第96話 収奪経済
『国民の団結によって、ステイツを支配していた悪しき者たちは去った。国民は配当を受ける正当な権利がある』
1936年8月某日。
アメリカ大統領ジョン・ウィリアム・デイビスの演説に全米が注目することになった。
『奴らが不当に溜め込んでいた財産を国民に還元する。ここにあらためて10年間の完全無税化を宣言する!』
これはアメリカが今後10年間税収に頼らないと宣言したに等しい。
近代国家としてはありえない暴挙と言えよう。
しかし、デイビスには勝算があった。
裏社会の住民たちは20年近く税金を納めていない。隠し財産は相当なものになると判断していたのである。
実際、隠し財産は相当なものであった。
それが有効活用出来るかは別問題だったりするのであるが。
『ホントに税金が無くなったぞ!?』
『俺の給料こんなに高かったのか!?』
『みかじめ料を納めなくても良いんだな!?』
無税化を特に喜んだのはニューヨーカーであった。
これまで『サービス料』として、裏社会の住民たちから金を徴収されていたのである。もっとも、価格相応のサービスは受けられていたので損をしていたわけではなかったのであるが。
無税化は国民の購買意識を大いに刺激することになった。
今までは怖いお兄さんに徴収されるのではないかと、手元に金を残しておこうとする傾向があった。それが無税化によって一気に解き放たれたのである。
「……いらっしゃい」
陰気な感じの店主が客を出迎える。
薄暗いショールームは、店主の態度と相まって胡散臭さ倍増であった。
歯医者は治療で痛い思いをしそうだし、カーディーラーは胡散臭い。
アメリカ人にとって、日常生活のなかで出来れば行きたくない場所が歯医者とカーディーラーである。
「車を買うぞ! 現物を見せてくれ!」
もっとも、今回の客はそんなことは毛ほども気にしてはいなかったが。
初めての車を買うことの出来る喜びに勝るものは無いのである。
「……これなんかどうでしょう? 最近入ったやつなのですが」
「えっ、これ最新モデルだよな? こんなに安くていいのかよ!?」
予算的に手が届かないと思っていた車が買えそうな値札をつけている。
客がキャデラックの新車を見て目を輝かせたのも当然のことであろう。
ちなみに、アメリカのカーディーラーはフランチャイズ形式が大半である。
日本のようにメーカー系列のディーラーというものは存在しない。
日本の新車購入のようにユーザーとの売買契約を受けてからメーカーに発注するケースは少数派で、カーディーラーがメーカーから買い取ったクルマを店頭に並べるのが主流である。
「……じつはオプションがしょぼいとか?」
「とんでもない!? フルオプションです。お値打ちものですよ!」
そのため、オプションなどは最初から組み込んである状態の実車販売となる。
自分好みの車が買えるとは限らないが、日本のように納車まで数か月待ちということが無いのは利点であろう。
「ありがとうございます。お支払いは?」
「キャッシュで一括払いだっ!」
鼻息荒く札束を放り出す男。
この時期のアメリカのカーディーラーでは日常茶飯事な光景であった。
『ディーラーからの注文が多すぎる!?』
『このままだと生産が追い付かないぞ!?』
『エントリーモデルのラインを休止して、その分高級モデルの生産に回す必要があるな……』
上客だった裏社会の住民がいなくなって戦々恐々としていた自動車業界であったが、新たなる顧客の出現に嬉しい悲鳴を上げていた。無税化によって大量に発生した小金持ちな中間層は先を争うように新車を購入していったのである。
「……はい、これで正式にこの家はあなた様のものとなりました。こちらがドアキーとなります」
「パパ、これでお家に住めるようになったの?」
「そうだぞ。今日からここが皆の家だ!」
「あのオンボロアパートから、こんな豪邸に住めるなんて。夢のようだわ……」
マンハッタン島の南側、イースト川を渡った先のブルックリン区。
その一角であるパーク・スロープの住宅街では、家族が建売住宅の引き渡しを受けているところであった。
緑豊かなブルックリン最大の公園プロスペクト・パークの西側にあるパーク・スロープ。史実ではブラウンストーンで建築された美しい色合いの住宅街が印象的である。
この世界のパーク・スロープは、地元ギャングの縄張り争いのせいで開発が進んでいなかった。そのギャングたちが逃亡したことによって、現在では急速に住宅地として開発が進んでいたのである。
急速に増えた中間層は、車だけでなくマイホームにも手を出した。
膨大な需要を当て込んだデベロッパーは、いわくつきで地価が安かったパーク・スロープに進出。土地を買い占めて建売住宅を大量に建築していたのである。
とはいえ、ホイホイと家を買うことが出来るはずもない。
車とは違い、家は一生ものなのである。
「僕の収入だとさすがに建売は無理ですよ……」
マンハッタンの北部のハーレム。
その一角のボロアパートでは、部屋の住民が飛び込み営業に困惑していた。
「大丈夫。こちらで審査は通しておきますので」
「そういうことなら……よし、買います!」
「毎度あり!」
最初は迷惑気に聞いていた若者であったが、巧みなセールストークにほだされてしまう。住宅の図面や写真を見せられて、すっかりその気になってしまったのである。
中間層の背中を押したのが住宅ローンの緩さであった。
イケイケドンドンな雰囲気に押されて銀行の審査が無きも同然となり、サブプライム層にもガンガン金を貸し付けていったのである。
中間層は車や家といった高額物件を次々と購入していった。
