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第11話 前弩級艦 VS 巡洋戦艦+超弩級艦

 オスマン艦隊は、マルマラ島南方の沖合で英艦隊と接敵。

 ここに巡洋戦艦+超弩級艦と前弩級艦隊との殴り合いという前代未聞の戦闘が開始された。


「水平線上に黒煙6つ視認。英艦隊ですっ!」

「思ったよりも早かったな。あちらもやる気ということか……」


 ゾーヒョン元帥は、旗艦ヤウズ・スルタン・セリムのブリッジで冷静に敵艦接近の報を聞いていた。こうなることは想定済みであり、僚艦のレシャディエにもあらかじめ戦術を通達済みだったからである。


「針路2-8-0。相対距離を維持しつつ、各砲塔は先頭艦に砲撃を集中せよ!」


 オスマン艦隊は数こそ不利であるが、距離を維持しつつ優位な砲力を活かして1艦ずつ確実に沈めていくつもりであった。


 砲戦能力を比較すると、英軍は30.5サンチ砲24門、オスマン側は28サンチ10門と34.3サンチ10門である。単純な砲の数では、24対20で英軍優位であるが、その威力はけた違いであった。


 英艦隊の前弩級艦カノーパス型の35口径30.5サンチ砲は386kgの砲弾を、最大仰角13.5度で13590mまで届かせられ、射距離9140mで216mmの装甲貫徹能力があった。


 これに対して、超弩級艦であるレシャディエの45口径34.3サンチライフル砲は、635kgの砲弾を最大仰角20度で21130mまで到達させ、射程9140mで318mmを貫徹可能であった。


 ヤウズ・スルタン・セリムの50口径28サンチ砲は、302kgの砲弾を最大仰角20度で最大14900mまで届かせることが可能であった。射程はともかく、砲弾威力に関しては前弩級艦にすら劣る数値であるが、これは装甲と機動力にリソースを割いているためである。


 ドイツ巡洋戦艦の特徴として、同時期の英軍巡洋戦艦と比べて砲力は劣るものの、装甲は非常に強固であった。もっとも、これには大口径砲の製造能力が英国に後れを取っている事情もあるのであるが。


 カノーパス型戦艦の装甲最大圧は司令塔の305mmであり、これは射程10000m以内ならば、レシャディエの砲撃はどこに命中しても損害を与えられるということである。逆にカノーパス型がレシャディエに損害を与えるにはさらに距離を詰める必要があり、それは被弾のリスクを跳ね上げることであった。


 砲力では大幅に見劣りするものの、ヤウズ・スルタン・セリムの司令塔の最大装甲圧は350mmであり、ある程度ならばカノーパス型戦艦と殴り合うことも可能であった。距離さえ維持出来れば、2隻で6隻を相手取ることも決して不可能では無かったのである。







「オスマン艦隊より発砲炎を確認!」

前進全速(フル・アヘッド)! 各艦に通信、『我に続け』だ!」


 旗艦オーシャンの司令塔からカーデン大将は、冷静に判断を下す。

 英艦隊はオーシャンを先頭に、アルビオン、ヴェンジャンス、カノーパス、グローリー、ゴライアスの単縦陣であり、オーシャンからの通信を受け、各艦は一斉に増速を開始する。


 火力と装甲で不利な英艦隊であったが、一つだけ優位な点があるとすれば、それは通信能力であろう。


 この時代では既に無電が実用化されており、艦隊間の通信は可能であった。しかし、英海軍はさらに進んでおり、近距離ならばリアルタイムでの音声通話を可能にしていた。今回の作戦にあたって、カノーパス型戦艦にも急遽改修が施されており、最新の通信機器を増設していたのである。


 英国の無線技術は、既に他国よりも10年以上先行していると言っても過言ではない状況であった。


 史実でも無線技術の最先端であったのに加えて、円卓の技術ブーストを受けた結果なのであるが、史実日本のラジオ文化を英国に根付かせんとする一人の少年(?)の暗躍も大きかった。


(葉書書くのめんどい……せめてFAXを実用化せねば……!)


