表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天上の桜   作者: 乃平 悠鼓
序章
1/198

いつかのあの日《一》

この話は絵空事、ご都合主義です。

そして残酷な場面がございます。

誤字脱字もあろうかと思われます。


序章は天上界の話の為、聞きなれない言葉や難しい言葉が出てきますが、後書きにて説明を入れています。


初投稿ですので色々不備があろうかと思いますが、よろしくお願いいたします。


亀更新になります。m(__)m

 蒼穹(そうきゅう)に浮かぶ積雲(せきうん)綿飴(わたあめ)のような雲が、天都(てんと)の石畳の上に鉛色(なまりいろ)の影を落とす。

 いつ何時(なんどき)も、初夏のような陽射(ひざ)しが降り注ぐこの穏やかな上界(じょうかい)において、闇は存在しない。

 あるのは、鉛色の影のみ。夜でさえ下界(げかい)(あかつき)程の色合いしかないこの場所で、人知れず()()は天都の外れの一角に姿を現した。

 石畳の一角に突如(とつじょ)として現れた漆黒(しっこく)の闇。まるで、音すらない泥犂(ないり)の入口のよう。

 最初にそれに気付いたのは誰だったか。恐怖に()てつく叫び声がその場に響き渡った。



 沙麼蘿(さばら)がその場に足を踏み入れた時、天人(てんじん)達は悲鳴を上げて逃げ惑っていた。

 現れた漆黒の闇が辺り一面に広がり、まるで闇が舌舐(したな)めずりして天人を飲み込んでいるように見えた。

 上界の南南東の端に位置する此処(ここ)から鶯光帝(おうこうてい)の住まう紫微宮(しびきゅう)に向かって、闇が大きく深くその漆黒を伸ばしている。

 目を()らして見据(みす)えた闇の先には、幾人(いくにん)もの倒れた天人達の姿が見えた。その中には、見知った顔もある。

 南門、朱雀門(すざくもん)(まも)る兵達。その奥には水軍の将、天蓬元帥(てんぽうげんすい)。そしてその隣には、鶯光帝の側近中(そっきんちゅう)の側近である霊山の大将と言われる捲簾大将(けんれんたいしょう)

 鶯光帝はことの重大さを悟り、最も信頼のおける捲簾をつかわしたのだ。にもかかわらず、彼らは赤紅(あかべに)色の血に染まり、もはや息さえしていなかった。

 又、近くには釈迦如来(しゃかにょらい)の第二弟子(でし)である金蝉子(こんぜんし)の姿もあった。仏界(ぶっかい)からの援軍も、意味をなさなかったということだ。

 その更に奥には、天色(あまいろ)(きぬ)を自らの血で染め上げたナタ太子の姿があった。ナタの徽章(きしょう)白蓮華(びゃくれんげ)紅蓮華(ぐれんげ)だが、すでにその蓮華柄も血に染まり見えない。


『これは()だ』


 沙麼蘿は、直感的にそう想った。上界には決して存在するはずのない魔。魔は、人の負の感情を食らい増長し、すべてを飲み込み消滅させる。私利私欲に埋もれた下界ならいざ知らず、この上界に現れることなどない。

 確かに負の感情は上界にも存在するが、下界に比べれば(わずか)なものだ。誰かが下界から持ち込まぬ限り、現れるはずはない。誰かが、朱雀門を通って……。

 朱雀門の近くには、霊獣朱雀がいる。朱雀が魔に気付かぬはずはない。


「そこまでこの世界が憎いか、朱雀。世界を消滅させてまで」


 そう沙麼蘿が呟いたとき、


『お前のような化け物でも、私を消し去ることはできまい』


 漆黒の闇の中から声のようなものが聞こえ、顔のない何かが、自分に向けてニャリと笑った気がした。


『そうか……。私はこの日のために、生まれてきたのか』


 魔を見据えた沙麼蘿が漠然とそう想ったとき、今まで白と黒でしか感じ取ることができなかった彼女の頭の中に、美しい薄明光線(はくめいこうせん)の光りと共に無数の色が降り注ぎ、彼女の心を彩った。


 仏界で鬼神(きしん)聖人(せいじん)の間に生まれ、心を持たず忌みの子として疎まれ、真っ暗な世界で操り人形のように喋りもせず、何もなかった彼女の心に白と黒の色をつけたのは()()道界(どうかい)だった。


「尊い子。愛し子」


 そう言って抱きしめてくれた聖宮(せいぐう)


「僕の妹だよ。大切にして可愛がるんだ!」


 何時も手を握って離さなかった(すめらぎ)

 親にさえ抱きしめられたこともなく、触られたことすらなかった沙麼蘿に、人の温もりを教えてくれた此処道界。

 聖宮が愛し、これから先皇が生きていくこの世界。此処を護りきらなければ道界はおろか仏界、下界と、この世界のすべてを魔は飲み込み消滅させる。


「お前ごときに、この世界を渡しはしない」


 沙麼蘿は、そっと右手の(たなうら)を開いた。すると、手首の白金(はっきん)腕釧(わんせん)が微かに光を放ち細かな粒子が掌に集まり渦を巻き、そして一つの形を作り始めた。そこに現れたのは白刃(はくじん)

 単剣(たんけん)と呼ばれる長さ三(しゃく)程の(ジエン)。やや細身で剣身(けんしん)は両側が刃。剣格(けんかく)阿修羅(あしゅら)の徽章である宝相華(ほうそうげ)の形。剣柄(たかび)には阿修羅一族の色である紅色(べにいろ)の絹糸が巻かれ、剣首(けんしゅ)は龍の頭。龍の口には藍晶石(らんしょうせき)の玉が咥えられ、剣首の端には剣柄と同じ紅色の剣穂(けんすい)が付けられている。


 阿修羅が持つ五つが宝刀(ほうとう)の一つ“氷龍神剣(ひょうりゅうしんけん)”。




蒼穹→青空・大空

天都→天上界の都

上界→天上界・神々の住む所

下界→地上・人間等が住む所

泥犂→地獄

天人→天上人・神々

紫微宮→天帝の住む所

赤紅色→鮮やかで濃い赤色。神なのでこの色に

仏界→天上界で仏教神が住む所

天色→晴天の澄んだ空のような鮮やかな青色

衣→衣服・着物

徽章→衣服などにつけるしるし・バッジ。ここではお印の意味

薄明光線→太陽が雲に隠れているとき、雲の切れ間あるいは端から光りが漏れ、光線の柱が放射状に地上へ降り注いで見える現象

聖人→仏教神

道界→天上界で道教神が住む所

掌→手のひら

白金→プラチナ

腕釧→ブレスレット

白刃→(さや)から抜いた刀、抜き身

三尺→約70センチ、ここでは一尺約23センチ1ミリ

剣格→日本刀でいう(つば)

宝相華→空想上の花、ここでは奈良の興福寺の阿修羅像が身につけている布の柄のこと

剣柄→日本刀でいう(つか)

紅色→鮮やかな赤色

剣首→日本刀でいう柄頭あたり

藍晶石→カヤナイト

剣穂→多くの糸をたばねその先端を散らして垂らしたもの、房、タッセルみたいなもの


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