觔斗雲で取りに行くなら、一番小さな実でいいから一つ僕にも取って来て!” と玉龍(ぎょくりゅう)に言われ、取ってきた小さな実を差し出した。()()()とは言っても、ハムスターの身体である玉龍から見れば、それはとても巨大な黃仙桃。


「ぴゅ〜〜!!」


 “いただきま〜〜す!!” 玉龍は嬉しそうに、抱きつくようにして黃仙桃にかじりついた。黃仙桃は、龍神の大好物だ。玉龍には、その実から放たれる得も言われぬ花のような甘い香りが感じられ、柔らかな実の感触がする。

 一口かじった瞬間は見た目通り鴨梨のようにシャリっとした口当たりだが、一度口の中に入れば極上のなめらかな桃で、香り高い柔らかな果肉がとろけるように滴る果汁と共に消えてなくなる。そして


「キュウゥゥゥー!!」


 聞き慣れぬ鳴き声がして、玄奘達が後ろを振り返れば


「龍…、だ…と」


 その双眸(そうぼう)を見開いた悟浄が呟いた。全員の視線をヒシヒシと感じながら、久しぶりに龍神としての姿を取り戻した玉龍は、その場を優雅に飛び回る。だが、


「キュ、キュウゥウゥウーー!!」


 その姿は溶けるように一瞬で消え去り、小さな塊が空から落ちて来る。


「びゅぅー! びゅぅー!!」


 “た、助けてー!!” 玉龍の叫び声が辺りにこだまして、下ではオロオロとした悟空が両手を差し出す。黃仙桃の効果により、ほんの一瞬龍神としての力を取り戻した玉龍だったが、すぐに元に戻ってしまったらしい。


「ぴゅ、ぴゅぅぅ」


 “助かった、ありがとう” 悟空の手に受け止められた玉龍(ハムスター)が、その頬にペタリと張り付いて礼を言う。


「何だ、この安い見世物小屋の芝居のような展開は」


 玄奘の呟きに、悟浄も八戒も静かに(うなず)いた。









 深々と小さな頭を下げて、金角と銀角は黃仙桃を大事そうに抱え蓮花洞へと帰って行った。目を覚ました金角と、その身体を気づかう銀角は、ちゃんと “ごめんなさい” と “ありがとうございます” が言える子達だった。

 悪いことをしたら謝り、優しくしてくれた人々には感謝の言葉を伝える。それは物心がつく頃から、千角大魔王に(きび)しく教えられてきたことだった。


「これで、両親や長老達が目覚めるといいですね」

「祖父さんも早く帰ってきてな」

「邪神の手下達がいないといいね」


 小さな二つの影を見つめ、八戒や悟浄や悟空が言葉を紡ぐ。まるで、つきものが落ちたような表情の二人を思いだいせば、根は素直な故に操られやすかったのだろうと思う。


「これは、よそでも起きているんだな」


 自分以外の天上の桜の鍵を持つ者達の元にも、邪神に(だま)された妖怪達が向かっていると聞いた。


哪吒(ナタ)吉祥天(きっしょうてん)の護りは、これくらいのことでは崩れはしない」


 沙麼蘿の言葉に琉格泉(るうの)の頭に乗った玉龍が “そうだね” と答え、金角と銀角の姿が見えなくなった頃には、眼下に見える蠟梅園(ろうばいえん)にはたくさんの灯籠(タンロン)に火がともされ、また昼間とは違う雰囲気の場所になっていた。

領分→権限•能力などの及ぶ範囲。勢力下にある領域

多岐→道筋がいくつにも分かれていること。物事が多方面に分かれていること。また、そのさま

理→物事の筋道。条理。道理

鴨梨→中国梨の一種。見た目は西洋梨だが、食感は和梨に似ている

荒い息→苦しげに行われる呼吸

口当たり→飲食物を口に入れたときの感じ

言葉を紡ぐ→言葉を選んで文章を作ること

灯籠→提灯(ちょうちん)のこと



次回投稿は5月2日か3日が目標です。

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