第62話 大正から昭和へ
「ドーセット公、誠に申し訳ないっ! 謝罪で済む問題とは思っていないが、この通りだっ!」
「ちょっ!? いきなり何事ですか!?」
英国大使館の応接室で当惑するテッド。
参謀総長の鈴木荘六陸軍大将以下、参謀本部の重鎮たちが土下座してきたのである。
ドイツへの満州の租借にあたって、最大の障害が現地に居座る関東軍である。
関東軍は満州派で占められており、その精神的支柱である永田鉄山と石原莞爾を追い落とすべく身辺調査が実施された。
彼らに疚しいことがあれば、それをネタに糾弾して軍から追放する。疚しいことが無ければ、でっち上げれば良い。彼らを軍から追放出来れば、満州派の権勢は著しく低下して関東軍をコントロールしやすくなる。
しかし、これがとんでもない爆弾となった。
調査の過程で発見されたのは、テッドの暗殺計画だったのである。
「同盟国の全権大使の暗殺を企てるとは前代未聞。ここは儂らの馘で勘弁してくだされ!」
計画の失敗を悟った永田と石原が速攻で高飛びしたこと、現場でMI6が証拠隠滅したことによって、あくまでも疑惑の段階に留まってはいたが、とんでもないスキャンダルであることには変わりない。
暗殺計画が実行されていたのであれば、事は陸軍内の問題では済まなくなる。
しかし、当事者たちは逃亡して行方知れず。確たる証拠も無い。対応に苦慮したあげくの土下座謝罪だったのである。
(事実を話したら、めんどくさいことになるから黙っとこう)
テッドは事を大きくするつもりは無かったので、素知らぬふりを押し通した。
それを見て、心底安堵する参謀本部の重鎮たち。
「美味い。こんなにも美味しい菓子があったとは……!」
「嗚呼、ほんのりとした甘さと紅茶が胃に沁みる……」
「申し訳ないが紅茶の御代わりをもらえないだろうか?!」
菓子を貪り喰い、紅茶をぐび飲みする参謀本部の面々。
暗殺計画が実行されなかった(と、勝手に思い込んでいる)とはいえ、同盟国の顔である全権大使に迷惑をかけたことには変わりない。そのことを気にして意気消沈しているのを見かねたテッドが菓子を振舞ったのである。
ちなみに、本日のお茶請けはショートブレッドである。
フィンガータイプのショートブレッドで、見た目と大きさは完全に史実のカ〇リーメ〇トである。
別名カロリー爆弾の異名があるショートブレッドは、精神的にも肉体的にも疲弊していた彼らには特効であった。青白かった顔にも幾分生気が戻ったのである。
「そちらの事情はよく分かりませんが、こうして直接お話出来たのは僕にとっては収穫です。海軍と違って陸軍とは、なかなか接点がありませんでしたからね」
「そう言っていただけるとありがたい。これを機会に我ら陸軍も、ドーセット公とは親密にお付き合いしたいものです」
固く握手をするテッドと鈴木。
この事件以降、帝国陸軍とは良好な関係を築くことになるのである。
裕仁親王に平成会、海軍、陸軍とも良好な関係を築き上げたテッドは稀代の人たらしであろう。その人たらしぶりは、史実の魔人〇ベに勝るとも劣らないものであった。
「お客人は帰られた。例の件の報告を頼みたいのだけど?」
『すぐに参ります』
参謀本部の面子を見送った後、テッドはデスクの内線をコールする。
数分ほどで、ドアがノックされてMI6の職員が入室してくる。
「今回の事件に関与した政治結社の詳細です」
「結構多いね? それにしても、政治結社がこんなことをするんだなぁ……」
エージェントが持参したのは、コミケでマルヴィナに返り討ちにされたヤクザ者たちが所属していた政治結社の活動内容の詳細であった。
政治結社というのは史実の戦前における名称である。
戦後では政治団体の呼び名が一般的であり、政治目的の実現のために結成された団体や組織を指す。街宣車が煩いことで御馴染みな右翼もこれに含まれる。
「表向きは政治結社を名乗ってはいますが、その実態はただのゴロツキです。普段は民政党から金をもらって、嫌がらせ行為をしていたようです」
「うーん、どうしたものかなぁ。今回の件で兵隊は根こそぎ潰したから、しばらくは悪さは出来ないだろうけど……」
「わたしとしては、組織ごと潰すことを推奨します。民政党への警告にもなりますし」
「分かった。手段は任すからスマートにお願いするよ」
「了解しました」
退室しようとするエージェントであったが、テッドは別件を思い出して呼び止める。
「あ、そうだ。民政党のスキャンダルの情報はある?」
「民政党ですか? あそこはスキャンダルの総合商社と言っても過言では無いくらいにやらかしてますが?」
「それを公安へリークして欲しい。もちろん、こちらが情報提供したことは隠してね」
「そちらの件も了解しました」
そう言うと、今度こそエージェントは退室した。
その後ろ姿を見送ったテッドは、デスクに両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持っていく。いわゆるゲ〇ド〇ポーズである。
(神聖なコミケを汚した罪は重い。相応の代価を払ってもらうぞ……!)
