第105話 ヴィルヘルム3世即位
『昨日未明、ドイツ帝国皇帝ヴィルヘルム2世陛下が亡くなられました……』
1941年6月某日午後2時過ぎ。
駐日英国大使館の執務室に置かれたラジオは、衝撃的なニュースを現在進行形で伝えていた。
「あんなに元気だったのになぁ……」
書類作業を止めて、思わず独り言ちる。
ドイツ帝国では絶対的な存在として畏怖されたヴィルヘルム2世であったが、テッドにとってはゴーイングマイウェイなパワフルな髭親父のイメージでしかない。
あれから既に2年半経つというのに、そのイメージは未だにテッドの脳裏に鮮烈に焼き付いていた。思い出すと同時に激痛が走ったような気がして、思わず胃をあたりを手でおさえてしまっていたが。
「はぁ……」
さっきからため息しか出ていない。
その原因に気付いてテッドは困惑してしまう。
テッドはヴィルヘルム2世と特に親しかったわけではない。
お忍びでたった1度しか会ったことは無かったが、その一度が強烈過ぎたのである。
現代風に言うならば、ドルオタが推しアイドルの卒業に出くわしたようなものであろうか。あれだけ酷い目に遭わされて、その心情に至ってしまえるのは尋常ではない。やはり、この男はドMなのかもしれない。
(仕事やる気が起きないなぁ。ちょっと早いけどティータイムにするか)
本日何度目かのため息をつきつつ、テッドはお気に入りのティーカップを用意する。普段ならマルヴィナやおチヨが準備してくれるのであるが、あいにくと今日は二人とも公務で留守にしていた。
『ヴィルヘルム2世陛下が亡くなられたことで、ヴィルヘルム・フォン・プロイセン皇太子がヴィルヘルム3世として即位することになり……』
電気ケトルでお湯を沸かしている間にも、ラジオはヴィルヘルム2世崩御の詳報を伝え続ける。しかし、テッドは聞きなれない人名を聞いてティータイムを準備する手を止めていた。
「ヴィルヘルム・フォン・プロイセン皇太子に関する資料を持ってきてくれる?」
『了解しました。少々お待ちください』
テッドは内線で皇太子に関する情報を要求する。
なんとなく気になってしまったのである。
テッドは己の直感を信じた。
これまで幾度となく直感を信じて窮地を脱出してきた実績がある。同じくらい酷い目にも遭っていたりするが、そんなことは気にしなければ問題無い。
「……閣下、請求された資料をお持ちしました」
「ありがとう。説明よろしく」
MI6日本支部のエージェントが資料を持参したのは、テッドがアフタヌーンティーを楽しんでる時であった。たった20分かそこらで、週刊誌並みの分厚いレポートを準備出来るMI6日本支部はさすがと言うべきであろう。
「フルネームはフリードリヒ・ヴィルヘルム・ヴィクトル・アウグスト・エルンスト。ヴィルヘルム2世陛下のご子息で皇太子です」
「とすると、今回の即位は順当なものなのか」
「はい、現地の報道では特に問題があるような情報は出ていません」
深夜未明のヴィルヘルム2世の死去は、早朝にはラジオと朝刊で報道されていた。大勢のドイツ人が哀しみにつつまれたものの、ヴィルヘルム3世の即位に関しては目立った反対意見は出ていなかったのである。
「評判はどうなの?」
「先の世界大戦から軍務に就いてたためか、軍人からは広く支持されています。それ以外にも幅広い年齢層から支持を受けています」
「ご老人からの受けが悪い我らがエドワード8世も見習って欲しいものだねぇ……こればかりは、どうにもならないだろうけど」
エージェントの報告を聞いてため息をつく。
即位してから日が浅い英国王エドワード8世は若年層からは絶大に支持されているものの、老人からの受けが悪かった。
エドワード8世とヴィルヘルム3世の違い。
二人とも先の世界大戦で従軍しているのに、これほどまでに支持層に差が出てしまったのは軍歴の差と言える。
片や前線志望の青年士官、片や前線で指揮を執り続けた歩兵大将。
その差は圧倒的である。
「ヴィルヘルム3世陛下の為人はどうなのさ? 先代には猛烈に振り回されたから、アレと同じのは勘弁したいのだけど?」
「苛烈だった前皇帝に比べれば穏やかな性格とのことです」
「そういうことなら安心かな。余計な外交摩擦も減って平和になるかもね」
この世界の皇太子は、父親に比べれば真っ当な性格をしていた。
性格の良さでドイツ帝国皇帝が務まるかは別問題なのであるが、余計な波風を立たせないという意味では歓迎すべきことであろう。
「いえ、かえって政治的問題が増えるかもしれません」
「どういうこと?」
エージェントの報告にテッドは目を剝く。
無言で報告の続きを促す。
「ヴィルヘルム3世には政治的野心が見受けられます。皇太子時代にファシズムに傾倒していたとの情報があります」
「なんか急に不安になってきたんだけど……」
史実の皇太子は政治活動をしないことを条件にワイマール体制下のドイツに帰国したが、すぐに約束を破って政治活動をしていた。ムッソリーニのファシズムを称賛し、ヒトラーを支持するバリバリの極右であった。
この世界の皇太子は史実以上に政治活動に入れ込んでいた。
そんな彼が実際に権力を手にしたときに何が起こるのか?現状でその危険性を性格に予測し得た者は皆無だったのである。
「諸君らが敬愛する我が父ヴィルヘルム2世は死んだ! 何故だ!?」
壇上で演説するヴィルヘルム3世。
新皇帝に即位してまだ半月だというのに、彼は国民に熱烈に訴えていた。