その結果、金回りが良くなって急速に経済が回復し始めたのである。さすがはケインズの申し子、あるいは自由主義経済の旗手と言ったところであろうか。
世界恐慌後のアメリカ経済は低迷していた。
裏社会の住民の逃亡によってとどめを刺されると思われたのであるが、中間層のおかげで経済を上昇気流に乗せることに成功したのである。
「同志トロツキー。今年は豊作です。年間目標を大きく上回ることでしょう」
「うむ。まずは順調といったところか」
テキサス州エル・パソ郊外にある屋敷。
その執務室でレフ・トロツキーは側近から報告を受けていた。
トロツキーは現時点で解放軍の戦力を見た戦うことの愚を理解していた。
革命軍の活動休止を宣言し、解放軍との戦闘を避けていたのである。
トロツキーは再び潜伏する道を選んだが、それは何もしないことを意味しない。
密かに『アメリカ諸州連邦』を起ち上げて、その盟主におさまっていたのである。
諸州連邦は、南北戦争時に存在した諸州連合とは似て非なるものである。
現在はテキサス、カンザス、オクラホマ、アーカンソー、ミシシッピ、ルイジアナ、アラバマ、コロラド、アリゾナ、ユタの10州で構成されていた。
『大統領は東海岸の住民だけしか見ていない』
『打ち出す政策も我らに恩恵をもたらしていない』
『このままでは、我らは発展から取り残されてしまうぞ!?』
アメリカ南部と西部の諸州では、ホワイトハウスの施策に不満が高まっていた。
当人は否定するであろうが、ギャングマフィア憎しで凝り固まっているデイビスは東海岸にしか目を向けていなかったのである。
トロツキーの諸州連邦構想は、南部と西部の住民心理を上手くついたものであった。諸州連合に加入する州は増加の一途だったのである。
「これも機械化を推進した同志トロツキーのご慧眼でしょう」
「無税化で我らが恩恵を受けるとは思わなかったがな」
苦笑するトロツキー。
農業生産が増大した原因は、無税化で浮いた予算で農業機械を大量に発注出来たからなのである。
機械化は革命軍にも恩恵をもたらした。
機械化によって生産量を増大しつつ、人員削減が可能になったのである。浮いた人員が革命軍に放り込まれたのは言うまでも無い。
「ですが、生産量が増大すると東海岸に出荷している分を差し引いても連邦内では消費し切れなくなるでしょう。今年はともかく、来年には大量廃棄が必要になるかもしれません」
一転して表情を曇らせる側近。
右肩上がりの食糧生産に消費が追い付かなくなりつつあったのである。
「それについては問題無い。余剰になった食料は輸出に回す」
「輸出が可能なら望ましいですが、我らに海外の販路はありませんが?」
側近はトロツキーの発言に困惑する。
彼自身も海外輸出は考えたこともあったが、コネも金も無い状況で海外輸出など出来るはずがないとあきらめていたのである。
「じつは日本の同志から興味深い情報が来ている。ドイツ帝国が長引く戦争で満州から食料を輸入しているらしい」
「満州……そうか! あの国は中立国だから我らでも商売してくれますな!」
再び表情が明るくなる側近。
曇ったり明るくなったりと、表情筋が忙しいことこの上ない。
ちなみに、情報を提供したのは平成会のモブの一派であった。
前年の決起宣言以降、定期的に日本の情報をトロツキー個人に送ってくるようになったのである。
『反帝国主義・反スターリン主義の旗のもと万国の労働者団結せよ!』
『暴力革命でプロレタリア独裁政権を樹立するのだっ!』
彼らには共通点があった。
生前は中〇派だったのである。
暴力革命による世界政府樹立を中〇派モブたちは目論んでいた。
彼らにとって、トロツキーによる革命軍の決起宣言は希望だったのである。
「満州への輸出への手立ては日本の同志たちが整えてくれる。心配せずに食糧増産に注力してくれたまえ」
「全力を尽くします!」
中〇派の暗躍によって、諸州連邦は満州国への食糧輸出が可能になった。
現時点で平成会上層部は中〇派モブの存在を掴んでおらず、彼らの暗躍は続いていくことになるのである。
1937年になると余剰になった食料の輸出が始まった。
アメリカンビーフや小麦、トウモロコシや大豆を満載した貨物船が太平洋を渡ったのである。
『いちいち積み替えるのが面倒だな……』
『いっそ、こちらから船を派遣するべきでは? どうせ北極海航路を使うんだし』
取引量が増えてくると満州国側から西海岸に船が派遣された。
諸州連邦で生産された食料は、満州国船籍の貨物船に積載されて北極海航路を使って欧州入りするようになるのである。
『4ABC鉄道が完成したぞ! これからは陸路で安心安全に輸送出来る!』
『北極海航路はリスキーだからな。確実に輸送するなら鉄道が勝る』
4ABC鉄道が完成すると食糧輸送は鉄道輸送に切り替えられていった。
北極海航路よりも圧倒的に早く、しかも安全であるから利用しない手は無いのである。
『積み替えがめんどいのは何とかならないものか』
『日本がやっているように鉄道連絡船はどうだ?』
『航路が長すぎるし、そもそも積載効率に劣る。あれは比較的短距離で往復時間が短かくないとダメだ』
4ABC鉄道の唯一の難点は積み替えの手間であった。
この問題に対して鉄道連絡船の採用も検討されたのであるが、輸送効率の悪さ故に断念されることになる。
『同志スモリアノフ。あれがアメリカからの船か?』
『アメリカンビーフを満載しているという話じゃぞ』
『モスクワは今飢えているからな。是が非でも手に入れる必要があるだろう』
もう一つの流れとして、シベリア鉄道経由でソ連へ輸出されるルートがあった。
