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第50話 皇太子殿下来訪とフソウショック


『皇太子殿下万歳っ!』

『ばんざーいっ!』

『ばんざーいっ!』


 翻る日の丸とユニオンジャック。

 返礼使節団の車列は、駆け付けた大勢の日本人や地元民の大観衆に迎えられていた。


 ゆっくりと進む車列は、ドーチェスター市内の合同教会へ到着する。

 既に国内外のマスコミが大勢待機しており、現場は異様な熱気に包まれていた。


「皇太子殿下、遠路はるばるドーセットへようこそ」

「お世話になります。ドーセット公」


 笑顔で握手を交わすドーセット公と皇太子裕仁親王。

 両名の傍らには、ロイド・ジョージ首相を筆頭とした内閣の面々や、閑院宮載仁親王かんいんのみやことひとしんのう珍田捨巳(ちんだすてみ)伯爵を中核とする返礼使節団が立ち並ぶ。


「……ドーセットは風光明媚で日本人も多く住んでいます。きっと気に入ることでしょう」

「!? ドーセット公は日本語を話せるのですか!?」

「ははっ、以前から日本には大変興味がありまして勉強したのですよ。拙い日本語で申し訳ない」


 拙いどころか、イントネーションも完璧な日本語で話し出すテッドに驚愕する裕仁親王。生前が日本人であったせいか、テッドは普通に日本語を話すことが出来た。


 普段は使う機会が無いのであるが、公の場で敢えて日本語を使うことで親日派であることを表明する狙いがあった。当然ながら、円卓と平成会の圧力、もとい要請によるものである。


(あああああっ!? 陛下にため口で話してしまったぁぁぁぁ!?)


 日本人として遺伝子に刻み込まれた皇室への畏敬は、転生しても健在であった。

 しかし、下手(したて)に出過ぎるとグレートブリテン貴族としての威厳が損なわれてしまうし、ドーセット公爵としても領民に情けない姿を見せるわけにはいかなかった。


「ここがドーセット公のお城ですか」

「そうです。ドーチェスターハウスと呼ばれています」

「見た感じはゴシック建築のようですが?」

「僕がドーセット公爵家を継ぐ時に大規模な改築工事をして現在の様式になりました。ですので、ゴシック風味とでも言うべきでしょうね」


 車窓から見える白亜の館を見て歓声をあげる裕仁親王。

 返礼使節団は、宿泊先であるドーチェスターハウスに移動中であった。


 最初はどことなく遠慮気味であったのが、テッドが日本語を話せることを知った途端に質問攻めにしていた。海外旅行で日本語を話せる人間に出会うと安心してしまう日本人の心理であろうか。


(胃が、胃が軋む……)


 狭い車内で、しかも隣席で逃げ場は無い。

 テッドのHP(ヒットポイント)はガリガリと削られていったのである。







(や、やっと終わった)


 地元の有力者や日本国総領事を招いた晩餐会からようやく解放されたテッドは、書斎のデスクで突っ伏していた。


「それにしても、どうしたものかなぁ……」


 思わず独語してしまう。

 勿論、懸念事項は裕仁親王(後の昭和天皇)のことであった。


 史実の戦前戦後を問わず逸話に事欠かない、まさに歴史の偉人。

 生前から歴史好きなテッドからすれば、直接対話出来ることは望外の喜びであるが、憧れのアイドルを遠くから眺めて悦に浸るのと、間近で対面するのとでは雲泥の差がある。


(こんなときは、日本語が恨めしくなるよなぁ)


 ため息が止まらない。

 日本語の場合、皇族や天皇皇后両陛下に対する特別な敬語があるが、現状のテッドの立場ではそれを使うのは許されないのである。


(うぅ、胃が痛い)


 元日本人として、ため口で陛下と話すことを極めて不敬に感じてしまう。

 話す度に膨大なストレスとなり、常に胃が痛い思いをしていたのである。


(三日後にはフランス共和国へ出発するから、それまで耐えるしか無いか)