「……わたしはドイツ帝国をより偉大な国家にすることをここに誓う! それが亡き父の意思であることを固く信じている!」
ベルリン王宮前広場は大観衆で埋め尽くされていた。
老若男女問わない顔ぶれは、ヴィルヘルム3世の支持層の幅広さを如実に示していると言えた。
「新皇帝万歳!」
「ジークハイル!」
「ジークドイッチュラント!」
演説が終わると大歓声である。
その様子は史実のチョビ髭の如しであった。
「陛下。お見事な演説でございました」
演説を終えたヴィルヘルム3世をハインリヒ・ブリューニングが出迎える。
前大統領パウル・フォン・ヒンデンブルクが政界を引退したのに伴い、ブリューニングは新たにドイツ帝国大統領に就任していた。
「ところで、例の件はどうなっておる?」
「バチカンの同志から会見に漕ぎつけられそうとのことでした。吉報をお待ちください」
自信ありげに報告するブリューニング。
彼はこの計画が成功することを確信していた。
『やっとくたばってくれたか!』
『これでバチカンの意向を通しやすくなるな』
『前皇帝みたく、最後に日和らなければよいがな……』
バチカンではヴィルヘルム3世即位を歓迎する動きがあった。
先代のローマ教皇ピオ11世を支持していた枢機卿たちの一派が中心であり、かつての計画を再開するべく暗躍中であった。
この世界のバチカンは、先々代のベネディクト15世のころから反共主義であった。ベネディクト5世とピオ11世は共産主義の脅威を煽り、さらには矢面に立つドイツ帝国と二重帝国(当時)とソ連との戦争を起こすべく暗躍した。
教皇がそのような考えならば、取り巻きの枢機卿団が染まってしまうのも当然と言える。アカ嫌いが2代続いた結果、枢機卿団の大多数もまたアカ嫌いと化した。
『これまで莫大な資金を投じてきただけの成果はあったのか?』
『不可侵条約が結ばれた以上は今までのやり方を見直すべきでは?』
『信徒からの寄付はもっと有意義に使うべきだろう』
しかし、ピオ12世が即位してからのバチカンは方針変更を余儀なくされた。
対ソ強硬路線よりも周辺国との協調が重視されることになったのである。
枢機卿団は表向きはピオ12世を支持していたが、裏では未だに対ソ強硬路線を唱える者が大勢いた。そんな時に起きたのが、ヴィルヘルム3世即位イベントであった。
この世界のヴィルヘルム3世は史実と同じく政治活動に興味を持っていたが、王太子という立場から大っぴらに参加することは出来なかった。それでも密かに政治集会に参加したり、時には後援者にもなった。思想家との対談も積極的にこなしていた。
政治活動に被れた結果、王太子時代のヴィルヘルム3世はファシズムに傾倒した。長らく戦場に身を置いていたせいで、本国の政治を軽んじてしまったことも原因であろう。
しかし、これだけならば特に問題は無かった。
ヴィルヘルム2世の時代とは違い、現在のドイツ帝国は英国に範をとった制限君主制への移行が進んでいたからである。
皇帝の権力は議会や内閣によって制限され、実際の政治は議会によって行われる。たとえヴィルヘルム3世が政治的野心を持っていたとしても好き勝手出来ない……はずであった。
問題は新たに大統領となったブリューニングであった。
彼は帝国議会で最大勢力を誇るドイツ中央党の党首であり、議会に対して強い影響力を行使出来た。
ドイツ中央党の党是はカトリック教会を守り、カトリック住民の利益を代弁することにあった。バチカンの意思をドイツ帝国に反映させるのには、うってつけの人材と言える。
ちなみに、この世界のドイツ帝国の宗教はカトリックが主流派であった。
教皇ベネディクト15世のころからバチカンが介入した結果、プロテスタントが多かった帝国北部もカトリックの軍門に下っていたのである。
『偉大な父君を超えるにはソ連を平定するべきです』
『父君が成し得なかった聖戦を最後まで遂行する義務がありましょう』
『大陸の盟主はドイツ帝国以外にはあり得ません。それが出来るのはヴィルヘルム3世陛下以外にあり得ません』
その後はとんとん拍子であった。
バチカンに潜む対ソ強硬派がブリューニングを介して、ヴィルヘルム3世の背中を押すだけで事足りた。
『ドイツ帝国は共産主義者の存在を認めない。その牙城であるソ連も同罪である!』
1941年6月下旬。
ヴィルヘルム3世の宣言に世界が戦慄することになった。
『独墺ソ不可侵条約の締結から3年も経ってないのに正気か!?』
『戦争準備出来ていないのに何を考えているんだ!?』
『今経済が堅調なのに、戦争なんか起こされたらたまったものじゃない!?』
戦争再開ともとれる発言に、政府関係者からは強い批判が飛び出ることになった。強すぎる批判に当の本人はビビり散らしたのであるが、それでも発言は撤回しなかった。
『ソヴィエトは平和を愛する国家であるが、降りかかる火の粉は払わねばならぬ。受けて立つ!』
これに対してスターリンも公式で声明を出し、ドイツ帝国とソ連両国の緊張は急激に高まっていった。独墺ソ不可侵条約の締結から2年半足らず。欧州に再び戦乱が訪れようとしていたのである。
「……お忙しいところを集まっていただき感謝します。さっそくですが、時間は有限なので建設的な議論を期待します」
ベルリンに所在する帝国経済相本部。
その大会議室には、経済相ヒャルマル・シャハトの呼びかけで財界の人間が集められていた。
「冗談じゃないっ! 今はウクライナの事業が良い感じで進んでいるんだぞ!? 戦争を再開したら全てがご破算になってしまうじゃないか!?」