大連港に入港したアメリカ船籍の貨物船の食糧を丸ごと買い上げたうえで、追加料金を払ってウラジオストク港まで誘導。シベリア鉄道で食料を輸送したのである。
ホワイトハウス側は革命軍を軽視していたが、諸州連邦は着実に力を蓄えていった。食料を海外に輸出することで得た利益で革命軍は強化されていったのである。
「リ、リスト作りが終わらない。連中はどんだけ貯めこんでいたんだよ!?」
「20年近く脱税すれば、これだけの財産になるのか……」
「美術品やら有価証券を換金するのには面倒だから扱いたく無いんだがなぁ」
ワシントンDCの財務省ビルの一室。
官僚たちは押収した財産のリストを作成中であった。
裏社会の住民たちから押収した財産は膨大なものであった。
その内容は多岐に渡り、現金のみならず美術品や有価証券なども多数存在していた。
美術品は保管の手間がかかるし、有価証券は換金のタイミングを失敗するリスクがある。国庫にそんなものがあっても邪魔なだけなので、速やかに現金化する必要があった。
「どんなものが出品されるんだろう?」
「いわくつきなモノも多数出品されるらしいぞ」
「いくぞおまえら。財布の残量は十分か?」
ニューヨークのミッドタウン。
この時代では世界一の高さを誇るエンパイア・ステート・ビルディング前の特設会場は多くの人間で賑わっていた。
このビルは史実と同じく、エンプティー・ステート・ビルディング(空っぽのビル)と揶揄されていた。
とはいえ、その過程はだいぶ異なるものであった。
この世界ではマフィア主導で建設されており、往時はマフィアとその家族、フロント企業で埋め尽くされていたのだから。
「レディース&ジェントルマン! 本日はガバメントオークションに来訪いただきありがとうございます!」
特設会場に人だかりが出来ているのは、政府主催のオークションが開催されていたからであった。政府はこのオークションに期待しており、大々的に新聞で広告まで出していたのである。
「それでは次の商品です。あの伊達男、ラッキー・ルチアーノが着ていたバスローブ!」
「「「きゃーっ!」」」
女性の参加者たちから黄色い悲鳴があがる。
件のバスローブは、かつてルチアーノが引き連れていた美女軍団の一人が高額で落札することになった。
押収品を手っ取り早く現金に換えるには、オークションは最良の手段と言える。
値を付けられないような商品でも、思いがけない値段で売れるのである。
「それでは次の商品です。超高級革張りソファ! とあるマフィアのボスが使っていたという逸品です。こいつに座ればボスの気分を味わえるかも!」
「買った! これでうちのオフィスにも格式が出るな」
販売価格の半値以下で落札した男は得意満面であった。
この椅子は彼の工場の社長室で長らく使用されることになる。
「それでは次の商品です。73階のオフィス利用権です」
「うおお、買ったぉぉぉぉぉ!」
「なんの、俺はもっと出せるぜ!」
いかにも金を持ってそうな、アブラギッシュなおっさんたちが必死になって入札する。暑苦しいことこの上ない光景であるが、オフィス利用権は今回の目玉商品であった。
裏社会の住民が撤退して無人状態となったエンパイア・ステート・ビルディングは政府に接収された。つまりは、ビル全体がオークション対象なのである。
初開催となったガバメントオークションは大成功に終わった。
出品されたもの全てが予想外の価格で競り落とされたのである。
これに気をよくした連邦政府は、以後も押収品を対象にしたガバメントオークションを開催することになる。裏社会の住民たちの遺産は、オークションによって整理されていったのである。
「おかしい。押収品を換金した額を足しても総額が想定以下になってしまう」
「多少の誤差はあるだろうとは考えていたが、連邦予算の3年分は誤差じゃねぇぞ」
「このままだと10年間の完全無税化は困難だ」
1936年12月下旬。
ワシントンDCの財務省ビルの一室では官僚たちが頭を抱えていた。
この時期になると裏社会の住民たちの財産リストはほぼ完成していた。
しかし、想定してた額との剥離が大きすぎたのである。
「まだどこかに隠されているんじゃないのか?」
「そう考えるのが自然だろう。しかし、何処に隠した?」
「国内の目ぼしいところは全て探したんだぞ? これ以上隠す場所などあるはずが無いんだが……」
財務省の特別チームは史実のマ〇サの如く調査した。
執念深い税務調査によって、裏社会の住民の金庫はことごとく開けられたのであるが……。
「おい、FBIから情報提供があった。奴らスイス銀行に送金してやがったぞ!?」
「「「な、なんだってー!?」」」
状況が進展したのはFBIからの情報提供であった。
FBI長官ジョン・エドガー・フーヴァーが直々に提出したリストには、海外への送金リストが含まれていたのである。
かつては裏社会と癒着して秘密警察と化していたFBIであったが、現在の立場はかなり微妙であった。後ろ盾だった裏社会がいなくなってからは、かつての権勢は消滅していたのである。
『FBIなどマフィアと同じだ。即刻解体してしまえ!』
裏社会が大嫌いな大統領からすれば、FBIも同じ穴の狢であった。
現在は古巣の民主党に働きかけてFBIの解体法案の作成を進めていたのである。
そんなわけで、FBIは生き残りに必死であった。
虎の子のフーヴァーファイルを用いて議員たちを脅して法案作成を遅延させつつ、現政権に有用であることをアピールしていたのである。
「申し訳ありませんが、顧客の情報は提供出来ません」
「ふざけるな!? これは犯罪なんだぞ!」