 返礼使節団は、三日後にフランス共和国(旧アルジェリア)に出発することになっていたが、問題はそこまで胃が持つかどうかである。内視鏡検査をすれば胃炎だらけであろう。このままだと穴が開く日も近いかもしれない。


(でも、根本的な解決にはならないんだよなぁ)


 フランス共和国への旅程は1週間を予定していた。

 つまりは、10日後には戻ってくるのである。


 最終的にヨーロッパの王室のほぼ全てを巡ることになったために、返礼使節団はドーセットに4ヵ月ほど滞在することになっていた。その間は、否が応でもお付き合いする必要があるのである。


(円卓と平成会の狙いは、僕が陛下のご友人になることなのだろうけど、一介の平民ごときが陛下のご友人とか畏れ多すぎるよ……)


 突っ伏したまま、答えの出ない思考に没入してしまうテッド。

 彼は慌てたように走ってくる足音に気付けなかった。


「だ、大丈夫ですかドーセット公!?」

「えっ、へいっ!? で、殿下ぁぁぁぁ!?」


 目の前に裕仁親王がいることにパニックとなるテッド。

 しかも、必死の形相である。事態を理解出来ずに、デスクに載っていた本を派手に吹き飛ばして転倒したのであった。







「すみません。早合点してしまって……」

「殿下は悪くありません。書斎のドアを閉め忘れた僕が悪いんです。本当にお気になさらず……」


 勘違いしたことに気付いて謝罪する裕仁親王に、逆に謝り倒すテッド。


 裕仁親王への対応で頭がパンパンだったテッドは、書斎のドアを閉め忘れていた。つまり、ドアの隙間から室内を見るとデスクで突っ伏しているのがまる見えだったのである。


 通りすがりの人がこれを見たらどう思うであろうか?

 道に迷って書斎の前に来てしまった裕仁親王が、テッドが倒れたと勘違いして飛び込んできたのは必然だったのである。


 テッドはテッドで、頭を悩ませている当の本人の玉顔を見てパニくってしまったのであるが、彼は瞬時に態勢を立て直していた。


 テッド・ハーグリーヴス29歳。

 今まで伊達に円卓の狸どもや、各国の有力者と丁々発止(ちょうちょうはっし)してきたわけではないのである。内心はともかくとして、表面を繕うのはお手の物であった。


「あ、本拾いますね」

「ありがとうございます……って、どうされました?」


 床に落ちた本を手に取って固まる裕仁親王。

 食い入るように表紙を眺めていたが、やがて猛烈な勢いで読み進めていく。


「で、殿下?」

「……」

「もしもーし?」

「………ドーセット公」

「はい?」

「この本譲ってくださいませんか!? 言い値で買います!」

「ええええええええ!?」


 裕仁親王が喰いついた本は、テッドが過去の即売会で頒布した同人誌である。

 生前から魚料理が大好きな彼は、英国で魚料理の普及を目指すべく調理法を記した同人誌を積極的に頒布していた。


 裕仁親王が手に取った同人誌は、港町ウェーマスで獲れる魚介類の紹介と、その調理法がイラストと萌えキャラ入りで描かれた実用的な調理本であった。


「いや、それは僕が描いたものですし。余りものなのでどうぞ持っていってください」

「本当ですか!?」


 小躍りせんばかりに喜ぶ裕仁親王。


(そういえば陛下は史実だと海産物に異様に興味を持たれていたな……)


 史実では沖縄でエラブウナギを取り寄せて食されたり、焼きたてのうなぎの蒲焼を食べて火傷されたり、中毒の恐れがあるので河豚が食べられずに憤慨されたりと、とかく食(特に海産物)に関する逸話が多かった。そんなところに海産物の調理本を投げ込んだら火に油どころか、火事場にニトロであろう。