真っ先に声を挙げたのは、最近のドイツ経済界で頭角を現していたオスカー・シンドラーであった。史実では1000人以上のユダヤ人を救った人物であり、映画『シンドラーのリスト』のモデルでもある。
この世界のシンドラーは、ウクライナの古びた工場を買い取ってトラクターなどの農機具を生産していた。農業が盛んなウクライナでは農機具の需要は底なしであり、作っただけ即売れする状況であった。
ちなみに、世界線を違えても彼の工場にはユダヤ人労働者が多かった。
ウクライナではユダヤ人差別が激しく、まともに就労出来ない彼らをシンドラーは優先的に雇用していた。
ユダヤ人差別はヨーロッパ全体の問題と言える。
欧州全域で等しく差別されてきたのであるから。
この世界でも同様の流れを辿っていたのであるが、イスラエルが建国されてから差別がさらに激しくなった。やむなく放浪しているのならばともかく、国があるならさっさと帰れというわけである。
イスラエルも盛んに帰還事業を進めており、世界中に散らばるユダヤ人を呼び寄せていた。しかし、遠く離れたウクライナのユダヤ人たちは様々な理由でイスラエルへ帰還することが出来なかった。
シンドラーは、ユダヤ人労働者の希望を聞き入れてイスラエル帰還の手助けをしていた。保証人となって戸籍やパスポートの作成、給料から旅費の積み立てなど便宜を図っていた。
そのような状況で戦争が起きたら、これまでの努力が無駄になってしまう。
シンドラーが猛反対するのも当然のことと言えた。
「ウクライナの野菜が来なくなったらドイツの食糧自給率が悪化してしまう。戦争には断固反対です!」
「ウクライナには豊富な鉱物資源がある。これから開発しようというときに戦争は困る」
「ドイツ製品をウクライナ市場では高く買ってくれる。この状況を逃したくはない」
シンドラー以外の企業家たちも、その大半が戦争には反対であった。
中には戦争特需で儲けたいとほざくのもいたが、一瞬で黙らされたのである。
「帝国の金庫番として、戦争再開は勘弁願いたいです。とかく、戦争には金がかかりますからな」
ドイツ帝国銀行総裁ヴァルター・フンクも否定にまわる。
これまでの戦費が帝国銀行の財政事情を悪化させていただけに、戦争の再開には反対の立場であった。
足掛け10年以上続いた独ソ戦の戦費は、第1次大戦の戦費をはるかに超えていた。同じ総力戦でも歩兵主体の戦争だった第1次大戦と、戦車や飛行機などが主体だった独ソ戦では雲泥の違いと言えた。
「仮に戦争を再開した場合、石油の供給に不安があります。現代の戦争はとにかく石油を消費しますので」
IGファルベンで石油精製事業を統括しているクリスチャン・シュナイダーも現段階での戦争再開に慎重であった。ドイツの石油産業を一手に引き受けているIGファルベンは、独ソ戦で石油の確保に苦労していたからである。
「君のところで開発した人造石油でなんとかなるんじゃないのか?」
未だに戦争特需をあきらめていない起業家から質問が飛ぶ。
しかし、シュナイダーは首を振る。
「人造石油は高コスト過ぎて商売になりません。現状でも3倍のコストがかかるんです」
人造石油はコスト高で普通は商品として成立しない。
史実では戦時だからやむを得ずやっていたことであって、普通なら素直に石油を輸入したほうが早い。逆に言えば普通でない時には有望と言える。
史実でもオイルショックその他戦争で石油の供給が不安定になる原因には枚挙にいとまがない。
その都度、人造石油や代替燃料に開発予算が注ぎ込まれる。
そして、忘れられる。
(やはり大勢は戦争反対だな)
議論を見守っていたシャハトは内心安堵していた。
戦争肯定派が多数になったらどうしようかと心配していたのである。
(とはいえ、決定的ではない。もう一手欲しいところだが……)
戦争しないほうが良い程度な論調にシャハトは不満を覚えてしまう。
戦争ダメ絶対と言えるくらいの論拠が欲しいところであるが……。
「そういえばシャハトさん、ポンド借款はどうなっているのですか?」
「それだっ!」
その時シャハトに電流が走った。
ドイツ帝国が英国からポンド借款を受けていたことを思い出したのである。
この日の会議の内容は清書され、後にヴィルヘルム3世への建議書として提出された。現段階で戦争をすれば、英国が介入してくる危険性を特に強調していたのは言うまでも無い。
しかし、建議書が額面通り受け取られるとは限らない。
それ以前に、ヴィルヘルム3世がまともに建議書に目を通すかも甚だ疑問であったが……。
「仮にソ連と戦争を再開する場合、ネックになるのはフランスだろう」
「今のフランスは友好的だ。以前とは違う……はずだ」
「信じられるか!? あいつらはいざとなったら牙をむくに違いないんだ!」
帝都ベルリンの参謀本部庁舎。
その一室では参謀たちによる激論が交わされていた。
議題は『対ソ戦における背後の安全の確保』であった。
シェリーフェン以降の定番の議題と言える。
「やはり、初手でフランスを占領すべきでは?」
「正気か!? そんなことしたらライミ―が黙っていないぞ!?」
「ふん、今の我らならライム野郎なんて一ひねりよ!」
参謀たちは堂々巡りに陥っていた。
なにをどうやっても、結局は背後の安全確保になってしまう。
背後の安全を確保せずに進撃するなど軍事常識として論外以外の何物でもない。
参謀たちの知恵と知略を集めたとしても、ドイツ地政学の宿命からは逃れらないのであろうか?