傍から見れば完全に悪役である。
なんにせよ、テッドによる報復は始まったばかりであった。
「なんだ貴様ら!? なにが目的だ!?」
「ちょっと待て!? 止めろ!?」
とある帝都の昼下がり。
民政党系の政治結社が入居している雑居ビルは騒然としていた。
「「「……」」」
構成員の喚き声を完全に無視する黒づくめの闖入者。
ご丁寧に、黒の目出し帽まで被ったガタいの良い集団は、手際よく室内を制圧してゆく。
「回収完了。撤収する」
「了解」
政治結社の指導者や幹部連中を、荷物の如き扱いで車に放り込んで急発進する。
時間にして10分足らずの凶行であった。
同様の光景は、帝都のあちこちで繰り広げられていた。
組織の根幹である幹部を根こそぎ失った政治結社は、組織を維持することが不可能となり自然解散していったのである。
拉致された政治結社の指導者や幹部連中の行方は杳として知れなかった。
最終的に失踪扱いとなり、そのうち世間からも忘れられていったのである。
「いやっはっはっ! 今日も良い感じで与党叩きが出来ましたな!」
「左様。世界恐慌様々ですな!」
「この調子ならば、我が民政党が政権奪取するのも遠い日では無いでしょう!」
国会議事堂内を我が物顔で歩く3人組。
彼らは民政党の議員である。つい先ほどまで、国会で与党の不況対策の遅れを厳しく糾弾していた。代案も無いのに、ただ喚くだけなのだから楽な商売である。
「あぁ、いたいた。そこのお三方」
肩で風を切らんばかりに歩く3人であるが、目の前の男たちに呼び止められる。
「なんだ貴様らは?」
議員の一人が尊大な態度で凄む。
並みの男ならちびりそうな迫力であるが、コート姿の男は身じろぎもぜずに警察手帳を突きつける。
「警察です。強姦ならびに堕胎未遂、あっせん収賄、その他の容疑で逮捕します」
コート姿の男――警視庁の刑事の宣言と同時に、背後の警官たちが議員を取り押さえる。
「こんなことをしてタダで済むと思っているのか!?」
「儂らは国会議員なんだぞ!?」
「そこまでして妨害したいのか!? 国家権力の横暴だぞ!?」
ちなみに、会期中の議員の不逮捕特権は戦前には存在しない。
戦前の政府が、議員の活動を妨害するために逮捕することがあったため、それを防ぐために戦後になって設けられたのである。この世界でも同様であった。
「申し開きは取調室で聞きましょうか。連れていけ」
「「「はっ!」」」
なおも喚き続ける3人であるが、警官たちによって連行された。
民政党議員の事務所や、議員の地元でも同様の光景が繰り広げられたのである。
モルガン商会による民政党への資金提供は莫大な額であった。
M資金と呼ばれた金の大半は政治工作に用いられたのであるが、一部議員の犯罪もみ消しにも使われていたのである。
世界恐慌で経営が悪化したモルガン商会は、民政党への資金提供どころでは無くなった。これに加えて、匿名による犯罪行為のリークである。金の切れ目が縁の切れ目というわけで、速攻でブタ箱行きとなったのである。
程なくして、彼らの捜査担当は公安に変更された。
平成会も民政党がアメリカの手先となっていることは承知していたので、そっち方面の犯罪を立件するべく動いたのである。
この世界では公安警察であるが、中身は史実の特高そのまんまである。
彼らの『取り調べ』に抵抗出来るわけもなく、あっさりと白状したのであった。
逮捕された民政党議員の大半は、後に破防法が適用された。
この世界では治安維持法の代わりに破壊活動防止法(破防法)が成立しており、その最初の適用例となったのである。
民政党議員の大量逮捕により、補欠選挙が実施された。
空いた議席の大半は政友会と平民党が埋めることになり、民政党の議会に占める割合はますます低下した。
民政党の権勢の低下は、アメリカの日本に対する影響力の低下を意味していた。
アメリカは中国大陸進出への足掛かりを失ったのである。