 お宝をゲットした裕仁親王は、帰国後に宮中でレシピを再現させようとした。

 しかし、B級グルメな料理を宮中シェフが認めるわけもなく、それはそれは激しいやり取りが交わされることになるのである。







「行ってしまったな」

「そうですね。また帰ってきますけど」


 埠頭に佇む二人の男。

 返礼使節団を見送った海軍大臣のチャーチルとテッド・ハーグリーヴスである。


「このまま真っすぐフランス共和国へ行くんでしたっけ?」

「行きはな。帰りにイタリアに寄る予定になっている」


 そう言いながら、葉巻に火をつけて咥えるチャーチル。

 周りの情景と相まって、実に絵になる光景である。世界線を違えても、世界一葉巻が似合う男ぶりは健在であった。


「……テッド君。少し変わったか?」

「どういう意味です?」

「表面だけは繕っていた以前に比べれば、自然体で皇太子殿下に接していたなと思ってな」

「あー、いろいろあったんですよ……」


 3日前の『事件』以来、テッドとは裕仁親王は急速に打ち解けていった。

 魚料理という共通の話題が出来たためか、空いた時間に書斎で話し込む時間が激増したのである。


『……英国だと、主にタラとニシン、サーモンが食されています』

『なるほど』

『料理だとフィッシュアンドチップスやキッパー、スモークサーモンといったところですね』

『凄く美味しそうですね!』


 英国の魚料理について解説しながら、スケッチブックに料理のイラストを即興で描き上げるテッドに感嘆する裕仁親王。賞賛されて調子に乗ったテッドは、さらなる知識と料理イラストを量産して以下エンドレスであった。


『……で、これが僕が日本の浅草で食べた天丼のイラストです』

『ご飯の上に載っているのは何なのですか?』

『天ぷらですよ。天ぷらにかかった甘い丼つゆとご飯のマッチングが、もうたまらない……! もっと食べておくべきだったなぁ』


 江戸時代から外食文化が発達していた東京は、寿司、蕎麦、天ぷら、うなぎの蒲焼などの屋台や店舗が大量にあった。日本食に飢えていたテッドは、平成会と接触するための独自行動中に、これ幸いとばかりに食べ歩いていたのである。


『凄い、凄い! こんな料理が我が国にはあるのですね!』

『日本は英国とは比べ物にならないくらい魚料理のバリエーションがありますよ。嗚呼、あの時に江戸前寿司も食べておくべきだった……!』


 二人は出発直前まで魚料理について大いに語り合った。

 その結果、畏敬の念から来る苦手意識もだいぶ改善されたのであるが、これは裕仁親王の人間性にテッド自身が惹かれたことも大きかった。全くもって邪気が無い、どこまでも透明で純粋な笑顔に彼は魅了されてしまったのである。







「……そういえば、出航直前に騒動があったけど、あれは何なんです? カメラ片手に騒いでたからどこぞの記者なのだろうけど」


 帰りの車内で、ふと疑問を口にするテッド。

 あの騒動のせいで、無駄に時間を喰ったと不満たらたらである。


「あれか。おそらくはどこぞのスパイだろうな」

「スパイ? だとすれば露骨過ぎなんじゃ……」

「あれは囮だろう。騒いでいるうちに本命が中に侵入といったところじゃないか?」


 ポーツマス港に停泊中の戦艦『扶桑』には、物珍しさからか大勢の人間が見物に来ていた。しかし、その中には真っ当でない不純な目的を持った人間も大勢いたのである。


「うわぁ、そこまでするんだ……」

「それだけ脅威に思っているということだろう」


 扶桑の存在は、列強の海軍首脳部に多大な衝撃を与えていた。

 26ノットの高速と、14インチ4連装3基12門の大火力に対抗出来る手段をロイヤルネイビー以外は持ち得ていないのである。情報収集に躍起になるのは致し方ないことであろう。