否、断じて否。
彼らはドイツ帝国参謀本部のライトスタッフあると同時に誇り高きゲルマン民族。不可能などあるはずがない。
結局、いくら考えても埒が明かないので検討会はいったんお開きとなった。
酒場でビールをがぶ飲みすれば、きっと良いアイデアが浮かぶであろう。彼らはドイツ人なのである。
「……おい、これを見ろ、これをっ!」
「なんだこれ? オセロ? 初めて見るものだが……」
「今日本で大流行しているゲームらしい。息子が遊んでいるのを強奪してきた!」
「酷い父親もいたもんだな!?」
参謀の一人が息子から強奪してきたのは、この世界の日本で大流行しているボードゲームであった。駐日ドイツ大使館の関係者が中毒になるほどハマってしまい、最近になってドイツ本国でも流通し始めていた。
ちなみに、オセロのルーツは19世紀にイギリスで考案された『リバーシ』である。史実では水戸市出身のボードゲーム研究家・長谷川五郎によって1970年ごろに現在のパッケージが開発されている。
この世界では平成会がオセロを開発したのでリバーシとは直接的な関係はない。
しかし、律儀な平成会はリバーシの開発者であるジョン・モレットとルイス・ウォーターマンの遺族を探し出して莫大なパテント料を支払っていた。
「うおお!? なんだこれ!? 面白いし奥深い! これは流行る!」
「だろう? ヤーパンで大流行するのも頷ける。これは悪魔的なゲームだぞ」
「あああああ……止められない止まらないぃぃぃ……」
参謀たちは瞬く間にオセロの魅力に執りつかれてしまった。
気が付けば2時間以上ぶっ続けでプレイしていたのである。
「……って、違うっ!」
「あー!? 負けそうになったからひっくり返すなんて卑怯だぞ!?」
「ドイツ軍人の風上にも置けない卑怯者め!」
突如、オセロ盤をひっくり返した参謀に周囲から怒号が殺到する。
物騒なことに、腰に手が伸びている者までいる。
「そうじゃない。ちょっと見てろ……」
しかし、ドイツ軍人は狼狽えないし慌てない。
オセロ盤に3つの石を並べて説明し始める。
「真ん中を白。左右を黒にする」
「真ん中の白が黒になるな。これが何を意味するんだ?」
「白をカエル食い、左をスペイン、右を我が国と考えたらどうだ?」
「「「そういうことか!?」」」
目から鱗が落ちるとは、このことであろう。
まるで参謀たちは目の前の霧が晴れたような気分であった。
「……というか、こんなことのためにゲームを強奪してきたのかよ?」
「し、仕方ないだろう!? 俺だって遊びたかったんだ。でも子供のやるようなゲームを自分からやりたいって言えなかったんだ!」
「おまえ今日は早退しろ。そして息子と遊んでやれ。なっ?」
「ううううう……」
同僚たちに諭されて号泣する参謀。
この後、本当に早退して愛する息子と思う存分にオセロをするのであった。
「さて、一人退場したが計画を練るぞ」
「現在もスペインは内乱状態らしいです。我が軍ならば鎧袖一触でしょう」
「しょせんは民兵に毛が生えたような連中だからな。それは問題ないだろうが……」
さすがは参謀本部でも選び抜かれたエリートたち。
あっという間に具体的な作戦案が練られていく。
「問題は大義名分だな。何か無いか?」
「スペイン王の依頼を受けて国土を解放すれば良いのでは?」
「「「それだっ!」」」
スペイン王国亡命政府が、ドイツ側の提案を受け入れると決まったわけではない。にもかかわらず、彼らは受け入れることを前提に作戦を立てていく。先の大戦であれだけ痛い目に遭ったというのに、外交を軽視する癖は抜けていなかった。
「問題は進撃ルートだ。まさかフランスを横断するわけにはいくまい」
「さすがに本末転倒だわなぁ」
「かといって、海路だとライミ―が黙っていないだろうな」
「そこらへんは、亡命政府から了承を取り付けるしかないかもしれんな……」
参謀本部の仕事は作戦を立てることであって、実際に実行するかは別問題となる。だからといって、外交を全く考慮しない作戦立案は問題であろう。
外交問題は外交官に任せるに限る。
その程度の考えで参謀たちはスペイン占領計画を練っていったのである。
「速力10。現針路を保て」
「ヤヴォール!」
戦艦『カイザーヴィルヘルム2』の航海艦橋。
将兵たちが行き交うせいで、お世辞にも広いとは言えない空間がさらに窮屈に感じられる。
「艦長。ジブラルタル海峡に進入します」
「うむ……」
副長の言葉にエルンスト・リンデマン海軍大佐は鷹揚に頷く。
史実のリンデマンは戦艦『ビスマルク』の艦長として有名であったが、この世界でも似たような戦艦に乗艦するハメになっていた。
「左舷方向、ジブラルタルの要塞砲を視認!」
双眼鏡を睨みながら報告する水兵の声は悲鳴に近い。
視認出来る=有効射程と同義なのである。
しかも、向けられている砲が史実よりも剣呑であった。
円卓は史実のジブラルタル要塞の効果を疑問視しており、ジブラルタル要塞の改修を進めていた。
大規模に改修されたジブラルタル要塞には、大規模近代化改修で浮いたクイーンエリザベス型高速戦艦の主砲が砲塔ごと多数設置されていた。戦艦の主砲に耐えるだけの防御力に加えて、対空火力も大幅に増強されていた。
いかにカイザーヴィルヘルム2が重装甲であったとしても、この距離から15インチ砲を撃ち込まれたら無傷では済まない。水兵の怯えようも当然と言える。
