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第56話 ボーイスカウト姿のおっさんに振り回される平成会


「それでは、第20回帝都復興ミーティングを開催するっ!」


 丸眼鏡にひげを蓄えた、ボーイスカウト姿の男が上座で吠える。

 平成会館の大会議室は異様な空気に包まれていた。


「ご、後藤さん。もう勘弁してください……」

「俺らここ最近、全然眠れてないんですぅ……」


 対する出席者は目にクマを作り、顔も青白い。

 絵にかいたようなグロッキーな方々は、言うまでも無く平成会のメンバーである。


「馬鹿もんっ! 貴様ら若人(わこうど)がそのようなことでどうする!? 帝都復興のためには1秒でも惜しいのだぞっ!?」


 ボーイスカウト姿のおっさんこと、後藤新平(ごとうしんぺい)の言葉は事実であった。

 平成会の尽力によって、帝都復興に必要な予算は確保された。あとは復興計画を立てて、それを実現するのみだったのである。


 復興予算が成立したことを知った後藤の行動は、迅速(じんそく)であった。

 直ちに平成会館に突撃して、史実の偉人オーラ?でその場を掌握(しょうあく)したのである。


『共同溝? そんなもの無くても困らないでしょう?』

『分かってないな。帝都を世界に誇れるものとするには、絶対に必要なものなのだ』

『いや、共同溝よりも先に整備すべきものがですね……』

『むしろ、真っ先に整備すべきものだろこれは! 何故それが分からん!?』


 後藤は有無を言わせずに、自らの持論を復興計画に捻じ込ませた。

 史実を知るチート集団と言えど、所詮はモブの集まり。史実の偉人に勝てるはずも無かったのである。


(こやつらの素性は分からぬが、高度な教育を受けているのは間違いない。英国との強力なコネもあるし、徹底的に使い倒さねば……!)


 後藤は平成会のメンバーが高度な教育を受けていることを見抜いていた。

 詰め込みだの、画一的だの批判の対象となることが多い史実戦後の義務教育であるが、この時代であれば平均を遥かに超えたレベルであるのは間違い無い。


 有能ではあるが、プライドが高い省庁の官吏(かんり)に比べて従順で扱いやすいのもグッドである。ゆとり世代なのでプライベートを優先したいのであるが、平成会の今後の立ち位置を確保するために社畜にならざるを得なかったのである。


 JCIA(大日本帝国中央情報部)を傘下に置いているために国内外の情勢に通じていて、こちらが望めば大概の情報は詳細な資料付きで出してくれるのもありがたい。おかげで、彼の仕事は大いに捗ることになった。


 これに加えて、英国との強力なコネもある。

 こんな使い勝手の良い人材集団を見つけてしまったら使い倒すしかない。後藤の要求は日々、苛烈さを増していたのである。


「……このままだと、あのボーイスカウト姿の悪魔に過労死させられてしまう」

「あのおっさんの魔手から逃れる方法を探さないと。それも早急に!」

「重要で忙しい役職に就かせれば良いのでは?」

「それがいい! 早速、原総理に相談しにいこう!」


 もちろん、平成会も無策では無い。

 後藤を適切なポストに就任させて業務に忙殺させるべく原に相談した。その結果は、時を待たずにして彼ら自身が思い知らされることになるのである。







「それでは、ミーティングを開始する。今回は鉄道復興についてである。各自、忌憚のない意見を出し合ってもらいたい」


 帝都復興省の会議室には、鉄道分野の有識者が集められていた。

 そんな中で、明らかに場違いな雰囲気の若者達。


(どうしてこうなった……!?)


 内心で頭抱えるモブ1。

 平成会の要請を原は快諾し、後藤を新設した帝都復興省のトップに就任させた。


 国家予算を超える規模となった復興予算を取り扱うには、『院』レベルでは不適格として『省』に格上げして権限を強化したのが帝都復興省である。最高責任者は大臣となり、ここに帝都復興大臣後藤新平が爆誕したのであった。