 この世界では、世界初のラジオ放送局となったBBCに、リクエストの葉書を大量に送っていた少年(?)の暗躍は、円卓に拉致られるまで続くことになる。


 史実知識を元にした彼のアイデアによって、英国のラジオ文化は急激に発展することになり、戦時中にも関わらず、民放ラジオ局も続々と開局していた。特にロンドンは電波銀座とでも言うべき状況になっていたのである。


 無線に関するチートは海軍にとどまらず、他の分野にも及んでいた。

 陸軍では史実米軍のSCR-536を模した携帯無線電話を試験的に配備していた。戦闘機には無線電話と無線帰投装置が搭載され、大型機にはこれに追加して無電も標準装備となっていた。さらに史実のチェインホームの発展改良型である地上配備型レーダーの開発も始まっていたのである。







「……ほぅ? 少し右に傾いているな」

「おそらく、先の航空攻撃のダメージを回復しきれていないのでしょう」

「ふむ。ならば左舷側に攻撃を集中させるとしよう」

「アイアイサー! 右舵15度。各艦にも伝達しますっ!」


 オスマン艦隊は、旗艦ヤウズ・スルタン・セリム、レシャディエ、その後ろに軽巡『ミディッリ』、さらに駆逐艦3隻が続いていた。


 英艦隊は、レシャディエが右舷側に傾斜しているのを見逃さず、オスマン艦隊の左舷側に回り込む針路を取った。


 先の戦いでダメージを負ったレシャディエは、注排水システムによって回復を試みたものの、右舷側に雷撃が集中したことで完全に傾斜を回復することが出来なかった。既に相対距離は5000mを割り込んでおり、こうなると砲身を目一杯に下げても俯角が出来ないことが仇となり、レシャディエは一方的に撃ち込まれることになった。


 レシャディエは、主砲の代わりに舷側の速射砲や高角砲で英艦隊に攻撃を試みるも、致命傷を与えるには至らなかった。前弩級と言えど、カノーパス型は戦艦である。そのような攻撃ではビクともしなかった。なお、後続艦のミディッリと駆逐艦隊がオーシャンに対して雷撃を敢行したものの、命中しなかった。


 ヤウズ・スルタン・セリムは、至近距離からの主砲斉射により、先頭のオーシャンにかなりの損傷を与えたものの、28サンチ砲では致命傷を与えられなかった。何よりも問題なのは、相対距離が近すぎて直射状態であり、双方の砲撃が甲板構造物に集中してしまったことである。


 戦艦が撃沈する主な要因として、舷側装甲を抜いた砲弾による弾薬庫の誘爆や、それによって生じる大破孔からの浸水、さらには機関部に浸水することによるボイラーの水蒸気爆発などが上げられるが、これらは全て船体に被弾することで起きる事例である。いくら戦艦の甲板上を破壊したとしても、艦の浮力には影響しないのである。


 双方の艦隊による反航戦は5分足らずであったが、熾烈な砲撃船で甲板上の構造物は滅茶苦茶に破壊された。しかし、主砲と司令塔は健在であり、未だに戦闘力は保持されていたのである。







「英艦隊、変針。反転する模様」

「こちらも反転する。次は左舷側を取られるなっ!」


 ヤウズ・スルタン・セリムの司令塔内で、ゾーヒョンは怒鳴るように命令を下していた。


 先頭にいたため、英艦隊に砲撃を集中されたヤウズ・スルタン・セリムの状況は酷いものであった。第2煙突は半ばからへし折られ、左舷側の第3砲塔は吹き飛ばされていた。


 そもそも、巡洋戦艦というのは、速力を活かして戦場へ急行し、本隊の戦艦部隊が到着するまで時間稼ぎをする艦種である。いくらドイツ製巡洋戦艦の装甲が堅固であるといっても、至近距離から30.5サンチ砲を叩き込まれることなど想定外であった。それでも戦闘力を維持している辺り、さすがのドイツ艦と言ったところであるが。


 オスマン側の誤算は、速度の全力発揮が出来ないことであった。

 超弩級艦であるレシャディエですら全速21ノットを発揮可能であり、巡洋戦艦であるヤウズ・スルタン・セリムは、25.5ノットもの俊足を誇る。対して、カノーパス型戦艦は18ノットがせいぜいなのである。両艦が額面通りの速力を発揮出来ていたらならば、一方的に英艦隊は殲滅されていたであろう。


 しかし、現実は雷撃による浸水で、ヤウズ・スルタン・セリムの最大速力は15ノットにまで低下しており、レシャディエに至っては、艦の傾斜を回復するために左舷側に注水したために、13ノットが限界であった。艦隊行動をする以上、速力は低いほうに合わせる必要があるわけで、オスマン艦隊は13ノット前後で艦隊行動するしかなかった。