「貴様ら正気か!? 何をやっているのか分かっているのか!?」
新京の関東軍総司令部。
その司令官公室で、武藤信義陸軍大将が吠える。
「日本が総力戦を勝ち抜くには、満州に資源を備蓄するしかないのです。これは正義の行いなのです」
「この地に国を作って陛下に献上する。これ以上の忠義はありますまい」
上官の怒りにも、まったく動じない永田と石原。
テッドの暗殺計画が失敗したと知るや、彼らの行動は迅速であった。迫る憲兵の手を搔い潜って満州へ逃げ込んだのである。
満州へ逃亡した二人は、かねてからのクーデター計画を実行に移した。
その結果、ほとんど無抵抗で関東軍は二人の手に堕ちた。
関東軍は満州派の牙城である。
そして二人はその精神的支柱とも言える存在で、現地の将兵からは絶大な支持を受けていた。クーデターが失敗するはずが無かったのである。
「老害に関東軍は任せられん。とっとと退場してもらう……連れていけ」
「「「はっ!」」」
「放せっ!? 放さんか貴様らっ!?」
兵たちに連行される武藤。
抵抗虚しく、総司令部の一室に軟禁されたのである。
「なんだぁ!? ヤポンスキーが反撃してきただとぉ!?」
「どうしやす?」
「馬鹿かおめぇは!? 攻撃だ攻撃! 奴らに格の違いを思い知らせてやれっ!」
関東軍の陣地に嫌がらせにきた抗日パルチザンのリーダーは驚愕していた。
いつもなら、いくら挑発しても貝のように閉じこもって反応しないのである。それを良いことに大胆な行動を取っていたのであるが……。
「突撃ぃぃぃぃぃっ!」
「「「うおおおおおっ!」」」
小隊長が指揮刀を振りかざし、兵たちが突撃を敢行する。
今までの鬱憤を晴らすかのような勢いである。
「ぐわぁっ!?」
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
関東軍の突撃に浮足立った抗日パルチザンを、7.7mmの猛射が襲う。
装備優良部隊である関東軍は、八〇式自動小銃を真っ先に支給された部隊である。ボルトアクションライフルであるモシン・ナガン小銃では対抗出来るはずも無かった。
あっという間に潰走する抗日パルチザンを見て意気上がる関東軍。
練度も火力も桁違いな関東軍は、満州の地から抗日パルチザンを駆逐していったのである。
関東軍は、半月足らずで満州全土を制圧した。
満州派の将兵が永田と石原の指揮ぶりを褒め称え、前任者である武藤を無能呼ばわりしたのは言うまでもないことである。
しかし、彼らは気付いていなかった。
何故、今まで関東軍が消極策を取らざるを得なかったのか。積極的に抗日パルチザンを狩る過程で、どれほどの被害が出てしまったのかを……。
「ほぅ。アーモンドの香りと控えめなオレンジの甘さが紅茶によく合いますなぁ」
「そ、それはどうも……」
頭頂部が禿げ上がった初老の紳士が、柔和な笑みを浮かべつつお茶請けに舌鼓を打つ。しかし、口はともかく眼は笑っていなかった。
今回のお茶請けはダンディーケーキである。
フルーツをたっぷり使ったパウンドケーキとでもいうべき英国のスイーツであり、クリスマスケーキに使う地方もある。
史実では、世界中で食べられている英国を代表するスイーツである。
しかし、万人受けする味も来訪者の心を開くことは出来なかった。
1926年12月某日。
テッドは、駐日ドイツ大使のヴィルヘルム・ゾルフの来訪を受けていた。表向きの理由は親善だったのであるが……。
「ふむ、つまり貴国は今回の件には全く関与していないと?」
「まったくもってありません。というより、我が国ではなく日本政府に抗議するべきでは?」
「もちろん日本政府にも正式に抗議しました。しかし、今回の事件の裏で貴国が動いているのではないかと思いましてね」
あることを証明することは簡単であるが、無いことを証明することは難しい。
