第52話 帝都復興に奮闘する平成会
帝都の丸の内に立つ鉄筋コンクリート造りのビルディング。
さして高くない建物であるが、周囲の建物が倒壊しているせいで異様な存在感を醸し出していた。
『平成会館』と名付けられたビルは、平成会の新たな拠点として建築されたものであった。装飾を廃した大人しめな外見ではあるが、使い手たる平成会の意向が反映された結果、その内装や設備には史実21世紀の知識が活かされていた。
日本興業銀行本店など一部の例外を除けば、丸の内のビル群には大きな被害が出ていた。しかし、平成会館は史実21世紀の日本の耐震基準を満たすだけの強度を持たされており、関東大震災を見事に耐え抜いていたのである。
そんなビルの一室に集まるMob一同。
言うまでもなく平成会のメンバー達である。
「やぁ、生きていたか」
「お互いにな。史実知識として知ってはいたが、あそこまで凄まじいものだとは思わなかった」
「……お二方は、まさか帝都に留まっていたのですか? 物好きというか、酔狂ですね」
「震災で道路が寸断されて通行不能になるんだから、それくらいなら最初から帝都に居たほうが良いだろ」
「そういうお前はどうしてたんだよ?」
「千葉に避難していました。震災後は海路で帝都入りしました」
「「なにそれ、ずっこい……」」
関東大震災による帝都被災から2週間。
救援活動がひと段落したことで、次善策を協議するべく平成会の会合が緊急招集された。方々に散っていた平成会のメンバーは、まずはお互いの無事を喜んだ。しかし、それもわずかな時間であった。
「犠牲者の集計が出ました。死者・行方不明を合わせて3万人超とのことです」
「そんなにか……!?」
「これでも大幅に少ない犠牲者数です。史実だと10万人以上ですからね」
「理屈は分かるが、心情的にやりきれないな……」
ため息をつく平成会のメンバー達。
史実よりはマシとはいえ、大量の犠牲者が出たことは彼らの気持ちを重くしていた。
「とはいえ、亡くなった人間は帰って来ない。生き残った人間は、やれることをやらなければならん」
「その通りです。帝都を復興することが犠牲者への手向けとなるでしょう」
平成会とて人の子である。
この時代に生きる人間との付き合いは当然あるし、その中には親しい友人や恋人もいた。
震災当日の帝都から逃す適当な理由が見つからない限り、彼らを見殺しにするしか無かった。その負い目が、平成会を帝都復興に駆り立てていたのである。
「陸軍によって帝都内の交通と治安は回復しつつあります」
「もう少し早く現地入りしてくれれば、混乱による犠牲者はもっと少なく出来たのだろうが……」
「とはいっても、原因がアレではしょうがないでしょう」
「まさか、ヤンキーのビルが地震に弱いなんて思わなかったよ」
この世界の帝都は史実以上に発展していたのであるが、関東大震災によって逆に被害を増すことになった。
急激な経済発展によってビルの施工にスピードが求められ、新しく建てられたビルは旧来の工法ではなくアメリカ式の鉄骨造ビルディングが主流であった。しかし、この形式は地震というものを考慮していない新大陸だから成り立つものであった。
『東洋のマンハッタン』と称られた帝都中心部は、瓦礫の山と化した。
アメリカ式の鉄骨造ビルディングは、鉄骨構造そのものは関東大震災に耐えたのであるが、壁面が耐え切れずに崩壊してしまった。大量の瓦礫は道路を完全に塞いでしまい、陸軍の到着が遅れる原因となったのである。
「そもそも、災害時に自衛隊のような活躍を陸軍に期待したのが間違いですよ。完全に外征部隊に特化してますし」
「史実の自衛隊がおかしいんだ。あんなに災害に特化した軍隊は普通あり得ない」
「野外入浴セットなんて装備しているのは自衛隊ぐらいでしょうね……」
基本的に軍隊は災害時に有用である。
史実の関東大震災においても、陸軍は被災者を分け隔てなく救護する公平性を示して、社会においても頼れる印象を与えたのである。しかし、史実自衛隊並みの活躍を帝国陸軍に求めるのは無理が過ぎるというものであった。
「今回の件を教訓に、工兵連隊を増強する必要があるな」
「史実米軍のシービー並みの規模と質にしたいですね」