 帝都復興省は、帝都において最も忙しい部署である。

 そんな部署の最高責任者となれば、平成会にちょっかいをかける暇なんぞ無くなるはずだったのである。


「まさか、アドバイザーとして強制参加させられるとは……」


 モブ1の隣で苦笑いするモブ2。

 大臣となった後藤は、平成会を私的なアドバイザーに任命。事あるごとに会議に召喚していた。有識者扱いで日当が出るのがせめてもの救いであろう。


「……山手線の復旧は至急の問題であるが、現状はどうなっておるのかね?」

「とても需要を満たせる状態ではありません。比較的損傷の少ない車両を応急修理して運用を再開していますが……」


 後藤の質問に、言いにくそうに答える鉄道省の技術者。

 関東大震災を見据えた耐震構造化により、この世界の山手線の被害は軽微にとどまり、震災の翌日には営業を再開していた。


 史実よりも5年早く環状線として完成した山手線の需要はうなぎ登りであった。

 これに加えて、被災民が帝都から引き上げる傾向が未だに続いていた。被災民が山手線や中央本線、総武線を圧迫して、肝心の通勤ラッシュに対応出来ない状態が続いていたのである。


「はっきり申しまして、増車しても対応が追い付いていません」

「ふむ……」


 ちらりと反対側のテーブルを一瞥する後藤。

 待ってましたとばかりに手を挙げたのは、平成会のモブ2であった。


「山手線の需要は、今後も増大しこそすれ減ることは有り得ません。通勤用の新型車両を導入するべきかと」


 生前の彼は、〇Rの鉄道技術者であった。

 会議室のテーブルに広げたのは、自らが設計した新たな通勤車両の設計図だったのである。


「大きいな……20メートル級か?」

「はい。従来の17メートル級よりも大きくなりますが、その分人数を載せられます」


 平成会側が提出したのは、史実の国鉄40系をリニューアルしたものであった。

 40系は、鉄道省の電車としては初めて全長20m級の鋼製車体を採用していた。


「ドアが5つだと!? しかし、これならば大量の通勤客を捌けるな……」

「ラッシュアワーに対応するには、立ち乗りで大量に載せるしか手はありませんが、ドアも増やさないと片手落ちになりかねませんので」


 オリジナルとの相違点は、3ドアの間に2ドア新設して5ドア化していることである。

 平成の世を生きた人間からすれば、通勤電車が5ドアや6ドアなんて珍しいものでは無いのであるが、こちらの世界では斬新であった。


「とはいえ、これではラッシュアワー時以外でのサービスが低下します。そこで……」

「ほほぅ。2ドアを塞いでドアの上から座席を下ろすか。面白いな!」


 ドアを増やしてシートを減らせば、大量の立ち乗り客を短時間で乗り降り可能であるが、ラッシュアワー時間以外でのサービスが低下する問題があった。


 史実においては、京阪電鉄の5000系が時間外は2ドアを閉鎖して座席を下ろすことで対応しており、それを今回の新型通勤車両の設計に取り入れたのである。


「君、この天井の大きな機械は何かね?」

「これは冷房装置です。国内のとある企業の協力により実現致しました」


 今まで無言で設計図を眺めていた鉄道省の工作局長である島安二郎(しまやすじろう)が口を開く。よくぞ聞いてくれましたとばかりに、胸を張るモブ2。


『夏の東京をエアコン無しで凌げるわけないだろ!?』


 軟弱ボーイな平成会メンバーの魂の叫びによって、あらゆる手段でエアコンの実用化が図られた。設立されたばかりの大阪金属工業所に多大な資金と技術を援助した結果、この世界で初となる冷凍機『ミフジレーター』が完成したのである。


 冷媒にフロンを使用することで史実よりも小型高性能化を果たしており、鉄道車両に搭載出来るサイズにおさめることが出来た。


 このミフジレーターは、潜水艦の空調用に大量に発注され、やがて巡洋艦や戦艦の弾薬庫の冷却、艦内の冷房用として大いに使用された。副産物として、家庭用エアコンの実用化も大いに早まったのである。


 新型車両の高コストぶりに難色を示した鉄道省であるが、結局採用された。

 1924年にデビューした新型車両は、その能力を遺憾なく発揮してラッシュアワーを捌いたのである。


 ラッシュアワーのピーク時は、200%近い乗車率であった。、

 夏場に冷房が無かったら最悪人死にが出ていた可能性もあったわけで、全車冷房化は大正解であった。


 国内どころか、世界で最も早い段階で全車冷房となった山手線であるが、夏場に手軽に涼める場所として、ラッシュアワー以外の時間帯に居座る乗客が激増した。


 環状線であるから、その気になれば終電まで居座ることが可能なわけで、苦肉の策として駅構内の売店を充実させた。少しでもお金を落としてもらおうというわけである。そんなわけで、山手線一帯の駅構内の売店は異常に品ぞろえが良く、それを目当てに居座る客が増えるという悪循環であった。


