第59話 マニフェスト詐欺+ばら撒き VS イメージ謀略
「……」
英国大使館の執務室で、黙々と筆を動かす紳士。
言わずとしれたテッド・ハーグリーヴスである。
とは言っても、彼のデスクに広がるのは重要書類では無く、同人誌のネームであった。夏コミに受かったテッドは、全力で同人誌を描いている真っ最中だったのである。
(いざ……!)
一気呵成にペン入れをしようと集中するテッド。
しかし……。
『必ずやご期待に応えてみせます!』
『平民党の○○に清き一票を!』
『今こそ一部の人間だけでない、国民による国民の政治を実現すべきです。今度の選挙は民〇党に!』
そんな彼を妨害するのが、選挙カーの騒音である。
大音量のスピーカーでがなり立てる候補者が、いすゞのトラックやら、オート3輪の荷台に乗って走り回るのは、史実の戦後選挙の風物詩と全く変わり映えしない光景であった。
「あぁぁぁぁぁっ!? 全然集中出来ないぃぃぃぃぃぃっ!?」
絶叫するテッドであったが、そんなことをしたところで事態が解決するわけも無かったのである。
『長期すぎる政権は御政道に反する』
1925年6月。
7年に渡り政権を握った原敬であったが、国民に信を問うべく衆議院を解散した。
解散前に実施された政友会総裁選挙によって、後藤新平が新たな総裁に就任。選挙で政友会の単独過半数が実現すれば、無条件で後藤が総理大臣に就任することになっていたのである。
このようなことが可能なのは、平成会によって修正された大日本帝国憲法と、新たに成立した普通選挙法において、政党内閣が明確に定義されたことが原因である。史実と同等とは言えないものの、かなり近い選挙が実現可能になったのである。
厳格な身分保証が必要とはいえ、女性の参政権が認められたことも特筆すべきことであろう。これには、都市部で有力な存在になりつつあったモガ(モダン・ガール)も大喜びであった。
完全な女性参政権が認められたのは、この世界ではパリ・コミューンに続いて2例目であり、当然ながら当事者たちは大いに盛り上がっていた。国内外のマスメディアも『壮大な社会実験』と称して大々的に取り上げていた。
今回の衆議院議員総選挙は、普通選挙法施行後初となる選挙であった。
前回の選挙とは違って新たな試みが多く取り入れられており、テッドをブチ切れさせた選挙カーの騒音もその一つである。
平成会の隠れ蓑である平民党(日本平民党)がやり始めたのであるが、他党もこれは良いと真似をしたために、現在の帝都は選挙カーで溢れていたのである。
特に、震災前後処理公債の件で国民から総すかんを喰らった民政党(立憲民政党)は必死であった。このままでは大敗北を喫することが火を見るよりも明らかなために、帝都のみならず全国津々浦々にまで選挙カーを走らせていたのである。
今回の選挙のキャッチフレーズは、『クリーンな政治』、『開かれた政治』であった。しかし、様々な勢力の思惑やパワーバランスが複雑怪奇に絡まって、選挙戦は次第に混沌化していくことになるのである。
(政友会と平民党のマニフェストは重なる部分も多いな。史実の自民と公明かねぇ……)
選挙カーの騒音で水を差されたテッドは、夏コミ用の同人誌を描くのをあきらめて各政党のマニフェストを確認していた。
生前のテッドは、悪夢の民〇党時代を経験していたために、人並み以上に政治には関心を持っていた。それ故に、選挙時の各政党のマニフェストはマメにチェックするようにしていたのである。
政友会のマニフェストは以下の通りであった。
・日英同盟の堅守
・海外領土の開発推進
・帝都高速を含めた高規格自動車道の整備
・弾丸列車構想の実現
平民党のマニフェストには、これに加えて国民健康保険等の福祉に関してのマニフェストが列記されていた。
対する民政党の目玉マニフェストは以下の通りである。
・日米安全保障条約の締結推進
・アメリカに対して国内の市場を開放
・アメリカ及びフィリピンの市場への積極参入
・国民全員への一律での給付金の配布。
(なんというか、ものの見事にアメリカ寄りだな。英国一辺倒はヤバいと判断したのなら分からないでも無いけど……)
民政党のマニフェストは、政友会と平民党と重複しないことを意識しているのか、諸政策ではかなりの隔たりがあった。特筆すべきは日英同盟重視を転換したアメリカへの傾倒ぶりであろう。
