第97話 泥沼の東部戦線
「よく来てくれたマンネルヘイム君。早速で悪いのだが、君はソ連の動きをどう見るかね?」
「こちらに対して即軍事行動を起こすことは無いでしょうが備えを怠るべきではない。何せ畑から兵士が採れる国ですからな」
1937年1月某日。
フィンランド首都ヘルシンキの大統領官邸では、ペール・スヴィンヒュー大統領とマンネルヘイム陸軍元帥との会談が行われていた。
二人の話題の中心はソ連の今後の動向であった。
一昨年はドイツ帝国と二重帝国諸国連邦と派手にドンパチしていたが、その矛先が何時フィンランドに向かないとは限らない。二人の表情は真剣であった。
「確かにその通りであるな。今は戦力の回復に努めているのだろうが、本格的に再戦する前にこちらに手を出しかねない……」
「新兵器や新戦術の実験場として我が国を利用する腹積もりかもしれません」
1936年にも再開すると思われた独ソ戦であるが、年内に戦端が開かれることは遂に無かった。この年がオリンピックイヤーだったからである。
見栄っ張りなヴィルヘルム2世にとって、ドイツ帝国の威信を世界に知らしめる国際イベントは到底無視出来るものでは無い。自国開催となるとなおさらである。
1936年に春季大攻勢を実現させるべく暗躍していたバチカンであったが、平和の祭典であるオリンピック相手には分が悪かった。戦力再建のための時間が欲しいドイツ帝国と二重帝国諸国連邦の軍部の思惑もあり、オリンピック開催後も辛うじて平和が維持されていたのである。
「……そうなるとカレリア地峡が戦場になるな」
「戦力強化を急ぐ必要があるでしょう」
史実におけるカレリア地峡は、フィンランド独立の際にソ連から譲渡された。
しかし、冬戦争でソ連に譲渡されて継続戦争で再びフィンランド領になったものの以下略。要するに取ったり取られたりされる地形上の要衝なのである。
「それで、元帥としては赤いクマの攻撃を防ぐ手立てはあるのかね?」
「防衛ラインを設定して迎え撃ちます。地の利を活かして徹底的に消耗させてやります」
マンネルヘイムはカレリア地峡に防衛線を構築することを考えていた。
この世界でもマンネルヘイム線が建設されることになったのである。
「確かに有効な手段ではあるが、問題は資材の調達だな。財務の連中を説得するのに骨が折れるな……」
思わず愚痴ってしまうスヴィンヒュー。
カレリア地峡を防衛するのにどれだけの資材が必要なのか想像してしまったのである。
史実のマンネルヘイム線の規模は長さ135km、幅90kmにも及ぶ壮大なものであった。可能な限り自然の地形や倒木などの障害物を利用したため、使用されたコンクリートはヘルシンキのオペラ座建設用のコンクリートよりも少なかったのであるが、それでも大量の資材と人手を必要とするのは言うまでも無いことである。
「ご安心ください。我に秘策ありです」
しかし、マンネルヘイムは不敵に笑う。
第1次大戦の東部戦線、さらにフィンランド内戦で磨き上げた戦術(?)に絶対の自信を持っていたのである。
「……」
吹雪の中、狙撃ポジションを取る一人の男。
擬装用の純白なスノースーツは完全に周囲と同化していた。
カレリア地峡は長い冬に多くの雪が降る。
この時期には吹雪くことも珍しくない。
唐突に乾いた発砲音がカレリア地峡に響き渡る。
視界は絶望的でターゲットからは300mは離れていたが、男は確かな手ごたえを感じていた。
「発砲音だぞ!?」
「何かあったのか!?」
「状況を報告しろ!」
音を聞きつけたのか、同僚たちが走ってくる。
彼らもまた純白のスノースーツを身に着けていた。
「犬ぞりを出せ。死体を回収せねばならん」
「しかし、相手が生きていたら反撃の恐れが……」
「こいつがこの距離で外すなんてあり得んさ。なぁ?」
「それもそうですね。ただちに手配します」
隊長の手配で犬ぞり隊が出発する。
頭を撃ち抜かれた死体を持ち帰ったのは、それから20分後のことであった。
「見たところロシア兵っぽいですね」
「軽装だな。偵察目的だったのかもしれん」
「とすると、目的は建設中の要塞線ですか……」
ロシア兵の隠密偵察の事実は直ちに上層部に報告された。
不幸にもスヴィンヒューとマンネルヘイムの懸念が的中してしまったのである。
『ソ連が我が国に対して侵略する意図があるのは明らかだ』
『要塞線の建築は順調であるが、武器が足りん。とくに重火器が不足している』
『可能ならば国産したいが時間が無い。どこか輸出してくれる国は無いのか!?』
ソ連の侵攻が予想よりも早まりそうなことを理解した軍上層部は武器確保に大わらわであった。この世界のフィンランドは史実よりは多少はマシとはいえ、自国で戦車を満足に生産することも出来なかったのである。
『そうだ。日本を頼ろう!』
『以前輸入した小銃は安くて高性能だった。ひょっとしたら重火器も輸出してくれるかもしれん』
『急いで外交ルートで打診するんだ!』
最終的にフィンランドが縋ったのが日本であった。
困ったときの何とやらである。
じつは日本にとって、フィンランドはお得意様であった。
過去に38式小銃(史実99式相当)を狙撃銃として大量に輸出した実績があったのである。
『武器輸出は実績となる。米国は満足に動けないし今がチャンスだ!』
フィンランドからの武器輸出の打診を総理大臣である鈴木喜三郎は快諾した。
妥協と偶然と諦観の産物と揶揄されている現状を打破するべく、何が何でも自分の実績にしてやろうと燃えていたのである。
鈴木の野望はともかくとして、フィンランドへの武器輸出は日本にとっては恵みの雨であった。前政権による大統領親書と弾丸列車建設によって陸海軍ともに軍縮傾向であり、国内の兵器産業は不況に喘いでいたのである。
『戦車に対戦車兵器、重砲まで売ってくれるのか!?』
『軍事顧問団まで派遣してくれるだと!?』
『く、駆逐艦だけでなく巡洋艦までリストに……ほ、欲しいけど予算と人員がぁぁぁぁぁ!?』
日本はフィンランドの要請に全力で応えることになった。
フィンランドが望んだ以上の兵器輸出を打診したのである。
『イギリスが低利で貸し付けしてくれるそうです』
『あの国に借りを作ると後が怖いが、この際そんなことを言ってられる状況ではないな』
『絶対に何かたくらんでいるぞ……』
円卓としてもフィンランドがソ連に占領されることは避けたいので、この動きをアシストした。日本から大量の兵器を輸入したフィンランド軍は急速に戦力を充実させていったのである。
「……はぁ、ついに始まってしまったか。去年はオリンピックイヤーで静かだったのになぁ」
1937年3月某日。
ロイド・ジョージからの国際電話でティータイムを邪魔されたテッド・ハーグリーヴスは不満たらたらであった。
『現在は双方の戦車軍団がウクライナ国境付近で激しい戦闘を繰り広げているとのことだ』
受話器越しに聞こえるロイド・ジョージの声にも苦みが混じる。
まるで余計なことをしでかしてくれたと言わんばかりの口調であった。
現在の英国はソ連に対する経済制裁の準備中であった。
裏でいろいろと手を回していたところに突発的に戦闘が始まってこれまでの準備がご破算になってしまったのである。