「落ち着け! 正規の外交手順を踏んでいるのだ。こちらに一切の非は無い。粛々と行動せよ!」
リンデマンの一喝で、浮足立った艦橋は落ち着きを取り戻す。
史実と同じく、彼は絶大な部下からの信頼と人気を得ていたのである。
「要塞側から発光信号です!」
要塞を観測していた水兵が探照灯によるモールス信号を視認する。
「なんと言っている?」
「はっ……キカン ノ コウカイ ノ ブジ ヲ イノル……であります」
「UW1旗を掲げよ。急げ、礼を失するな!」
「ヤヴォール!」
大急ぎでカイザーヴィルヘルム2のマストにUW1旗が掲揚される。
UW1旗は船舶がすれ違う際に掲揚される国際信号旗であり、その意味は『協力に感謝する。御安航を』となる。今回の場合は相手が要塞なので『協力に感謝する。ご安全に』という意味にとるべきだろう。
「ふん、あれがジャガイモ野郎ご自慢の新型戦艦か」
双眼鏡片手に接近するカイザーヴィルヘルム2に毒づく男。
丸レンズのサングラスと特徴的な髭がやたらと目立つイタリアンな伊達男ではあるが、断じて史実の某赤い豚ではない。
彼はサン・ピエトロ島に駐留しているマイアーレ攻撃隊の隊長であった。
史実では黒マグロ漁で有名な島であるが、この世界では秘匿兵器マイアーレが密かに配備されていたのである。
「隊長、あいつら全然警戒していませんぜ? 今なら……」
「おいバカ止めろ。こっちから喧嘩を売ってどうする」
血気盛んな部下に呆れながらも釘を刺す隊長。
なんにせよ、やる気があるのは良いことと言えなくもない。少なくともやる気が無いよりはマシであろう。
彼らは知る由は無かったが、じつは目の前の戦艦とマイアーレの相性は最悪であった。
舷外電路の採用によって新兵器の磁気機雷は効きにくく、従来の吸着地雷は停泊していないと設置は困難。仮に吸着地雷の設置に成功したとしても、艦の全長の8割にも及ぶ二重底はこれを容易く無力化する。
史実のビスマルクは欠陥戦艦呼ばわりされることが多いが、船体の防御力だけは本物であった。たとえ砲戦の初期段階で砲塔がぶっ壊れても、船体と機関が無事ならば逃げ帰ることが出来る。
ツッコミどころが満載であるが、ドイツは根っからの陸軍国なので戦艦に対する考え方が海軍国と違ってくるのも無理もない。太平洋で壮絶な殺し愛をした史実の日米二大海軍とは発想からして違うのである。
この事実が後に判明して、イタリア海軍上層部が狂乱状態になったことは言うまでも無い。それでも人間魚雷の開発を止めなかったあたりは、さすがの国民性とも言えるが……。
「北緯38度15分、東経13度15分。間違いありません。シチリア島のパレルモ港です」
「ようやくか。あとはゲストを待つだけだな」
大任の一つを無事果たすことが出来て、リンデマンは安堵のため息をつく。
ここから先は、艦内に居るVIPの仕事である。
「パレルモ港より出航する船舶を確認。こちらに接近してきます!」
「登舷礼の準備を急がせろ。相手は大物だ。決して礼を失するな」
「「「ヤヴォール!」」」
リンデマンの命令で艦橋から散っていく将兵たち。
彼自身もゲストを出迎えるべく艦橋を後にしたのであった。
「遠いところをよくぞ来られた。歓迎しますぞ」
「統領直々に来訪されるとは。このヴィルヘルム3世、感無量です」
飾り付けで別空間と化したカイザーヴィルヘルム2の士官食堂。
昼食後のコーヒーが香る空間で、イタリア王国の指導者ベニート・ムッソリーニとドイツ帝国元首ヴィルヘルム3世の極秘会談が実現していた。
「ほぅ、ドイツのコーヒーも悪くない。大したものですな」
「貴国と同様に我が国でもコーヒーは好まれておりますからな。今回は深煎りした豆を用意してみましたぞ」
デミタスカップで深煎りしたコーヒーを飲む。
まさに至福の時間と言えるが、こんな場所に二人はコーヒーを飲みに来たわけでは無かった。
「……さて、そろそろ本題に入りましょう。ドゥーチェよ、我が軍団の地中海の通行を認めていただけませんかな?」
「ほぅ……」
ムッソリーニの目がわずかに細められる。
彼の頭脳は最大の利益を確保するべく、猛烈に回転していた。
「はてさて、なかなかに微妙な問題でありますな。我が国はソ連と良い関係を築いている。貴国の通行を許せばいろいろと煩いことを言ってくるでしょうなぁ」
ムッソリーニは嘘は言っていない。
現在のソ連は黒海艦隊再建のために、イタリアの造船所に多数の軍艦を発注していたのである。
「なにも公式に認めろと言っているわけではない。黙認してもらえれば良いのです。もちろん、通行料は弾ませてもらう」
ヴィルヘルム3世も簡単には引き下がるわけにはいかなかった。
彼は何が何でも通行許可をもらうつもりでいた。そうでなければ、ここまで来た意味が無い。
もっとも、その余裕の無さを見透かされていたのであるが。
軍人上がりで外交は素人同然のヴィルヘルム3世に対して、これまで国内外でさんざんに苦労してきた百戦錬磨なムッソリーニとでは役者が違う。
「とはいえ、あなたはわたしの教えを信奉していると聞く。いわば、わたしの弟子と言っても良い。可能な限り要望には応えるつもりですぞ」
慇懃無礼とはまさにこのことであろう。
相手を下に見つつ、暗にさらなる報酬を要求する。じつに太々しい。
(くそったれの禿げ頭め!)