「建設重機の開発も必要だな。ブルドーザーや油圧ショベルを早期に実用化すれば輸出で外貨稼ぎも出来る」
シービー (United States Navy Seabee)はアメリカ海軍の建設工兵隊である。
その規模、機械力共に図抜けており、同年代の海軍設営隊とは雲泥の差があった。史実では、世界各地の戦場に海軍基地と飛行場を建設し、さらに港湾施設の建設や修理までやってのけて連合軍の勝利に大いに貢献した。
シービーを範とした結果、この世界の陸軍工兵連隊は飛躍的に強化されることになった。なお、規模的には劣るものの海軍設営隊も同様に強化されて、島嶼戦で大いに活躍することになる。
「輸送力が脆弱なのも問題だろう。内陸部での災害にはトラック輸送の方が役立つし」
「陸軍にこの手の専門家がいます。本人も大いに乗り気なので、技術的・資金的なバックアップをしています」
平成会は、史実で統制型ディーゼルエンジンを計画した原乙未生(当時少佐)に接触していた。彼は平成会の計画を快諾し、デファクトスタンダードとなる新たな国産ディーゼルエンジンを開発中であった。史実よりも高性能となったエンジンとその派生型は、トラックや戦車その他の軍用車両、さらに民間でも採用されることになる。
「仮に車両があってもドライバーがいないと話にならんだろう。そこらへんはどうなってる?」
「民間でも自動車学校が既にありますが、金持ちの遊戯の域を出ていません。そこで、自衛隊式で行こうと思っています」
「……なるほど。軍に入れば、タダで資格を取れるようにするわけか」
「もちろん、それなりに制限は設けますけどね」
この施策によって、食うに困った農家の次男や三男が軍隊に殺到して、担当者は嬉しい悲鳴をあげた。しかし、軍隊上がりのドライバーは基本的に運転が荒く、震災後のモータリゼーションと相まって交通事故が多発することになるのである。
「……総理、帝都復興院の設立には賛成いたしますが、30億円というのは些か法外ではあるまいか?」
「これを機会に帝都をより強靭に、災害に強い都市に作り替えるために必要な出費であることをご理解頂きたい」
「そもそも、この震災善後処理公債の大半は外債ではないですか? これを認めてしまえば、子孫に多大な負担をかけることになる」
「もちろん、可能な限りの国債で調達致します。外債は最後の手段です」
震災後に再開された帝国議会では、帝都復興予算に関する審議が開始されていた。しかし、これを政局にして政友会(立憲政友会)の勢力を削りたい民政党(立憲民政党)は、これに難癖をつけて潰そうと目論んでいたのである。
「それでも30億円は多すぎる! ほぼ国家予算に匹敵する額ですぞ!?」
「これを認めては国が傾きかねない! 総理、あなたは売国奴だ!」
「静粛に! 静粛に!」
民政党側からの野次を議長が静止するも、ますますヒートアップしていく。
彼らからすれば、煽るだけ煽って最終的に大幅な復興予算の削減を認めさせることで恩を売りつつ、政友会の勢力を削るつもりであったから、容赦する気は無かった。
「いい加減にしろおまえら! 今まさに震災で困窮している人々がいるというのに、何で足を引っ張るんだ!?」
しかし、やりたい放題の民政党にぶちきれた者がいた。
他ならぬ日本平民党(平民党)の議員の一人である。
他の平民党の議員達からも、民政党のやり口は史実の無能野党と同じに見えた。
思わず激発してしまったのは大人げないが、それも止む無しであろう。生前、彼は阪神淡路大震災に被災して家族を失っていたのである。
『なにぶん、はじめてのことで、朝もはやかったものですから』
当時の無能首相の言葉を聞いて、思わずテレビを叩き壊した彼を誰が責められようか。
「総理、我ら平民党は全面的に支持します」
「我らは英国に多大なコネがあります。今回の件でも、きっとお力になれるでしょう」
これに慌てたのが民政党である。
恩を売るつもりが、逆に平民党に全部持っていかれかねない状況では、さすがに黙っていられなかった。
「いくら英国が同盟国だからといって、そのようなことが出来るはずがない!」
「んなもん、やってみなきゃ分からんだろーがっ! 口だけ野郎はひっこんでろ!」
「なんだと!?」