テッドからすれば、ロイド・ジョージの恨み節も理解出来なくも無い。
その後も彼の愚痴にひたすら付き合ったのであった。
なし崩し的に暫定停戦と化した独ソ戦から丸々1年以上。
双方共に満を持した状態で戦闘が再開されたのであるが、最初に激突したのは戦車部隊であった。ウクライナの台地は双方のキャタピラで絶賛蹂躙中だったのである。
「距離200……照準終わりっ!」
「フォイヤー!」
「命中! って、弾かれただとぉ!?」
「くそっ、次弾装填急げ!」
窮屈な車内に満たされる怒号。
ドイツ帝国陸軍第1機甲師団に所属する2号戦車は激烈な戦車戦闘を展開中であった。
「!? イワンが逃げるぞ!? 照準急げ!」
「照準終わり! 今度は確実にいけます!」
「フォイヤー!」
2号戦車から放たれた75mm砲弾が側面装甲を捉える。
比較的薄い車体側面を抜いた砲弾は弾薬庫を誘爆させ、間髪入れずに砲塔が吹き飛んだ。
「……ふぅ、以前のコイツは正面からでも抜けたんだがなぁ」
首無し車体と化して炎上する敵戦車を眺めながら2号戦車の車長はボヤく。
車長は一昨年の戦闘に従軍しており、当時は2号戦車で数多くのT-32を撃破した戦車エースであった。
ソ連側は今回の戦闘にT-32の改良型を投入していた。
その防御力は(場所によっては)2号戦車の攻撃に耐えれるレベルにまで向上していたのであるが、その代償として大幅な重量増加で機動力は低下した。それでも2号戦車よりも高速なので質が悪かったのであるが。
「くそっ!? 野蛮人の作った戦車のくせにすばしっこい。おい、照準はまだか!?」
「今やってます!?」
「あぁっ!? 砲がこっちに……」
T-32から放たれた76.2mm砲弾は二重帝国諸国連邦陸軍のLT-38を容易く撃破した。一昨年とは違い、T-32の主砲は改良によって長砲身化されて徹甲弾の運用が可能になっていた。軽戦車にしては重装甲なLT-38であったが、もはや屁のツッパリにもならなかったのである。
ウクライナ国境の全域に渡って激しい戦車戦が繰り広げられたのであるが、その様相は北部と南部で大きく異なるものとなった。北部方面を受け持つドイツ帝国陸軍の戦車隊が優勢に戦闘を進めたのに対し、南部方面を受け持つ二重帝国諸国連邦陸軍の戦車部隊は圧倒的な劣勢に陥っていたのである。
「こいつを投入するなんて上の連中は本気なんですかね? 所詮は失敗作なんでしょう?」
「口を慎め大尉。こいつは失敗作なんかじゃない。我が大ドイツの戦車戦術が変更になって使い道が無くなっただけだ!」
ベテランではあるが、如何にもやる気の無さそうな大尉に説明役の技術中佐がブチギレる。そんな二人の目の前には、2号戦車を拡大したような無骨な鉄の塊が鎮座していた。
(それを失敗作と言うんじゃないですかね……)
口から出かかった言葉をギリギリで飲み込む大尉。
彼はやる気は無いが、余計なことを言って無駄な時間を浪費するつもりも無かった。
「とにかくだ。この3号戦車でイワンの戦車を蹂躙することが出来れば余剰になった戦力を有効活用出来る。大尉、君の任務は極めて重要なのだぞ?」
「へいへい。最善を尽くさせていただきますよ」
1937年4月初旬。
ドイツ帝国が受け持つ北部方面のウクライナ国境に新型戦車が配備された。しかし、この戦車はいわくつきのシロモノだったのである。
「どうだおまえら。何とかなりそうか?」
「計器類のレイアウトは2号と同じですし、問題無いですよ車長」
「内部が広くなったのは嬉しい改善点ですな」
3号戦車は2号戦車の拡大発展型として開発されていた。
機種転換訓練の手間を無くすために操縦系が統一されており、慣れた兵士ならば即動かせるメリットがあった。
しかし、鹵獲されたT-34の先進性を知った陸軍上層部は早々に3号戦車に見切りをつけた。現在は火力と機動力と装甲を高次元でバランスさせた4号戦車の開発に躍起になっており、少数生産で終わった3号戦車は忌み子扱いされていたのである。
「よし、パンツァーフォー!」
「「「ヤヴォール!」」」
3号戦車が戦線に投入されたのは4月中旬のことであった。
手始めに3号戦車の小隊4両が北部方面に投入されたのである。
『はーっはっは! そんなへなちょこ弾など無駄無駄無駄ぁ!』
『お返しだ。喰らえぇっ!』
『こりゃ凄い。まさに無敵だな』
『なんてコイツをもっと早くから量産しなかったんですかね……』
北部方面でデビューした3号戦車は、T-32の大軍を鎧袖一触とばかりになぎ倒した。その正面装甲はT-32がゼロ距離射撃しても貫通出来ず、その主砲は2km弱からでもT-32を余裕で撃破することが可能であった。
『くそっ!? なんだあの化け物は!?』
『とにかく囲めっ! 囲んで袋叩きにするんだっ!』
『ひぃっ、砲塔がこっちを……!?』
防衛戦闘になると、いよいよ3号戦車は真価を発揮することになった。
待ち受けていればよいので機動力不足は問題にはならず、陣地に籠って昼飯の角度に徹すれば難攻不落と化した。たった1両の3号によってT-32が中隊規模で束縛されるというソ連にとっては笑えない事態まで起きていたのである。
その有効性を大量のT-32の屍でもって示した3号戦車は、火消しとして南部方面に送られた。崩壊寸前だった南部方面のウクライナ国境を中隊規模の3号戦車が食い止めることに成功したのである。
『1両殺られたら10両ぶつければ良いんじゃ! 儂の作った生産ラインならば月産500台はイケる! 作業工程は随時見直しているからもっと増えるぞ! 目指せ月産1000台じゃあ!』
ドイツ帝国側の誤算は、ヘンリー・フォードが作り上げたT-32の量産体制であった。2号戦車が戦車兵の技量とチーム戦術で圧倒し、3号戦車がソロで無敵ぶりを発揮したことでキルレシオは圧倒的ではあった。しかし、撃破した以上のT-32がすぐさま配備されてしまうのである。
その後も6月中旬まで双方で泥沼の戦車戦が繰り広げられた。
戦線はウクライナ国境付近を前後するだけに過ぎず、ただ無為に時間が過ぎ去っていったのである。
「陸の連中に恩を高く売りつけようと思っていたのにこの体たらくとは……」
帝都ベルリンの官庁街であるヴィルヘルム通り。
その一角に建つ空軍省の大臣室では、部屋の主であるマンフレート・アルブレヒト・フォン・リヒトホーフェン空軍大将が頭を抱えていた。
事の発端は、ドイツ帝国空軍への援軍要請であった。
ドイツ帝国陸軍は泥沼と化した地上戦に遂に音を上げてしまったのである。
援軍要請は空軍の力を見せつける良い機会だとリヒトホーフェンは考えていた。
しかし、満を持して派遣したはずの航空隊が鳴かず飛ばずだったのである。
「……それで、原因はいったい何なんだゲーリング? 派遣した部隊の技量に問題は無かったはずだぞ」
リヒトホーフェンは報告を持って来た副官――ヘルマン・ヴィルヘルム・ゲーリング空軍少将を見やる。
「現地からの報告を分析したのですが、戦術ミスの可能性があります」
そう言いながらも、ゲーリング自身は納得していない。