「クラウツもだが、特にフランス・コミューン(カエル食い)は泡を吹いているだろうなぁ。あいつら戦艦どころか、まともな軍艦すら無いのだから」


 人の悪い笑みを浮かべるチャーチル。

 咥えた葉巻と相まって、どこぞのマフィアの大ボスと言われても疑われない貫禄っぷりである。


 現在は英国が管理しているフランスの旧海外領土と権益は、将来的にはフランスの『正当な政府』に返還されることになっていた。しかし、扶桑の存在は東南アジアの海外領土(予定)を脅かしかねないものであり、コミューン側も共和国側も真っ青になった。


 特にフランス・コミューンの危機感は相当なものであった。

 フランス共和国建国の際、MI6の手引きでコミューン側から人材が流出したのであるが、その中には海軍関係者も多数含まれていた。


 彼らは自らが指揮する艦艇ごとそっくりフランス共和国海軍に編入された。

 その結果、フランス人民海軍に残されたのは少数の駆逐艦と多数の雑多な補助艦艇のみであった。これでは発狂するなというのが無理筋であろう。


 フランス共和国の海軍首脳部も頭を抱えていた。

 旧フランス海軍のほぼ全てを手中にしたとはいえ、弩級戦艦はクールベ級の4隻のみ。残りは旧式戦艦と装甲巡洋艦であり、扶桑に対抗出来るとは思えなかった。


 かくして、フランス・コミューンとフランス共和国は『打倒扶桑』を合言葉に猛烈な建艦競争に突入することになる。







「なんとしても、あの戦艦の情報を集めろ! そして、より大きく、より強い戦艦を建造するのだ!」


 奇しくも、テッドとチャーチルが会話しているのと同時刻。

 ベルリン王宮では、閣僚を前にヴィルヘルム2世(カイザー)が檄を飛ばしていた。


 現在のドイツは、英国に範をとった制限君主制への移行を目指していた。

 しかし、カイザーの影響力は未だに絶大であり、その意向を完全に無視することは出来なかった。


「陛下のご意見に海軍は全面的に賛同いたします。しかし、無制限に建造とはいきますまい。どこかで折り合いをつける必要があるかと」


 荒ぶるカイザーに諫言するのは、海軍大臣のアルフレート・フォン・ティルピッツである。史実とは違い、戦争が早期に終結したために未だに海軍大臣の地位にあった。


 戦前は海軍の軍拡には積極的なティルピッツであったが、現在は国力に鑑みた海軍力の整備が必要と考えを改めていた。スカゲラックの戦い(ユトランド沖海戦)のロイヤルネイビー無双を知ればこそである。


「分かっている。余もスカゲラックの件で十分に懲りた。しかし、海軍の再建は必須だ。世論でも戦艦の建造が熱望されている」


 黄禍論のお膝元であるドイツ故に、日本人が作った戦艦に対して国内世論は過剰に反応した。戦艦『扶桑』の存在が報道されると同時に、ドイツ国内では扶桑を超える戦艦を早期に建造するべきとの意見が多数を占めていたのである。


「陸軍も新型戦艦の建造に全面的に賛同します。戦艦の支援砲撃は陸軍の助けになります」


 参謀本部総長と陸軍大臣を兼任するエーリッヒ・フォン・ファルケンハインも、戦艦の建造には肯定的であった。史実では失脚したファルケンハインであったが、この世界ではフランス陸軍(脳筋)相手に最小限の被害で済ませており、未だ現役であった。


「ファルケンハイン、中国大陸の状況はどうか?」

「各軍閥に軍事顧問団を派遣しております。今のところ訓練は順調に進んでおります」


 中国大陸では北京政府が崩壊し、政権を狙う軍閥同士での内戦が勃発していた。

 ドイツは極秘裏に軍閥に武器と軍事支援を提供して商圏の拡大を画策していたのである。


 ちなみに、この世界では史実以上に内戦が泥沼化していた。

 史実を知る平成会としては、内戦で徹底的に中国を疲弊させるつもりであり、その意向を受けたJCIA(大日本帝国中央情報局)が暗躍していたのである。


「中国の資源、特にレアメタルは非常に有用です。今後の我が国の生命線になるでしょう。それを守るためにも戦艦が必要かと」


 新たに経済相に抜擢されたヒャルマル・シャハトも、経済的な観点から戦艦の建造を後押しする。皮肉なことに日本が中国大陸を引っ掻き回した結果、ドイツに多大な利益をもたらしていた。植民地を放棄させられたドイツは帝国主義を嫌う中国人に受けが良く、大陸での商売は順風満帆だったのである。