(ここまでアメリカ一辺倒だと、バックにアメリカが居るとしか思えないのだけど……)
疑問に思ったテッドは、内線でとある番号をコールする。
程なくして、扉がノックされる。
「閣下、御呼びでしょうか?」
「民政党へアメリカからの資金が流入していないか調査して欲しい」
「了解しました。すぐに調べさせます」
足早に去っていく男は、MI6のエージェントであった。
テッドは、MI6日本支部長を兼任しているので、直接命令することが出来るのである。
英国は日本を重要な同盟国とみなしており、その動向には常に注意していたが、何か事が起こった際に本国からの命令を待っていたのでは手遅れになることを危惧していた。そのために考えられたのが、全権大使とMI6日本支部長の兼任であった。
大使館がその国の情報を収集するのは、どこの国でも行っていることであるが、英国の場合はそのレベルが違っていた。なんと、大使館の敷地の中にMI6日本支部が設置されているのである。
復旧された本館とは別に建設された新館が丸ごとMI6日本支部であった。
日本支部は、国内に多数設置された情報収集拠点やN・M・ロスチャイルド&サンズの日本支店とも連携して日々情報収集に励んでいたのである。
「はぁ……」
ため息をつくテッド。
その原因は、デスクに放り出されている機密書類であった。
(直感的に怪しいと思ってはいたけど、まさかここまでとは……)
流石は世界最強の諜報機関MI6と言うべきか。
わずか1週間で必要な情報を収集していた。その結果はクロであった。
(民政党の選挙資金の出元はアメリカのモルガン商会で、その目的は日本市場への進出と、中国進出の足掛かりか。第2の黒船だなこれは……)
アメリカ風邪によるエピデミックから急速に立ち直りつつあるアメリカであったが、国内の市場は既に飽和状態であった。
軍事予算を削ってまで経済政策を重視した結果、国内の景気は未だに上向いていたものの、その伸び率は鈍化の一途だったのである。
アメリカの巨大な生産力を吸収するには、フィリピンの市場規模では小さ過ぎた。武器の輸出は好調だったものの、それ以外の分野は成長が見込めなかったのである。
日本はアジアにおける唯一の列強であり、国民の購買力も高い。
新たな市場として非常に魅力的だったのである。
しかし、日本への進出はあくまでも中国進出の足掛かりに過ぎなかった。
ドイツが中国で甘い汁を吸っているのを我慢できなくなったアメリカは、これを機会に本格的に大陸への進出を目論んでいたのである。
(モルガン商会といえば、震災前後処理公債の件で恨みを買ったことがあったなぁ……)
莫大な金額の復興予算によって、帝都の復興は迅速に行われた。
その原資となったのが、震災前後処理公債である。
この案件は、モルガン商会が先約で優先権があった。
日本の窮状を知って足元を見たモルガン商会は、途上国並みの高金利を設定していたのであるが、当然ながら交渉は難航していた。
平成会の要請を受けたテッドが、公債を英国の銀行団に引き受けさせたことにより、モルガン商会の公債購入はご破算となった。間違いなく恨まれていることであろう。
(しかも、モルガン商会の背後にいるのは裏社会の住民か。そんなのが進出してきたらロクな事ならんだろうなぁ……)
このころのアメリカでは、裏社会の住民があらゆる分野に進出していた。
金の匂いに敏感な彼らである。使えるならば、合法非合法の手段を問わなかったのである。
濡れ手で粟が信条なギャングやマフィアであるが故に、当初はめんどくさい政治経済には関わろうとはしなかった。しかし、国内の縄張りが安定してしまったことにより、新しい分野に進出する必要に迫られていた。
合理的思考な彼らは、苦手な分野には他所から有能な人材を充てることで対処した。その結果、政治経済に裏社会の住民が深く食い込むことになったのである。
(麻薬犯罪が激増しそうでヤダなぁ。やはり手を打っておく必要があるかな……)
本日何度目かのため息をつくと、デスクの電話に手を伸ばす。
「……もしもし? 急ぎの話があるから、今からそっち向かうんでヨロシク」
受話器の先から絶叫に近い声が聞こえたが無視である。