売り言葉に買い言葉。
たちまち乱闘となる民政党と平民党の議員たち。結局、この日の議会では帝都復興院の設立と震災善後処理公債の発効が認められたのみであった。
「……どうぞ、粗茶ですが」
「うむ、ありがとう」
平成館の会議室は緊張に包まれていた。
あまりにも意外な人物が訪れていたのである。
「……その、閣下? 本日はどのようなご用向きで?」
「閣下なんて言われ方は柄じゃないな。普通にさん付けで良いよ」
「勘弁してください……」
ガチガチな平成会メンバーとは対照的に、朗らかに笑う男。
誰あろう、そこに居るのは時の総理である原敬であった。
「そんなに硬くならないでくれ。今日は礼を言いに来たんだ」
「……礼といいますと?」
「震災善後処理公債の件だ。あれは君たちが糸を引いているのだろう?」
平民党のやらかしに頭を抱えた平成会であったが、その心情は痛いほど理解出来た。それ故に、件の議員をドーセット公に引き合わせたり、駐英日本領事館に動いてもらうなど、あらゆる手を尽くしたのである。
『日本の公債を全て引き受けろと言うのかね?』
『史実だとアメリカのモルガン商会が大量に引き受けています。このままだとアメリカの影響力が大きくなります』
『なるほど、それは看過出来ないな』
『ハーグリーヴス財団も金を出しますので、銀行家に声をかけてくれませんか?』
『テッド君がそこまで言うならば、嫌とは言わんだろうよ』
『お願いします。こっちはまだ手が離せそうないので……』
『あ、そうそう。マルヴィナ君に任命書を持たせたので確認して欲しい。それではな』
『あっ、ちょっと!? 切りやがった……』
そして、その努力は報われた。
英国の銀行団が、震災善後処理公債を年利1%で全て引き受けてくれたのである。
「それにしても、復興予算が成立したときの野党の顔は見ものだったな!」
そう言って、豪快に笑う原。
英国の震災善後処理公債の全額引き受けに加えて、史実よりも財政に余裕があったために、最終的に30億円の復興予算が認められたのである。
この出来事は『平民宰相の英断』として世間に広まり、政友会と平民党の支持率は爆上がりした。
その一方で、民政党の支持率は地に落ちた。
支持者から激しい突き上げを食らい、党内部では責任の所在を巡って分裂しかねない状態にまで追い込まれていたのである。
「……で、ここからが本題なのだが」
真剣な表情となる平民宰相。
どんな無理難題が飛び出るのか、平成会メンバー達は固唾をのんで注視するのであった。
「復興計画の原案を出して欲しい……ですか?」
「うむ、君たちに任せた方が良いと思ってな」
原が平成会に持ち掛けたのは、帝都復興のグランドデザインであった。
それ自体に問題は無い。平成会は帝都復興の青写真を描いており、様々な方面に働きかけるつもりだったのである。
平成会としては願ったり叶ったりなことであるが、疑問が残る。
何故、平成会に話を持ってくるのかと。
「歴史を知る君たちならば、容易いことだろう?」
「「「!?」」」
その答えは当の本人から、さも当然のように発せられた。
あまりにもあっけなく言われて、反応に窮する平成会のメンバー達。
「……山縣公の遺言だった。いざとなったら君らを頼れとな」
元老の一人である山縣有朋は、史実と同じく1922年に没していた。
今際の際に、見舞いに訪れた原に平成会の秘密を伝えていたのである。
「……意外ですね。他のお二人とは違って、どちらかというと山縣公からは距離を置かれていたのですが」
「得体が知れないから、接触は最小限にしていたとのことだった」
「酷い言われようだ……」
「平成会の『歴史』と我らの『歴史』が同じであり続けるとは限らない。だったら、使えるうちに使っておけとも仰っていたな」
「史実でも再評価されていたけど、なんというリアリスト……」
史実においては、デモクラシーと対立する悪役として描かれることが多い山縣有朋であるが、その本質は慎重居士にして徹頭徹尾リアリストである。間違いなく有能であったが、周囲の評判などは全く気にしない性分であった。
このような人物は、時のジャーナリズムが悪役として叩くのには格好の獲物であり、不当な評価が下されることが多いのであるが、時代を経ると再評価される。田沼意次などは、その最たる例であろう。
