第29話 そのころの平成会
「うっひょーっ! 賠償金でメシウマじゃーっ!」
「南洋諸島が領土になって、南方進出が捗りまくりんぐ……!」
「ドイツから最新兵器を分捕れたし、高性能な工作機械の現物も手に入った。これで技術開発がスピードアップするな」
「今こそ国内のインフラ開発をっ! 日本列島改造論の前倒しだっ!」
帝都のとある料亭の一室。
平成会の会合は大いに盛り上がっていた。というか、もはや狂騒状態であった。領土と技術、さらに多額の賠償金を獲得したのであるから当然であろう。
「懸念だった戦時外債も英国が棒引きしてくれたし、言うこと無しだな」
「史実以上の勝利を達成するために、日露戦争では無理に無理を重ねていましたからねぇ……」
第1次大戦において、日本が勝ち取った最大の権益が日露戦争時に発行した戦時外債の棒引きであった。当時の日本は、史実以上の勝利を得た代償に国家予算の10年分という膨大な外債を発行しており、英国の銀行家たちと円卓が折半して引き受けていた。
その戦時外債のうち、円卓が引き受けていた分が棒引きされたのである。
言うなれば国家予算5年分が徳政令になったわけで、出席していた大蔵省の役人たちは狂喜乱舞していた。
「いっそ外債を全額償還してしまったほうが良いのでは? 賠償金は目減りしますが、償還が無くなれば長期的に得になります」
「いや、外債があるうちは英国も積極的に敵対してくることは無いだろう。間違ってもあの国は敵に回せない」
「調べれば調べるほど、ヤバいことが分かりましたので。その話をこれからさせてもらおうかと」
平成会が、英国の異常ぶりを今まで把握出来なかったのは、マスメディアが未発達であることに原因があった。史実の21世紀初頭とは違い、世界中の出来事をネットで検索などということは出来ないのである。逆に円卓は、史実知識とワールドワイドな規模で活動するMI6によって、平成会の存在を掴んでいたりするのであるが。
「……では、英国の現状について報告させていただきます」
出席していたJCIA(大日本帝国中央情報部)の担当者が説明した内容は恐るべきものであった。
「ロンドンでコミケが開催されているだと!?」
「QE型高速戦艦が37隻!? 嘘だと言ってよバー〇ィ!?」
「Mk1戦車の代わりにTOG2の大群が塹壕を蹂躙しただと……!?」
史実知識を持つ人間からしたらジョークとしか思えないことであるが、残念なことにこの世界では現実であった。
「……英国にも史実知識を持つ人間がいることは確定だな。それも日本人がいる」
「どうしてそう思うのです?」
「戦艦と戦車はともかく、コミケなんて発想は日本人にしか出て来んだろう」
英国の実情を知った平成会の面々は衝撃を受けていた。
元々、平成会は英国を敵に回すつもりは無かったのであるが、今回の件でその意をさらに強くしていた。英国に自分たち以外の転生者が存在している可能性がある以上、下手に敵対するのは自殺行為であった。
「英国に対する諜報を強化する必要があるな」
「うちのメンバーから駐在武官としてロンドンに派遣して調査に当たらせます。同時にJCIAの現地における活動拠点の構築も進めましょう」
このような平成会の動きは速攻でバレたのであるが、円卓は敢えて放置していた。史実知識を知っていることを逆手にとって思考誘導するためであるが、この世界の歴史は史実と乖離し始めており、このような手段はそう何度も取れるものでは無かった。しかし、そこは百戦錬磨の英国紳士たちが集う円卓である。この後も何度か日本を嵌めることに成功するのである。
「……それで、獲得した賠償金の使い道についてですが」
「無論、国内のインフラ開発に注ぎ込む。特に電力インフラを整備しないことには工業化が推し進められないからな」
「火力発電所の増設ですか?」
「いや、治水も兼ねてダムによる水力発電をメインに据える。特に史実の黒四を早期に完成させるべきだろう。あれが完成すれば関西の電力事情は大幅に好転する」
「ダム建設には時間がかかりますが、公共事業として景気を底支えするには悪くない案だと思います」
国家が工業化するにあたって、まずぶち当たる問題が水と電力である。
