表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/108

第21話 ブリテンの背進

 1916年6月中旬。

 BEF(英国海外派遣軍)ではドイツ侵攻作戦が急ピッチで進められていた。フランスでの革命騒ぎに加えて、東部戦線からドイツ軍が密かに移動を開始したとの情報が入ったためである。英国にとって時間は敵と同義であった。


 とはいえ、兵力の配置は既に完了していた。

 今、まさにドイツ本土へ侵攻しようとしたところで、フランス革命が勃発してしまったのである。この世界のフランスは、どこまでも英国の足を引っ張る疫病神であった。


 作戦そのものはシンプルである。

 英陸軍戦車部隊をアローヘッド(矢じり)として後方をBEF、左翼をフランス義勇軍、右翼を日本陸軍2個師団が固めてドイツの塹壕陣地を突き破るものであった。


 この作戦のために、英軍は戦車3個連隊を用意していた。

 史実のソンムの戦いで投入された戦車の数が49両だったことを考えると破格の戦力であったが、この世界の英国の工業力をもってすれば、短期間で戦車を揃えることは簡単であった。


 むしろ、戦車の生産よりも搭乗員の育成が難題であった。

 テッド・ハーグリーヴス謹製の、某戦車アニメのキャラを多用したマニュアルが無ければ、戦車クルーの育成が間に合ったかは微妙なところである。なお、彼が凝り性を発揮したせいで、仕事量が増えて自分の首を絞めてしまったのは予定調和であろう。


 左翼を担当するフランス義勇軍は、ペタン将軍を信奉する兵たちであった。

 過去の命令不服従騒ぎで、兵士の話を親身になって聞き入れ、温情的な処置を行ったペタンに恩義を感じる兵士は多かったのである。


 志願して参加しただけに、フランス義勇軍の士気は非常に高かった。

 エランヴィタールな脳筋哲学が骨の髄までしみこんでいるのに加え、夢にまで見たドイツ軍に痛撃を与えるというシチュエーションも、彼らの士気を天井知らずにまでブーストしていたのである。


 右翼を担当する日本陸軍2個師団は、第6師団と第18師団であった。

 共に日本屈指の精鋭部隊であり、特に第18師団は史実では日本最強部隊として一目置かれていた部隊である。今の日本にとって、虎の子とも言える部隊であったが、連合国に全賭けした平成会の手引きで開戦当初から欧州に派遣されていたのである。







「伍長。砲兵陣地への伝令を頼む」

「はっ!」


 ベルギー領内でBEFと直接対峙しているドイツ軍塹壕陣地では、攻勢が近いことを把握していた。


 ドイツ軍としては、東部戦線からの増援が来るまでは積極的な攻撃は控える方針であり、今回も相手の出鼻を挫くために後方の砲兵陣地に砲撃要請を出すべく伝令を出していた。


 通信ではなく伝令によって命令を伝達するのは、無電を使用すると英軍に傍受されてしまい、攻撃を中止してしまうことがあるからである。有線回線を使えば済む話であるが、あいにくと英軍の連日の空爆で回線が切断されていた。