「そういうわけだから、遠慮なくやって欲しい。君たちからの提案とあれば、大概のことは通るだろう」
「そうは言われてもですね……」
困惑する平成会のメンバー達。
そんな様子を見て、呆れたように原は言い放つ。
「君たちは自らを過小評価し過ぎだろう。平成会が予算獲得のために尽力したことは関係者にとっては公然の秘密となっているのだ。野党連中もあの有様では反対も出来まいよ」
「本当に良いのですか!? 遠慮なくやっちゃいますよ!?」
「それこそ望むところだ。この帝都を100年先まで栄えさせるためにも是非ともやりたまえ」
原からの激励を受けた平成会は、この瞬間から自重の文字を捨て去った。
史実21世紀の貨幣価値に換算して、総額80兆円以上になる空前絶後の帝都復興プロジェクトが開始されたのである。
「……これを機会に東京府を東京都に格上げして首都と定めるというのか」
帝都復興院総裁に就任した内務大臣床次竹二郎は唸っていた。
帝都復興計画で最初に取り組まれたことが、帝都の再編であった。
「この際、我が国の首都として国際的に宣伝する必要があるかと」
「法律でも明確に定める必要があるでしょう」
「そもそも、陛下があらせられる東京が他の六大都市と同格なのがおかしいのです」
関係省庁との調整のために派遣されてきた官僚達も賛意を示す。
意外なことであるが、東京を明確に首都と定める法律は存在しないのである。
明治時代に江戸へ遷都した際、天皇の詔勅によって東京が都であると定められた。戦前は法律よりも詔勅が優先されたために、わざわざ法律で首都を定める必要性が無かったのである。鎖国が長すぎて、首都の概念を理解出来ていなかったことも拍車をかけていたと思われる。
史実においては、1950年の首都建設法で東京が首都であることが明言された。しかし、この法律は1956年に廃止されており、東京は21世紀に至っても事実上の首都として扱われているのである。
そこらへんの事情を知っている平成会の一部の人間が、これを機会にと捻じ込んだのが首都法制化の真相であった。しかし、メリットが多く特に反対する理由も無いので、そのまま採用されたのである。
「従来の区を特別区に格上げして23区に再編か。大胆な方策じゃな」
東京都への格上げと同時に従来の区を特別区に格上げすることも提案された。
これは『区』を『市』と同レベルの自治体にしてしまうことで、区長に市長に準ずる権限を付与するものであった。
『東京を舞台にした漫画やアニメを作るときに23区じゃないと違和感あるし』
23区にしたのは、当然ながら平成会の強い意向が働いていた。
きっちり区分けして、史実23区の区名を書き込んだ地図を提出しているあたり、その熱意が伺える。
「被災地を一旦すべて国有地にしますので、区の再編は容易であるかと」
「震災によって各区の人口に甚だしい差異が生じています。これを調整しないと復興に支障が出ます」
私欲が入りまくりではあるが、相応の説得力はあった。
こちらも官僚達からの反対意見は特に出なかったのであるが、メリット以前に打算が働いていた。
震災前の区長は東京市の吏員(地方公務員)が任命されていたのであるが、特別区に格上げされるにあたって官吏(国家公務員)から任命されることが決定していた。ポストが増えることに反対する官僚はいないのである。
いずれにしても、予算を度外視すれば有効な施策である。
史実では実現出来なかった被災地を一旦全て国が買い取ることが可能になったことで、区の再編は一気に現実化したのである。
帝都復興院は、被災地を公示価格で買い上げた。
そのうえで、土地の再取得希望者には3割ほど安く譲渡することで再出発への支援とした。
しかし、震災による土地台帳の消失や、一部地域の土地所有者の反発、土地所有者の死亡及び失踪等の理由もあり、最終的な解決を見るには10年ほどの期間を要することになる。
ちなみに、混乱期にありがちな土地の不正取得であるが、この世界では殆ど発生しなかった。
