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第18話 グランドフリート


「英国から金剛型戦艦の派遣要請が来ました」

「予想通りだったな。ユトランド沖海戦が近づいているということか……」

「史実のユトランド沖海戦では、英国は最終目的は達成したものの、戦術レベルでは敗北していました。活躍次第では、多大な恩を売れるでしょう」

「虎の子の金剛型戦艦を、わざわざヨーロッパにまで派遣するんだ。活躍してくれないと困る」


 1916年3月。

 帝都にある首相官邸の一室では、平成会の緊急会合が行われていた。会合に参加する面々は、心なしか興奮気味であった。遂に彼らが待ち焦がれていたモノがやってきたのである。


「なお、道中の補給は全て英国が請け負うとのことです」

「それは助かりますが、間に合います? 史実通りだと、あと3か月くらいのはずですが……」

「今すぐ準備にかかってくれ。間に合わなかったら意味が無いからな」


 いずれ英国からの派遣要請があると判断して、必要な物資の手配は既に済ませていたのであるが、それでも出撃直前にならないと準備出来ないモノもあるわけで、海軍省の面々は連日のデスマーチ進行を強いられることになった。


 平成会が、史実ユトランド海戦の時期を知っているが故のことであったが、実際に英国は『栄光の6月1日』(Glorious First of June)の再現を目論んでいたので、あながち間違いでもなかった。


「それにしても、史実と流れが異なってきましたね……」

「このままだと米帝様じゃなくて英帝様になりそうなのだが?」

「史実知識もどこまで役に立つのやら。まぁ、資源採掘とかは問題無いのでしょうけど……多分」


 ため息をつく平成会の面々。

 史実知識で他国を出し抜く計画が、早くも修正を余儀なくされたのであるから当然であろう。しかし、まだ彼らには余裕があった。この世界のメインプレイヤーは自分らであると信じていたからである。







「日本の様子はどうだね?」

「大急ぎで艦隊の出撃準備を進めています」

「時期を指定したわけではないのに、そこまで急ぐということは……」

「間違い無いだろう。明らかに平成会は、ユトランド沖海戦を意識している」


 英国国会議事堂の一室、通称『円卓の間』では日本の動向についての報告が行われていた。彼らの興味は、日本海軍であった。その動向を探ることで、日本の黒幕と言える平成会の思惑を掴もうとしていたのである。


「やはり、平成会は史実を知っているということでしょうな」

「ユトランド沖海戦に介入して、美味しいところをかっさらうつもりなのだろうが、そうはさせん……!」

「左様。彼らには、あくまでも見届け人に徹してもらわなければならぬ」

「そのためにも、ドイツ海軍を圧倒するだけの戦力が必要となるわけだが……」


 円卓が、日本からの金剛型戦艦の欧州への派遣を一度断り、史実ユトランド海戦の3か月前に許可を出したのは、準備も含めてギリギリの期間を指定することで、平成会が史実を知っているのかを試すためであった。平成会が史実を知っていることを確信した円卓は、逆に利用することにしたのである。


「フィッシャー卿、グランドフリートの現在の戦力はどうなっているのです?」

「V作戦は順調に進展している。栄光の6月1日の再現は間違い無いだろう」

「それは心強い!」


 V作戦は、ジョン・アーバスノット・フィッシャー提督が進めている一大海軍再編計画である。


 ちなみに、彼もロイド・ジョージやチャーチルと同じく、テッド・ハーグリーヴスと個人的な親交があり、5年前にテッドが造船所で召喚をすることになった元凶でもあった。フィッシャー提督が召喚リストに追加したものは、それくらいの大物だったのである。







「は~るばる来たぜ、スカパ・フロ~」

「……歌うな。まぁ、気持ちは分かるが」

「本当に長旅だった。1か月以上かかるとは思わなかった……」


 3月中旬に日本を出港した援英派遣艦隊は、英国海軍の戦時基地であるスカパ・フローを目指していた。


 香港、シンガポール、スリランカ、さらにスエズ運河経由で英国を目指す大遠征であったが、第2特務艦隊という先例があったことと、英国の勢力圏で万全の補給と乗員の休息が取れたために、スムーズな航海が実現していた。


 スカパ・フローへの到着は5月下旬となり、史実ユトランド沖海戦にギリギリ間に合う形となった。


 当時の船便で、日本から英国までの航海に50日近くかかることを考慮すると、準備期間を含めて3か月というのは、殺人的なスケジュールであった。そんな無茶を押し通した平成会もアレであるが、そこまで見越したタイミングで日本へ要請した円卓も相当に悪辣と言えた。


 援英派遣艦隊は、巡洋戦艦『金剛』と『榛名』を中核に、峯風改型駆逐艦と補給艦で構成されていた。


 史実では1917年から建造が開始されている峯風型であるが、平成会の暗躍で竣工が数年早まっただけでなく、最初から峯風改型として建造されていた。既に全艦が就役済みであり、今回の遠征には4番艦『島風』を含む10隻が参加していた。比較的小規模な艦隊であったが、戦力の質に関しては間違いなく世界レベルであり、艦隊の将兵はそのことを誇りに思っていた。しかし、それもスカパ・フローに艦隊が入港するまでであった。