 最終的に鉄道省も開き直ったのか、納涼船ならぬ納涼列車を運行した。

 車内は編成ごとに異なっていたが、お座敷やテーブル席が用意されており、車内販売やレストランも充実していた。この納涼列車は、帝都民の夏の涼み場所として完全に定着することになるのである。







「……平成会から何か意見は無いかね?」

「あっ、はい。この機会に全国の鉄路を標準軌に統一すべきだと思います」


 後藤の質問に迷いなく答えるモブ1。

 不本意な参加とはなったが、それなりに鉄道に関する知見は持っていた。


「異議ありっ! あまりにも費用がかかりすぎます。そもそも我が国が狭軌を採用したのは建設費用の節約のためだったはずです!」


 鉄道省の技術者の一人が異議を唱える。

 史実日本で狭軌が採用されたのには諸説あるのであるが、その一つが建設費用の問題であった。


 標準軌を狭軌にしたところで、どの程度のコスト削減効果があったのかは不明である。

 しかし、安く建設出来たのは間違いない。この技術者の言い分も一理あった。


「確かに、全国の鉄路を改軌するには莫大な資金が必要になりますが、軌道を統一することは効率的な運用につながります。20年もしないうちに初期投資を回収出来るでしょう」


 即反論するモブ1。

 生前の彼は歴史ゲーの内政厨であった。効率にひたすら拘る性格であり、さっさと標準軌に統一したほうが後々楽になると考えていたのである。


 石頭どもを説得出来るだけの根拠ある数字も用意していた。

 この時のために、平成会で試作した真空管技術を応用した計算機をフル稼働させてプレゼン資料を作っていたのである。


「……改軌には私鉄も含まれるのかね?」


 島は念押しするように確認する。


「私鉄も改軌の対象です。これは明確に法で定めるべきだと思っています」

「だが、改軌は私鉄にはかなりの負担となるぞ?」

「国庫から低利で融資する形で補助をすれば良いかと」


 このことが発端となり、私設鉄道法第40条が改正された。

 これまで定められていた三六軌間(狭軌)から標準軌へ転換するように明確に定められたのである。これは事実上の強制であったが、国が工事資金の7割を低利で融資(場合によっては全額)するので、零細な私鉄でも少ない負担で転換が可能であった。


「ふむ。付け加えるならば、三線軌条として工事完了後に狭軌線路を外すせば良いだろう」

「その方法ならば改軌中に列車の運休を必要としませんね。全面的に採用するべきでしょう」


 平成会側の回答に満足する島。

 史実では、後藤新平と組んで改軌を目論んだが果たせなかった。しかし、この世界では念願の成就を果たすことが出来たのである。


 史実の改軌計画は、線路の強化や車両限界の拡大を後回しにした応急処置的な意味合いが強いものであった。この世界でも同様であり、応急工事で標準軌に対応させた後、補修を兼ねた改修工事で順次対応していったのである。


 全国の鉄路が標準軌で統一されたことで国鉄・私鉄・地下鉄で相互直通運転が可能となり、輸送効率は大幅に向上した。投じられた予算は最終的に膨大なものとなったが、それに見合うだけのリターンは得られたのである。


 鉄道の標準軌化は、意外なところに波及効果をもたらした。

 朝鮮半島を事実上支配している英国は半島内に鉄道を敷設していたのであるが、そのゲージは標準軌であった。


 半島を南北に縦断する鉄道網により、北部の鉱産資源と南部の紅茶や畜産物を港まで運んでいたのであるが、貨車から船に積み替える必要があるために余計な時間がかかっていたのである。


 しかし、朝鮮半島と日本国内の軌道が一致したことで鉄道連絡船による車両航送で国内への直接輸送が可能となった。英国面、もとい、英国製の機関車が朝鮮半島から、そのまま国内の線路を走れるようになったのである。クラスA4型やデルティックが、山陽本線や東海道本線を爆走する光景は、この世界ならではのことであった。