いわゆる悪魔の証明であるが、この世界の英国はやらかしまくっているので、疑惑を持たれるのは避けられない。自業自得であると言えばそれまでなのであるが。
満州全土を制圧した関東軍であるが、その過程でドイツ人居留民が被害を受けた。関東軍が今まで消極策に徹さざるを得なかった理由の一つなのであるが、満州派はそのことに一切頓着しなかったのである。
当然ながら、ヴィルヘルム2世は激怒した。
駐独日本大使を召還して抗議すると共に、ゾルフを通じて日本政府にも厳重な抗議を行った。そのとばっちりをテッドも受けることになったのである。
(あのアホどもがぁぁぁぁぁっ!)
内心で関東軍の愚行と、その首謀者を罵倒するテッド。
日本政府の関係者も、平成会もその気持ちは同様であろう。
「と、とにかく。今回の件については我が国は関与していません。しかし、可能な限り事態を収拾するために協力したいと思います」
「それは英国政府の正式な回答と受け取って宜しいですかな?」
「もちろんです。本国は僕が説得します」
「そういうことでしたら、今回は引下がりましょう。貴国の働きに期待しておりますぞ」
確かな言質を取ったことで、ようやく納得するゾルフ。
彼を玄関まで見送ったテッドは、電話をかけるべく執務室へ引き返すのであった。
「……と、いうわけで、ちょっと荒っぽいことをするんで黙認してください」
『久しぶりに連絡をよこしたと思えば、そんなことかね? 元より、君にはフリーハンドを与えている。好きにするとよい』
「信頼が重いなぁ……」
国際電話の相手は、首相のロイド・ジョージである。
拍子抜けするくらいにあっさりとフリーハンドを得たテッドは、満州のごたごたに積極的に関わっていくことになる。
『天皇陛下におかせられましては、本日午前1時25分、宮城にて崩御あらせられました……』
1926年12月25日 午前2時40分。
アナウンサーの沈痛な声が電波に乗って日本中に木霊した。
深夜ではあったが、この世界の日本では深夜放送の時間帯である。
第一報に触れたラジオ視聴者は深い悲しみに包まれた。翌朝には号外が配られ、大正という時代が終わったことを全ての日本国民が実感したのである。
同日中に摂政であった裕仁親王が皇位継承し、第124代天皇に践祚(即位)した。激動の時代であった昭和に、この世界も突入したのである。
「……ようやく、心置きなく陛下と御呼び出来るようになりましたね」
宮城の一室。
心底ほっとしている様子でテッド・ハーグリーヴスは、お茶を啜る。
「そのようなことを気にされていたのですか?」
今上天皇は驚きつつも、お茶請けを口に含む。
今回のお茶請けは、宮内省御用達の塩瀬総本家の『志ほせ饅頭』であった。ふっくらした大和芋の柔らかい皮と、上品な甘さの餡が豊かな風味が口いっぱいに広がる逸品である。
「陛下以外の名前で御呼びすると心労で胃が痛くなるんですよ……」
「そういうものですか?」
「そういうものですっ!」
テッドの思いは、史実昭和を生きた全ての日本人に共通する思いであろう。
昭和天皇の偉大さは、日本人の精神に刻み込まれているのである。
その反応を見て面白がっていたものの、一瞬険しい表情を見せる今上天皇。
幸か不幸か、テッドの優れた動体視力はそれを見逃さなかった。
「……陛下の目下のお悩みは経済と満州ですよね? お力になりますよ」
「本当ですか!?」
「おわっ!?」
どアップで迫ってきた玉顔に、思わずのけ反ってしまう。
そのままひっくり返りそうになるテッドであったが、なんとか持ち直す。
「早急に対策すべきなのは経済でしょう。世界恐慌の影響が馬鹿になりませんし」
「確かに。アメリカと取引していた企業は多い。何かしら手を打たないと連鎖倒産が起きかねない」
テッドの意見に同意する今上天皇。
元より満州は手放すつもりなのである。至極当然の結論であった。
「ところで疑問なのですが、ドーセット公がいた世界でも同様のことが起きたのですか?」