自分が手塩にかけて育てた戦闘機乗りがそんな初歩的なミスをするとは思ってもみなかったのである。
「戦術のミスマッチだと? そんなものは状況に応じて臨機応変にやれば良いじゃないか」
リヒトホーフェンも首をかしげる。
二人ともエースパイロットなために新米が陥りがちなミスに気付けていなかった。そんなことが出来るのは実戦経験豊富な熟練パイロットだけなのである。
「ふむ、一見すると問題は無さそうだが……」
ウクライナ国境に建設された空軍基地は今日も騒々しかった。
戦闘機のエンジン音に混じって聞こえてくるパイロットとメカニックのやり取り、そして濃密なガソリンの匂い。ゲーリングの脳裏には、20年前の記憶がフラッシュバックしていた。
リヒトホーフェンへの報告から数日後。
報告書の内容に納得出来なかったゲーリングは前線基地を視察中であった。
未だに操縦桿を握ることがあるゲーリングは、出世しても現場主義であった。
書類整理が嫌になったからこれ幸いとかそういうわけではない。多分。
『敵襲! ただちに迎撃せよ!』
突如、サイレンが鳴り響く。
ソ連の戦闘機が基地に襲撃をかけてきたのである。
(ふむ、なかなかのものだな)
素早く宿舎から飛び出てくるパイロット。
機体に飛び乗ると直ちにスクランブルしていく。その様子を見たゲーリングは感心していたのであるが……。
「えぇい、なんたることだ!? 空戦の基本を理解していないとは!? おい、他に出せる機体は無いのか!?」
基地上空で繰り広げられる空戦を見てゲーリングは思わず歯噛みしていた。
彼の眼前では味方機が敵機に振り回されていたのである。
『そこのMe110には誰が乗っている!? 出撃は許可していないぞ!』
『俺だ! 今すぐ滑走路を空けろ!』
『げ、ゲーリング閣下!? おやめください危険です!?』
『ヒヨッコ共に教育してやる。いいから滑走路を空けろ!』
『や、ヤヴォール!』
怒髪天と化したゲーリングを止められる者は基地にはいなかった。
彼が搭乗したMe110は戦闘空域へ突撃したのである。
『いいか見てろヒヨッコ共ぉ! こっちが速いんなら、わざわざ相手の格闘戦に付き合う必要はねーんだよっ!』
無線でがなりながらゲーリングはMe110を駆る。
その戦闘機動は、かつて白男爵と賞賛されていたころと変わらない鋭い動きであった。
『捉えた!』
ゲーリングのMe110は双発の大馬力を活かして急上昇。
死角から接近して超至近距離で20ミリ2丁と7.92ミリ4丁をぶっ放す。襲われた不幸な敵機は大火力をまともに喰らって砕け散った。
『まだまだぁ!』
撃墜した敵機を掠めるようにそのまま急上昇して上空を占位。
敵機を発見すると、すぐさま急降下に移る。
『喰らえぃっ!』
上空から高速で、しかも太陽を背にした攻撃に敵機は反応すら出来ずに粉砕された。そのまま下降しつつ、わらわらと接近してきた敵機を高速性能を活かして振り切る。速度に劣る格闘戦特化の敵機は、この戦法を取られると手も足も出なかったのである。
その後もゲーリングの独壇場は続き、基地を襲撃した敵機の大半は彼に撃墜スコアを献上することになった。圧倒的な空戦ショーを目撃した基地のクルーたちが大いに沸いたのは言うまでも無い。新聞やラジオでも白男爵の活躍を称えたのである。
「自分だけずるいぞゲーリング! 俺もやりたかったのに!」
「い、いや、あれは偶発的に巻き込まれただけですし……」
数日後。
ゲーリングはリヒトホーフェンに叱責されていた。その叱責の内容は斜め上にかっとんだものであったが。
「まぁまぁ。隊長も今度一緒に行きませんか? もちろん、機体は赤く塗りますので」
「それは良いな! 俺もメッサ―に乗せてくれ! もちろん単発のほうだぞ?」
ゲーリングの提案に、コロッと機嫌を直すリヒトホーフェン。
彼もまた未だに現役の戦闘機乗りなのである。
「109よりも110のほうが良いですよ?」
「おまえの露骨な双発機推しにはうんざりなんだよ!」
「なんだとぉ!? 高速大火力が戦闘機の正義だろうがぁ!?」
「戦闘機は単発に決まってるだろうが!? 表出ろっ!」
仕事のストレスが溜まっていたのであろう。
二人が己の持論を譲らずに殴り合いに発展するまでに時間はかからなかった。
この一件以来、戦場視察と称して赤と白の機体が戦場に乱入するイベントがランダムで発生することになった。未だ現役の二大エースは、日頃のストレスを発散するためにソ連機を喰いまくったのである。
奮戦する赤と白の機体に負けられないと空軍全体が奮い立った。
生ける伝説と化した二人の戦術を見様見真似で体得した戦闘機乗りたちは、ソ連空軍相手に優位に戦闘を進めていったのである。
ルフトバッフェが制空権を確保したことで陸軍が動きやすくなったのは言うまでも無い。停滞していた前線は徐々にであるが、しかし確実にモスクワへ向けて前進し始めていたのである。
「おい、あの村はなんだ?」
「地図には載っていないですね」
「使えるものがあるかもしれん。偵察兵を送り込んでくれ」
「ヤヴォール!」
1936年7月中旬。
前線はゆっくりであるがソ連領内に食い込んでいた。
前回の失敗を反省して、ドイツ帝国と二重帝国諸国連邦は一気に内陸に突入することは避けた。着実に周辺地域を占領する方針を取っていたのである。
「くそっ、もぬけの殻か……」
「イワンの奴らは逃げ足だけは早いよな」
無人となった集落を家探しするドイツ兵たち。
彼らにとってはルーチンワークであり、緊張感の欠片も見当たらなかった。
「お、体重計があるぞ?」
「せっかくだから計ってみようぜ!」
そう言って体重計に乗った瞬間、体重計が爆発した。
体重計にブービートラップが仕掛けられていたのである。
「なんだぁ? イワンの人形かよ。驚かせやがって……」
「こんなのはこうしてやるぜっ!」
別の場所ではロシア兵の人形を蹴り倒した瞬間に、ワイヤーで結ばれて手りゅう弾のピンが外れて爆発。至近距離で破片と爆風を喰らった兵士たちはお亡くなりになった。
「む? 額縁が斜めになっておる。けしからんな……」
また別の場所では、小隊長が斜めになった額縁を真っすぐにした瞬間に裏に仕掛けられた信管が起動。壁に埋め込まれた爆弾は部屋どころか建物を吹き飛ばした。額縁を動かした小隊長も、その部下である隊員たちも即死であった。
ドイツ側の動きに対して、ソ連は空城の計とブービートラップで対抗した。
広大な国土には無人となった村や集落が多数存在する。そういった場所にブービートラップを大量に設置していたのである。
ブービートラップの解除には多大な労力が必要であるし、神経も消耗する。
ただでさえ慎重だったドイツ帝国軍の侵攻は、さらに鈍化することになったのである。
『くそっ!? こいつら何処から湧いてきた!?』
『喚いている暇があったら引き金を引け! こいつら死ぬ気で突撃してきているぞ!?』
無人だったら無視すれば良いのであるが、そういう場所に限ってパルチザンの根拠地であることが多かった。スルーしようとしたら問答無用で襲い掛かってくるため、ドイツ帝国軍の進撃速度はさらに低下することになったのである。
こうなると友軍である二重帝国諸国連邦が頼みの綱となる。