水は工業生産で大量に消費するものであるし、電力は生産機械を稼働させるには必要不可欠である。その二つを確保出来たからこそ史実の日本は世界屈指の工業国に脱皮出来たのである。さらに言うならば、低賃金で優秀な労働力も追加で必要であるが。
「火力発電を軽視するわけではない。石炭火力を有効に使うためにも、国内の炭坑開発も進めていく。将来的に石油に転換するとしても、現状では石炭の増産は不可欠だ」
「増産って、簡単に言ってくれますが炭鉱夫を確保出来ないことには始まりませんよ? いっそ、Kの国から連れてくるという手も……」
「絶対にノゥ! あの疫病神どもを一匹でも入れたら21世紀まで延々と付きまとわれるぞ!?」
「……デスヨネー。ならば後は機械化の促進しかありませんが」
「現在、史実のSD採炭法を再現するべく技術開発を行っております。実用化出来れば大幅な省力化が達成出来るでしょう」
水力発電だけでなく、火力発電所も史実以上に増設された。
この時代(現在もであるが)石炭火力がメインなため、国内の炭鉱開発も促進された。新型の採掘機械を大量投入することにより、従来では掘れなかった場所でも石炭を採掘することが可能になり、空前の好況を呈していたのである。
特に長崎県の端島は、史実以上に開発が進められた。
島内の端島炭鉱は良質な強粘炭が採れ、隣接する高島炭鉱とともに、日本の近代化を支えてきた炭鉱の一つである。それを支える労働者のための福利厚生も整えられ、教育、医療保険、商業娯楽等の各施設が充実していた。鉄筋コンクリート造の高層アパートが林立し、その外観は既に軍艦島と化していたのである。
その一方で、史実で行われた少年及び婦人の坑内使役や、Kの国の労働者の使役は実施されなかった。不足する労働力に対しては、徹底した機械化による省力化で対応したのである。島という機密を保ちやすい立地条件もあって、平成会が開発した最新のSD採炭法のテストにはうってつけであり、ここで得られたデータは、日本各地の炭坑で採用されて石炭の増産と省力化が進んでいくことになるのである。
石炭の増産と省力化という真逆の要素を達成した日本では、浮いた労働力を他の分野に転用することが可能となった。その結果、ますますKの国の必要性は低下したのであるが、地政学の観点から完全に放置するわけにもいかなかった。これに関しては、ウルトラC級の妙案が出て平成会の全会一致をもって採用された。その結果が斜め上となって、一同を唖然とさせることになるのであるが。
「電力の目途はなんとかなりそうだな。となると、後は技術開発だが……」
「ドイツから分捕ったマザーマシンを叩き台にして、国産のマザーマシンを開発中です。数年で加工精度を列強と同程度に持って行けるはずです」
「史実の学徒動員で作られた部品のような何かを使うことになるのは御免被りたいからな……」
日本がドイツから獲得したのは賠償金だけではなかった。
高性能なマザーマシンも多数手に入れていたのである。その名が意味するとおり機械を作る機械であり、マザーマシンの性能が部品の精度に直結するため、工業化には必須であった。
当時のドイツの技術は世界の最先端(円卓&魔法の壺チートな英国は除く)であった。これを参考にすることによって、平成会は日本全体の技術の底上げを狙っていたのである。
「あとは工場にのさばる熟練工の追い出しもかからなければ」
「精度に劣る職人による一品を、機械生産品よりも有難がる風潮もなんとかしたいところですね」
「ワンオフ物を作るのには、職人は有用なのだがなぁ……」
「史実でもハイテク職人がいましたし、そういう人材は然るべきところで活躍してもらえば良いかと」
意外なことであるが、熟練工というのは大量生産の妨げとなる存在である。
史実日本が負けた原因に、熟練工が確保出来なかったために質の維持が出来なかった――などと書かれている文献を未だに目にすることがあるが、それは大きな間違いである。質を維持するには、五体満足な労働力さえあれば何とでもなるのである。その最たるものが、史実のフォード・システムであろう。
世界で初めて大量生産された製品であるT型フォードは、熟練工を必要としていなかった。というよりも、死ぬほど単調で退屈な作業が延々と続くことに熟練工は耐えられなかったのである。