「僕の居た世界でも世界恐慌は起きましたよ。対策として、列強はブロック経済を推し進めました」
「ブロック経済……ですか?」
「本国と植民地を関税面で優遇して、外国勢力を市場から排除する手法です。自由貿易という観点からすれば悪手ですが、保護貿易という観点で見れば極めて有効な手段です」
「しかし、日本には植民地は存在しませんが?」
「だから大英連邦の市場に絡んでもらいます」
テッドが考えていたのは、大英連邦特恵関税制度に手を加えることであった。
この世界では世界恐慌対策として早い段階から準備されており、発効が急がれていたのである。
カナダが加入しなかったことで片手落ちとなってしまった史実とは違い、この世界では全ての自治領と植民地が加入する見込みであった。実現すれば全世界の陸地と人口の4分の1以上が参加する世界最大の経済圏となり、これに日本を加えようというのである。
テッドの『新ブロック経済政策』は、直ちに円卓へ提出された。
日本を加えることによるメリットを多数掲示された円卓は、彼の政策を真剣に検討することになる。
『大英連邦特恵関税制度の発効をここに宣言する』
英国首相ロイド・ジョージの宣言に盛大な拍手が沸き起こる。
会場となったウィンザー城の大広間は、関係者で埋め尽くされていた。
1927年2月。
予定を大幅に前倒しして、大英連邦特恵関税制度が発効された。
適用範囲は、大英連邦を構成する全ての植民地と自治領である。
特例として日本とフランス共和国も参加が認められていた。
スターリングブロックは、有史以来世界最大の経済圏である。
領域内の自治領と植民地では関税が優遇されたが、領域外の勢力と貿易は原則不可能となった。
日本が特例として加入が認められたのは、テッドの『新ブロック経済政策』によるものである。
日本からアメリカの影響力を排除するだけでなく、本国から遠いオーストラリアやニュージーランド、カナダ西海岸側に工業製品を輸出することで統治コストを下げる効果を期待されていたのである。
英国の同意が得られれば、領域外の国家との貿易も認められていた。
その際の関税は、貿易相手国同士で定めるものとされた。
フィリピンはこの制度を利用して、日本との貿易を積極的に行うことになる。
宗主国であるアメリカは怒り狂ったが、どうすることも出来なかったのである。
「やってくれたな小僧ぉぉぉぉぉっ!」
モルガン商会会長のジョン・ピアポント・モルガン・ジュニアは、大英連邦特恵関税制度成立の報を聞いて絶叫していた。
アメリカはスターリングブロックの適用外なので、今後日本との貿易は不可能となった。中国大陸進出の足掛かりとして、日本進出を目論んだモルガン商会の努力は水泡に帰したのである。
震災前後処理公債の購入失敗に始まり、逆恨みというべきテッドの暗殺計画も失敗。とどめに、民政党がスキャンダルで大ダメージを負った結果、莫大な額の資金提供も無駄になってしまったのである。
この日以来、モルガンは射撃場へ行く回数が増えた。
とある人物の写真を射撃場の的に貼り付けて、ハチの巣にしてストレス解消をしていたとのことであるが、真相は不明である。
マネーゲームに懲りた裏社会の住民は、再び復興債の購入を増やしていった。
不況で歳入が減少した連邦政府にとって、償還の増大はとどめの一撃となるのであるが、破綻するのはもう少し先の話となる。
「助かった! これぞ天の配剤だ!」
鈴木商店の大番頭である金子直吉は、大英連邦特恵関税制度成立の報を聞いて思わず天に感謝をささげていた。
大英連邦特恵関税制度成立は、日本の市場にかつてないほどの好材料となった。
日銀の金融緩和策との相乗効果で下落傾向だった株価は下げ止まり、緩やかではあるが上昇に転じたのである。
金融緩和は、コール市場における資金調達にも有利に働いた。