 同時刻。

 BEFの司令部には、有線で繋がれた機械式のスイッチが運び込まれていた。いわゆるトンネルの貫通式に用いるアレである。


「ヘイグ君、これを押せば良いのかね?」

「はい、全て万端整っております。あとはこのスイッチを起動すればOKです」

「そうか……」


 起爆スイッチの前に立つのは、BEF総指揮官ジョン・フレンチ卿と、その腹心で第1軍団司令官であるダグラス・ヘイグ中将であった。


「まさか、こんな形での決着となるとはな……」

「フレンチ卿?」

「漠然とした予感、いや予知夢というべきか。もっと泥沼な戦いになると思っていた……」

「最悪を想定するのは軍人の務めと心得ますが?」

「そうではない。なんというか、説明が難しいな……」


 この二人の会話を傍で聞いていた円卓所属のMob参謀たちは、密かに円卓へ報告。数々のチェックを経た後に、フレンチ卿は円卓入りすることになる。







「ではいくぞ……!」


 意を決して、フレンチ卿が起爆スイッチを押した瞬間。

 ドイツ軍陣地の地下に掘られたトンネルに満載された一千トンの爆薬が炸裂。大地が鳴動した。


 轟音と煙が収まり、視界の先に広がるのは地獄絵図であった。

 幅数百メートルに渡って塹壕陣地は陥没し、そこかしこからドイツ兵のうめき声が響き渡っていたのである。


「成功のようだな……」

「はい。まさかこれほどまでとは思いませんでしたが……」


 あまりの惨状に息をのむフレンチ卿とヘイグ中将。

 しかし、それもわずかな時間であった。


「よし。全軍前進。後詰に残していたANZAC軍にも移動命令を出せ」


 命令を受けてテキパキ動くMob参謀たち。

 事前に取り決めてあったので、その仕事ぶりはスムーズであった。


 命令を受けてフランス領内に残っていたBEFの一部とANZAC軍も合流するべくベルギー領内への移動を開始した。


 これにより、フランス領内の英軍の退去は完了。

 自ら退路を断ち、前進突破する様を島津の故事にならって、『ブリテンの背進』と後世の歴史家は呼ぶことになるのである。







『戦車隊前進せよっ!』

『イエッサー!』


 アローヘッドを担当する英軍戦車隊が前進を開始する。

 ドイツ軍にとっての不幸その1は、英軍の戦車が史実のマーク1戦車では無いことであった。その車体は、砲撃でかき回された田園と塹壕を横切ることを前提に設計されていたのである。この場に平成会の人間がいれば、おそらくこう叫んだことであろう。


『TOOOOOOOOOOOOOG!』

『LOOOOOOOOOOOONG!』


 ――と。

 史実では試作のみに終わったTOG2戦車が大挙して塹壕を蹂躙していく様は、英国面に堕ちた者からすれば胸熱ものであろう。


 あろうことか量産されてしまったTOG2戦車であったが、オリジナルを完全に再現したわけではなかった。砲塔に収められた砲は、旧式化して余剰になったQF18ポンド砲であるし、エンジンも戦闘機用の液冷ガソリンエンジンを2基押し込んでいた。それでも、TOG2戦車の真価は損なわれてはいなかった。


「撃て撃てっ! 撃ちまくれっ!」

「クラウツどもを近づけるなっ!」


 車体後部に座ったまま、エンフィールド小銃を撃ちまくるBEF兵士たち。

 世界初のバトルライフルと化したRifle No.4 Mk3は、その威力を遺憾なく発揮して、ドイツ兵を火力で圧倒していく。


 TOG2の砲塔後部の長大なスペースはタンクデサントに最適であった。最高速度も10km/hを超える程度なので、兵士が危険を感じたらすぐに飛び降りることが出来た。逆も然りであり、後方から徒歩で追従するBEF兵士が飛び乗ったりと、TOG2は戦場タクシーのような使い方をされたのである。


 大規模な陥没により、混乱状態と化したドイツ軍はTOG2によって情け容赦無く蹂躙、突破された。


 しかし、そこは鉄の規律を誇るドイツ兵である。司令部からの命令が届かない状況でも、現場指揮官の裁量で反撃に転じようとしていた。陥没の被害を免れた塹壕陣地の左右から挟撃するべく戦力を集結させていたのである。


 無防備なBEFの側面を突かんとしたところに、両翼を任されたフランス義勇軍と日本陸軍が襲い掛かった。ドイツ軍にとっての不幸その2は、BEFに負けず劣らずフランス義勇軍と日本陸軍もマジキチレベルなことであった。要するに相手が悪すぎたのである。







「くそっ! なんだこいつら!?」

「撃たれても起き上がってきやがる!?」


 左翼のフランス義勇軍を迎え撃ったドイツ兵は恐慌状態であった。

 異様な熱狂状態で突撃してくるフランス兵は、撃たれても起き上がり、また撃たれて倒れるも、死ぬ瞬間まで手足を動かし続けていた。


 塹壕陣地が大規模に陥没するという異常事態に加え、右翼側の日本軍が陽動のために派手に砲撃を開始したことで、ドイツ軍の目がそちらに向けられたために、左翼側のドイツ軍の迎撃態勢は鈍かった。


 さらに、大規模な地盤陥没で大量の装備を喪失してしまい、突撃を阻止するための機関銃が足りない状況では、フランス兵の突撃を阻止することは不可能であった。やがて、一人、二人と塹壕へ侵入され、そこから先はドイツ兵にとって悪夢であった。


「この野郎っ!」


 塹壕に侵入してきたフランス兵を見つけたドイツ軍将校が、ホルスターからルガーP08を発砲する。胸を狙った射撃は命中したものの、フランス兵は構わず突撃、ドイツ軍将校も続けざまに発砲して命中させるも、その勢いを止められずに銃剣で串刺しにされた。