「何と言われましても、顧客の情報を漏らさないのが我が銀行の伝統でございますので」
ピクテ銀行ニューヨーク支店。
その窓口で財務省の特別チームは、あっさりと捜査協力を断られていた。
ピクテ銀行はスイスにおける老舗名門プライベートバンクである。
ロンバー・オディエと並ぶ有名どころであり、たとえ顧客が犯罪者であろうと絶対に情報を漏らさない。
その後も押し問答を続けたのであるが、結局は徒労に終わった。
財務省とスイス銀行の第1ラウンドはスイス銀行側が勝利したのである。
『こうなったら銀行職員の弱みにつけこむしかないなぁ?』
『フーヴァーファイルにあるんだろ? おら出せよ!』
『いざとなったら、替え玉を作る必要もあるか』
しかし、財務省の特別チームは史実マル〇並みに執念深かった。
あらゆる手段を用いてスイス銀行に戦いを挑んでいくことになるのである。
「こりゃ凄ぇ。ニューヨークのカジノ以上じゃないか!」
ラッキー・ルチアーノは思わず口笛を吹いていた。
広大な空間には、多数のルーレット台とポーカーテーブル、スロットマシーンが並んでいたのである。
「これほどのカジノが使われないなんて宝の持ち腐れだぜ。なんで使ってなかったんだ?」
「悪魔にやられたからだよ……」
隣に立つテッド・ハーグリーヴスは、嫌な記憶を思い出したのか憂鬱な表情であった。全てはあの山本五十六が悪いのである。
「なんとかなりそうかな?」
「あぁ。規模はデカいが、内容はニューヨークのカジノと大差ねぇ。これならすぐにでも営業出来るぜ」
この世界のルチアーノも有能な実業家であった。
ニューヨークでは多数のカジノを運営して利益をあげていたのである。
「じゃあ任せるよ。当座の運営資金はこちらで出すから。後で返してくれれば良いよ」
「いや、それには及ばないぜ。おいっ!」
ルチアーノが合図すると、いかにもマフィア然とした黒服の男たちがアタッシェケースを持ってくる。それも一つや二つではない。どんどんと積みあがっていく。
「おい、開けろ」
「へいっ!」
ルチアーノの部下がアタッシェケースを開けた瞬間、光り輝く宝石が転げ出る。
別のアタッシェケースには金塊がぎっしりと詰まっていた。
「こいつを当面の種銭にする。十分だろ?」
「十分どころかお釣りがくるでしょこれ。どんだけあるんだか……」
目の前の光景にあきれ果ててしまうテッド。
床に散らばる豪華なダイヤ、ルビー、サファイヤの宝飾品、大量の金のインゴット。非現実的な光景ではある。
「これで全部じゃないぜ? 部屋に入りきらんから持ってきてないだけだ」
「おいおいおいおい……」
もはや絶句するしかない。
テッドが知らぬ間に国家予算に匹敵する財宝がドーセット領に持ち込まれていたのである。
「あの短期間によく準備出来たね?」
「一時期はドルが高騰して海外から買い漁ったからな。財産は貴金属や宝石で持っていたほうが都合が良かったんだよ」
アメリカ風邪からの復興で急速に経済が回復していったのであるが、その過程でドルが高騰した。これ幸いと裏社会の住民たちは金や貴金属類を買い漁っていたのである。
「現金はスイス銀行に送金したが、今は内戦でドル安だからな。当分は塩漬けだろうぜ」
「まだあるのかよ!?」
とはいえ、現金が無いと不便なのでドルもある程度は所持していた。
それもスイス銀行で全て海外送金済みであったが。
(先走った連中の金を押収してたから、そっちを渡そうと思ったんだけどなぁ)
テッドとしては、ドーセット領に忍び込んだマフィアたちの財産を提供するつもりであった。拿捕した偽装貨物船からは、それなり以上の財産を押収していたのである。
「そういうわけで、こいつの換金を頼むぜ」
「まぁ、そうなるよね。でも全部換金するのは時間がかかるよ?」
「無理とは言わないところが凄ぇな。あのモルガンが恐れた理由が分かった気がするぜ……」
ルチアーノはルチアーノで戦慄していた。
目の前の男は、国家予算に匹敵する金や貴金属を買い取れるだけの資金力を有していること察したのである。
「そういえば、ミスターコステロは? ここには居ないみたいだけど?」
ここに至って、テッドはフランク・コステロが不在なことに気付いた。
いつも二人連れで動いているのに珍しいことである。
「あぁ、コステロさんなら慰問に行ってるぜ」
「慰問? あぁ、本当に見回ってるんだ。いろんな意味で義理堅い人だなぁ……」
首をかしげたテッドであったが、すぐに思い出す。
元第27歩兵師団の将兵たちを元気付けたいと、かねてより願い出ていたのである。
「コステロさん!? おい、コステロさんが来てくれたぞ!?」
「本当か!?」
ドーセット領東部のバーベック地区。
油井が立ち並ぶ油臭い場所に降り立ったのは、高級スーツを身に着けた紳士であった。
「本当にコステロさんだ! こんなところまで来てくれるなんて!?」
「うぅ、本当にありがたい……」
「あなたは命の恩人です!」
たちまちのうちに、コステロは労働者たちに囲まれた。
その様子は群衆の前に立つ指導者の如しであった。
「元気にしてるか?」
「おかげさまで元気に過ごさせていだいてます」
作業員たちと歓談したコステロは、採掘事務所に立ち寄っていた。
対応したのは第27歩兵師団の元師団長あった。
「それを聞いて安心した。不便なことがあったら言ってくれ。ドーセット公に直接掛け合うからな」
「もったいないお言葉です……」
感極まる表情で頭を下げる元師団長。
コステロのねぎらいは今までの苦労を吹き飛ばしてあまりあるものだったのである。
慢性的な労働力不足に悩むドーセット領で第27歩兵師団の元将兵たちは大歓迎された。油田採掘、農業、漁業、その他サービス業とあらゆる分野で労働に従事したのである。