テッドの乗るシルヴァーゴーストが平成会館に向かったのは、それから10分後のことであった。
「唐突だけど、民政党の選挙資金についてどう思ってる?」
「クロですね。真っ黒です。ただ、大日本帝国中央情報局を動かしているのですが、国内でそれらしい資金源が見つからないんです」
「国内じゃない。民政党の選挙資金の出元はアメリカのモルガン商会だよ」
そう言って、テッドは書類を大会議室のテーブルに放り出す。
それを食い入るように見入る平成会のモブ達。しかし……。
「英語なんて読めるかーっ!」
「なんで日本語に翻訳して持って来てくれないんですか!? これだからチートオリ主は……!」
「えええええええええ!? なんで僕が怒られなきゃならんの!?」
テッドは元日本人でありながら英国に転生してしまったせいか、生まれながらのバイリンガルであった。普通に英語と日本語が読解出来るので、翻訳することを考えていなかったのである。
「ぶっちゃけるとモルガン商会……というより、アメリカは日本への市場進出を足掛かりにして、中国大陸への本格進出を狙っている。そのために民政党をバックアップしている。OK?」
「アメリカから資金が出ていたのですか。どうりで国内を探しても見つからないはずです」
「うちらの真似して選挙カーを走らせまくっているのが、アメリカの金だったとは……」
「そういえば、マスコミも妙に民政党に好意的な報道をしているような気が……?」
テッドの要約に、関心したり呆れたりと忙しい平成会のモブ達。
「あれ? 下手したら、うちらが負けかねない?」
「冗談じゃない。民政党が勝利してマニフェストが実行されようものなら、国の安全保障に深刻な影響が出るぞ!?」
「超円高で国内の工場が海外移転したら、正規雇用が無くなってしまうぞ!?」
「生前でも、マニフェスト詐欺に騙されて政権交代しちゃったのに、この時代の人間は純朴だから、コロッと騙されますよ!?」
同時に深刻な危機感も抱く。
中身がテッドと同世代なためか、彼らも生前は悪夢の民〇党時代を味わっていたのである。
「「「無敵の『チートオリ主力』でなんとかしてくださいよォーーーーーーッ!!」」」
「ちょ!? なんだそのチートオリ主力ってのは!? あぁもう縋るな纏わりつくな!」
どうやら、テッド以上にトラウマになっていたらしく幼児退行してしまった。
はっきりいって、ウザったいことこの上ない。
「「「す、すいませんでした……」」」
混合マーシャルアーツで物理的に説得を試みた結果、無事に正気に戻った平成会のモブ達。多少ボロボロになってはいたが、気にしてはいけないのである。
「あちらがマニフェスト詐欺とばら撒きで来るならば、こちらは徹底的にイメージ戦略で戦えば良いんだよ。幸いにして、まだ時間は残っている」
「うまくいくでしょうか?」
「ふっふっふ。僕に任せて。昔取った杵柄ってやつを見せてやるわ」
怖いくらいに不気味な笑みを浮かべるテッド。
彼自身も、生前は悪夢の民〇党時代に苦汁を飲まされていた。それ故に、今回の民政党のやり口を徹底的に潰すことにしたのである。
「やぁ、お邪魔しているよ」
「おや、町会長さん。どうなさったね?」
帝都のとある一軒家。
仕事を早上がりしたサラリーマンが帰宅すると、そこには馴染みの町会長が上がりこんでいた。
「これを受け取ってくれないか?」
「ちょ!? 十円札じゃないですか!?」
「これをやるから、今度の選挙は民〇党に投票を頼むよ」
さっさと去っていく町会長。
サラリーマンに出来たことは、札を握って立ち尽くすのみであった。
「うーん、困ったな。民〇党なんかに投票したくないしどうしたものか……」
投票日当日。
悩むサラリーマンは、重い足取りで投票所へ向かっていた。
「あ、そうだ!」
しかし、突然妙案を思い付いたとばかりに、警邏中の警官に駆け寄る。
「お巡りさん。これ落ちていましたよ」
そう言って、町会長からもらった10円札を手渡す。
そうして意気揚々と投票したのであった。
――以上は、選挙期間中に連載された啓蒙漫画である。
もちろん描いたのはテッドである。即興で描いた割にクォリティが高いのは、それだけ恨み骨髄ということなのであろう。