幸いと言うべきか、ルフトヴァッフェによる制空権奪取後の南部方面は抵抗が散発的であった。二重帝国諸国連邦陸軍は、ソ連国境付近の都市を次々と陥落させていたのである。
「おい、この看板はなんて書いてあるんだ?」
「ロシア語を読める者を連れてきましょう」
州都ベルゴロドの中央病院。
この地を占領した二重帝国諸国連邦の師団兵たちは、閉鎖された病院を接収して司令部にするべく内部を探索中であった。
「な、なんてことだ!? ここはペスト患者収容所だぞ!?」
通訳が看板見て絶叫する。
看板にはロシア語でペスト患者が収容されている場所であることが記されていたのである。
「今すぐ病院を……いや、この町全体を閉鎖しろ。誰一人として外に出すんじゃないぞ!」
師団を預かる老将軍はペストと聞いて動揺した。
彼もまた黒死病の恐ろしさを伝え聞いて育った世代だったのである。
「閣下、念のため医療チームの派遣を要請してください。病院は無人でした。偽計の可能性もあります」
「わ、わかった……」
不幸中の幸いは、お目付け役の副官が冷静だったことであろう。
副官の提言を受け入れた老将軍は医療チームの派遣を要請。後にペスト患者などいなかったことが判明したのである。
「それと箝口令も敷いてください。このことが師団全体に広がれば大変なことになります」
「う、うむ。それも了承した」
思考停止してしまったのか、完全に副官の言いなりであった。
しかし、箝口令を敷いたものの既に手遅れだったのである。
『うぅ、気分が悪くなってきた』
『俺はもう死ぬのか……』
『今すぐここから出してくれ! 俺はまだ死にたくないんだ!』
『せめてママのシチューをもう一度食べたかったよ……』
噂を信じてしまった兵士たちの士気は絶望的に低下した。
逃亡兵や上官への抗命が頻発してまともに戦闘出来ない状態と化してしまい、師団丸ごと後送されたのである。
師団側の初動態勢に問題があったことは明らかなのであるが、将兵が罰せられることは無かった。むしろ被害者として世間から大いに同情されることになり、カール1世直々に見舞われる栄誉まで受けることになった。この事件は二重帝国諸国連邦では同情すべき逸話として語り継がれることになるのである。
『ベルゴロドの師団が撤退したら防衛に大穴が空いてしまうぞ!?』
『クルスクと連携する作戦の前提が台無しだーっ!?』
『もはや戦力としてカウントするのは止めた方が良いかもしれんな……』
しかし、友軍のドイツ帝国側からすればたまったものではなかった。
師団クラスの戦力が突如消失しまったのであるから当然であろう。その穴埋めに奔走することになった関係者の怨嗟の声は果て知らずであった。
この事件は一枚の看板が挙げた最大の戦果としてギネス認定された。
たった1枚の看板によって、ドイツ帝国と二重帝国諸国連邦の攻勢を数か月遅らせる大戦果を挙げたと記されたのである。
『神をも恐れぬ下劣な行為。断じて許すことは出来ない!』
ローマ教皇ピオ11世は今回のソ連側の作戦を強く非難した。
この世界のカトリックは欧州で信仰される宗教の大多数を占めており、その影響力は絶大でソ連は国際社会から孤立することになった。とはいえ、元より孤立状態だったので実質的なダメージは無きに等しかったのであるが……。
「……はぁ、今年も一般参加かぁ。サークルで参加したかったなぁ」
盛況な壁サークルを眺めてボヤく全権大使さま。
本日のテッドは半袖開襟シャツにスラックス、ソフト帽にグラサンというラフな格好であった。
1937年8月21日。
晴海では第30回コミックマーケットが開催されていた。
テッドがコミケに参加したのは憂さ晴らし目的であった。
今年に入ってからは何かと忙しくてストレスを溜める日々が続いていたのである。
「久しぶりに来たけど相変わらず賑わってるわねぇ」
「凄いです! これほどの人を見たのは初めてですよ」
今回のコミケは正妻のマルヴィナと愛人のおチヨが同伴していた。
さすがにすっぴんではなく、髪型を大胆にチェンジするなど最低限の変装はしていたが。
悪目立ちしている3人であったが、周囲からは完全にスルーされていた。
大概の日本人からすれば、肌の色が白かろうが黒かろうが皆外人扱いなのである。
(あの金髪サングラスの人何処かで見たような気が……)
(大柄な黒人女性も新聞で見たような気が)
(もう一人は例の愛人さんかな?)
外人には無頓着な日本人であるが、それでも3人の正体に気付いた者は存在した。だがここは日本である。有名人のプライベートに干渉する無粋なファンやパパラッチは存在しなかった。
「おぉ、こんなところで出会えるとは奇遇ですな」
まるで待ち受けるように現れたのは、ぱっと見は御隠居っぽい老人であった。
真新しい甚平とカンカン帽子が恐ろしいほど似合っていない。
「どの口でそんなこと言ってるですかね……」
その姿を呆れたように見つめるテッド。
目の前の老人に面識があったのである。
「そもそも、一国の総理がこんな場所に来るほど暇なのですか?」
「ははは、その言葉をそっくり君に返してあげよう」
老人はニヤリと笑う。
彼こそは第22代内閣総理大臣鈴木喜三郎であった。
史実の鈴木は暗殺された犬養毅の跡を継いで政友会の総裁になった。
しかし、元老である西園寺公望に資質を疑問視されて総理にはなれなかった。さらには、政友会分裂の切っ掛けにもなった。
『御国のために粉骨砕身努力してまいりましたが、最近は身体が言うことを聞いてくれません。ここらが潮時と思っております』
6年8ヵ月続いた犬養内閣であったが、健康上の問題で内閣を総辞職した。
犬養毅本人も政界を引退することになったのである。
そうなると問題になるのが政友会の次期総裁のポストであった。
この頃の政友会は犬養内閣発足時よりも派閥の細分化と対立が進んでおり、次期総裁をめぐって泥沼の暗闘が繰り広げられたのである。
政友会における鈴木の立場は微妙であった。
史実では内相時代に実績を挙げて立場を強化していたのであるが、この世界では鳴かず飛ばずだったのである。
正確に言えば、『実績を挙げたくても上げられなかった』が正解であろう。
公安警察の設置や破防法の制定など、彼が成すべきはずだった仕事は平成会と内閣調査部が既に済ませていたのであるから。
史実の鈴木の功績には共産党の一斉検挙もあるが、この世界では以下略。
なお、この件に関しては平成会は関わっていない。共産党は平成会よりも恐ろしい虎の尾を踏んでしまったのである。
戦前の共産党は金銭目的で犯罪を計画していたが、その中に『東京市内資産家強盗計画』があった。これは女性党員を家政婦として送り込んで機を見て金品を強盗する卑劣極まりない計画であったが、史実では未遂に終わっていた。
『さて、うちの子供を狙った理由を話してもらおうか』
『美知恵を怖い目に遭わせた外道死すべしですよ!』
『ひぃぃぃぃぃ!? 堪忍ですぅぅぅぅ!? 知らなかったんですよぉぉぉぉっ!?』
しかし、この世界では計画は実行された。
よりにもよって、子育てのためにおチヨが借りた郊外の屋敷が共産党に狙われてしまったのである。