「ジョークにしちゃ質が悪すぎるだろ……」

「米帝様がかわいく見えるぞ、おい」

「この世界の英国は、じつは神聖ブリ〇ニア帝国なんじゃねーのか?」


 平成会所属の将官が現実逃避してしまうくらいに、英国海軍の陣容はぶっ飛んでいたのである。






 V作戦のVが意味するものは『Victory』ではなく、『Vanguard』である。


 フィッシャー提督が、テッドに召喚させたモノは、英国最後にして最強の戦艦である『ヴァンガード』であった。本来なら、30年後に建造されるはずの超弩級戦艦は、英国の造船技術を大いに発展させたのである。


 V作戦の最終目的は、本国艦隊の戦艦と巡洋戦艦を全て高速戦艦に置き換えることであった。円卓で史実の戦艦の辿る歴史を知ったフィッシャー卿は、速度と火力と装甲を兼ね備えた高速戦艦こそ正義と確信していた。それ故に、鈍足戦艦と装甲ペラペラな巡洋戦艦など不要とばかりに、容赦なくスクラップにしていったのである。代替として建造されたのはクイーン・エリザベス型戦艦(QE型)であった。


 史実では高速戦艦の祖と評されるQE型戦艦であるが、この世界ではリードシップの起工が5年以上前倒しされていた。


 円卓チートで強化された国力に加えて、ブロック工法と電気溶接を全面的に取り入れて建造されたQE型は、3年間で37隻も建造されて月刊戦艦の異名を取ることになるのである。


 大量に作りすぎて割り当てる名前が不足してしまい、スクラップにした戦艦や巡洋戦艦の名前を割り当てたくらいであるから、戦艦としてはあり得ないくらいに同型艦が存在していた。さらに恐ろしいことに、将来の改装計画も既に準備されており、英国海軍はこの戦艦を30年は使い倒す気満々であった。


 いくらなんでもやり過ぎの感があるが、円卓がユトランド沖海戦で求めているのは単純な勝利では無く、圧倒的な勝利であり、それすなわち栄光の6月1日の再現であった。クラウツ共ご自慢の『大洋艦隊』を完膚なきまでにボコボコにすることが至上命題なのである。その目的を達成するためには、一切の手抜きも容赦もするつもりは無かったのである。






 ユトランド沖海戦での完全勝利を確実なものにするべく、英国海軍は戦艦以外の戦力も充実も図っていた。


 グランドフリートにはMACシップが多数配備された。艦載機を海戦空域に常時張り付けて、ドイツ艦隊の動向をリアルタイムで探ることが目的であった。


 艦載機からの無電は、海軍本部の作戦指令室に集約された。

 情報を元にドイツ艦隊の正確な現在位置を割り出し、海軍本部に建てられた大出力アンテナから、直接艦隊へ伝えるシステムが確立されたのである。


 意外なことであるが、巡洋艦や駆逐艦などの補助艦艇はほぼ史実に準じていた。

 艦隊決戦では使いづらいことが最大の理由であるが、ユトランド沖海戦でドイツ海軍を撃滅してしまえば、史実レベルの保有数でも問題無いと判断されたからである。特に巡洋艦は、史実のワシントン海軍軍縮条約で大幅に縛られたので、軍縮条約の結果を待ってから建造したほうが無駄が無いと海軍本部は判断していた。


 もっとも、ワシントン海軍軍縮条約が史実と同様の流れを辿るかはだいぶ怪しいものであった。史実では、47億ドルもの対英債券を持つアメリカの発言力は絶大であったが、この世界では参戦すらしていないために、英国に掣肘を加えうる国家は存在しないのである。


 とはいえ、無制限の軍拡は英国としても望むものではなかった。

 戦後復興でヨーロッパへのプレゼンスを維持・拡大するためにも、戦後は軍需よりも民需に力を入れることが円卓会議で既に決定されていた。しかし、そのためにはユトランド沖海戦での圧倒的な勝利が絶対条件であった。盤石な勝利を、より盤石なものにするべく、ユトランド沖海戦の開戦ギリギリまで、英国紳士の暗躍は続けられたのである。






以下、今回登場させた兵器のスペックです。


金剛


排水量:27500t(常備) 

全長:214.6m

全幅:28.0m

吃水:8.38m

機関:ヤーロー罐・石炭重油混焼×36基+パーソンス式直結型タービン×2基4軸推進

最大出力:64000馬力

最大速力:27.5ノット

航続距離:14ノット/8000浬

乗員:1221名

兵装:45口径36cm連装砲4基

   50口径15cm単装砲16基

   40口径7.5cm単装砲12基  

   53cm水中魚雷発射管単装8基

装甲:水線203mm 

   甲板70mm

  