 とあるドイツ兵は、フランス兵に組み付かれて異常な怪力で首をへし折られた。

 また、とあるドイツ兵は抱き着かれて、腰の手りゅう弾のピンを抜かれて自爆の巻き添えにされた。


 明らかに尋常ではない状況であるが、これはフランス兵の精神が肉体を凌駕していたからである。


 史実の某ゾンビゲーの如く襲い来るフランス兵を見たドイツ兵が、命令無視して逃げたことは責めることは出来ないであろう。こんなのを相手にするくらいなら、軍法会議のほうがまだマシである。


 精神が肉体を凌駕する。

 中二的な表現であるが、いわゆる火事場の馬鹿力である。


 通常時の人体にはリミッターがかけられている。

 100%の力を発揮すると人体を損傷してしまうからである。しかし、命の危険に晒されるとそのリミッターが解除されて、通常以上の力を発揮することが可能になるのである。


 肉体のリミッターを解除するには、前述の命の危険を感じたとき、あるいはアルコールや麻薬によって解除する方法、そして最後の一つが狂信することで自らリミッターを外す方法である。


 骨の髄まで沁み込んだエランヴィタールな脳筋哲学と、さんざん痛い目に遭わされたドイツ兵に痛撃を喰らわせるというシチュエーションによって、フランス兵の精神は肉体を凌駕し、超人的な身体能力を発揮していたのである。


 ちなみに、この世界においても、アメリカ陸軍が現地のモロ族を相手にした際、38口径リボルバーを6発撃ち込んでも止めることが出来ずに、そのまま刺殺されている。


 ストッピングパワーの無さを痛感した陸軍は新型拳銃を発注。完成したのが名銃コルトM1911ガバメントである。上述のドイツ人将校が、ルガーではなくガバメントを装備していたら、また違った結末になったかもしれない。







「砲撃用意っ!」

「てぇーっ!」


 左翼のフランス義勇軍が突撃を開始する前に、右翼の日本陸軍は三八式野砲による砲撃を開始していた。


 第6師団と第18師団には、定数を満たした砲兵連隊が編制されており、2個連隊合計36門の三八式野砲が砲身も裂けんばかりに火を噴いたのである。


 堅固なドイツ軍の塹壕陣地には、75mm砲弾はほとんど効果を及ばさなかったが、日本軍にとってそれは織り込み済みであった。左翼のフランス義勇軍の突撃の成功率を少しでも上げるための陽動を兼ねていたからである。さらに、通常の砲弾に煙幕弾が混ぜられており、陣地付近に着弾すると派手に煙を噴出して視界を著しく妨げ始めた。


 やがて弾切れとなり砲撃が停止する。

 平成会チートで史実よりはマシになっているとはいえ、未だ貧乏陸軍な日本軍には手持ちの砲弾が少なかった。


 補給に関しては、日本軍は英国から全面的にバックアップを受けていたのであるが、砲弾に関しては例外であった。


 補給を受けようにも、三八式野砲はベースがクルップ社製で固定薬莢であり、英軍とは弾薬の互換性が無かったのである。そのため、これまで弾薬をケチりながら戦闘を続けていた。しかし、今回は決戦であるので、後先考えぬ全力砲撃をしても問題は無かった。


 頃合いとみて第6師団と第18師団が突撃を開始する。

 突撃に気付いたドイツ軍の機関銃陣地も迎撃を開始する。たちまち撃ち倒される日本兵。


 しかし、ほとんどの日本兵は、砲撃のクレーターや遮蔽物を利用して巧みに射撃をかわしていた。身を隠すものが無い場合は、極めに究めたスコップ術でタコつぼを掘って凌いでいたのである。


 ドイツ軍塹壕陣地が健在であったら、多量の機関銃陣地で面制圧が可能であった。そうなれば、精鋭の日本軍と言えど全滅していたであろう。しかし、大規模な地面陥没で装備を喪失したために、機関銃の数が足りていなかった。


 左から接近してくる日本兵に射撃している間に、右側の日本兵が穴から飛び出して前進、そちらに銃を向けたら今度は左の日本兵が-以下、エンドレス。


 右翼側は、さながらモグラたたきの様相を呈していた。

 迎撃するドイツ兵も、左と見せかけて右に向けたり、ダブルフェイクを入れたりと、あの手この手で日本兵を釣り出そうとしていた。双方で息詰まる神経戦を繰り広げていたのである。






