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第45話 遅かれ早かれ開発されるモノ


「あの崖上の建物はランズエンド……! イギリスよ、僕は帰ってきたっ!」

「テッドさん、大げさすぎ……」

「シャラップ! 伯爵さまは半年程度だろうが、こちとらイスラエルへ飛ばされてから3年ぶりの帰国なんだぞ!? ちったぁひたらせろっての!」


 1921年11月。

 戦艦レナウンはサウサンプトンに入港した。世界各地の植民地と友好国に寄港しながらの世界1周は、レナウン(Renown)(英語で名声の意)の艦名に相応しい偉業であった。


「よくぞ無事に戻ってきた!」

「痛いっ!? 陛下、痛いですってば!?」


 バッキンガム宮殿で4人を歓迎するのはジョージ5世である。

 豪快に笑いながら、テッドをバシバシとぶっ叩く。


 史実と違って第1次大戦の多大なストレスや落馬事故が無いおかげか、ジョージ5世はいたって健康であった。しかも、生前の晩年を猛省して健康マニアに目覚めており、身体に良いとされるものは片っ端から試さずにはいられない性分であった。これだけなら特に問題は無かったのであるが……。


『……エド、何だこれは?』

『今の父上が最も欲しがるであろう本です。先生が描いた本ですよ!』

『こ、これは……!?』


 時系列を遡ること2年前。

 ウィンザー城では、父と子のハートウォーミングな会話が繰り広げられていた。


 エドワードがジョージ5世にプレゼントしたのは、例によってテッドの同人誌であった。


 史実のヒロイックファンタジーをパクリスペクトしたものであったが、マッスルなふんどし男が邪教を粉砕する内容を見て大いに感化されてしまったのである。


 筋肉で全てを解決する脳筋思考に目覚めてしまったジョージ5世は、ひたすらトレーニングに打ち込んだ。史実でも航海王(セイラーキング)と称えられるほどの海の漢であった彼は、ただでさえ鍛えられた肉体をしていた。それに加えて、さらなるトレーニングを積んだことによって大幅な肉体改造に成功してしまったのである。


「卿は少し痩せすぎではないか? もっと鍛えんといかんぞ!」

「陛下が鍛えすぎなんですよ!? ちょ、もっと手加減して!?」


 ボディビルダー並みの肉体を手に入れたジョージ5世の『歓迎』は、もはや凶器であった。3人がテッドを生贄にして、過激なスキンシップを回避したとしても決して薄情ではない。立派な緊急回避である。


「陛下。報告を聞きたいので、もうそのへんで……」

「これは酷い」


 ロイド・ジョージとチャーチルが止めなければ、延々と続いたことであろう。

 テッドからすれば、災難以外の何物でもなかった。







「では、テッド君。報告を聞こうか」


 バッキンガム宮殿の一室。

 テッドたちは世界巡幸(ロイヤルツアー)の報告をするべく場所を移していた。


「それは良いのですが……」


 テッドは口ごもる。

 『陛下がここにいても良いのですか?』とはさすがに口には出せなかった。しかし、当の本人にその意はしっかり伝わっていた。


「儂も円卓の一員だぞ? 皆が委縮してしまうから普段は参加していないがな」

「ならば何故……?」

「卿の話は面白そうだから今回は特別参加だ!」

「はぁ……」


 ロイド・ジョージとチャーチルを見やるが、二人とも処置無しとばかりに首を振っていた。こうなるとテッドも諦めるしかなかった。目の前にやたらとガタイの良い髭面が鎮座しているので圧迫面接待った無しである。


「……えー、それでは皆を代表して僕が報告させていただきます。まず世界巡幸(ロイヤルツアー)ですが、一応成功裡に終わったと言えるでしょう」

「一応とは微妙な表現だな」


 植民地や自治領を慰撫することが目的の世界巡幸(ロイヤルツアー)であったが、もうひとつ目的が存在していた。こちらは海外の著名人と広い交友関係を持つエドワード皇太子とマウントバッテン卿が担当していたのであるが、お世辞にも成功したとは言えなかった。


「将来の独立に向けた人材発掘やコネクション作りが全くと言って良いほどに進みませんでした。連中、これからも自治領や植民地に甘んじる気満々です」

「儂の進める大英連邦計画を予定通り進めることは難しそうだな……」


 テッドの報告に唸るジョージ5世。

 史実におけるジョージ5世はバルフォア報告書を議会に認めさせるなど、将来的な独立を視野に入れた自治領の権限強化に取り組んでいた。この世界でも同様であったが、自治領側からの強い反対で頓挫していたのである。