日本が英国へ派遣した援英派遣艦隊の旗艦。

性能は史実準拠であるが、今後の魔改造が史実と同じになるかは平成会次第である。ユトランド沖海戦に同型艦の『榛名』と参加することになる。






島風


排水量:1215t(基準) 1345t(常備)

全長:102.57m

全幅:8.92m

吃水:2.9m

機関:試製艦本式重油専焼缶4基+艦本式タービン2基2軸推進

最大出力:39500馬力

最大速力:41ノット

航続距離:14ノット/3700浬

乗員:145名

兵装:45口径12cm単装砲4基

   留式7.7mm単装機銃2基 

   53cm連装魚雷発射管3基

   爆雷投下軌条2基

   1号機雷16個


峯風型駆逐艦の4番艦。

援英派遣艦隊には、本艦も含めて10隻の同型艦が配備されている。


平成会チートによって、最初から全ての艦が峯風改型として建造されている。

史実のパーソンズ式インパルス・リアクション・ギアード・タービンの信頼性の低さを鑑みて、最初から艦本式タービンが搭載されており、搭載兵装も一部変更が行われている。


平成会のぜ〇まし贔屓もあってか、特に島風には試作品の高温高圧ボイラーが搭載されており、日本海軍最速の41ノットを叩き出している。(他の同型艦は39~40ノット程度)






HMS ヴァンガード


排水量:44500t(基準) 48500t(常備) 51420t(満載)

全長:248.3m

全幅:32.8m

吃水:9.4~10.6m

機関:アドミラルティ式三胴型重油専焼水管缶8基+パーソンズ式オール・ギヤードタービン4基4軸推進

最大出力:130000馬力(常用) 132950馬力(公試)

最大速力:29.75ノット(常用) 31.57ノット(公試)

航続距離:12ノット/6660浬

乗員:1590名

兵装:42口径38.1cm連装砲4基

   50口径13.3cm連装両用砲8基

   ボフォース40mm6連装機銃12基

   ボフォース40mm単装機銃11基

装甲:舷側356mm(水線最厚部) 112mm(水線艦首尾部) 305mm(前後隔壁)

   甲板152mm(弾薬庫上面部) 127mm(機関区上面部) 62~124mm(艦種甲板) 112mm(舵機室上面)

   主砲塔324mm(前盾) 174mm(側盾) 229mm(後盾) 152.4~174mm(天蓋)

   主砲バーベット部330mm(最厚部)

   両用砲25~38mm

レーダー:260型1基

     262型11基

     274型2基

     275型4基

     277P型1基

     281B型1基

     293P型1基

     930型1基

     960型1基 


史実では第2次大戦後に完成した英国戦艦の集大成とも言える超弩級戦艦。

この世界では、V作戦のためにフィッシャー提督がテッドに無茶を言って召喚させた。


30年後の存在である本艦に使用されている技術をリバースエンジニアリングすることで、英国の造船技術は他国に10年以上先駆けることに成功する。その成果の一部はQE型戦艦にも反映されている。






HMS クイーン・エリザベス


排水量:27500t(常備)

全長:196.8m

全幅:27.6m

吃水:8.8m

機関:バブコック・アンド・ウィルコックス式重油専焼缶24基+パーソンズ式直結型タービン(低速・高速)2組4軸推進

最大出力:80000馬力

最大速力:26ノット

航続距離:12ノット/4500浬

乗員:951名

兵装:42口径38.1cm連装砲4基

   45口径15.2cm単装砲16基

   45口径7.6cm単装高角砲6基 

   12.7mm4連装機銃4基

装甲:舷側330mm(水線部主装甲) 152mm(艦首尾部)

   甲板76mm

   主砲塔330mm(前盾) 279mm(側盾) 114mm(天蓋)

   主砲バーベット部330mm(砲塔前盾) 254mm(甲板上部・前盾) 178mm(甲板上部・後盾) 152mm(甲板下部・前盾) 101mm(甲板下部・後盾)

   副砲ケースメイト部152mm(最厚部)

   司令塔279mm(側盾) 76mm(天蓋) 


史実では5隻建造された高速戦艦の祖とも言える存在。

この世界では、フィッシャー提督が主導したV作戦の一環によって、あろうことか30隻以上も建造されてしまった。テッドが召喚した『ヴァンガード』を解析した成果が反映されており、史実よりも性能が向上している。


既に将来に向けた改装プランが用意されており、機関の換装やレーダー装備などで今後30年は使用する予定である。

もうユトランド沖海戦は、『来た、見た、勝った』で良いんじゃないですかね(オイ


史実だと、ユトランド沖海戦で戦略的な勝利こそ得たものの、戦術的に負けたことが英国の凋落の遠因になっています。それ故に、日本海海戦並みの圧倒的大勝利を演出しなければならないわけで、これは絶対に必要なことなのです(力説

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