ちなみに、ドーセットのカジノは1937年に再開された。
かねてよりカジノ再開が要望されていたこともあり、ルチアーノの手腕と相まって莫大な利益を出すことになる。
アメリカからの難民を受け入れたことでドーセット領の経済はさらに上向くことになった。かつては風光明媚が取り柄のド田舎に過ぎなかったのに、今や英国屈指の繁栄ぶりを誇っていたのである。
しかし、それでも労働力は不足気味であった。
さらなる労働力を求めてテッドは暗躍していくことになるのである。
『ギャングやマフィアは絶対的な悪である。その存在を生み出してしまったアメリカはその全てを根絶する必要がある!』
アメリカは裏社会の根絶を掲げて南米侵攻を正当化した。
現地で酒の密造や麻薬製造に関わった者を次々と逮捕拘禁、さらには財産を接収していたのである。
南米を制圧した解放軍は、その過程で鉱山や農場も接収していた。
対外的な面を考慮して、現地に傀儡政権を樹立させたうえで国有化していたのであるが。実質的には連邦政府による接収以外の何物でも無い。
「……政府が我が社を接収すると通告してきた」
「そんな馬鹿な!? 横暴だ!」
「だいたい何の法的根拠があってそんなことを!?」
ボストンに所在するユナイテッド・フルーツ社本部。
その会議室では経営陣が荒れに荒れていた。
「接収の理由は我が社がマフィアと取引したとのことだが……」
「我が社は連中とは取引してなどいない。何かの間違いだ!」
事実、この世界のユナイテッド・フルーツ社は裏社会とは関わっていなかった。
酒の密造や麻薬栽培よりも安定して利益が出せる事業をやっていたからである。
ユナイテッド・フルーツ社は、21世紀でもバナナのブランドでお馴染みなチキータ・ブランドの前身である。この時代には既にバナナを生産していたが、本来の目的は砂糖の生産であった。
サトウキビの大規模プランテーションによって、ユナイテッド・フルーツ社は莫大な利益をあげていた。そこに目を付けたのが、当時南米に進出し始めたアメリカの裏社会である。
『今でも充分に利益が出ているのに、なんでそんなことをしなければならんのだ?』
『脅すつもりか? この国で我が社にかなうと思っているのか?』
『犯罪に関わるつもりはない。立ち去れ!』
現地の農場はマフィアに何度も脅されたが、そんなものは歯牙にもかけなかった。現地政府と癒着して軍隊も動かせるユナイテッド・フルーツ社相手には、アメリカの裏社会と言えど分が悪かったのである。
『おい、こっちを作らないか? 確実に儲かるぞ』
『バナナなんかよりも、美味しいものが食えるぜ?』
『俺らと契約すれば、これだけ払う。選択の余地はないよな?』
そこでマフィアたちは地元民にコカインの栽培をさせた。
当然ユナイテッド・フルーツ社とは無関係だったのであるが、この一件が連邦政府にとって格好の理由となったのである。
既に連邦政府は10年後を見据えて動いていた。
10年間の無税期間が終了した後の税収を確保するべく、砂糖の専売化を目論んでいたのである。
同様の理由で塩の専売化も進められていた。
ボーナスタイムの終了後が増税ラッシュになることは既定路線だったのである。
「動くな! 財務省だ。現時刻をもってユナイテッド・フルーツ社は接収される。経営陣は即刻退去してもらおう」
突如、会議室の扉が開け放たれる。
ドカドカと踏み込んで来たのは、ダークスーツにグラサンをかけた男たちであった。
「ふざけるな!? お前らに何の権限が……」
重役の一人が激昂したが、突き付けられた銃口で問答無用に黙らされる。
黒服の男たちはシークレットサービスであった。
「よし、運び出せ!」
動けない経営陣を他所に、書類が段ボール詰めにされて搬出されていく。
その様子は脱税調査の如しであった。
史実のシークレットサービスはアメリカ大統領の警護で有名であるが、2001年まで財務省の管轄であったことは意外と知られていない。この世界では未だに財務省の管轄であった。
1936年以降、アメリカ国内では裏社会の財産の接収が激増していた。
財産の接収ならば財務省が直接動いたほうが都合が良いだろうということで、シークレットサービスが現場に投入されることが増えていたのである。
増加する接収案件に対応するべく、シークレットサービスは拡充されていった。
本命の大統領警護に加えて不法財産の接収、さらには広域捜査まで担うことになるのである。
その一方で、FBIの凋落ぶりは目を覆わんばかりであった。
FBI長官フーヴァーの抵抗で即刻解体にはならなかったものの、規模も予算も捜査権限も縮小され続けたのである。
『ドーセット公。あいつらを助けてやってくれないか?』
『相も変わらず義理堅いことで。まぁ、うちの警察のアドバイザーとしての雇用なら問題ないかな? なんだかんだ言っても有能だし』
最終的にFBIは解体されることになった。
フーヴァーはクライド・トルソンと共に海外逃亡することになったのであるが、コステロの嘆願によってドーセット領で保護されることになるのである。
ちなみに、フーヴァーの海外逃亡直後に彼の書斎が調査されている。
その遺産の内容に激怒したデイビス大統領は即刻処分を命じたのであるが、その量は膨大で処分に1週間かかるほどであった。
ユナイテッド・フルーツ社の接収を皮切りに、南米で操業するアメリカ企業は容赦なく接収された。罪のない企業を問答無用で接収するという暴挙を、大多数の国民は裏社会の影響を排除するという理由で支持したのである。