 被害を出しながらも、ジリジリと日本軍は塹壕陣地に接近していた。

 しかし、塹壕に接近すればするほど火力は集中することになる。ドイツ側も序盤の混乱から立ち直りつつあり、このままだと日本軍の運命は風前の灯火のはずであった。


「擲弾筒撃てっ!」

「了解っ!」


 気の抜けたような音と共に射出されるこぶし大の物体。

 それは、ピンポイントで機関銃陣地へ飛び込み爆発して陣地を無力化した。平成会の技術陣によって開発された『三年式重擲弾筒』(史実の八九式重擲弾筒)の威力であった。


 『弾幕はパワー』を合言葉に、日本陸軍の変革に着手した平成会であったが、砲も弾薬もとにかく金がかかるのである。未だ名ばかり列強な日本では、大量の砲を装備することなど夢のまた夢であった。そんな中、苦肉の策として採用されたのが擲弾筒である。


 擲弾筒は迫撃砲の一種であり、塹壕にピンポイントで放り込めるほどの命中精度は期待出来なかった。しかし、そこは職人芸大好き日本人である。狙撃に向かないはずの武器を、修練に修練を重ねて狙撃武器としての運用を可能にしていた。


 第6師団と第18師団には、火力不足を補うために擲弾筒分隊が定数以上に配備されていた。塹壕に至近距離にまで近づいた彼らは、擲弾筒で塹壕の火力を一つずつ潰していったのである。その様は、モグラたたきのモグラによる逆襲の如しであった。


 特に第18師団の技量は悪魔的であり、だだでさえ、山なり弾道で命中率に悪影響が出るのをものともせず、風向きすら加味して、ゴ〇ゴ並みの精度で機関銃陣地を粉砕していったのである。







「総員抜刀! ここがおいらの死に場所じゃあっ!」

「おぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 じりじりと塹壕に近づき、我慢に我慢を重ねて遂に指呼の距離となり。

 遂に日本軍による本格的な塹壕攻撃が開始された。先陣を切ったのは第6師団である。屈強な鹿児島兵を中心に編成されたこの師団は、こと白兵戦にかけては第18師団すら圧倒するガチの近接戦闘集団である。


「チェエエエエエエ!」


 猿叫と呼ばれる独自の絶叫によって肉体のリミッターを外し、圧倒的な速さと威力を兼ね備えた軍刀を振るう鹿児島兵。対するドイツ兵は、猿叫で一瞬身をすくめてしまい、頭から臍まで斬られて即死した。


「チェリァァァァァァッ!」


 幸運にも、小銃で一撃を受けることが出来たドイツ兵は、そのまま押し切られて頭部をカチ割られて死亡した。このような凄惨な光景が右翼の塹壕陣地で頻繁に見受けられたのである。


 第6師団は全員が薬丸自顕流の使い手であった。

 薬丸自顕流は、史実では全国レベルの知名度を持つ示現流から派生した剣術であり、示現流の高弟であった薬丸兼陳が、示現流に家伝の野太刀の技を組み合わせて編み出した剣術である。


 独学で習得可能というお手軽さから、幕末では剣術の稽古をする余裕の無い下級武士が習得していた。


 極端な話、史実幕末の薩摩の偉人はこの剣術を習得していた。あの西郷どんも、腕を負傷して剣術を捨てるまでは学んでいたのである。


 明治になって創設された帝国陸軍では、西洋の装備と兵法が導入されたために、地元の鹿児島でも薬丸自顕流は忘れ去られていたのであるが、剣術ミーハーな平成会のメンバーが出した剣術本によってブームが再燃した。その後の日露戦争における白兵戦でも有効なことが証明されたため、師団内で独自に教育が行われていた。


 示現流や薬丸自顕流に共通するのは、鍛えに鍛えた身体から繰り出される必殺の初太刀である。


 薬丸自顕流に至っては、猿叫で身体のリミッターを外し、かつ相手を竦ませて避けれなくするという、非常に合理的かつ実戦に則した殺人剣であった。


 やがて、第18師団も塹壕攻撃に参加し、右翼は日本軍が優位となった。

 第6師団ほどでは無いにしても、第18師団も日本最強の名に恥じぬ白兵戦の達人揃いである。小柄な日本兵が大柄なドイツ兵を圧倒する様子は戦場カメラマンによって撮影され、植民地支配に苦しむ多くの国に希望を与えることになるのである。