では、工業生産に熟練工が必要無いかと言うとそんなことはない。
一例を挙げると、史実の新幹線の車体を作るのには熟練工が動員されている。船のスクリューの精度を確保するハイテク職人もいる。職人の技を完全に機械化することは難しいにしても不可能ではないのであるが、実際にしないのは単にコストの問題である。
大量生産技術は、大量に生産しないと元が取れないのである。
逆に言えば、精度を維持しつつ少数生産するのであれば熟練工を用いたほうが安くつくわけで、実験試作や商品開発などには不可欠な人材なのである。
「石油化学コンビナートの建設も進んでいます。史実以上の規模を目指しますよ」
「それを動かすには大量の石油が必要となるわけだが、石油の確保はどうなっているんだ?」
「そちらは供給先の分散化を進めています。アメリカがモンロー主義にかぶれたおかげで石油の輸出に消極的なってしまいましたし」
「史実知識を活かして油田開発も推進しています。合わせてオイルタンカーも大量発注しています」
史実以上にコンビナートの整備が進んだ結果、右肩上がりに石油の需要が増加していったのであるが、未だに決戦主義に凝り固まった海軍に、シーレーンの概念を叩き込むのに平成会は苦労することになる。
「石油精製施設はどうなってる? 近代戦争にガソリンは必須だ」
「誉に100オクタンガソリンは火葬戦記の鉄板ですからねぇ。こちらも全部隊にハイオクが供給出来るようにします」
「それはありがたい。技術開発のスピードアップと合わせると史実よりも早期に2000馬力級戦闘機が配備できるな」
「陸軍は機械化を進めているから、ガソリンが無いとどうしようもない」
「海軍も史実では水ガソリン詐欺で騙されかけたからな。ガソリンの安定供給は本当に助かる」
『ガソリンの一滴は血の一滴』という標語が実際にあったのが史実の日本である。この世界でもガソリンの、特にレシプロ戦闘機に必須となるハイオクガソリンの安定供給は至上命題であった。
「しかし、精製技術はどこから導入するつもりだ?」
「アメリカは戦争アレルギーで期待出来ないので、英国から仕入れようと思います。今なら友達価格で売ってくれるでしょう」
「英国に頼りっきりになるのも癪だが、やむを得ないか……」
平成会では、石油精製技術を向上させることによって、100オクタンだけでなく150オクタンのガソリンの量産も目論んでいた。史実日本の陸海軍のガソリンが、平均で91オクタンであったことを考えると、これは驚異的なことであった。
「ガソリンだけでなく、良質な鉱物油の実用化もお忘れなく」
「分かってる。性能が良くても植物系のカストル油は劣化が早いので、出来るだけ早期に切り替えるつもりだ」
カストル油とは、ひまし油のことである。
航空黎明期のレシプロ機は、マフラーから香ばしい匂いを漂わせながら空を飛んでいたのである。ちなみに、下剤としても用いられているのであるが、ひまし油で揚げた芋の天ぷらを食べると免疫が出来ると言われていた。
部品の加工精度の向上に加えて、良質なガソリンとオイルを自前で確保することが出来るようになったおかげで、空冷エンジン一辺倒だった史実とは違い、この世界の日本では液冷エンジンでも高い稼働率を維持出来るようになった。その後、英国からマーリンの製造ライセンスを購入したおかげで和製マーリンも製造可能になるのであるが……。
『マーリンエンジンを選択出来るのは機体設計者の夢』
……と、史実で語っていた某設計技師が暴走した結果、開発される機体に多少どころかかなり変更が加えられることになるのであるが、それはまた別の話である。
「……アメリカと戦うつもりは無いが、将来的に開戦となった場合の備えはどうなってる?」
「現在陸軍では、第1次大戦の戦訓を取り入れた兵器の開発を進めています」
『弾幕はパワー』を合言葉に火力の増強を目指してきた陸軍であるが、第1次大戦に参加してドイツ軍の機関銃陣地でバタバタ打ち倒されるフランス軍兵士や、それ以上の火力で倍返ししていたBEF(英国海外派遣軍)を見てその考えが正しかったことを確信していた。
「信じ難いことですが、戦中に英軍は自動小銃を運用していました。我が国でも早期実用化を目指すべきでしょう」
「突撃銃でも作ると?」