法的手段で対抗しようにも、連邦最高裁判所の判事全員がデイビスの古巣である民主党寄りであった。連邦地裁から上訴しても確実に負けてしまうことになり、逆に接収のお墨付きを与えることになってしまったのである。
「アメリカ軍にはこちらへの攻撃の意図は無いようです」
「しかし、難民の流入が増加しています。このままでは深刻な社会不安を招くことになるでしょう」
「難民に与える食料の備蓄も限界に達しつつあります」
英国の直轄植民地であるガイアナ。
その総督府では官僚たちが頭を抱えていた。
ガイアナは英国が保有する南米大陸で唯一の直轄植民地である。
史実では1970年にガイアナ協同共和国として独立している。
そんなガイアナの目下の悩みは、周辺国からの難民の流入であった。
南米の諸国家は、ガイアナを除いて全て解放軍の軍門に落ちていたのである。
「……英国海外派遣軍の到着はいつ頃になるのだ?」
今まで黙していたガイアナ総督が重い口を開く。
彼にとっての最大かつ唯一の関心ごとであった。とにもかくにも、BEFが到着してくれれば万事解決なのである。
「本国からの回答ですが、BEFの到着は月末になるようです」
「そうか……それならば、なんとかなるか?」
「何事も無ければですが……」
事情が事情なだけに、英国本国もBEFの派遣を急いでいた。
1個師団を載せた船団が既に出航していたのである。
『アメリカの棍棒外交復活 蹂躙される南米』
『南米諸国家 次々と新政権樹立』
『新政権はアメリカの傀儡政権 現地民から批判殺到』
ドーセット公爵邸の執務室。
テッドは、イレブンジズを飲みながら新聞に目を通していた。
新聞の一面を飾っているのは、解放軍による南米侵攻絡みの記事であった。
南米侵攻は遠く離れた英国でも関心ごとだったのである。
「ガイアナで大量の難民……か。欲しいなぁ」
テッドが視線を注いでいたのは、ガイアナで難民が発生しているという記事であった。扱いは小さかったものの、彼の眼は穴が空くくらいに熱烈に見つめていたのである。
「もしもし? ガイアナの難民が欲しいんですけど?」
思い立ったが吉日である。
テッドはすぐさま電話かける。かけた先は首相官邸であった。
『君は何を言っているのかね?』
返答はため息交じりの否定であった。
受話器越しに疲れた表情のロイド・ジョージが透けて見えるようである。
「そうは言いますけど、とにかくドーセット領は労働力が不足してるんです。五体満足で働けるなら難民でもなんでもウェルカムなんですよ!」
『このあいだ1万人以上の労働力を手に入れたばかりだろう!?』
「あんなものじゃ到底足りません。モア労働者! モア労働者! モアモア労働者なんです!」
『うわぁ……』
想像を突き抜けたテッドの人材コレクターぶりにロイド・ジョージは絶句する。
どうやって説得したものかと頭を悩ますことになるのであるが……
(ん? 待てよ。この状況ならば利用出来るな……)
長い付き合いであるロイド・ジョージは、こうなったテッドが何が何でも実行してのけることを熟知していた。ならば、面倒ごとをセットにしてやれば、まとめて解決してくれるのではないかと考えたのである。
「確かに現在のガイアナは周辺国からの難民が殺到している。食料不足で治安も悪化している。BEFでも対応はしているのだが……」
『つまり、迅速に食料を輸送すれば難民の腹が満たされて治安も回復するってことですよね?』
「それはそうだが……どうするつもりかね?」
『ふっふっふ。僕に任せてください。その代わり、上手くいったら難民をもらいますからね』
案の定というべきか、テッドは即座に方策を決定していた。
この能力をもっと有意義に使って欲しいと切に願うロイド・ジョージであった。
『ジョージタウンが見えたぞ。ジェットフラップ作動!』
『着水確認。フルリバース!』
『速やかに荷物を降ろせ! 燃料補給も急げ!』
テッドによる難民救援は迅速に行われた。
英軍レーションを満載したサンダース・ロー プリンセス3号機は、本土とガイアナをピストン輸送したのである。
完全に採算度外視なのであるが、テッドにそんなことは関係無かった。
全ては新たな労働力確保のためなのである。
支援物資にレーションを指定したのは、環境劣悪な難民が問題無く食べれるようにする配慮であった。戦場で食せるレーションならば、どんな場所でも食べることが出来るのである。
『すごく美味しい!』
『ウナギのゼリー寄せはくせになる味だな……』
『お菓子がいっぱい入っていてうれしい!』
なお、英軍レーションは難民たちに大好評であった。
空腹は最上のソースと言うが、関係者たちの不断の努力で英軍レーションは普通に美味しくなっていたのである。
サンダース・ロー プリンセスによる空輸は、所詮は付け焼刃に過ぎなかった。
しかし、難民たちの希望となったのは事実である。
空輸で迅速に対応したことは難民たちに安心感を与えることになった。
その後に船便による食材の大量輸送が実現したことで、ガイアナの治安は劇的に回復したのである。
『安心安全なドーセットへ移住しませんか?』
『今なら就労支援あります!』
『スキルに応じた仕事に就けます!』
治安が回復すると同時に、ドーセットへの移民が募られた。
殺到する手続きでガイアナ総督府の関係者たちからは恨まれることになったが、ドーセット領は新たな労働力を手に入れることが出来たのである。
「同志トロツキー。教会からの報告をお持ちしました」
「うむ。聞かせてもらおうか」
テキサス州エル・パソ郊外にある屋敷。
その執務室でレフ・トロツキーは側近から報告を受けていた。