 これに対して、英艦隊は常時18ノットを発揮可能であった。

 5ノットの速度差は、英艦隊が艦隊行動のイニシアチブを取るには十分過ぎるアドバンテージだったのである。







「……とはいえ、このままだと決着まで長引きそうだな」

「オスマン海軍の虎の子を誘引出来ただけでも上出来では? 退避させた上陸船団は、今ごろイスタンブールへ到着するころでしょうし」

「それはそうだが、このままでは被害は増える一方だ。それに……」

「それに?」

「どうせなら、ティータイムまでにケリをつけたいと思わないかね?」


 司令塔から指揮を執るカーデンと、その幕僚達にどことなく余裕が感じられるのは、少なくても負けることが無くなったことを内心悟っていたからであろう。


「しかし、本艦は主砲が撃てません。せいぜい囮役を買って出るのが関の山です」


 ヤウズ・スルタン・セリムの集中砲火を食らって、ボロボロにされた英艦隊旗艦のオーシャンであるが、至近距離からの28サンチ砲の集中砲火によって、前部30.5サンチ連装砲塔は吹き飛ばされ、後部砲塔はバーベットが被弾の衝撃で歪んでしまい、砲塔の旋回が不可能となっていた。事実上、戦艦の戦力としては死んだも同然であった。


「何を言っているのかね諸君。主砲以外にも武器があるだろう?」


 不敵に笑うカーデン。

 その意図を察した幕僚達は顔色を変える。


「ま、まさか……」

「そのまさかだ。次の反航戦で仕掛ける。各艦にも通達せよ」







「敵先頭艦が変針しています!」

「チャンスだ! 撃ちまくれっ!」


 再度の反航戦をするべく距離を詰める両艦隊であるが、突如英艦隊が北方へ変針を開始した。


 ゾーヒョンには、英艦隊の先頭艦が被弾によるダメージに耐え切れなくなって、戦線を離脱しているように見えた。後続艦も追従しているが、おそらく作戦上の行動と誤解しているのであろう。ここぞとばかりに攻撃を集中させるべく命令を下したのであるが、それこそカーデンの思う壺だったのである。


『こちら魚雷室。発射はいつでもいけますっ!』

『射出用意っ! 10、9、8……』


 オスマン艦隊がオーシャンに猛攻を仕掛けている最中、英艦隊では同じようなやりとりが全艦で交わされていた。


 カノーパス型戦艦には片舷に2門ずつ計4門の45cm単装水中魚雷発射管が装備されており、雷撃が可能であった。これは別にカノーパス型戦艦特有の装備というわけではなく、この時代の戦艦の標準装備であった。史実では、第2次大戦時に大半が撤去されてしまうのであるが。


『……3、2、1、ナウ!』


 同時に左舷側の喫水線下で圧搾空気で筒が押し出され、更に筒の後ろの中心弁から魚雷が押し出される。1艦あたり2本、合計12本の魚雷がオスマン艦隊に目掛けて殺到した。


「う、左舷雷跡ぃ!?」

「急速転舵! 回避しろっ!」


 至近距離から放たれた魚雷を発見したオスマン艦隊はパニックに陥った。

 30ノットで突進するホワイトヘッド魚雷の全てを回避するには、距離も時間もオスマン艦隊には絶望的に不足していたのである。







「くっ!? 被害状況は!?」


 戦史上稀にみる戦艦による雷撃は、轟音と水柱でオスマン艦隊を揺るがした。

 戦艦に搭載されている水中魚雷発射管は、舷側に垂直方向に固定されており、その命中率は決して高いものではない。それでも何本か命中させたのは、日ごろ無聊を囲っている魚雷室のスタッフの執念の賜物であろう。


「左舷に命中! 浸水中っ!」

「ダメージコントロール急げ! 必要なら右舷への注水も行えっ!」


 流石は、元ドイツ地中海艦隊司令官というべきか、このような状況でもゾーヒョンは冷静に指揮を執っていた。


『レシャディエが……レシャディエが!?』

「報告は明瞭に行えっ! レシャディエがどうしたのか!?」


 混乱状態の司令塔内で一人冷静だったゾーヒョンは、直接伝声管に声を張り上げる。直後に伝声管から悲鳴に近い声で飛び込んできたのは、とんでもない凶報であった。


『れ、レシャディエの傾斜拡大中。し、沈みますっ!』

「なんだと!?」


 レシャディエには、左舷側に2本の魚雷が命中していた。

 既に右舷に魚雷を喰らっていたレシャディエは、左舷側に限界まで注水しており、これ以上の浮力の確保は不可能であった。特に2本目の魚雷は左舷機関室に命中しており、ボイラーに海水が流れ込んだことで水蒸気爆発が発生、船体の大破孔から一気に浸水した結果、あっという間に転覆沈没してしまった。生存者は数えるほどであった。