「史実のAK47をベースに開発しようと考えています。なんたって、安く作れるし信頼性もバカ高い」
「問題は弾薬ですね。そこらへんは今後の課題ということで」
日本は平成会チートによって、史実よりも早く99式短小銃(名前は38式)を採用していた。
帝国陸軍は自信満々に欧州の戦場に持ち込んだのであるが、友軍のBEFはエンフィールド小銃をベースにしたバトルライフルを全面採用していた。そのインパクトは強烈であり、自動小銃に懐疑的な見方をしていた兵士や指揮官たちは、こぞって自動小銃の採用を上申していたのである。
「師団の機械化を進めるためにも、汎用トラックの量産が必要です。当然ながら完全国産を目指します」
「その前に自動車産業の育成を進める必要があるがな」
「まだトヨタも日産も出来て無いんですよね。イマイチ実感が湧きませんけど……」
「そもそも自動車を運転出来る人間もほとんどいませんし」
「今の時代はこれが当たり前なんですよ。むしろアメリカがおかしい」
この時代の自動車メーカーは、1916年にいすずが創業していたくらいで、トヨタも日産も、その他の自動車メーカーも存在すらしていなかった。そのため、自動車を量産するには陸軍工廠に頼らざるを得なかった。さすがにこれは問題なので、平成会は『自動車産業育成法』や『軍用自動車補助法』を施行して、国内の自動車産業の育成に努めたのである。
これに真っ先に飛びついたのはトヨタであり、史実よりも早く自動車産業に参入を果たした。次いで日産が参入し、他のメーカーも続々と参入してくることになる。
税制の優遇や、海外からの技術導入に便宜を図ったり、平成会チートな技術を格安で提供したり、国民車構想をぶち上げたりと、手段を選ばない方策によって、日本の自動車産業は急激に発展していくことになるのである。
「あとは戦車の開発ですね」
「戦車は何を作る気だ? 重戦車を作られても国内のインフラが耐えられないし、海外へ派遣する際に面倒なことになる」
「機動力の無い重戦車なんぞ、防衛戦にしか役立ちませんよ。陸軍では史実の97式――チハが適当と考えています」
「なるほど、この時代に量産出来たら大いに戦力になるな」
「今すぐというわけにはいきませんが、数年以内に試作車を完成させて試験する予定です」
第1次大戦における戦車の活躍、いわゆるTOG2ショックは全世界に衝撃を与えていた。しかし、あのような化け物を運用出来るのは英国のみであり、各国は英軍が豆戦車として運用していたカーデンロイドをこぞって購入していた。そのため、この世界の戦車はカーデンロイドと、その改良型が占めていたのである。
史実では弱いという評価が定着してしまったチハでも、カーデンロイド戦車が相手ならば楽勝であった。さらに、車体設計に余裕があるために今後の発展余裕もある程度確保されていた。大量に生産された本車は、二線級になった後も車体を流用して工作車になったり、ブルドーザーになったりと、息の長い活躍をすることになるのである。
「……海軍では、現在長門型を2隻建造しています。名前こそ史実と同様ですが、中身は史実の天城型です」
「完全に別物じゃねーかっ!?」
「ユトランド沖海戦の戦訓に完全に対応するには史実の長門型では不十分なのですよ」
「とすると、史実の計画通りに4隻作る気なのか?」
「……そうなる前に史実のワシントン海軍軍縮条約に準じるイベントが起こるような気がするんですよねぇ。史実の陸奥のようなトラブルは避けれそうですが、さすがに残り2隻は無理かと」
海軍では、史実知識を活かして天城型巡洋戦艦の建造を進めていた。
史実長門以上の防御力に、16インチ連装砲5基10門の大火力で30ノット発揮可能という強力な高速戦艦である。平成会の意向で名前は史実の『長門』と『陸奥』を継承することが決定していた。
「それくらいなら、2隻にとどめて別枠で空母を作るべきだと?」
「戦艦の船体を流用した空母は防御力はありますが使いづらいので。それくらいなら、最初から空母として設計したほうが良いでしょう」
「とすると史実の翔鶴型を建造するのか?」
「翔鶴は防御に不安があるので、可能なら大鳳を建造したいところですね。史実の件があるので多少の改善は必要になるでしょうけど」