必死になって取り繕うヴィルヘルム3世。
コメカミがひくついているが、辛うじて笑顔を維持することに成功していた。
しかし、ムッソリーニとて善人ではいられない。
政治にはギブアンドテイクがつきものなのである。
(通行料でなんとかなると思ったが甘かったか。となると……)
ヴィルヘルム3世も必死に頭を回転させる。
目の前の禿げ男を納得出来なければ、今後の戦略が破綻してしまうので必死であった。
「……ふむ、そうですな。では、未回収のイタリアはどうです?」
「!?」
余裕綽々だったムッソリーニから笑みが消える。
それほどまでにヴィルヘルム3世が提示した報酬は重いものであった。
史実における『未回収のイタリア』とは、イタリア統一後にも二重帝国内に取り残された地域を指す。この世界においても未回収のイタリアは健在であり、その奪還はムッソリーニだけでなくイタリア国民にとっても悲願であった。
「あなたの話が本当なら十分に検討に値する。ただし、本当ならばだが」
先ほどまでとは態度を一変させるムッソリーニ。
ヴィルヘルム3世を格下ではなく、対等の交渉相手と認めた瞬間であった。
「カール1世陛下より内諾は得ている。口約束で信用出来ないならば、後ほど大使館で書類を作成しますぞ」
これはヴィルヘルム3世の口から出まかせであった。
とんでもないブラフであるが、全く根拠のない話でもない。
いざとなれば、バチカンに動いてもらって未回収のイタリアを割譲させるつもりでいた。カール1世は敬虔なクリスチャンであり、バチカンの意思には従うだろうと考えていたのである。
確かにカール1世は熱心なカトリック教徒であった。
その熱意と信仰への真摯さは時の教皇ベネディクト15世のお気に入りとまで言われるほどであり、バチカンの意思とあれば喜んで未回収のイタリアを手放したであろう。
しかし、ヴィルヘルム3世は現在のバチカンの体制を理解していなかった。
先代教皇ならばともかく、現教皇のピオ12世はそのような専横を許すような人物では無い。
教皇の取り巻きである枢機卿団には未だに対ソ強硬派が大勢いた。
しかし、現教皇は強硬論よりも周辺国との関係強化を優先していた。領土割譲要求などもってのほかであった。
『勝手に領土を割譲しようとするとか、ドイツ皇帝に常識は無いのか!?』
当然ながら、このことを知った二重帝国諸国連邦皇帝カール1世は激怒した。
現地の大使がただちに召喚され、哀れなドイツ大使はひたすらに謝罪するハメになった。
そこまでやっても許されずに、あわや大使が国外退去寸前にまで事態は悪化した。この期に及んで、ようやくヴィルヘルム3世による直接の謝罪がなされた。両国の関係は辛うじて維持されることになったのである。
『これまでの外交努力が無に帰した……』
『せめて先代皇帝の半分でも外交センスがあれば……』
『軍人上がりが政治に口を出すのはやめてくれ!?』
この事件は、ヴィルヘルム3世の外交センスの欠如を内外に示すことになった。
特にドイツ帝国の外交関係者は、現皇帝の無能さを嘆いていたという。
その一方で、イタリアは貴重な外貨を手に入れることに成功していた。
地中海の通過を黙認するだけでバカ高い通行料をせしめること出来るのである。ボロい商売であった。
さらには、未回収のイタリア問題で事あるごとにヴィルヘルム3世の口約束を持ち出した。ドイツ帝国と二重帝国諸国連邦の関係を悪化させるためであることは言うまでも無い。
イタリア王国にとっては、ドイツ帝国も二重帝国諸国連邦も仮想敵国であった。
両国が協調するよりも、いがみ合ってくれたほうが都合が良かったのである。
「ロイド・ジョージ閣下、お久しぶりです」
1941年9月某日。
一人の男がロイド・ジョージを訪ねていた。
「フアン殿か。壮健そうで何よりだ」
男の名はフアン・カルロス・テレサ・シルベリオ・アルフォンソ・デ・ボルボン・イ・バッテンベルグ。スペイン王アルフォンソ13世の4男である。
「それにしても、御父上のことは残念だったな……」
「いえ、閣下には感謝しております。あれほど立派な葬式を出していただけたのですから」
スペイン共産党のクーデターにより、スペイン王アルフォンス13世は英国へ亡命していた。
その後はロンドンにスペイン亡命政府を樹立して活動していたのであるが、慣れない外国での生活は彼の健康を蝕んだ。最期は自力で立つことが出来ないほどまでに衰弱してしまい、今年の2月下旬に死去していたのである。
「……今回は今まで閣下にお世話になったことへの謝意を伝えると共に、お別れを言いに参りました」
「待ちたまえ。それはどういう意味かね!?」
覚悟を決めたフアンの表情に猛烈に嫌な予感にとらわれる。
事ここに至って、ロイド・ジョージは目の前の男を甘く見過ぎていたことに気付かされていた。
最初こそ順風満帆なスタートを切ったスペイン亡命政府であったが、亡命政府を取り仕切っていたミゲル・プリモ・デ・リベラ元首相が1930年に死去したことで組織は空中分解寸前にまで陥っていた。
英国はスペイン亡命政府が積極的に活動することを望んでいなかった。
亡命政府を喧伝したのは、あくまでも対外的なポーズに過ぎない。
そんなわけであるから、現状の亡命政府の内情は好ましい状況と言えた。
ロイド・ジョージとしては、このまま自然消滅してくれることを望んでいたのであるが……。
「コミュストたちによる国民への弾圧をこれ以上見過ごすわけには参りません。我らは英国に頼らずに国土奪還の道を選びます」
「んなっ!? 正気かね!?」
ついに狂ってしまったのかと、ロイド・ジョージは思った。
彼の知っているフアンは真っ当な見識を持っており、このようなことを言い出す人間では無かったはずなのである。
(あるいは何らかの後ろ盾を得たのか? だが、いったいどこの勢力が亡命政府を支援するというのだ?)