最後のコマには『選挙中の金品授受は犯罪です。速やかに警察に届けましょう』と但し書きが付いていた。
他の啓蒙漫画にもケースに応じて、普通選挙法違反やら買収罪、連座制適用など詳細に違法行為が記されており、これをやったら逮捕されるということが明確に理解出来るようになっていたのである。
テッドの選挙戦の啓蒙漫画は、主だった新聞で連載されて好評を博すことになる。しかし、テッドのターンはまだ終わらない。
『ところで、ドーセット公。今回の選挙については、どうお考えですか?』
『僕はイギリス人なので、投票することが出来ないのが残念です。世界的に見ても画期的な選挙なのですけどね』
『そうなのですか?』
『大英帝国は、議会制民主主義の先進国であることを自負しておりますが、女性参政権は完全に実現していないのです』
『それほどなのですか!?』
『そうです。日本の普通選挙はアジアのみならず、世界が注目しているのです』
『いやはや、ドーセット公ほどのお人にそこまでおっしゃられますと、我々も襟
を正さなければなりませんね』
『僕は日本人が、目先の利益に囚われることなく政権を選択してくれることを信じていますよ』
多少内容が露骨過ぎるきらいがあるが、もちろんやらせである。
大の親日家で、しかも流暢な日本語が話せるということもあり、テッドはラジオに出演することが多かった。それを利用して、選挙不正をしないように訴えたのである。
啓蒙漫画の連載と、ラジオ出演を掛け持ちを選挙期間中に続けた結果、日々の睡眠を削る生活をテッドは強いられた。右手にGペン、左手に栄養ドリンクを持って、もう一つの選挙戦を戦い抜くことになるのである。
「すみません。ちょっとよろしいですか?」
「な、なんでしょうか?」
警官の職務質問に、明らかに不審な態度を取る男。
手荷物からは大量の入場券が発見され、その場で替玉投票の現行犯で逮捕された。
彼は地元の有力者であった。
各家庭を訪問して、投票を棄権する人から入場券を高額で買い取っていたのである。
上述の光景は、投票日当日に頻発したケースである。
史実日本の一部の地域では、戦前から組織的な替玉投票が公然と行われていた。
今回の選挙で同様のことが起きることを危惧した平成会は、内閣調査部を通じて警告を発していたのである。
事態を重く受け止めた政府は、不慮の事態に備えるとの名目で全ての投票所に警察官を派遣した。その効果はてきめんであった。
テッドの選挙啓蒙漫画によって、替玉投票は違法であることは既に周知されていた。
替玉投票を狙って投票所に行ったら警察官がいた。
これだけで即Uターン案件であろう。それでも強行すれば、挙動不審で職務質問からの現行犯逮捕のコンボを喰らうハメになるのである。
「……時間です」
「よし、扉を閉めろ。これにて投票所は閉鎖する」
投票日当日の午後8時。
投票所は閉鎖され、開票作業が開始された。
「「「……」」」
開票立会人によって、投票用紙が黙々とカウントされる。
初めて故に不慣れさも目立つが、開票作業は完全にマニュアル化されており、流れ作業でスムーズに進んでゆく。ここらへんのノウハウは史実の公職選挙法がそのまま適用されていた。
(い、いかん。これでは手の出しようがない……)
開票作業に首尾よく潜り込んだものの、手を出す隙が無くて焦る男。
過去の開票作業で不正行為を成功させていたのであるが、今回の開票作業では何も出来なかった。
平成の世に生きた人間からすれば、当たり前過ぎて気になることでも無いのであるが、公職選挙法に基づく開票作業には不正防止のために厳重なチェックが何重も存在している。実際、史実日本において大規模な選挙不正は21世紀においても発生していないのである。
しかし、開票管理者と開票立会人を全て買収出来れば話は別である。
実際にそれをやった選挙区も存在したのであるが、その末路は悲惨なものであった。内部告発によって関係者が芋づる式に逮捕されたのである。
内部告発が多発したのは、テッドの政治啓蒙漫画が原因であった。
連座制による悲惨な末路がこれでもかと描写されており、それを読んで危機感を抱いた人間が我先に内部告発に走ったのである。
結果として、次点だった政友会と平民党の議員が繰り上げ当選することになった。大躍進したと当初は歓喜した民政党であったが、文字通りの三日天下だったのである。