「改軌の見通しが立ったことは、我が国の鉄道行政の大きな前進です。しかし、だからこそ早急に自動連結器を導入する必要があります」


 関西鉄道時代からの念願を果たした島であったが、そのことに満足する暇も無く新たな問題を提起する。


 自動連結器は、文字通り車両の連結を自動で行う連結器である。

 21世紀の史実日本では当たり前の装備であるが、当時は様々な規格が混在しており、人力による連結と開放には危険が伴った。


 1925年のデータによると、国鉄の連結手1810名のうち年間の死傷者は537名にのぼっている。3人に一人が死亡ないし、負傷している計算となる。連結作業はそれだけ危険を伴う作業だったのである。


「改軌が決定した以上、連結器も当然ながら統一されるのが望ましい」

「自動連結器ならば安全性も大幅に向上するので是非採用するべきです」


 他の鉄道省の技術者からも反対意見は出なかった。

 しかし、連結器の交換には問題があった。


「業務を止めないためにも一斉交換が望ましいが、鉄道省だけでも6万近い貨車がある。これを一斉交換するのは不可能だ」


 機関車や客車は数が少ないし、場所も特定出来るので一斉交換は不可能では無かった。

 しかし、貨車の数はけた違いである。頻繁に付け替えるので場所の特定が難しく、事前に連結器を集積しておくことが出来なかったのである。


「……事前に貨車に交換用の連結器を括り付けて、機を見て一斉交換というのはダメなんですか?」

「「「それだーっ!」」」

「ええー!?」


 コロンブスの卵のようなアイデアは、満場一致で採用された。

 じつは史実でも採用されており、平成会側も史実を知っていたからこそ発言したのであるが、まさか満場一致で採用されるとは思ってもいなかったようである。


 北海道、本州、四国、九州、さらに海外領土も加えて、自動連結器への一斉交換が1924年中に実施された。鉄道省、私鉄、さらに地下鉄まで全て互換性のある自動連結器に交換された結果、輸送効率のさらなる向上を果たすことになるのである。


 過去に改軌論争と連結器の採用で散々に苦労してきたのに、今回の会議であっさり成就して複雑な心境の島であるが、ここで満足するつもりは無かった。ここぞとばかりに空気ブレーキを採用を働きかける。


「我々も空気ブレーキの全面採用を提言します」


 平成会も援護射撃を加える。


「自動連結器と空気ブレーキはセットで考えるべきです。この二つが採用されれば、事故を大幅に減らすことが出来るでしょう」


 空気ブレーキは貫通ブレーキの一種である。

 貫通ブレーキとは、機関車のブレーキに連動して客車にブレーキをかける仕組みであるが、この時代だと客車はともかく、貨車にはほとんど装備されていかった。


 貨物列車には貫通ブレーキが無いために、列車の中間に手ブレーキを設備した緩急車を適当数連結していた。車掌がこれに乗込んで手ブレーキをかけるのであるが、円滑な停車は難しく車掌の負担は大変なものであった。


 最終的に、平成会のゴリ押しによって空気ブレーキは標準化された。

 空気ブレーキが未装備の貨車は点検時に追加装備することとし、新造される貨車には最初から装備が義務付けられたのである。


 かねてからの懸案であった改軌論争と連結器、さらに空気ブレーキの採用の目途が付いたことで、島は平成会に好意的となった。ついでに、厄介ごとも持ち込むことになるのであるが、それが語られるのは、また別の話である。







平成会(我々)からも提案があります。これですっ!」


 そう言ながら、大テーブルに大判な用紙を広げる平成会のモブ3。

 カラフルなラインと文字が配列された図面の内容を理解した参加者たちは驚愕する。


「こ、これだけの路線を帝都の地下に建設するというのか……!?」


 この時代の人間が、史実の東京メトロと都営地下鉄の路線図を見せられば驚愕するのも当然であろう。


「……ここまでやる必要があるのかね?」


 後藤もドン引きしていた。

 日本における鉄道の先覚者といえど、史実東京の変態的地下鉄網は理解出来なかったようである。


「この写真を見てください。アメリカ、ニューヨークの現在です」

「これは……!?」


 平成会が提出した写真には、渋滞するマンハッタンが写っていた。

 摩天楼(まてんろう)の上層部は霞み、上空は見えなくなるほどの光化学スモッグで覆われていた。


 第1次大戦に参戦しなかったことで民需に特化せざるを得なかったアメリカでは、史実よりも早くモータリゼーション化が進行した。それは同時に、慢性的な交通渋滞や排ガスを原因とする大気汚染、交通事故などの社会問題を引き起こしていた。