 ベルリンの参謀本部が、ベルギー領内の塹壕ラインを突破されたことを把握したのは、BEFとマジキチな仲間たちがドイツ国境を越えた後であった。


 情報の伝達が遅すぎるのは、塹壕陣地といっしょに方面司令部も陥没に巻き込まれて全滅したためである。その場に居ながらも、幸運にも生き残った伍長によって参謀本部は塹壕陣地壊滅を知ったのである。もっとも、彼の言い分は最初は信じてもらえず、それどころか敵前逃亡を疑われて一歩間違えば軍法会議ものであったが。


 ドイツ軍は西部戦線と東部戦線に戦力を集中しており、国内には一線級の部隊は残っておらず、大慌てで東部戦線から移動中の部隊を急派した。しかし、彼らを待ち受けていたのはBEFでは無かった。


「目標上空へ到達!」

「ようし、派手にばら撒け……と言いたいところだが、投下間隔は広げろ。なるべく長時間、広範囲にばら撒くんだ」

「イエッサー!」


 ドイツ軍部隊を襲ったのは、ダーダネルス海峡の砲台群の無力化で活躍したハンドレページ V/1500の編隊であった。


 塹壕陣地相手には非力な250ポンド(113kg)爆弾でも、身を隠す場所の無い平地を進軍する歩兵部隊には脅威であった。1機辺り30発の爆弾が容赦なく降り注ぎ、ドイツ軍は壊滅に近い損害を受けたのである。


 爆撃を終えた機体は順次出撃した飛行場へ帰還していくのであるが、その場所はオランダ領内であった。英軍はこのときに備えて、オランダとドイツの国境線沿いに物資集積所と、飛行場を建設していた。BEFがオランダとの国境線沿いに進撃したのは兵站上の理由であった。


 史実同様にオランダは武装中立を宣言していた。

 しかし、武力の裏付けのない中立宣言など鼻紙以下の価値しかなかった。それでも、某通り道国家よりはマシな扱いと言えたが。


 この世界では、英国海軍が商船の航行を保証していたため、戦時においてもオランダの海洋貿易は問題無く行われていた。そのため、オランダは戦争の影響をほとんど受けておらず、対英感情は良好であった。これに加えて、過去にオランダ領内のドイツ軍の通過を認めてしまったこともあり、英国の要請を断ることが出来なかった。


 史実で劣勢なドイツ軍が、長期間戦い続けられたのは塹壕陣地が存在していたからである。塹壕からノコノコ出てきたドイツ軍など、爆撃機の大編隊による空爆の前には無力であった。


 ドイツ軍が空爆によって足止めを喰らっているのを横目に、BEFは幹線に沿って北上してボン、ケルン、デュッセルドルフと次々と占領していったのである。






以下、今回登場させた兵器のスペックです。


TOG2


全長:10.00m  

全幅:3.1m  

全高:3.00m  

重量:79.3t  

速度:13km/h

行動距離:160km

主砲:オードナンス QF 18ポンド砲

装甲:76mm/76mm(車体正面/側面) 50mm(車体背面) 

   114mm/76mm/53mm(砲塔正面/砲塔側面/砲塔天蓋)

エンジン:ロールス・ロイス・ファルコン3 液冷エンジン 275馬力2基+電気モーター駆動

乗員:6名


史実では試作のみで終わってしまったTOG2を円卓の技術陣が再現したもの。

武装の17ポンド砲は生産に手間がかかるうえに、威力が過剰過ぎるという理由でQF18ポンド砲に変更されている。エンジンもオリジナルのパックスマンディーゼルを再現するのが難しかったため、戦闘機用のガソリンエンジンを2基搭載して発電し、モーターで駆動する方式に変更されている。


史実では失敗作扱いのTOG2であるが、この世界では想定された戦場に巡り合わせたために、絶大な威力を発揮した。長大な車体はタンクデサントに向いており、当時の写真にはTOG2に大量の兵士が乗っている写真が多く存在している。






Rifle No.4 Mk3


種別:バトルライフル

口径:0.303インチ(7.7mm)

銃身長:25.2インチ(640mm)

使用弾薬:.303ブリティッシュ(7.7mm×56R)

装弾数:15発

全長:44.5インチ(1130mm)

重量:4600g(弾薬除く)

発射速度:毎分700発前後

銃口初速:744m/s

有効射程:1000ヤード (約918m)