(潮時か。ここまでだな……)


 戦力差からして勝ち目は無いのは明白であった。

 ゾーヒョンは降伏を命じるべく、背後の幕僚達に向き直る。しかし、背後の伝声管からとびきりの凶報が飛び込んできたのである。






 英艦隊の至近距離からの雷撃によって、オスマン艦隊は大混乱に陥った。

 ここぞとばかりに追撃せんとする英艦隊であったが、オスマン艦隊が個艦レベルで好き勝手な回避運動を取り始めたために、英艦隊にも混乱が広がりつつあった。


「目標、艦首正面に捉えました!」


 唯一の例外が旗艦オーシャンであった。

 カーデンは、混乱を見越して艦を先回りさせていたのである。


「て、提督。本当にやるのですか?」

「無論。我が艦には、もうこれしか武器は無いからな」

「だからといって、ここまでやる必要は無いでしょう!?」

「……諸君。この状況は、あれを思い出さないかね?」

「「「!?」」」


 否定的な立場から一転して、大いに納得する幕僚達。


「機関出力最大!」

「前部速射砲、撃ち方始めっ!」

「総員、衝撃に備えよ!」


 司令塔にいる全員がノリノリなのは、艦首にドリルを装備した戦艦が無双するSF同人誌を回し読みした影響であろう。テッド・ハーグリーヴスの地道な布教によって、同人文化は英国海軍内でも根付いていたのである。そして、やはりノリノリなカーデンが満を持して叫ぶ。


「オーシャン、突撃せよっ!」







『右舷より敵艦が突っ込んできますっ!』


 慌てて、司令塔のスリットから外部を視認するゾーヒョン。

 自艦めがけて驀進する敵艦が、刻々と大きくなっていくのが分かる。


「左舵一杯! 機関全速!」


 オーシャンの特攻を避けようと回避行動をとるヤウズ・スルタン・セリム。

 しかし、ただでさえ浸水によって速力が低下しているところに、追い打ちで魚雷を喰らった状況では、回避することは不可能であった。


「衝突するぞ。後進全速(フル・アスタン)っ!」

「アイアイサー! フル・アスタンっ!」


 命中を確信したオーシャンでは、カーデンが操舵手に機関の全速後進を命じていた。衝突後の離脱を容易にするためである。


 両艦の距離は急速に縮まり、やがては指呼の間となり、そして接触した。

 衝突によってオーシャンの艦首は無残に破壊された。しかし、ヤウズ・スルタン・セリムの船体水面下は、前弩級艦の標準装備である衝角によって打ち抜かれていた。その威力は船体下を大規模に破壊し、キールにまで達する深いものであった。


 大きな軋み音と共にオーシャンは船体を離脱させることに成功した。

 同時に船体下に大破孔が生じたヤウズ・スルタン・セリムは、急激に右舷側に傾斜していき転覆した。この時点で、オスマン艦隊の残存部隊が降伏。武装解除と生存者の救助が行われた。


 戦艦の全てを失ったオスマン海軍には、前時代の旧式艦しか残存しておらず、事実上壊滅した。マルマラ海の制海権は英海軍のものとなったのである。

前弩級艦で超弩級艦を相手取るために、あれこれやらかしました(汗

史実のソロモン沖海戦もそうですが、至近距離で撃ち合うと甲板上に被弾が集中して砲撃だと逆に沈まないことが多いです。それ故に魚雷と衝角(!)が有効になるわけです。ちなみに、衝角は前弩級艦にはほぼ標準装備で、カノーパス型戦艦にもしっかり搭載されています。


テッド君が、相変わらず暗躍?していますw

BBCが世界初のラジオ局になって、他にも民放が続々と。

このままだと、東京タワーならぬロンドンタワーが建つ日も近いかも!?


あとロイヤルネイビーにも同人誌が出回ってしまいましたが、内容がどんなのかはご想像にお任せします(オイ

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかラムアタックや艦首魚雷発射管を使うとは(笑)話の展開がとても面白いです。
2020/04/16 23:56 名無しの提督
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