さらに悪いことに、潜入した共産党の女性党員が欲を出した。
屋敷の金品だけでなく身代金目的でおチヨの娘を誘拐してしまったのである。密かに護衛していた私設SP部隊に瞬時に制圧されてしまったが。
テッドの怒りを買った日本共産党は、組織から建物から党員に至るまで綺麗さっぱり消え去った。党中央だけでなく、全国に存在する支部や支援組織まで根こそぎという徹底ぶりであった。
ちなみに、共産党本部襲撃や支部崩壊は一切報道されなかった。
別にテッドが圧力をかけたわけではない。やり口のえげつなさに震え上がった国内のマスゴミが全力で忖度した結果に過ぎない。
鈴木が内相時代に実績を挙げることが出来なかったのは、平成会とテッドのやらかしが原因と言っても過言では無い。総裁の座に就くことが出来たのは妥協と偶然と諦観の産物と揶揄される有様であった。実際その通りであるから反論しようがない。
1936年6月に成立した鈴木内閣は誰にも期待されていなかった。
そのことを誰よりも理解していたのは鈴木自身であった。
『とにもかくにも実績を挙げるしかない。細かいことからコツコツと積み上げる』
孤立無援な状況であったが鈴木は腐らなかった。
実績を挙げれば周囲もついてくると信じたのである。
『英国との関係が維持出来れば日本は上手くいく。そのためにもドーセット公と友誼を結ぶ必要があるだろう』
手っ取り早い実績作りとして、鈴木はテッドと良好な関係を築くことに腐心した。お土産を持って英国大使館に日参するのは勿論のこと、テッドの外出先で偶然を装って合流することも日常茶飯事。もはや、完全にストーカーであった。
「……貴方の努力には頭が下がりますよ。僕には到底真似出来ません」
「なんの。今の儂にはこんなことしか出来ないからな」
そう言って豪快に笑う鈴木。
ヤケッパチに見えなくも無いが、開き直った人間は強いのである。
「せっかくですし一緒に回りませんか?」
「良いのかね? 君のカミさんや妾に悪いとの思うのだが……」
「うんざりするほど見た顔だから慣れてるわ。問題ない」
「旅は道連れ世は情けって言うじゃないですか」
かくして、全権大使家族と総理大臣という前代未聞の超々VIPがコミケ会場を闊歩することになった。そのような状況でもファンやパパラッチに襲われることは無かったのであるから、この世界の日本も大概であろう。
『弾丸列車を東京オリンピックに合わせて開業出来れば国威発揚に利すること大である。そう思わないかね?』
鈴木の執念染みた努力が報われるには、最低でもあと2か月ほど待つ必要があった。東京オリンピックの誘致成功に始まり、弾丸列車の全線開通、新丹那トンネルの完成など数々の実績を積み上げて政友会内部で確固たる地位を築くことになるのである。
(こんなところで出くわすとは……)
大阪朝日新聞の記者尾崎秀実は、甲子園球場で見知った顔を見て驚いていた。シルヴァーゴーストから降り立つのは、かつて執拗に追ったテッド・ハーグリーヴスだったのである。
尾崎が甲子園球場にやって来たのは第1回職業野球東西対抗戦を取材するためである。この世界では初めてのオールスターゲームということもあり、世間の関心は非常に高かった。
(あれから10年。時がたつのは早いものだ)
10年前の尾崎はコミンテルンのエージェントとしてテッドを追っていた。
官憲相手にヤバイ橋を渡りながら、日本全国津々浦々を飛び回っていたのである。
『……アグネス。行くのか?』
『わたしは共産主義をあきらめない。トロツキーを追う。貴方が立ち直ってわたしを追ってくることを切に願っているわ』
『……』
しかし、今の尾崎は一介の新聞記者に過ぎなかった。
コミンテルンの日本支部であった共産党が消滅してしまった結果、彼に指示を出す出す人間もまた消滅してしまったのである。
(あんな化け物と知っていたら……いや、無意味な仮定だな)
世間では一切報道されなかった5年前の共産党壊滅の真実。
尾崎は全てを知る数少ない人間であった。
未遂に終わったとはいえ、愛人の子を誘拐した事実はテッドをブチ切れさせた。
怒りゲージMAXを突き抜けてしまった英国全権大使は、自らの私兵であるウォッチガードセキュリティを率いて共産党支部に襲撃を仕掛けたのである。
ガチの戦闘集団が奇襲したら共産党の支部などひとたまりもない。
幹部を含め、一夜にして関係者全員が消息不明となった。
『支部と連絡が取れないとはどういうことだ!?』
『分かりません。確認に行かせたヤツも帰ってきませんし……』
支部と連絡がつかない状態に共産党本部が恐慌状態に陥ったのは言うまでも無い。前日は連絡がついていたのに、翌日はいっさい反応が無いとかホラーでしかないのである。
『何者かは知らんが、間違いなく本部を狙ってくるぞ。武器を集めろ!』
『籠城に備えて食料の買い出しを急げ。ただし、一人での外出は避けよ』
『窓には全て板を打ち付けておけ。塀には鉄条網だ。急げ!』
本部から遠い支部から連絡がつかなくなる状況に、党幹部たちは襲撃の最終目標が共産党本部と判断した。武装蜂起に備えて密かに用意してした武器を引っ張り出し、本部を要塞化して万全の態勢で迎え撃ったのである。しかし……。
『ぜったいに許さんぞ、虫けらども! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!』
共産党本部を襲撃したテッドの悪鬼羅刹の如き立ち回りは、未だに尾崎の目に焼き付いていた。速攻で両手両足を砕いて動けなくした挙句、延々と嬲る様子は未だに悪夢として彼を苛んでいたのである。
『ボスを怒らせちまったのが運の尽きだったなぁ』
『なに、俺らは優しいからちゃんと手当はしてやるさ』
『その代わり、この国には戻れなくなるがな』
『ま、仲良くやろうぜ!』
隠れて震えることしか出来なかった尾崎の目の前では、青い服を来た屈強な男たちが動けなくなった党員たちを搬送していく。それ以来、尾崎は共産党の関係者と一切出会うことが出来ない状況が続いていたのである。
尾崎は知る由は無かったが、拉致された幹部を含む共産党員は大韓帝国へ送られていた。腐った思想(テッド談)を矯正するべく資本主義万歳な生活を送らされていたのである。
(……いかん、取材をせねば)
記憶がフラッシュバックして立ち尽くしていた尾崎は我に返る。
甲子園球場4号門から入場した悪夢の根源は、とっくに姿を消していた。
ちなみに、史実の甲子園球場4号門は『開かずの扉』『幻の門』と呼ばれていた。それもそのはずで、皇族や外国のVIPしか利用出来ない貴賓室に通じる門なのである。
その伝統は21世紀にも受け継がれており、甲子園球場のロイヤルスイートルームでは食事をしながら野球観戦を楽しめる。室内で宴会しながら観戦するも良し、部屋の外のベンチで試合の熱狂を肌に感じつつ、ハイボールを飲みながら観戦するも良しなのである。
(相変わらずここは騒々しいな)
甲子園内の記者席で辟易する尾崎。
記者席はバックネット裏にあり、詰めかけた観客の歓声で騒々しかった。今回が初の東西戦なのでなおさらである。
(あ、あれは!?)