「……名目ではなく事実上の独立を目指すべきでは無いでしょうか?」

「どういうことだ?」

「少しずつ権限を委譲していって、実質的に独立国にしてしまうのです」

「なるほど、名よりも実を取るということか」

「そのためにも、現地の統治機構の拡充や産業の育成、軍隊の組織など多々必要なのですが……ぶっちゃけ今までと変わりないですねこれは」


 テッドの提言により、権限を段階的に委譲して最終的に独立させる方針に切り替えたことによって、植民地や自治領の独立は史実よりも大幅に遅れることになる。







「次は日本の……というより、平成会についてです」

「我ら円卓のような組織のようだが、実際はどうなのだ?」


 興味深々なジョージ5世。

 円卓を束ねる立場上、似たような組織である平成会の実情が気になるのであろう。


「平成会は円卓と似て非なる組織です。メンバーは僕と同様に21世紀から転生してきた日本人です」

「……ということは、彼らも召喚魔法が使えるのかね!?」

「それが出来たら、ここまでの窮状に陥っていないでしょう」

「それもそうだな」


 テッドと同類イコール召喚魔法が使えると思い込んだのか、心底安堵するロイド・ジョージ。


(それよりも、何故僕だけイギリスなのかが気になるな)


 平成会のメンバーと接触して分かったことは、彼らが自分と同じ時代を生きた転生人であることであった。時事ネタや、その他諸々の嗜好や趣味で大いに会話が弾んだことがそれを裏付けていた。


(なんらかの事故か? 本来なら僕も日本に転生していたかもしれない。その場合は某水葬戦記みたいな展開になったのかも……)


 平成会の面々がテッドと同様に召喚魔法か、それに類するチートスキルを持っていないのは、手渡された要望書の山をみれば明らかであった。


(むしろラッキー? もし日本に転生していたら、デスマーチ上等なブラック総理と化したかもしれない)


 テッドの脳裏に某宰相の姿が浮かぶ。

 日々の睡眠3時間で馬車馬の如くこき使わる社畜な権力者になるのは全力でノーサンキューであった。


「……テッド君? どうしたのかね?」

「あぁ、すみません。ちょっと疲れが出たようです」


 チャーチルが訝し気に見やる。

 慌てて誤魔化すテッド。


「やはり鍛え方が足りんのではないか? 儂といっしょにトレーニングをするべきだろう。軟弱なままだと息子たちの補佐もままならぬし」

「健康には気を付けたまえよ? いずれ君は円卓の議長になってもらうのだから」

「酒とタバコは長生きの秘訣だぞテッド君! お薦めはキューバ産の葉巻とジョニ黒だ。今度いっしょに飲もう」


 英国王に宰相、海軍大臣にまで健康を心配される人間なぞそうはいないし、心配される側も悪い気はしないのであるが、彼は気付きたくないことに気付いてしまった。


(い、いや、まだ慌てる時間じゃない。突如ナイスアイデアが閃いたり、どこからとなく助けがくるかもしれない……!)