「そういえば、最近の帝都も自動車が増えたような気がするな……」

「うむ、じつはわたしも車を買ってなぁ」

「オースチンは免許いらずですぐ乗れるので助かるよな!」


 日産は1923年末にオースチンと技術提携を結び、『日産・オースチン』のブランドで生産を開始していた。日本の道路事情に合わせて多少の改修が加えられていたが、実質的にはオースチン7の兄弟車であった。


 ちなみに、この世界では史実よりも10以上年早く日産が創業していた。

 第1次大戦による空前の好景気で、日産コンツェルンが手当たり次第に業績を拡大した影響なのであるが、オースチンと提携する前はヤ〇セのような輸入車販売がメインであった。


 当時の法律では、750cc以下の自動車は無免許で運転出来た。

 そのため、小型で価格の安い日産オースチンが医者や弁護士など比較的裕福な層に爆発的に売れていた。


 現状は日産の一人勝ち状態であったが、そのことに危機感を抱いた史実の同業他社も続々と自動車製造に参入していた。この世界の日本のモータリゼーション化は、もはや不可避だったのである。


「建設中の帝都高速まで完成したら、上京のために周辺地域から車が殺到するでしょうね」

「そんなことになったら……!?」


 写真で見せられた光景が、帝都でも繰り広げられる未来を想像して技術者たちは青ざめる。


「自動車の便利さを否定するつもりはありませんが、増えすぎはよくないです。交通事故による死亡者もうなぎ上りになることですし」


 モブ3は、生前は生粋の鉄オタで自動車嫌いであった。

 そのため、多少、いや、かなり私怨(しえん)が入ってはいたが、十分にあり得る未来ではあった。


「なるほど。地上の渋滞を地下鉄で緩和するわけだな?」

「それだけではありません。地下構造物は地震に強い。地震の多い我が国に相応しい交通インフラなのです」

「確かにそのとおりだ」


 大いに納得する後藤。

 他の参加者からも反対意見は出ず、帝都における地下鉄建設は既定路線となったのである。


「……ところで、地下鉄は第3軌条方式なのかね?」

「第3軌条式は速度発揮に不利ですし、騒音問題もあるので却下です」

「地下に架線を張る気かね?」

「剛体架線を用いれば、トンネル断面を縮小することが可能です」

「なるほど、建設費と工期が節約出来るな」

「車両限界は、地上と合わせるので、そこまで小型化は出来ませんけどね」

「そこは、架線とパンタグラフの構造を見直すことでなんとかなるのではないかね?」

「なるほど!」


 島の疑問に返答するのは、モブ2である。

 同じ鉄道技術者であるためか、すっかり打ち解けて専門用語のキャッチボール状態であった。


「とはいえ、これだけの地下鉄網を一気に作るのは無理がある。帝都の中心部から近郊に伸ばしていくべきだろう」

「それが無難かと。あとは運営ですが、国が出資して独立採算制の特殊法人を起ち上げてはどうでしょう?」

「建設の認可はくれてやるから後は自前でやれ、か。良いじゃないか」


 最終的に後藤と内政厨(モブ1)の両名によって、帝都高速度交通営団が発足。

 帝都の地下鉄建設を一手に引き受けることになる。


 ちなみに、営団は特殊法人の一形態であるが、この時代には存在してしない。


『やっぱり営団地下鉄じゃないと、しっくりこない』


 この時代には無いはずの概念を作り出したのは、平成会であった。

 しかし、使い勝手の良い特殊法人格だったためか、史実の三営団にとどまらずに多くの営団が誕生することになるのである。







「中佐。平成会はどうでしたか?」