尾崎は偶然視界に入ってしまったものに目を剥いてしまう。
貴賓席に今まさに座ろうとしていたのは、今上天皇とテッドだったのである。
『お客様にお知らせ致します。ただいま陛下とドーセット公がご臨席されました』
球場からのアナウンスに観客席からどよめきが起きる。
観客たちは事前にそのようなことを一切知らされていなかったからである。オールスターに天覧試合、観客にとってはこれ以上無いサプライズであった。
1937年11月20日。
この世界において開催された職業野球東西対抗戦の初日は天覧試合となった。
天覧試合で無様な試合は見せられないと出場選手たちは奮起した。
初日は沢村栄治と古谷倉之助の投手戦が繰り広げられたのである。
天覧試合は初日のみであったが、2日目と3日目も息詰まる熱戦が繰り広げられた。その様子はラジオや新聞でも報じられて、国内の野球熱はさらに過熱していくことになるのである。
「イワンの戦車を発見! いや、これは……おそらくT-32だとは思いますが……」
「どうした? 状況は正確に報告しろ!」
警戒偵察中の2号戦車の車内。
キューポラ越しの視界に報告する戦車兵は戸惑っていた。
「砲塔周りが従来の戦車とは違います。新型かもしれません」
「なんだっていい! 今は側面を向けているんだチャンスだぞ!」
「や、ヤヴォール!」
T-32の改良型は砲塔正面は厚いが側面は薄い。
絶好の砲撃チャンスであるのは変わらないのである。
「フォイアー!」
放たれた75mm戦車砲は狙いたがわず砲塔側面を直撃したのであるが……。
「なっ!? 動くだと!?」
驚愕する2号戦車のクルーたち。
砲塔側面に被弾したというのに、T-32(?)は平然としていた。
「逃げるぞ!? 追えっ!」
不意打ちを喰らった敵戦車は全力で遁走する。
その背後に数発命中弾を与えたにも関わらず、最終的に逃亡を許してしまったのである。
「……そのような報告を真に受けろというのかね?」
「俺たちだって信じたくないんですが、目の前で起きたんですって!」
「もういい。報告書は受け取っておく。下がりたまえ」
「「「や、ヤヴォール!」」」
報告を受けた上官は、部下の退室を確認すると報告書をシュレッダーにかける。
モスクワ攻略も近いと噂が流れている状況で、このような戯言には付き合っている暇は無い。下手をすれば士気に悪影響を与えかねない。
しかし、後に上官は後悔することになった。
部下からの報告は戯言ではなくリアルだったのである。
「くそっ!? このままでは前進出来ない。支援を要請しろ!」
ソ連版PAKフロントに遭遇した部隊が支援を要請する。
程なくしてルフトヴァッフェが出動。上空から爆弾を投下したのであるが、その結果は驚愕するものであった。
「なんだぁ!? 爆弾が弾かれてしまったぞ!?」
Me110が投下した500kg爆弾は、野砲を守る屋根に弾かれてしまった。
ソ連側の野砲はブンカーによって守られていたのである。
爆弾を弾く強度のあるブンカーとなると鉄筋とコンクリートの消費がシャレにならないのであるが、このブンカーはコンクリート製ではない。パイクリート製であった。
パイクリートは強化コンクリート並みの強度がありながらも比重は半分以下というチート素材である。マイナス15度以下でないと強度が低下する欠点があるが、現在のモスクワ周辺の気温はマイナス20度以下であるため使用には何ら問題は無い。
水にパルプを混入して凍結させただけなので材料費はタダ同然であるし、外気温で勝手に凍結してくれるので型さえ用意すればいくらでも製作可能。追い込まれたソ連側にとっては救世主のような素材であった。
「なんだあの頑丈さは!? Uボートブンカーか何かかよ?」
陣地の上空では友軍パイロットが驚愕していた。
500kg通常爆弾は、理想的な状況で投下しても貫徹力は70mm程度である。厚さ1mにも達するパイクリート製ブンカーには傷一つ付けられなかったのである。
「500kgはもう1発ある。再攻撃を……っちぃ!?」
再攻撃しようとしたのであるが、そのタイミングで敵機が来襲したことで迎撃を余儀なくされた。爆弾を捨ててダイブアンドズームで頭上を取る。この時点で友軍パイロットは勝利を確信していた。
「なにぃ!?」
20mm2丁と7.92mm4丁を叩きこんだにもかかわらず、敵機は落ちなかった。機体には大穴が空いているのに機体は分解しなかったのである。
友軍パイロットは知る由は無かったのであるが、敵機にはパイクリートが充填されていた。機体の隙間に流し込んだパイクリートは外気温で凍結し、機体強度を飛躍的に高めていたのである。
その後何度も射撃を命中させるも撃墜には至らなかった。
騎士道に反すると思いながらも、コクピットを撃ち抜いて撃破するしか無かったのである。
頼みの綱の空軍の支援も失敗し、この部隊は陣地を無力化するために多大な時間と出血を強いられることになった。モスクワに迫れば迫るほど陣地の密度は上がり、それに反比例するように進撃速度は低下していったのである。
ちなみに、2号戦車のクルーたちを驚愕させたT-32もパイクリート製の増加装甲を装着していた。砲塔の上からパイクリート製の増加装甲を被る形で装着されており、その厚さは正面で300mm、側面200mm、背面でも150mmにも達していたのである。
『くそっ!? 何発撃ち込んでも撃破出来ねぇ!?』
『一昨年は簡単に撃破出来たんだぞ。インチキだ!』
『あんな重装甲でなんで機動力が変わらないんだよ!?』
パイクリート装甲を纏ったT-32は冬のモスクワで猛威を振るった。
ドイツ帝国の2号戦車では苦戦必至であり、二重帝国諸国連邦のLT-38に至っては論外レベル。たちまちのうちに壊滅する戦車隊が激増したのである。
『アハトアハトを耐えただと!? そんな馬鹿な!?』
『燃料切れ? ふざけんな!? ここまで苦労して持ってきたというのに!?』
『転輪に詰まった泥が凍って動けねぇ!?』
この事態にドイツ帝国側は慌てて手持ちの3号戦車を全て投入したものの、事態を打開するには至らなかった。モスクワを目前にして、またしても立ち往生することになったのである。
以下、今回登場させた兵器のスペックです。
T-32改(1937年型)
全長:5.76m(車体のみ)
全幅:3.00m
全高:2.60m
重量:30.5t
速度:55km/h
行動距離:340km
主砲:41.5口径76.2mm戦車砲
副武装:7.62mm機銃×2(車体&砲塔)
装甲:16~65mm
エンジン:4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル500馬力
乗員:4名
1937年の春季大攻勢で投入されたソ連の中型戦車。
T-32のマイナーチェンジバージョンである。
最高速度が大幅に低下した代償に装甲が強化されており、傾斜装甲と相まって(場所によっては)2号戦車の攻撃を弾くこともあった。主砲は口径こそ同一のままであるが、長砲身化されて徹甲弾も用意されている。
1937年11月中旬のモスクワ防衛戦に投入されたT-32改にはパイクリート製の増加装甲が装着された。これは砲塔の上から被せて装着するようになっており、その厚さは正面で300mm、側面200mm、背面でも150mmにも達している。これだけ分厚い追加装甲でも重量は1t程度であり、機動力に悪影響は出なかった。
※作者の個人的意見