 彼が権力者の道を歩むことは確定された未来である。

 少なくても周囲の人間はそう考えていたし、将来に備えた準備も水面下で進行していた。認めぬのは本人ばかりであり、今後も精一杯悪足掻きすることになる。







「平成会は思想的には穏健派です。上手くすれば史実日本のような暴走を止めることも出来るでしょう」

「その代償がこの山盛りの技術提供なのかね?」


 テーブルに積まれた平成会の要望書を眺めてジト目となるロイド・ジョージ。

 戦時中に軍需大臣を務めていたためか、彼は損得勘定に極めてシビアであった。


「平成会の後ろ盾である元老院が早晩無力化するので、それまでに何としても立場を固めてもらう必要があったのです」

「そうは言っても、これは大盤振る舞い過ぎだろう。新型タービンや、溶接技術、ブロック工法のノウハウまで提供するとは」


 チャーチルも渋面であった。

 彼も日本海軍を支援するべきと考えていたが、無償でここまで提供することは考えていなかったのである。


「もちろん、無条件でくれてやるわけではありません。後できっちり取り立てます」

「今の日本にそれだけの金や技術があるとは思えないが?」

「平成会には史実21世紀の知識があります。現在はそれが活かせていないだけです」

「いずれモノになると?」

「有望なのはいくつもあります。完成してから要求すれば良いのです」

「実際に完成してしまったら隠すかもしれんぞ?」

「MI6にお仕事してもらえば良いじゃないですか。その場合はロハで手に入りますね」

「テッド君。君も腹黒くなったなぁ」

「誰のせいだと思っているんですか!?」


 戦前の世間知らずだった面影は何処へやら。

 何のかんの言っても、テッドも一端の政治屋であった。


「それに、確実に黒字になる案件があります」

「朝鮮半島の開発かね?」

「ええ。半島北部は資源の宝庫です。大概の資源は取れますし、世界屈指の金山もあります」


 史実の日本が朝鮮統治で莫大な赤字を築くことになったのは、無駄なインフラを作ってしまったことに原因があるとテッドは考えていた。実際のところ、19世紀後半以降の列強の植民地はお荷物であり、統治コストが利益を上回るようになったので、彼の考えは間違ってはいない。


 植民地は確かに莫大な富をもたらす。

 しかし、それは初期の資源収奪が可能な段階のみに適用出来ることであって、植民が進むとインフラ整備で金が飛んでいくのである。史実英国が自治領や植民地の独立を認めたのはこのような背景があったのである。


「史実の失敗に懲りて平成会は朝鮮半島の開発には及び腰です。それ故にこちらにお鉢が回ってきたとも言えますが」

「しかし、あまりにも本国から遠すぎる。気軽に開発出来るものではないな」


 言外に『日本に任せれば良いだろう?』とのサインを送るロイド・ジョージ。

 しかし、テッドには彼を説得出来るとっておきのカードがあったのである。







「……半島北部ではウランが産出します。これは今後の世界戦略に必要不可欠なものです」

「ウランだと!?」


 チャーチルが血相を変える。

 史実の戦後を生きた人間として、ウランの存在は無視できないものであった。


「チャーチル君、ウランというのはそんなにヤバいシロモノなのかね?」

「ウランは街一つどころか、一国を壊滅させる核兵器の材料になるのです」

「なんだと!?」


 チャーチルから詳細を聞いたロイド・ジョージも青ざめる。

 史実におけるウラン資源国は、オーストラリア、カザフスタン、カナダ、南アフリカ、アメリカ合衆国などであるが、未確認ながら半島北部のウラン埋蔵量は400万トンに達すると推定されており、これが事実ならば世界一の産出量である。


「平成会もウランが産出することは知ってるはずなのですが、交渉のときには何も言いませんでした。よほど半島に関わるのが嫌なのでしょう。ただ、今後何らかの取引を持ち掛けてくる可能性はあります」

「日本が何か言ってくる前に開発しておこうというわけか」

「元日本人として思うところはありますが、パワーバランス的にも、我々が先に開発するのが望ましいでしょう」

「「「……」」」


 痛々しいほどの静寂が室内を支配する。

 ギャラリーに徹していたエドワードやマウントバッテン、マルヴィナもあまりの衝撃に息を呑んでいた。


「私の死後の世界はこんなにも緊張に満ちた世界なのか。出来れば知りたくなかった……」


 ロイド・ジョージが深いため息をつく。

 世界には知らなければ良いことが多々存在する。しかし、知ってしまった以上は為政者として為すべきことを為さねばならなかった。


「朝鮮半島開発の必要性は理解した。しかし、あそこは曲がりなりにも独立国だ。植民地のように好き勝手するわけにはいかんぞ」

「その件に関しては、民間による開発を考えています」

「極東の僻地の開発に名乗りを上げる企業などそうは無いと思うが……」

「僕とロスチャイルド家が連名で発起人になります。政府にも一枚かんでもらいます」

「そこまでやれば上手くいくだろう。しかし、肝心のロスチャイルド家が乗ってくるか? 今でも債務の返済に苦労しているようだが」

「乗ってきますよ。何せ百発百中で資源採掘出来るのですからね」


 テッドが考えていたのは、東インド会社をモデルにした合本会社ジョイント・ストック・カンパニーの設立であった。英国内の企業はもちろんのこと、英国政府を筆頭株主にすることで国策会社として機能することを期待していたのである。


「……資源採掘にアテでもあるのかね?」

「平成会に情報を提供してもらいます。彼らのことですから詳細に調べ上げているでしょう。そうでなくとも、史実知識として知っている可能性が極めて高い。それに大まかな場所なら僕も知ってますし」