 国内世論と国益に合致したことで、ドイツでも『打倒扶桑』を合言葉に新型戦艦の建造が強力に推進された。しかし、陸軍に沿岸からの支援砲撃能力を強く要求されたことによる新型砲弾(史実ペーネミュンデ矢弾)の採用や、大口径艦砲の製造能力の限界からくる連装垂直2連砲など奇抜なアイデアが採用されて迷走することになる。







「……ドイツとフランスが泡を喰っているのは分かりましたけど、こちらも対策しないとヤバいんじゃ?」

「無論、ロイヤルネイビーも無策では無いぞ? QE(クイーン・エリザベス)型高速戦艦の近代化改装を計画している」


 テッドの懸念に対して余裕綽々なチャーチル。

 実際、英国海軍(ロイヤルネイビー)が進めているQE型戦艦の改装計画は凶悪なものだったのである。


「ちなみに、この近代化改装計画にはテッド君も間接的に関わっているぞ」

「えっ、そんなのありましたっけ?」

「イスラエル海軍の件と言えば思い出すかな?」

「……あっ!? ひょっとしてあの魚雷艇!?」


 テッドも深く関わっているイスラエル海軍の設立の際、英国から無償で最新の魚雷艇が提供された。この魚雷艇は史実のダーク型魚雷艇を円卓技術陣が再現したものであった。


「まさか……戦艦にデルティックを載せるつもりですか!?」

「うむ、イスラエル海軍が荒っぽい運用をしてくれたおかげで信頼性も確保出来た。現在は艦船用の大型デルティックを試験しているところだ」

「実現すればオールギアード・デルティックといったところですか。なんというパワーワード……」


 デルティックは史実では第2次大戦後に完成した英国が誇る変態ディーゼルエンジンである。同時代のディーゼルエンジンに比べて圧倒的に軽量コンパクトで高出力であったが、非常に繊細な構造なために運用には綿密な整備が必要であった。


 現在、運用試験が進められている大型艦船用デルティックは、アッセンブリ交換方式による整備作業の簡易化や、定期メンテ時にはエンジンを丸ごと交換することで長期的な信頼性を確保することになっていた。


 このエンジンの1基辺りの出力は1万5千馬力であるが、実際の運用では1万馬力で減格運転することでさらに余裕をもたせる予定であった。


「射撃用レーダーの開発も進んでいるぞ。ゆくゆくは統制レーダー射撃も出来るようになるらしい」

「そこまでいくと、もう相手はご愁傷様としか……」


 この世界の英国では、史実よりも10年以上レーダー技術が進んでいた。

 既にチェインホームレーダーが英本土全域で稼働し、艦船用の索敵・射撃レーダーも試験段階であった。さらに、航空機用のレーダーも開発も精力的に進められていたのである。


 機関の換装、バルジと装甲の増設、SHS(スーパーヘビーシェル)に対応した新型砲塔の採用、電子装備の充実化などの近代化改装を果たしたQE型はその容姿を一変させることになる。


 円卓の思惑以上に扶桑の存在は欧州の列強を刺激した。

 マスコミは『フソウショック』と大々的に書き立て、海軍関係者は超フ級(Super Fuso)の建造に邁進したのである。


 地中海の覇者を気取るイタリアは、こういった動きとは無縁であった。

 しかし、実際に来航した扶桑を見ると考えを一変して戦艦の建造を開始した。


 意外なところでソ連も戦艦の建造に躍起であった。

 まともな海軍を持たないソ連は、扶桑がウラジオストックまで進出して砲撃することに怯えたのである。しかし、建造ドックは既に前時代の遺物であり、最新の軍艦の建造ノウハウが消失している現状では自国での建造は不可能であった。