自動小銃化したリーエンフィールド小銃。

円卓が再現したRifle No.4 Mk2を、テッド・ハーグリーヴスが召喚したM14を参考にして自動小銃化したモデル。


後のアサルトライフルに比べると重く、威力も過大であったが、塹壕越しに撃ち合いする際には、その威力と火力が重宝された。






ルガー P08


種別:自動拳銃

口径:9mm

銃身長:102mm

使用弾薬:9X19mm パラベラム弾

装弾数:8発

全長:220mm

重量:870g

銃口初速:350~400m/s

有効射程:50m


史実同様にドイツ陸軍の制式拳銃。

9mmパラベラム弾の威力は申し分無かったが、高初速でストッピングパワーに欠けていたため、フランス義勇兵を止めることは出来なかった。


史実のモロ族は至近距離から38口径6発喰らっても突進して刺殺しているので、テンションが限界突破したフランス義勇兵なら、9パラ8発喰らっても多分大丈夫なはず(オイ






三八式野砲


種別:野砲

口径:75mm

銃身長:2286mm(31口径)

砲弾:固定式薬莢

重量:947kg

銃口初速:510m/s

有効射程:8350m

砲尾:水平鎖栓式

反動:液圧駐退・バネ圧復座式

砲架:単脚式

仰角:-8度~+16.5度

旋回角:7度

発射速度:8~10発/分


史実でも第1次大戦に投入されたものの、さして活躍しなかった三八式野砲であるが、この世界では思う存分に活躍した。


固定薬莢式のため、分離薬莢式に比べると弾薬の融通が利かず、英軍の砲弾とも互換性が無いために、最後まで砲弾不足に苦しむことになった。なお、この世界では改造されることは無かった。






三年式重擲弾筒


種別:重擲弾筒

口径:50mm

銃身長:254mm

使用弾薬:専用設計の煙幕弾、手りゅう弾など

全長:610mm

重量:4700g

有効射程:使用弾薬によって異なる


平成会の技術陣が史実知識を活用して開発した史実の八九式重擲弾筒。

大正三年に実用化されたために三年式の名称となっている。


史実では擲弾筒を焚火に命中させて、周囲の中国兵を全滅させて勲章をもらった猛者もいるので、第18師団の連中もこれくらいの技量は普通に持っているかと。擲弾筒って、狙撃武器でしたっけ?(錯乱






村田刀


種別:白兵戦兵器

全長:960mm

刀身長さ:678mm

刀身幅:28.8mm

刀身厚み:6mm

柄長さ:230mm

鞘長さ:730mm

全備重量:1.63kg

反り:15.5mm

重心:鍔から92mm


この世界では、平成会がちょっかいを出したせいで、サーベル式の外装ではなく最初から日本刀の外装となっている。材質や製法は史実の村田刀と同様であるが、刀身のサイズや重量バランスは史実の九五式軍刀に範をとっている。


錆に強く、良く切れる実用軍刀であり、曲がっても補修が容易なために、戦場で斬りまくること可能であった。


この軍刀がSHIMAZUの手に渡ったことにより、キチガイに刃物……もとい、鬼に金棒となった。第6師団には、史実の百人斬り競争よろしく、本当に百人斬った『剣豪』がごろごろいたという……(震


ちなみに、平成会では軍刀だけでなく、軍服に合わせた略刀帯の開発にも介入しており、試作された略刀帯は某る〇剣の斎〇が装備してのと同じデザインであった。実際に使用した結果、軍刀のみを佩用するならば問題無かったものの、他の装備を携帯するのには問題があり、結局史実のデザインに落ち着いている。






ハンドレページ V/1500


全長:19.51m   

全幅:38.41m    

全高:7.01m     

重量:8000kg(空虚重量)

  :14000kg(最大離陸重量)    

翼面積:260.0㎡

最大速度:159km/h

実用上省限度:3350m

飛行可能時間:17時間

武装:ヴィッカース機関銃×3(機首、胴体、尾部) 250ポンド(113kg)爆弾30個(主翼)

エンジン:ロールスロイス イーグル8 水冷エンジン 375馬力 × 4

乗員:8~9名


第1次大戦末期にベルリン空襲に投入された4発爆撃機。

この世界では円卓技術陣の努力により大戦序盤から量産配備。

オリジナルとの相違点は、ルイス機関銃の代わりにヴィッカース重機を装備していること。


塹壕陣地には非力な250ポンド爆弾であったが、平地を進軍する部隊には凶悪極まりない効果を発揮した。低威力な分、大量に搭載可能であったために、編隊を組んで爆撃すると広範囲を制圧可能であり、文字通り全滅したドイツ軍部隊も多数存在している。

ご指摘があったので、改定しました。

英国面も大事ですが、もっと旧軍の勉強をしないといけませんねぇ(;^ω^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あれ、今更気付いたけど「生き残った幸運な伍長」ってひょっとして今ドーセットにいる人・・・?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