「聞きしに勝る連中だ。奴らを手駒に出来れば、国家総力戦を戦い抜くことが出来るだろう」

「それほどですか……!」


 帝都の三宅坂に所在する参謀本部。

 震災の爪痕が未だに生々しい一室で、二人の将校が話し合っていた。


「彼らによって、国内の軌道の統一が決定した。これは兵站の面で大いに有利となるだろう」

「兵の移動が迅速となりますね。素晴らしいことです」


 この時代の陸軍と鉄道は切っても切れない関係であった。

 そのため、陸軍からも鉄道復興ミーティングに人材を派遣していたのである。


「それだけではないぞ。帝都の地下に大規模な鉄道網を整備するとのことだ」

「帝都内で極秘裏に兵力を配置するのに役立ちそうですな」


 彼らは軍人である。

 当然ながら、視点もそちらに偏りがちであった。


「標準軌と言ったか? 満鉄と同じ線路幅だそうだ」

「確か、英国も同じ標準軌だったはずです。今後は朝鮮から直接汽車が走ることになるでしょうな」


 英国が朝鮮半島内に整備を進めている鉄道網は標準軌であった。

 従来は釜山港まで鉄道で輸送し、そこから船に積み替えていたのであるが、日本国内が標準軌に統一されたことにより、鉄道連絡船による車両航送に切り替えられることになる。


「で、あれば逆のことも出来るようになるわけだ」

「朝鮮半島を経由して、迅速に満州へ兵を送ることが可能になります」

「無論、英国の了承が必要となるが。外務省に頑張ってもらう必要があるが、奴ら無能だからな。どうなることか……」


 現状の満州は、お世辞にも経営が上手くいっているとは言えない状況であった。

 現地の中国人に無条件に歓迎されるドイツ人とは対照的に、日本人は蛇蝎のように嫌われて陰に日向に嫌がらせを受けていたのである。


 満州の治安を維持する立場である関東軍も事態を憂慮しており、参謀本部内でも関東軍の戦力拡充が叫ばれていた。しかし、馬鹿正直に増援を送ると衆目を集めて、ソ連を刺激しかねない。そこで浮上したのが、鉄道で朝鮮半島を北上する案であった。


 船で黄海を渡るよりも朝鮮半島を鉄道で北上したほうが圧倒的に速いし、目立たない。

 実現が困難であることを差し引いても、そのメリットを無視することは出来なかったのである。


 ちなみに、この計画を実現するにあたって、ネックとなったのが東海道本線と山陽本線である。国内が標準軌に統一されて、鉄道省、私鉄、地下鉄が自在に行き来出来るようになれば、この両幹線にトラフィックが集中することは誰の目にも明らかであった。


 問題の解決には、第2の東海道本線・山陽本線を建設するしか手は無かった。

 この世界では、弾丸列車構想が史実よりも早期に具体化していくことになるのである。


「……話を戻そう。平成会は他にも革新的な政策を進めている」

「軍内部にも、平成会のシンパが増えているとの話も聞きます」

「新しい分野へも、惜しみなく金を出しているな。こう言っては何だが、まるで未来が見えているようだ」

「なんというか、不気味ですな」

「だが、それだけに使い方を間違えなければ大いに力となってくれるだろう」


 二人とも史実では陸軍のビッグネームである。

 片や永田鉄山(ながたてつざん)、片や石原莞爾(いしわらかんじ)


 二人は独自の長期的戦略構想を持っていた。

 永田は、将来不可避であろう世界大戦に対処するために、国家総動員と戦略資源の確保が必須と考えていた。一方で、石原は20世紀後半に起こるであろう日米最終決戦に向けて、日本がアジアを統括する地位に立つ必要があると考えていた。