「住民の不満が急速に高まっております。傀儡政権は民衆からは支持されていないようです」
「予想通りではあるな。あんな無茶苦茶なことをすれば、支持されるもはずがないだろうに……」
あきれ果てるトロツキー。
解放軍の軍門に下ったメキシコを含めた南米諸国家は、現在進行形で惨状を呈していたのである。
アメリカによって誕生した傀儡政権は以下の施策を実施していた。
・都市住民の強制移住
・貨幣の流通を停止
・生産量に応じて食料と日用品の支給
政治腐敗と汚職が長らく横行する現行の政権に国民は失望していた。
そのため、傀儡政権ではあっても新政権の誕生は歓迎されたのである。
しかし、国民の期待は裏切られた。
傀儡政権の最初の仕事は都市部の住民の強制移住だったのである。
強制移住先は農村と鉱山の二択であった。
選択の自由はあったものの、反抗しようものなら問答無用で刑務所送りにされたことは言うまでも無い。
これらの施策は自国民限定であり、外国人は対象外であった。
現地に滞在していた海外の報道陣は、この非道を大々的に報道して世界中から非難を浴びることになったのである。
『全ては当事国の判断であり、アメリカは一切関与していない』
この事態にアメリカは大統領直々に釈明会見を開くことになった。
傀儡政権の政策にアメリカは直接タッチしておらず、怒り狂ったデイビスが厳重な抗議書を南米諸国に送付したのは言うまでも無いことである。
抗議書にビビった傀儡政権は国内の外国人を強制退去させた。
その中には日本の報道陣や映画関係者も多数含まれていたのである。
『米一粒でも増産を、欠片一片でも鉱石を!』
傀儡政権下では食料増産と資源採掘が至上命令とされた。
重労働に加え、不衛生な環境で多くの人間が健康を害していったのである。
貨幣の流通が停止している状況では逃げたくても逃げられない。
食糧と日用品が現物支給な状況では労働に従事するしか手段は無く、その日を生きるのも精一杯な状況であった。
『神は全てをお許しになります。あなたがお抱えになった罪をお話しなさい』
このような状況では神に縋りたくなるのも必然であろう。
仕事を終えた労働者たちの向かう先は懺悔室であった。
革命軍はアメリカ正教を情報収集の手段として用いていた。
懺悔室にやってくる迷える子羊は、ついポロっと重要な情報を告白してしまうことが多いのである。
都合の良いことに、傀儡政権はアメリカ正教の教会に手出しをしなかった。
別にこれはアメリカ本国からの通達というわけでなく、傀儡政権が忖度しただけなのであるが。
傀儡政権が手出しをしないことを良いことに、アメリカ正教は南米に浸透していった。炊き出しや治療などを積極的に行って現地民の支持を増やしていったのである。
「……同志トハチェフスキー、南米の状況を捨て置くことは出来ん。我らが動く必要があるだろう」
「おっしゃりたいことは理解しますが、大した戦力は出せませんよ?」
トロツキーの腹心にして、軍事最高責任者のミハイル・ニコラエヴィチ・トハチェフスキーは困惑する。解放軍に対抗するために現在の革命軍は大規模な再編成中で動ける状態では無かったのである。
「戦力を直接派遣するのではない。現地でゲリラ活動を活発化させるのだ」
「そういうことなら、わたしの部下に得意なのがいます。彼らを派遣しましょう」
トハチェフスキーが引き連れて来た部下には、抗日パルチザンを率いた指揮官が大勢いた。かつて関東軍の手を焼かせた抗日パルチザンが南米で再現されることになったのである。
『燃やせ燃やせ! 残らず燃やし尽くせ!』
『おいっ、軍隊が来たぞ!』
『ここまでか。ずらかるぞ!』
押っ取り刀で駆け付けた政府軍が見たものは、燃え上がる警察署であった。
実行犯たちはとっくに逃げ延びていたのである。
『誰も放火犯を見た者はいないとのことです』
『そんなわけあるか!? もっと徹底的に探せ!』
10年以上前に関東軍の手を焼かせた手腕は健在であった。徹底的な捜査にも関わらず、実行犯を誰一人として捕まえることは出来なかったのである。
『武器弾薬はここに保管してあります』
『教会に隠すとは。確かに安全ではあるな』
アメリカ正教もパルチザンに積極的に協力していた。
不可侵であることを良いことに、武器弾薬の隠ぺいや実行犯の隠匿に手を貸していたのである。
『南米の秩序を取り戻すにはアメリカの力が必要です』
『解放軍を派遣してもらえれば、その威光にひれ伏すでしょう』
『このままでは農業や資源採掘に悪影響が出ます』
手を焼いた傀儡政権側はアメリカに解放軍の派遣を要請した。
しかし、アメリカはアメリカは南米の騒動を静観した。
独立国であるので安易な軍隊派遣が出来ない――というのが、表向きの理由である。実際のところは、大統領のスポンサー企業が標的にされていないので必要性を感じなかっただけである。傀儡政権の暴走に対する釈明会見の恨みもあったことも言うまでも無い。
パルチザンが現地のアメリカ企業を襲撃しなかったのは、トロツキーの指示であった。直接の利益を侵害されない限り、アメリカは動かないと見切っていたのである。
1937年の夏以降の南米はパルチ祭りが本格化した。
傀儡政府は常に後手に回ることになり、関係者たちはストレスで禿げ上がることになったのである。
パルチ祭りで南米の治安は悪化の一途であった。
そんな状況で革命軍は実戦経験を積ませるべく兵士を派遣したり、新兵器を実戦投入するなどやりたい放題だったのである。
以下、今回登場させた兵器のスペックです。
サンダース・ロー プリンセス(3号機)
全長:45.0m
全幅:66.9m 63.86m(翼端フロート格納時)