実質的に史実T-34初期型です。
しかも、大量生産キチガイによって品質は保証されているというおまけ付きw
パイクリートは強化コンクリ並みの強度があるので、季節限定のバフだと思えば悪くないかと。分厚くすればHEATのスタンドオフを狂わせることも出来るので、この世界の赤軍は多用することになるでしょう。
2号戦車
全長:5.81m
全幅:3.16m
全高:1.85m
重量:32.0t
速度:35km/h
行動距離:200km
主砲:24口径75mm戦車砲
装甲:15~50mm
エンジン:4ストローク直列6気筒液冷エンジン300馬力
乗員:5名
1号戦車の後継として開発されたドイツ帝国陸軍の主力戦車。
史実のデスワゴン2そのものである。
2号戦車の開発では1号戦車を反省して火力と装甲が重視されている。
当初の計画では、V12ガソリンエンジンで600馬力を発生、最高速度50km/h超えを目指していたがエンジンの開発が間に合わなくて速力は妥協されている。
車体正面、車体側面、砲塔正面、砲塔側面は50mmの装甲で構成されている。
当時は(この世界の英国戦車を除けば)最強クラスの防御力であった。
搭載砲はT-32とほぼ同じであるが、仮想敵国である英国の戦車に対抗するために徹甲弾が最初から用意されていた。もっとも、英国の戦車は史実のマチルダⅡ以上の重装甲なので全く通用しなかったのであるが。それでもT-32を撃ち抜くには十分な威力であり、距離を問わずに一方的に撃破することに成功している。
※作者の個人的意見
本家WOTではティア4屈指の苦行戦車です。
宮海さんの動画(【WoT】霊夢の日雇い戦車道 12日目【ゆっくり実況】)で霊夢の顔芸で有名ですよねw
計画通りマイバッハ製の12気筒ガソリンエンジン(600馬力)が搭載されていれば、もっさりとした重戦車らしい動きではなく機敏な中戦車として活躍出来たんじゃないかと思ったので登場させてみました。実際に改良型として出すかは微妙ですが、エンジンの出力倍増と長砲身化するだけでもだいぶ化けると思うのです。
でも、この世界のドイツ帝国だとパンターを開発しちゃいそうですけどね。
T-32を鹵獲したら航空用ディーゼルエンジンを転用するという手がありますし、既存のガソリンエンジンだって自動消火装置を組み込むという手もありますし。
戦略資源にも困っていないから、犯罪級に銅を消費するモーター駆動なんて手もありますね。ポルシェ博士大歓喜間違いなしです(オイ
LT-38
全長:4.56m(車体のみ)
全幅:2.15m
全高:2.26m
重量:9.5t
速度:42km/h(整地) 19km/h(不整地)
行動距離:210km
主砲:47.8口径37.2mm戦車砲
副武装:7.92mm機銃×2
装甲:30~50mm
エンジン:4ストローク直列6気筒液冷エンジン125馬力
乗員:4名
二重帝国諸国連邦陸軍の主力戦車。
史実の38(t)戦車そのものである。
軽戦車でありながら重装甲と機動力を両立する画期的な戦車として大々的に配備が進められていたが、ソ連のT-32に歯が立たず後継戦車の開発が急がれている。
※作者の個人的意見
史実だとWW2でドイツ国防軍に重宝された戦車ですが、T-34に歯が立たなかったのはこの世界でも同じだったりします。
この世界ではドイツには1両も送られていないので、二重帝国諸国連邦陸軍のみの運用です。前線から下げられたら砲塔を取っ払って魔改造されるんじゃないですかねぇ。
この世界の二重帝国諸国連邦はシュコダ、CKD、タトラなど重工業があるので新型戦車を開発することはさほど難しくないでしょう。どんなスペックにしてやろうかなぁ?
3号戦車
全長:6.316m(車体のみ)
全幅:3.705m
全高:3.0m
重量:57.0t
速度:40km/h(整地) 20~25km/h(不整地)
行動距離:100km(整地) 60km(不整地)
主砲:56口径88mm戦車砲
副武装:7.92mm機銃
装甲:25~100mm
エンジン:4ストロークV型12気筒液冷エンジン700馬力
乗員:5名
2号戦車の拡大発展版。
史実の虎戦車そのものである。
1935年のカイザーシュラハトで2号戦車はT-32相手に圧倒的なキルレシオをあげた。
この結果を受けて、より重装甲大火力を目指して3号戦車は開発された。
しかし、鹵獲したT-32を解析結果を知った陸軍上層部は走攻守のバランスの取れた中戦車の開発を決定。3号戦車は少数生産にとどめられた。
1937年の春季大攻勢においては、3号戦車がT-32を圧倒してそのコンセプトが間違っていなかったことを証明した。機動力を必要としない防衛戦闘であれば重戦車が役立つことが再認識され、ドイツ帝国内では拠点防衛用として研究開発が進められることになる。
※作者の個人的意見
この時代なら移動トーチカと割り切れば重戦車は一騎当千の戦力です。
カイザーも大きいものは大好きそうだし、この世界でもマウスが生まれるかもしれませんw
開発中の4号戦車は当然ながらパンターなのですが、エンジンはディーゼルになります。史実とは違ってドイツ帝国の燃料事情は良好なので、Uボートに軽油を取られることはありません。肝心のエンジンについてですが、航空用ディーゼル(ユモ207とか)があるので採用しない理由はありませんね。
I-207
全長:6.35m
全幅:7.0m
全高:2.85m
重量:1850kg(最大離陸荷重)
翼面積:18.0㎡
最大速度:428km/h (シーレベル) 486km/h(5300m)
実用上昇限度:9200m
航続距離:480km
武装:7.62mm機銃×4
エンジン:空冷星型14気筒 1000馬力
乗員:1名
赤軍が投入した最新鋭戦闘機。
そのコンセプトは複葉機の空力的洗練による高速発揮であり、複葉機としては限界レベルの速度発揮が可能になっている。
複葉機であるために旋回半径が小さく格闘戦に強い機体である。
1937年の春季大攻勢の序盤では、優速なドイツ機(Me109、Me110)相手に巴戦に持ち込んで圧倒している。
ドイツ側のダイブアンドズーム戦術が徹底されてからは一方的に撃墜されることが多くなり、機体を改造して偵察機や連絡機としての運用がメインであった。
※作者の個人的意見
史実では試作のみに終わった機体です。
採用されなかった理由はさもありなんですが、おいらはこういう尖った機体が大好きなので出さないわけにはいきませんでしたw
格闘戦に持ち込めれば無類の強さを発揮しますが、この世界ではゲーリングのやらかしでダイブアンドズーム戦術が広まってしまったので今後の出番は無いでしょう。複葉機としては高速なので水上機化するという手もあるでしょうけど、ソ連はそういうのはあんまりやらないだろうなぁ……。
メッサーシュミット Me109
全長:8.8m
全幅:9.9m
全高:2.60m
重量:2053kg(乾燥重量) 2610kg(最大離陸重量)
翼面積:14.5㎡
最大速度:555km/h(6000m)
実用上昇限度:10300m
航続距離:655km
武装:20mm機銃×2 7.92mm機銃×2
エンジン:ダイムラーベンツDB601A 液冷V型12気筒 1100馬力
乗員:1名
ルフトヴァッフェが配備した制式戦闘機。
史実同様に多数の派生型が生産されており、最終的な総生産数は4万機を超えている。