 この戦略を実現するためには、平成会の進める政策は不可欠であった。

 それ故に、二人は平成会に接近していくことになるのである。







「……どうだったかね? 平成会の様子は」

胆力(たんりょく)が足らん。だからこそ御しやすいとも言えるが」


 ため息をつく後藤新平。

 そんな彼に、部屋の主である原敬は苦笑する。


「まぁ、そう言ってやらんでくれ。あぁいう連中なのだから……」

「しかしだな。あぁも弱腰だと、そのうち良いように利用されかねんぞ?」

「あり得るな……」


 後藤の指摘に唸る原。

 この時代の人間からすれば、ゆとり世代な平成会メンバーは軟弱に見えてしまうのである。


「軍部でも目端の利くものは平成会に注目し始めている。このままでは、軍拡のために利用されかねん」

「ようやく政党政治が根付いてきたのだ。軍部のちょっかいは避けたいところだな」


 二人は平成会の能力を高く評価していた。

 それだけに、悪用されるのは是が非でも避けたいと考えていたのである。


「いっそ、軍部に囲い込まれる前に、こちらから囲ってしまうか」

「どういうことかね?」

わしが作った調査部が、思った以上に役立っていてな。平成会なら同じことが出来るだろう」


 満鉄調査部は、後藤が満鉄総裁時代に設立した組織である。

 史実日本における元祖シンクタンクとでも言うべき組織であり、その集めた情報は大いに役立てられた。


「そういうことならば、内閣直属の国家機関にしてしまうべきだろうな」

「それは良い。国家機関にしてしまえば、多少の干渉も跳ねのけられるだろうし」


 平成会の政府出向機関とでも言うべき『内閣調査部』の設立が決定した瞬間であった。内閣調査部はJCIA(大日本帝国中央情報部)と強い関係を持っており、その優れた情報収集能力と分析能力は歴代内閣の大いなる助けとなるのである。


「というわけで、次期総理は後藤さんにお願いしたい」

「ちょっと待て。なんでそうなる?」

(しっか)りとした組織にして欲しいのと、組織の具体的な運用例を周囲の人間に見せて欲しいのだよ」

「やれやれ、いい加減引退してボーイスカウトの育成に専念したいんだがなぁ……」


 ぼやきながらも、まんざらでもない様子の後藤。

 このとき、平成会の誰もが言いようのない悪寒を感じたという。


 後に成立した後藤内閣において、内閣調査部の活動が本格化した。

 ありとあらゆる方面から情報を集め、分析した結果を後藤は最大限に活用して政敵を黙らせていったのである。


 内閣調査部の情報収集は、民間が中心であった。

 非合法&軍事色の強いJCIAと連携するにあたって、自然に分業する流れが出来たのである。


 情報を分析するのは主に平成会のメンバーであったが、外部の専門家や有識者も活用された。情報に史実知識を混ぜて吹き込むことで、有能ではあるが危険な思想を持つ人間を転向させることが目的であった。


 実際、幾人かは転向して平成会に協力するようになったので、そのこと自体は無駄では無かった。しかし、どれほど真理を説いても、どれほど正確な数字を出しても、最初から結論ありきの人間には意味をなさないのである。


『日本語を話しているはずなのに、意味が通じてない……』

『〇イッ〇ーでも、こういうの結構いたよな。迷惑過ぎる』


 ――とは、実際に説得にあたった平成会メンバーの言であるが、彼らは事実を指摘されても受け入れようとはせず、より先鋭化して害悪をまき散らすので手に負えない存在なのである。


 そんなアンタッチャブルな方々を相手にしつつ、内閣調査部の仕事で連日のデスマーチ進行を強いられるハメになった平成会メンバーは、誠にご愁傷様と言えよう。


 もっとも、最大の被害者はテッド・ハーグリーブスなのであるが。

 最終的に回り回ったヘイトを一身に背負うこととなり、大連続狩猟――もとい、襲撃を喰らうことになるのは、割と近い未来のことであった。

平成会が国家の犬になりました(酷

今までは裏でこそこそやってたのが、大手を振って国政に関われるようになったわけです。

その分、厄介ごとも加速度的に増えていくことになりますがw


永田鉄山と石原莞爾が初登場。

今後も平成会とテッド君に絡んでくることになります。


でも、永田鉄山は数字を見て現実を理解出来そうですが、石原莞爾はどうでしょうね?

どっちも同じくらいに有能なはずなのに、どうも石原莞爾は精神論に偏っている気がします。


昭和陛下とお茶会が出来るテッド君は、君側の奸として皇道派からめっちゃ嫌われることでしょう。満州撤退を進言したことがバレれば、統制派(満州派)からも嫌われることは確実です。

あれ? 陸軍ほぼ全て敵に回してね?(滝汗

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― 新着の感想 ―
[一言] 国政に関われば、仕事がブラック企業並みになる。
[良い点] モブな平成会に幸あれ。 [一言] 更新お疲れ様です。 明治の遺風を受け継ぐ政治家と未来知識を持つ平成会が組めばまあこうなるよなと。 何気に「我田引鉄」やらかして標準軌改正に反対し続けてい…
[一言] 何、日本帝国陸軍に嫌われても、 未来の技術をもった嫁さんとMI6が危険人物をさっくり捕まえて 天皇陛下の前に晒してくれるだろうよ
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