台湾銀行の資金繰りが好転し、鈴木商店は新規融資を受けることが出来たのである。
倒産の危機を回避した鈴木商店は、金子の死後は行政指導によって株式会社化された。経営規模に比して個人経営では危険すぎるとの判断からである。鈴木商店は鈴木財閥として、三井、住友、三菱と共に4大財閥として君臨することになる。
スターリングブロックは、世界恐慌に対して極めて有効であった。
領域内の全ての勢力は、年内にプラス成長に転じたのである。
これに対抗してドイツはマルクブロックを形成。
ドイツとオーストリア、後に中華民国と満州国も組み込まれてマルク・元ブロックとなる。その結果、史実以上に中華民国との経済的な結びつきが強くなるのであるが、長大な通商路の防衛に頭を悩ませることになる。
ソ連とフランス・コミューンはフラン・ルーブルブロック(東側ブロック)を結成した。元々世界から孤立しているので世界大恐慌による被害は少なく、アメリカ企業を全て接収して技術を奪ったので、結果的にプラスとなった。
世界恐慌の元凶であるアメリカは、ドル=ブロックを結成した。
史実とは違いカナダは加入しておらず、アメリカを除けば南米の弱小国家が大半で、その規模と経済効果はお察しであった。
この世界はスターリングブロック、マルク・元ブロック、ドルブロック、東側ブロックの4つに分かれることになったのである。
以下、今回登場させた兵器のスペックです。
八〇式自動小銃
種別:軍用小銃
口径:7.7mm
銃身長:416mm
使用弾薬:三八式普通実包(史実九九式普通実包)(7.7mm×58)
装弾数:30発
全長:870mm
重量:3700g(弾薬除く)
発射速度:毎分600発前後
銃口初速:740m/s
有効射程:400m
1920年(皇紀2580年)に制式採用された突撃銃。
平成会の技術陣が、史実のAK47をベースに開発した。
AK47をベースにしているが、使用弾薬の形状の違いのために箱型弾倉が採用されている。元が元なだけに、その信頼性は折り紙付きで前線の兵士からは絶大な信頼を勝ち取ることになる。
装備優良部隊である関東軍には真っ先に定数配備されており、他の部隊も三八式(史実の九九式)を置き換える形で配備が進められている。弾薬が共通なので、配備自体に特段の問題は生じていないのであるが、予算という最大の敵によって完全な置き換えには今しばらく時間がかかるようである。
※作者の個人的意見
安くてタフな突撃銃を作るならAKをベースにするしかありませんよね。
当時の日本人の体格でフルオート射撃を御せるか心配になりましたが、セミオートならなんとかなるでしょう。同じ弾薬を使用する史実の四式自動小銃だって一応成功していますし。
英軍の次期制式小銃も設定しなきゃならんのですが悩んでいます。
個人的には、『奇妙な外見』なブルパップライフルを推したいところなのですが、あれって割と欠点も多いんですよねぇ。
現行ライフルを.280ブリティッシュサイズにまで縮小させるのが現実的なのですが、それだと面白くない。うーむ、本当にどうしたものか……(悩
神聖なコミケを汚した者には死をというわけで、まずは民政党が血祭に。
スキャンダルでとりあえず別件逮捕して、本命は公安(特高)にお任せスタイルです。
実際に特高の拷問で死んだ人間もいるので、議員様が抵抗出来るとは思えません。
あっさりと余罪をゲロることでしょう。
ちなみに、治安維持法ではなく破防法になっていますが中身はほぼ同じです。
もちろん、平成会の差し金です。戦後の人間からすれば、治安維持法はイメージが悪いですからね。
経済対策を優先したので、関東軍への仕置きは次回以降です。
その前に大規模な粛清人事とかあるかもしれませんがw
大正から昭和になって、いろいろとイベントも多いのでキャラを動かしやすくなってきました。だからといって更新ペースが上がるわけではないのですが(苦笑