 実際、ロスチャイルド家はこの計画に乗り気であった。

 新進気鋭の石油王とロスチャイルド家のタッグは、英国の産業界を大いに刺激した。その結果、想定以上の企業が参入してくることになるのである。







「僕としては、半島南部の開発も考えています」

「北部はともかく南部を開発するメリットはあるのかね?」

「半島南部は土壌が痩せていて農業には適しません。しかし、史実では土壌改良によって米の栽培に成功しています。米が作れるなら他の作物も栽培可能でしょう」

「そこまでする必要があるのかね? 北部の資源採掘と核開発だけで良いと思うのだが」

「確かに資源採掘よりは手間と時間もかかりますが、これも確実に利益が出せます。インドやセイロンのプランテーション農業のノウハウがそのまま適用出来ますし」

「それは魅力的だが、ヨーロッパから離れすぎだろう」


 ロイド・ジョージとしては、これ以上余計な植民地は抱えたくなかった。

 植民地統治の経験豊富な大英帝国と言えど、遠方を統治するのは手間もコストもかかるのである。


「今後ヨーロッパで戦争が勃発した場合、戦場から遠く離れたこの場所は緊急の食糧庫として活用出来ます」

「確かにその通りだ。食糧不足は革命を誘発しかねん。食糧の輸入先は多いほど良い」


 ジョージ5世も賛意を示す。

 食料を輸入に頼らざるを得ない英国にとって、安全な食糧の輸入先は何よりも優先されるものであった。もっとも、彼の場合は食糧不足よりも革命を恐れていたが。史実同様、この世界でもジョージ5世はアカ嫌いであった。


「それに余剰な農産物は日本へ輸出してしまえば良いのです。多少なりともカモフラージュにはなるでしょう。いずれバレるでしょうけど」

「……テッド君。平成会は核開発をすると思うかね?」

「遅かれ早かれ何処かの国が核兵器を実用化するでしょう。彼らが躊躇する理由はありません。史実の21世紀の日本は、世界最高峰の原子力技術を保有していましたし」

「つまりは、時間の問題と」


 本日何度目かのため息をつくロイド・ジョージ。

 気のせいか、一気に老け込んだように見える。


「そういうことであれば、半島南部の開発をしない理由は無いな」

「農業に関しては僕は専門外です。植物学者が必要でしょうね」

「学者だけでは駄目だろう。必要になるであろう大量の人足はどこから調達する気だね?」

「現地民の取り扱いマニュアルを作成しますので、これを徹底させてください。これさえ守れば安全に扱き使えます」


 テッドが作った『Kの国の民の取り扱いマニュアル』は極めて有効であった。

 資源採掘、ウラン精錬、プランテーション農業等あらゆる場所に投入されたKの国の民であるが、サボタージュやストライキ、デモ等の抗議行動がほとんど起きなかったことは特筆に値するであろう。


 マニュアルを運用する人間も、苦力(クーリー)を扱ってきたプロであった。

 彼らにしてみれば、Kの国の民は単純で扱いやすいことこの上ない存在だったのである。


「まだ問題はあるぞ。現地の治安維持はどうするつもりかね? 民間での開発という建前上、軍の派遣は不可能だ」

「民間軍事会社を設立します。現地に派遣する軍人はそちらへ移籍してもらいます」

「聞いたことない組織だが……?」

「史実20世紀末の冷戦崩壊の産物です。軍縮による退役軍人の受け皿ですよ」


 史実の冷戦崩壊後の軍縮は数多くの退役軍人を生み出した。

 冷戦後の世界では、国家間の大規模な戦闘の可能性はほぼ無くなったものの、テロリズムや民族紛争などの小規模な戦闘や、非対称戦争が頻発化した。それに伴い、不安定な地域で行動する民間人を護衛する需要も増加したのである。


 軍縮で優秀な軍歴保持者は有り余り、軍のコスト削減が叫ばれ、そして小規模の紛争が頻発する。これらの要素が史実で民間軍事会社(PMSC,private military and security company)を生み出したのである。