ちなみに、この世界では機体の生産前にメッサーシュミットがバイエルン社の実権を握ったのでMe109が制式名称である。
※作者の個人的意見
史実のBf109eそのものです。
史実でも長らく生産された機体なので、今後も出番はあるでしょう。
メッサーシュミット Me110
全長:12.07m
全幅:16.2m
全高:4.12m
重量:5200kg(乾燥重量) 6925kg(全備重量)
翼面積:38.4㎡
最大速度:560km/h(7000m)
実用上昇限度:10000m
航続距離:1400km
武装:20mm機銃×2 7.92mm機銃×4(前方固定) 7.92mm機銃×1(後方旋回銃) 500kg爆弾×2 50kg爆弾×4+900リットル増槽
エンジン:ダイムラーベンツDB601A 液冷V型12気筒 1100馬力×2
乗員:2名
ルフトヴァッフェが配備した多目的戦闘機。
空戦だけでなく、偵察、爆撃、連絡機などさまざまな目的に使用された。
史実では役立たずなイメージが強い機体であるが、この世界ではゲーリングがダイブアンドズーム戦術を徹底させたのでソ連機相手に優位に戦闘を進めている。後に後方銃座を撤去した純粋な戦闘機タイプも生産されている。
ちなみに、この世界では機体の生産前にメッサーシュミットがバイエルン社の実権を握ったのでMe110が制式名称である。
※作者の個人的意見
史実ではゲーリングがお気に入りの機体で『我が鋼鉄の横っ腹』と言って持ち上げていたらしいです。この世界のゲーリングは太ってないので別の言葉で褒めているのでしょうねw
ダイブアンドズーム戦術が初期段階で徹底されたので、史実P-38のような活躍が出来るかもしれません。その前に後部銃座を取っ払って純粋な戦闘機タイプにする必要はあるでしょうけど。
今回もドイツ帝国は頑張ったのですけど、モスクワを目前に立ち往生してしまいました。ブチ切れるカイザーと、それを諫める過労……じゃなかった家老ポジのヒンデンブルクの苦労が目に浮かびます。それと共産党が壊滅しましたが、テッド君のお慈悲で党員は大韓帝国で資本主義の有難みを分からせられることに。何時か帰れると良いですねぇ。
>ペール・スヴィンヒュー大統領
史実では青年時代にロシアの政策に反発してシベリア流刑された反骨の人。
初代首相を務め、執政や大統領も務めたフィンランド政治界の重鎮です。
>マンネルヘイム陸軍元帥
言わずと知れたフィンランドの英雄オブ英雄。
もちろん、今後も出番は多いにあります。
>この年がオリンピックイヤーだったからである。
本編では描写しませんでしたが、1936年にベルリンオリンピックが開催されています。忘れてたんじゃないよ?ホントだよ!信じてプリーズっ!
>フィンランド内戦で磨き上げた戦術(?)
本編第33話『フィンランド内戦』参照。
寒ければ無敵なんですよねぇ。
>「こいつがこの距離で外すなんてあり得んさ。なぁ?」
いったい何処の死神さんなんでしょうね……
>鈴木喜三郎
史実では政権与党の総裁でありながら、西園寺公望に能力を疑問視されて総理になれなかった人。この世界では日英同盟があるので辛うじて黙認されました。まったく期待されていないかわいそうなポジだったりします。ある意味、平成会とテッド君の被害者ですが、この世界の鈴木喜三郎はそれを逆にプラスにしてしまう根性の持ち主でもあります。
>2号戦車
史実のデスワゴン2。
何も言わずに【WoT】霊夢の日雇い戦車道 12日目【ゆっくり実況】を見るべしw
h ttps://www.nicovideo.jp/watch/sm26850107
>T-32の改良型
実質、史実のT-34初期型です。
ソ連に居座っている大量生産キチガイのおかげで、月産500台という大量生産体制が整っています。
>LT-38
史実だとチェコの38(t)戦車のほうがとおりが良いですね。
ドイツに渡った分は魔改造されましたが、この世界でも二重帝国諸国連邦で魔改造されることでしょう。
>3号戦車
史実の虎戦車そのもの。
この時代に生産とかチート過ぎる……(汗
>昼飯の角度
敵の射線に対して角度をつけて対峙することで、避弾経始を作り出すテクニックです。WOTで有名になりましたが、史実でも熟練の戦車兵たちが多用していました。
>マンフレート・アルブレヒト・フォン・リヒトホーフェン空軍大将
この世界では第1次大戦が早期に集結したので生き延びて出世しています。
偉くなり過ぎてデスクワークが増えてストレスを溜めていますw
>ヘルマン・ヴィルヘルム・ゲーリング空軍少将
この世界ではリヒトホーフェンの無茶ぶりに振り回されて太る暇がない綺麗なゲーリングです。エースとしての腕は健在でストレス発散も兼ねて今回は大暴れしていますw
>白男爵
この世界のゲーリングの二つ名です。
カイザー直々に叙勲されている正真正銘の男爵さまだったりします。ちなみに白呼ばわりされるのは機体を白色に塗っていたからだったりします。
>Me109 Me110
この世界では機体の生産前にメッサーシュミットが会社の経営権を握ったのでBfではなくMeが制式名称です。
>「おまえの露骨な双発機推しにはうんざりなんだよ!」
史実のゲーリングはMe110(Bf110)推しでした。
>体重計にブービートラップが仕掛けられていたのである。
史実でもポピュラーなブービートラップ。
体重計を見た兵士が同僚と体重を測りたくなる心理をついたトラップです。
>「む? 額縁が斜めになっておる。けしからんな……」
これも割とよく見るブービートラップですが、元ネタは海外のサスペンスらしいです。
>「な、なんてことだ!? ここはペスト患者収容所だぞ!?」
史実ではキスカ島撤退作戦で軍医がいたずらのつもりで置いていったら、米軍を混乱に陥れています。キスカ島は島なので人の出入りを抑制することは簡単ですが、この世界では陸続きで師団レベルの人間の動きを管理することは困難を極めます。初動の拙さもあって大パニックなってしまったわけです。
>『美知恵を怖い目に遭わせた外道死すべしですよ!』
おチヨさんの娘初登場です。
当時2歳で物心も付いていない状態で、お世話役の家政婦に誘拐されたわけですから多少性格が歪んだかもしれません。テッドくんの子供でもあるから、元から普通じゃないとか言っちゃダメw
>尾崎秀実
久々に登場しましたが、心が折れてます。
立ち直ってアメリカへ渡るかは作者の胸先三寸ですが、あんな恐怖体験をしたら無理じゃ無いかなぁ?(酷
>パイクリート
この世界では第1次大戦の冬季大攻勢でロシアが使用しています。
今まで忘れ去られていたのですが、今回の戦争であらためて有効性が確認されたので今後は多用されることになるでしょう。
>マイナス15度以下でないと強度が低下する欠点
正確には靭性が付与されてしまう、つまりは曲がりやすくなるということです。
強度そのものにはさして影響は無いので、普通に使う分には問題ありません。
>『アハトアハトを耐えただと!? そんな馬鹿な!?』
T-32改の砲塔正面の装甲圧が65mmで、それにプラスしてパイクリート装甲が300mmあるので合計365mm。88mmでも正面を抜くのは困難でしょう。これだけ厚みがあればHEAT兵器のスタンドオフを狂わせるには十分なので、被弾したら熱衝撃で多分割れるでしょうけど1回こっきりの使い捨てと考えればかなり有用かと思います。