全高:16.99m
重量:86183kg(空虚重量)
:149685kg(最大離陸重量)
翼面積:466.3㎡
最大速度:610km/h(最大) 580km/h(巡航)
実用上昇限度:12000m
航続距離:9210km (フェリー) 7600km(最大搭載時)
飛行可能時間:15時間
武装:非武装
エンジン:ブリストル カップルド プロテウス610 ターボプロップエンジン 5000馬力×4
ブリストル プロテウス 620 ターボプロップエンジン 2500馬力×2
乗員:パイロット2名 航空機関士2名 無線オペレーター ナビゲーター
ペイロード:10t(最大)
イギリスで建造された画期的な高速旅客飛行艇の3号機。
テッドによって召喚された1号機、それを元に建造した2号機に加え、輸送機としての任務に特化したのが3号機である。
3号機はそれまでの機体とは違い、座席を全て撤去したうえで機内の二層構造を単層に改めた。その結果、広い機内格納スペースとペイロードを両立することに成功している。
機体後部には積み下ろしを円滑に行うためのカーゴドアが装備されている。
格納式のビーチングギアが主翼と機首に装備されているが、これは陸上機のように滑走路で使用するものではなく迅速な陸揚げを実現するためのものである。
3号機特有の装備としてジェットフラップがある。
ダクトから高熱の排気を機外に放出することで機体周辺の空気を整流、揚力を確保するのが史実のジェットフラップである。
この世界のジェットフラップは、メインエンジンから動力を引っ張って複数のコンプレッサーを駆動させることで圧縮空気を発生させて機体各所から噴出させるシステムに発展しており、結果的に史実US-1から実装された境界層制御装置とほぼ同一のものとなっている。
搭載されたジェットフラップによって、3号機は過荷重状態での離陸促進と短距離離着陸性能の向上を果たしている。後の実験では、ジェットフラップ作動状態でビーチングギアでの離着陸も成功させている。そのため、一部の文献では3号機は飛行艇ではなく水陸両用機として記述されることがあった。
※作者の個人的意見
日本まで直行出来る足の長さがあるのに、人間だけしか積めないのはもったいないよねということで作ってみました。旅客一人当たりの座席重量は現代だと20kg程度が目安だということですが、この時代は軽量素材なんて無いので倍くらいは見積もって大丈夫でしょう。座席を全部取っ払えば4tくらいは確実に浮きます。バーやベッド、風呂などの快適装備や二層構造の床とかも撤去すればペイロード10tくらいは簡単に捻出出来るかと。
航空機の航続距離は条件によって変わるのですが、航続距離的に似ている史実C-2がフェリーで9800km、20t積みで7600km程度とのことなので、飛行艇のために頑丈な分機体が重いサンダース・ロー プリンセスなら同等の距離で10t積みくらいが適当と判断しています。
遂に南米で収奪が始まってしまいました。
史実のナチスは戦場で収奪しまくってもメフォ手形を償還し切れませんでしたが、この世界のアメリカは南米経済を限界まで搾ってメラ手形を償還出来るといいですねぇ。
>カーディーラーは胡散臭い
アメリカでレクサスが成功した一因だったりします。
明るく清潔でサービスの良いディーラー、しかも車の品質も文句なしと来れば成功しない理由は無いですよね。
>サブプライム層
個人の信用力が低く、債務の返済能力や信用履歴等が低いと判断される層です。
史実のサブプライムローン問題で有名になりました。
>浮いた予算で農業機械を大量に発注
いつの間にかにアメリカでソフホーズが始まってた…!?
>中〇派
革マル派が存在するので、当然中核派も存在しています。
暴力革命を是とする連中なので、世界革命論を主張するトロツキーとは相性が良いでしょうね。
>ホワイトハウス側は革命軍を軽視していた
解放軍との正面対決を避けたうえに、その後の連邦政府の命令にも表向きは従順だったのが大きいです。もちろん、裏では思いっきり暗躍していたりするのですが。
>フーヴァーファイル
いわゆる公式かつ機密ってやつです。
アメリカ大統領を筆頭にした政権の閣僚のスキャンダルが収録されているので史実では権力保持に役立ちました。この世界では時間稼ぎにしかなりませんでしたけどw
>チキータ・ブランド
今でも大半のバナナに付いてる青いラベル。
というか、あれ以外のバナナってあるんですかね?
>フーヴァーはクライド・トルソンと共に海外逃亡
同性愛者同士のカップルと言われてますが、具体的な証拠が残されてないらしいです。この世界のドーセット領は同性愛者にも優しい場所なので問題ないはず。多分。
>連邦最高裁判所の判事
連邦最高裁判所の判事の任期は終身(弾劾されない限り)で大統領が任命するのですが、任命した大統領の所属政党に有利な判断を下す傾向があります。アメリカで連邦最高裁判所の判事の進退がニュースになるのは、そこらへんが原因だったりします。
>棍棒外交
アメリカ版帝国主義を端的に示した表現。
『大きな棍棒を携え、穏やかに話す』(speak softly and carry a big stick)というセオドア・ローズヴェルト大統領の言葉が元になっています。
>『お菓子がいっぱい入っていてうれしい!』
史実の英軍レーションの特徴として、紅茶とお菓子が山ほど入っています。
テッド君が過去に史実の英軍レーションを召喚(変態英国グルメ事情―WW1レーション編―)したのを参考に開発したので、この世界のレーションも菓子とお茶が充実しています。