「あくまでも民間の、ちょっと重装備な警備会社であって決して軍隊じゃありません」

「なるほど、その手があったか……!」


 ちなみに、このアイデアを後日円卓で提案したところ、陸軍とMI6から大絶賛された。


『面白いアイデアだ! なるほど、軍隊では無いのだから、国外派遣で世論に配慮する必要は無いな』

『死亡しても戦死ではなく殉職扱いですな。遺族年金も抑えられます』

『MI6としても、現地に展開しやすくなるので全面的に賛成です』


 軍縮したい陸軍と、世界各地に展開したいMI6の思惑が合致して、この世界で初となる民間軍事会社『ウォッチガード・セキュリティ』が設立された。


 ちなみに、最高責任者はテッド・ハーグリーヴスが就任することになった。

 民間軍事会社を知る人間が彼しかいないのであるから、こればかりは致し方無しであろう。どこまでも自分の首を絞めることが好きな男である。






 1922年1月。

 テッドとロスチャイルド家が連名で発起人となり、極東朝鮮会社(FEKC Far East Korea Company)が設立された。


 翌月には大韓帝国政府との本格的な交渉に入っており、英国側のやる気がうかがえる。交渉自体も、英国紳士お得意の口八丁に加えて、宮殿の両班に鼻薬を利かせて取り込むことによって、早期合意にこぎ着けていた。


 Kの国の民の取り扱いマニュアルを適切に運用することで労働力を確保し、ウォッチガード・セキュリティによる効果的な治安維持もあって、半島の開発は極めて効率的に進められた。


 史実日本の朝鮮統治時代とは違い、デパートなど無駄な箱物を作る愚を犯さないのが英国流である。その結果、半島経営は10年足らずで軌道に乗ることになる。


 その一方で、核開発は難航した。

 理論は完成しており、原爆本体の設計・製造も完了していたのであるが、肝心のウラン濃縮が進まなかったのである。


 ウラン濃縮は、戦前にテッドが召喚していた史実マンハッタン計画に関する書籍を参考にして電磁濃縮法が採用されたのであるが、これが難物であった。


 電磁濃縮法は可動部が無く信頼性は高いのであるが、稼働させるには大量の電力が必要となる。電力インフラが整っている英国本土ならともかく、極東の僻地でやるとなると大問題であった。


 石炭火力発電所を建設することで電力問題の解決を図ったのであるが、莫大な電力消費を安定的に賄うには不十分であった。最終的に電磁濃縮法によるウラン濃縮は放棄され、省エネかつ安定的な濃縮が可能な遠心分離法に変更されることになった。


 日本側に悟られずにウラン濃縮工場建設に必要な資材を運び込むのも一苦労であった。既に済州島は海軍基地として機能しており、黄海は日本海軍の監視下におかれていたのである。


 黄海におけるイギリス船籍の船舶の航行は保障されていた。

 多少不審な点があっても、日本海軍が問答無用に臨検することなどあり得ない。しかし、間違い無く上層部に報告はいくし、平成会が知るのにさしたる時間はかからない。


 朝鮮半島は資源と食料の輸出に特化しているため、寄港する船舶は空荷が基本である。そんな中に荷物を満載した船舶が寄港したらどう思うだろうか? 当然、何か荷物を下ろしたと判断するであろう。


 大陸側からの陸送も検討されたのであるが、変圧器やタービンなどの重電設備の運搬は船舶以外では不可能であった。そのため、闇夜に紛れて黄海に突入したり、洋上で瀬取りしたりとあらゆる手段が用いられたのである。


 ウラン濃縮工場は建設されたものの、上述の問題や電力問題もあって全面稼働は不可能であった。この問題が解決するのは、朝鮮半島電化の名目で鴨緑江に建設された水豊ダムによる水力発電が開始されてからのことになる。


 朝鮮半島で世界初の核実験が行われるまで、日本側を欺く努力は続けられた。

 いずれはバレることとはいえ、それが一分でも一秒でも遅いに越したことは無いのである。

というわけで、テッドくんが3年ぶりに帰国しました。


そして国王陛下がマッスル化。

どうしてこうなった…:(;゛゜'ω゜'):


今回も過去の支援SSからネタを拝借しています。

この世界だとPMCの需要は結構ありそうです。


世界初の核実験は朝鮮半島で決定ですが、諸般の事情でだいぶ遅くなりそうです。

それでも史実よりも早く完成するでしょうけど。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 平成会はあまり火葬しようと思わないのかな? 火葬の為には半島の資源は非常に有効なのに。
[一言] まあ、朝鮮半島からウランを持ち出すにしても、核実験は設備の整った英国本土でやると平成会も思っているでしょうから、ある意味この英国の行動は平成会の意表を突く形になりますね。・・・ここまでして、…
[一言] でけぇ鏡を前に自らの肉体を映し マジキチ超兄貴風スマイルしている ジョージ五世が頭から離れない 六世も核に目覚める前に筋肉で調kゲフン教育しましょう
感想一覧
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