狂っていないのであれば、スペイン共産党を倒せるだけの後ろ盾を得たと考えるしかない。しかし、ロイド・ジョージには亡命政府を支援する酔狂な勢力を見出すことは出来なかった。
「これよりわたしは、スペイン王アルフォンソ14世としてスペイン解放に赴きます。たとえ恩人である貴方にも邪魔はさせません」
「……」
まだ20代後半だというのに、その身に纏う雰囲気は王族のそれであった。
ロイド・ジョージは気圧されてしまい、去っていく彼の背中を見守るしかなかったのである。
「港の制圧を完了しました。現在、敵残存勢力の掃討中です」
「タイムスケジュールは10分遅れでありますが、この程度なら修正可能でしょう」
「よし、船団には予定通りであることを伝えろ」
「ヤヴォール!」
1941年9月中旬。
ドイツ帝国陸軍の特殊強襲部隊が、深夜のバレンシア港を制圧していた。
出航した船団の到着とタイミングを合わせるように制圧作戦は実施された。
10日前にオデッサを出航した船団は、既にバレンシア港を目前にしていたのである。
「国籍不明の敵が現れたとはどういうことなのよ!?」
マドリード王宮で報告を受けたスペイン共和国大統領ドロレス・イバルリは甲高い声で叫んでいた。内戦で疲弊している状況で新たな敵など、到底受け入れられるものではなかった。
「わ、分かりません。唐突に現れたとしか……現在、近隣の部隊を動かして応戦中です」
「早くなんとかしなさない! レジスタンスどもが呼応しようものなら大変なことになるわよ!?」
英国はスペイン亡命政府には冷淡であったが、国内のレジスタンスは強力に支援していた。レジスタンスによって共産党政権を弱体化、可能なら政権を打倒して亡命政府を受け入れさせるべく密かに動いていたのである。
最初から亡命政府を強力に支援して共産党政権を打倒すれば良さそうなものであるが、亡命政権にストレートに政権奪取させると英国の傀儡政権呼ばわりされかねない。そういう意味では、亡命政府はバランス外交の犠牲になったとも言える。
自国の問題は自国民で解決する必要がある。
英国はあくまでも民族運動を支援したに過ぎない――と、世界にアピールする狙いがあった。もっとも、諸外国が額面通りに受け取ってくれるかは甚だ疑問ではあったが……。
『共産党政権崩壊。スペイン王国復活へ』
『帰還王アルフォンソ14世 民衆から歓呼の声で迎えられる』
『ドイツ皇帝ヴィルヘルム3世 スペイン王国との国交樹立を宣言』
装備も練度も弱体な共産党軍が瓦解するまであっという間であった。
ドイツ軍がスペイン全土を制圧するまで1か月もかからなかった。
『ここにスペイン王国の復活を宣言する! 国民よ、わたしの下へ集え!』
1941年11月某日。
マドリード王宮前広場で、アルフォンソ14世が王政復古を力強く宣言した。
進退窮まった共産党政権側は現地のソ連大使館に亡命を申請したが、戦争の火種になりかねないということでスターリンは亡命を却下した。その結果、全員が捕縛されて裁判で裁かれることになる。
『おいしいところだけクラウツに持っていかれるとか、政府は何をやっているんだ!?』
『いや、強行したらこちらにも犠牲が出ていたかもしれないぞ? 一概に間違いとは言えないのでは?』
『長期政権過ぎてボケが来たのではないか? そろそろ引退するべきだろうよ』
この事件は英国でも大きく取り上げられ、政権に批判が集中した。
先の大戦から20年以上続く長期政権に国民は飽きており、新たなる指導者を望んでいたのも批判が強まった理由であろう。
この事件の後、ロイド・ジョージは健康上の理由で政界を引退した。
エドワード8世は強く慰留したものの、本人の意思は固かった。
やむを得ず、エドワード8世は海軍大臣ウィンストン・チャーチルに暫定政権の組閣を命じた。内閣を解散させずに改造することで乗り切ることにしたのは、会期中に健康上の理由で引退という異例の事態だったからに他ならない。
『スペインが安定したことは喜ばしいことだが……』
『まさか我らが二正面作戦を強要される側になるとは思わなかった』
『それだけソ連を叩くのに本腰なのだろうな』
フランス共和国では軍上層部が事態に困惑することになった。
このような方法で地政学的優位性をひっくり返されるとは思ってもいなかったのである。
現在のフランスはドイツと戦争する理由が無かった。
アルザス・ロレーヌの帰属を明確に定めた以上、もはや争いの種は存在しない。
しかし、ドイツがどう思っているかは別問題である。
スペイン王国というお守りを欲したのは、シェリーフェン以来の二正面作戦の悪夢に囚われ続けたこそであろう。