史実の天城型は4隻計画されたのであるが、関東大震災による被災や軍縮条約によって全て中止された。この世界では2隻のみ建造して、残り2隻は大鳳型を2隻建造する計画であった。この大鳳型は改大鳳型とでも言うべきものであり、サイドエレベーターの採用や装甲配置の変更が行われることになっていた。
「しかし、これって機関作れるのか? 単純に史実長門の倍以上の出力が必要になるのだが」
「……だ、大丈夫だ。問題ない」
「おいぃぃぃぃぃぃ!?」
「い、いやいや本当に大丈夫ですって!? 今のところ試験で問題は発見されてないですし」
「本っ当に大丈夫なんだろうな!?」
英国海軍も通った道であるが、高速戦艦や空母に必要なのはコンパクトでハイパワーな機関である。史実では、長門が8万馬力、加賀(戦艦時代)が9万馬力であるが、これが天城型になると一気に13万馬力となり、翔鶴型になると16万馬力である。いくら船体を建造出来ても、機関が所定の出力を出せなければ意味が無いのである。八八艦隊の戦艦群の高速性能は、日本の造船技術が大出力蒸気タービンの実用化に目途を付けたからこそ実現出来たのである。
「あとは潜水艦ですね。ドイツから分捕ったUボートを解析しています」
「史実のような艦隊決戦に特化した潜水艦は御免被るぞ?」
「もちろんです。潜水艦の本義は通商破壊ですから。現在、遠洋進出可能な大型潜水艦を伊号、沿岸用の小型潜水艦を呂号として設計を開始しています」
史実海自の潜水艦の性能が変態的なのは割と知られた事実であるが、これは戦前の苦い教訓を活かしたものである。平成会もそのことは承知しているので、攻撃一辺倒な艦隊決戦仕様の潜水艦なんぞには見向きもせず、ひたすら静粛性を追求した通商破壊に特化した潜水艦の生産を目論んでいた。
「潜水艦の建造には、量産性を確保するためにブロック工法を導入します。成功すれば、船舶の建造期間が短縮されるでしょう」
「短期間で戦時標準船の大量建造が可能になるか……悪くないな」
史実の造船で積極的にブロック工法を用いたのは日本とアメリカであった。
これは、太平洋戦争の戦域の大半が海上を経由するため、軍事行動や軍事輸送を艦艇に頼らざるを得なかったからである。短期間で艦艇や輸送船の大量の建造・配備を迫られた結果、ブロック工法を用いた短期間で大量の船舶建造が行われたのである。
「……とりあえずはこんなところか」
「そうですね。細部は部署に戻ってから煮詰めましょう」
「じゃあ、今回は解散ということで」
「うむ。諸君、平和は次の戦争への準備期間と言う。慢心せずにこれからも励んで欲しい……って、もういないし!?」
会合が終わると速攻で退散する平成会のメンバーたち。
(艦〇れカードのレアカードをゲットせねばっ!)
(神保町でカレー屋巡り。あぁ、今から腹が減ってきた……)
(コミケ当日は仕事……誰かに代わってもらわねば)
彼らは、中身が21世紀の人間だけのことはあって、表面には出さずとも己の欲求には割と素直であった。前世では金は無くとも暇だけはあったのに、この世界では金はあっても暇が無い。であるならば、貴重な余暇は全力全開で堪能するべしというのが平成会のメンバーの心意気であった。
戦争が始まるとストレスと激務で『遊び』もどんどんヤバい方向にエスカレートしていくことになる。彼らが官憲の世話にならないことを祈るばかりである。下手に権力を持っているので、余程のことが無い限りは大丈夫であろうが……。
平成会は、その名の如く平成の快適な世をこの世に再現するべく活動している団体である。彼らには悪意はない。しかし、周囲が彼らの意をくみ取ってくれるかは別問題である。その急激な国力増大と軍拡に、太平洋の向こう側の国が危機感を抱くのは当然のことであろう。
第1次大戦が終わってから1年足らず。
早くも世界には、次の争いの火種が燻り始めていた。
というわけで、今回は日本の状況について書いてみました。
平成会のメンバーはモブなので、名前はありません。
なので、ネームド日本人は平成会に所属していません。
ドイツから分捕った賠償金や技術によって、ようやく平成会は史実知識が活かせる状況になってきました。ここから本格的に史実からの剥離が始まります(とっくに剥離しまくってるとか言わないでプリーズ!