「……ドーセット公。お疲れのようですが、大丈夫ですか?」
「陛下にご心配をおかけしてしまうとは、汗顔の極み。申し訳ございません」
テッドの惨状を見て絶句する裕仁親王。
髪は整えられていたものの、睡眠不足による目のクマがはっきり出ており、顔色も悪く憔悴していた。その様子は、脱稿直後の漫画家の如しであった。
選挙の翌日。
裕仁親王からお茶会に誘われたテッドは、明治宮殿に参内していた。
「それにしても、民政党の政策は今までと大きく方向性が異なりますが、実現出来るものだったのでしょうか?」
「はっきりいって不可能ですね。そもそも、民政党にマニフェストを実現させる気は無かったでしょうし」
酒の肴ならぬ、お茶の肴は当然ながら今回の選挙についてであった。
初めての普通選挙ということもあり、裕仁親王も強い興味を示していたのである。
「選挙公約は実現させることが前提でしょう。それでは詐欺では無いですか」
「あくまでも政権奪取が目的なので、それでも良いのですよ。仮に政権をとっても、陛下の手前、そこまで好き勝手は出来ないでしょうけどね」
「なんと……」
絶句する裕仁親王。
民政党のやり口は、この時代の日本人の理解の範疇を超えていた。
「……僕の生きていた時代でもあったのですよ。悪夢の民〇党時代と言われていました」
「それは、いったいどのようなものなのですか?」
「バラ色のマニフェストを唱えて政権奪取に成功しましたが、全てが真逆の結果に終わってしまいました」
「なるほど、今回の民政党と同じですね」
「次の選挙で大敗して政権の座を追われたのですが、それまで国民は塗炭の苦しみを味わったのです」
思い出すのも忌々しい様子なテッド。
超円高によって雇用は海外に流出し、安価になった輸入品が国産を駆逐して市場を荒らす。とどめに、原発被災時に自称専門家がいらんことをやって事態を悪化させるなど、彼にとってはトラウマレベルの悪夢であった。
「そんなわけで、今回は全力で民政党潰しをしたのですが、それだけではありません。民政党には、アメリカのモルガン商会から大量の資金が流入しています」
「モルガン商会といえば、確か震災前後処理公債の……」
「そのとおりです。おそらくですが、あのころから日本に狙いを定めていたのでしょう」
震災前後処理公債に高い利子を設定したうえで、利子の低減を餌にして日本の市場への有利な条件での参入をモルガン商会は目論んでいた。しかし、テッドの口利きで英国の銀行団が引き受けたことによって、ご破算になっていた。
今回の選挙では、民政党に肩入れしてアメリカ流のマネーイズパワーな選挙戦術で戦ったのであるが、テッドのイメージ謀略によって再び潰された。テッドは、相当にアメリカの裏社会から恨まれていることであろう。
「あの商会は、アメリカの裏社会の意向を強く受けています。民政党が勝利すれば、ロクなことにならなかったでしょうね」
実際、モルガン商会の背後にいるマフィアやギャングは日本に麻薬を流通させるべく暗躍していた。民政党への巨額の政治献金も、日本で麻薬を売り捌けば十分にペイ出来ると計算していたのである。
「彼らの本命は大陸への進出です。今回も阻止出来ましたが、日本は狙われ続けるでしょうね……」
ため息をついて、お茶をすするテッド。
今回のお茶請けは鶴屋吉信の柚餅である。しかし、やわらかな食感と共に口の中に広がる爽やかな柚の香りも、彼の気を晴らすことは出来なかった。
1925年に実施された普通選挙は、政友会の圧勝に終わった。
新たに発足した後藤内閣は、原内閣の政策を引き継いだ。しかし、対中政策に関しては大きく変更されることになるのである。
狙ったつもりでは無いのですが、結果的に時事ネタになってしまいましたw
今回の話で選挙を扱うことは最初から決まっていました。1925年は、史実日本で普通選挙が初めて実施された年でしたし。
ただまぁ、想定以上に筆が進んでしまいまして。
今月末の予定が月初めになってしまいました(汗
それはそれとして、結果的にアメリカの謀略を二度潰したテッド君は、そのうち刺客でも送られるかもしれませんね。マフィアやギャングの報復は、相手が誰であろうとお構いなしですからねぇ…(南無