 自国で建造が不可能と判断したソ連は、アメリカに極秘裏に戦艦建造を依頼した。戦艦以外にも多数の艦艇が発注され、結果として軍縮で死に体だったアメリカの造船業は息を吹き返すことになる。






以下、今回登場させた兵器のスペックです。


ダーク型魚雷艇


排水量:60t(基準) 

全長:21.0m

全幅:6.0m

吃水:2.1m

機関:ネイピア・デルティック18気筒ディーゼル×2基2軸推進

最大出力:5000馬力

最大速力:40.0ノット

乗員:14名

兵装:ヴィッカースQF2ポンド砲Mk.8(AHV仕様)

   53cm魚雷発射管4基


イスラエル海軍の主力兵器。

繊細なデルティックエンジンと、イスラエル海軍の荒っぽい運用は相性最悪であったが、メカニック達の死に物狂いの努力により信頼性の確保に成功している。


史実同様の40ノットの高速と強武装で周辺国への睨みを利かせるのはもちろんのこと、特殊工作にも多用されている。


なお、イスラエル海軍の血と汗と涙の結晶であるデルティック運用データは、本命の大型艦船用デルティックの開発に大いに役立てられた。



※作者の個人的意見

戦艦にデルティックを搭載したいがために、わざわざイスラエルにダーク型魚雷艇を供与したのがようやく報われました(オイ


史実だと機関車に採用されて大炎上したデルティックですが、艦船用だと特に目立った問題を起こしていませんし、今でも現役です。その機関車も死に物狂いの努力で、メンテナンスサイクルは現用ディーゼルエンジン並みになったわけですし、戦艦に搭載しても余裕ですよねw


大型艦船用のデルティックは、1基1万5千馬力は出せますが、それを1万馬力に減格運転する予定です。QE型戦艦の場合、1軸辺り4基搭載して、4軸16基で16万馬力が普通に出せます。無理をすれば20万馬力以上出せるわけで、近代化改装をして排水量が大幅に増すことになっても、普通に30ノット超出せると思います。


ちなみに、大型艦船用デルティックの燃料は軽油です。

最初はC重油を使おうと思っていたのですが、油洗浄装置や余熱装置が必要になるので没りました。コンパクトなエンジンとはいえ、シフト配置するとそれなりに場所を喰いますし。定期メンテで交換の手間もあるので、余剰スペースはあるに越したこと無いのです。

前回の予告通り、テッド君から同人ネタを振っていません。

あくまでも不幸な事故です。イイネ?


フソウショックによって、英国以外の欧州列強が建艦競争に突入することに。

おフランスは事実通りというか、目の前に手本が存在するので多連装化に走る可能性が高いですが、ドイツは火葬艦に走る可能性ががが……。


誰ですか? 超フ級を超不幸級なんて揶揄する輩は?

おいらは寛大ですから、素直に名乗り出ればマーマイトの一気飲みで勘弁して差し上げますよ?

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― 新着の感想 ―
[一言] ユーモラスながら品位を保った展開で安心しました。 お取りになった本も大変すばらしい趣味とアイデアでございます。 殿下がドーセットシャーにお戻りになったら、ガーデンパーティーに模擬店を出して英…
[気になる点] 投稿お疲れさまです エラブウナギ=エラブウミヘビ(コブラ化の爬虫類 ハブより怖い猛毒持ち)と書いとかないと陛下のチャレンジャー振りがピンと来ないかも……地元ですが私はアレ独特の風味が…
[気になる点] 「超フ級」戦艦群と聞いて艦橋に風車が付いたネーデル・フソウとかヤマトファイトならぬフソウファイトとかが思い浮かんできましたw
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