真っ先にやるであろう特定人種のいる国家とは正式な国交が無いうえに、帝都に居座っていた『済州人』は震災による家屋倒壊によって全滅していた。江戸末期の由緒ある木造建築では、震災に耐えることが出来なかったのである。
それでも、泣きを見る人はいるものである。
そういう人々には移民が推奨された。特にドーセットでは破格の好待遇で日本人移民を募集しており、震災で全てを失った者は新天地で奮闘することになるのである。
「……この共同溝というのはなんじゃ?」
「電気、電話、水道、ガスなどをまとめて地下に埋設するものです」
共同溝計画であるが、この世界では平成会によって推進されることになった。
しかし、当初は平成会は共同溝を作るつもりは無かった。これは単純に、史実を生きた人間として共同溝の具体的なメリットを見いだせなかったからである。
『共同溝? そんなもの無くても困らないでしょう?』
『分かってないな。帝都を世界に誇れるものとするには、絶対に必要なものなのだ』
『いや、共同溝よりも先に整備すべきものがですね……』
『むしろ、真っ先に整備すべきものだろこれは! 何故それが分からん!?』
そんな平成会のスタンスを崩したのが、史実で共同溝を提唱した後藤新平であった。この世界では第2次山本内閣が組閣されておらず、彼は未だに拓殖大学の学長を務めていた。
平成会が復興予算の獲得に成功したことを知るや否や、押しかけて共同溝のメリットを熱心に説いた。所詮はMobキャラな平成会に、史実の偉人の本気を跳ね返せるわけもなく、最優先で進められることになったのである。
共同溝は災害に強く、メンテナンスが簡略化出来るうえに、景観の向上にも役立つので史実でも整備が進められていた。デメリットは初期費用がかかることであるが、圧倒的な復興予算の前には塵芥であった。
共同溝は下水道に併設する形となり、必然的に下水道の整備も進められた。
そのため、帝都の下水道普及率は国内でもダントツとなり、共同溝と相まって帝都の環境美化に大いに役立つことになる。
「……この帝都高速じゃが可能なのかの?」
「技術的な全く問題はありません! 諸問題を考慮するに、建設するには今しか無いと判断しています!」
熱弁するのは東京市道路局の新鋭、近藤謙三郎である。
史実では道路立体化構想の提唱者であり、戦後の道路行政に深く関わった人物である。
折しも、カナダからの救援物資として自動車が大量に持ち込まれた時期であった。これまで日本人には馴染みの薄かった自動車によって、帝都復興は飛躍的に進んでいた。しかし、その一方で交通渋滞や事故が多発しており、改善が求められていたのである。
平成会から史実の首都高速の概要を聞かされた近藤は、帝都高速の建設に燃えていた。彼の手によって中環と外環、さらにバイパス道まで完成して帝都の渋滞が解消されるのは10年後のことである。
「……この、東京湾横断海中トンネルというのは?」
「東京湾を横断する海中トンネルで川崎と木更津を結びます。完成すれば、物流が大いに発展することになるでしょう」
名前こそ違うが、史実の東京湾アクアラインそのものである。
この世界では、日本初のシールド工法による海中トンネルとして完成し、川崎と木更津の発展に大いに寄与することになる。
「……この面妖な鉄塔は何なのかね?」
「東京タワーです。来るべきラジオの時代に大いに役立ちます」
この世界の東京タワーは、ラジオ用総合電波塔として運用が開始された。
テレビアンテナが増築されて、本来の姿となるのは20年後のことである。
「……」
疲れたようにため息をつく床次。
何もかもが斬新で前例のないこと尽くしで、すでに彼の頭脳では理解出来ない状況になりつつあった。
(原さんからは無条件で通せと言われているしな……)
かくして、彼は考えることを止めた。
その後の案件も全て了承し、帝都の魔改造が大手を振って進められることになったのである。
平成会がコネを最大限使って復興予算を確保。
史実の6倍近い予算となったので、やりたい放題となりましたw
元老院の腰巾着では無いことを自ら証明した平成会ですが、これからが大変でしょう。史実の偉人達に目を付けられたので、陰に日向に彼らの無茶ぶりに付き合わされることになります。もちろん、我らがテッド君も巻き添えにされます(酷