今度こそ背後の安全を確保したドイツ帝国は、ソ連との戦争に向けて突き進むことになる。不可侵条約をどちらが先に破るのか既に時間の問題となっていたのである。
以下、今回登場させた兵器のスペックです。
カイザーヴィルヘルム2
排水量:41700t(基準)
全長:251.0m
全幅:36.0m
吃水:9.3m(基準)
機関:ワグナー式重油専焼高圧型水管缶12基+ブラウン・ボベリー式ギヤード・タービン3基3軸推進
最大出力:150170馬力(高加圧時)
最大速力:30.8ノット(公試)
航続距離:16ノット/9280浬
乗員:2090名
兵装:47口径38cm連装砲4基
55口径15cm連装速射砲6基
65口径10.5cm連装高角砲8基
83口径3.7cm連装機関砲8基
65口径2cm4連装機関砲2基
65口径2cm単装機関砲12基
カタパルト1基
水上偵察機4機
装甲:舷側320mm(水線部) 145mm(第一甲板舷側部) 170mm(水線面下部)
甲板110mm(最厚部)
主砲塔360mm(前盾) 220mm(側盾) 320mm(後盾) 130mm(天蓋)
主砲バーベット部340mm(最厚部)
司令塔350mm(前盾) 350mm(側盾) 200mm(後盾) 220mm(天蓋)
ドイツ帝国海軍待望の普通(?)の戦艦。
この世界におけるビスマルクである。
まともな戦艦はドイツ海軍の悲願でもあったが、史実と違って技術が断絶していないのにビルマルクを作ってしまうあたり、致命的にセンスが無いのかもしれない。
※作者の個人的意見
さすがにマッケンゼン級の拡大発展バージョンは出せませんでした(苦笑
ここからH級を開発出来るのか乞うご期待ですねw
マイアーレ
重量:不明
全長:7.6m(弾頭による)
直径:0.533m
機関:電動機(1.6馬力)
最大速力:4.5ノット
航続距離:6~24km
兵装:220kg弾頭 or 250kg弾頭 or 300kg弾頭 or 磁気機雷
イタリア海軍が新たに開発した特殊潜航艇。
敵艦の船底まで密かに接近して、時限式爆雷を仕掛けて撃沈する決戦兵器ミニャッタの発展型である。
従来のミニャッタの運用では、敵艦を足止めしているうちにリムペットマイン(吸着機雷)を仕掛けて沈めることが大前提であった。しかし、演習で実際にやってみると敵艦を停泊させることが難しいことが判明していた。
リムペットマインの改良やフロッグマンの技量向上など様々な手段が講じられたが、リムペットマインを仕掛けるには敵艦の速度が数ノット程度が限界であった。
この問題を解決するべく、マイアーレには磁気機雷の敷設能力が付与された。
新たに開発された磁気機雷は自走式であり、ある程度離れた場所から安全に攻撃することが可能になっている。
※作者の個人的意見
ミニャッタの発展型であるマイアーレに磁気機雷の運用能力を持たせてみました。
リムペットマインは完全に足を止めている状態ならともかく、普通の航行速度だと仕掛けるのは不可能に近い。ならば、先回りして磁気機雷を仕掛ければ良いんじゃね?って、わけです。
磁気機雷には舷外電路による消磁が有効なのですが、日本とドイツは採用していますが他の国はどうなんでしょうね?少なくてもアメリカは爆撃機で磁気機雷を投下しているので、対策はしているはずなのですけど。
パワフルひげ親父なヴィルヘルム2世がついに退場です…/)`;ω;´)
後を継いだ3世は無能臭がプンプンするし、ロイド・ジョージも引退するわで波乱の展開になってしまいました。
まぁ、その分のしわ寄せは最終的に全部テッド君にいくわけですが。
今後もテッド君の七転八倒ぶりに乞うご期待ですよ!w
>あれから既に2年半経つというのに
本編第100話『独墺ソ不可侵条約』参照。
>フリードリヒ・ヴィルヘルム・ヴィクトル・アウグスト・エルンスト
ヴィルヘルム2世の長子で皇太子です。
この世界では帝政が廃されてないのでヴィルヘルム3世として即位してます。
wikiを斜め読みした感想ですが、王族なのにガードが甘いというか。
立場をわきまえずに政治活動をしているあたり、史実では即位しなくて良かったとしか言いようがありません(酷
>「諸君らが敬愛する我が父ヴィルヘルム2世は死んだ! 何故だ!?」
普通に御歳のせいです。
坊やなんかじゃありませんw
>ハインリヒ・ブリューニング
史実ではヒンデンブルク大統領の下で首相を務めてました。
この世界ではヒンデンブルクが引退したので、繰り上がりで大統領に就任しています。
カトリックで宗教活動家という政教分離なにそれおいしいの状態の人。
物語的には都合が良いんですけどねw
>経済相ヒャルマル・シャハト
前政権から残留している苦労人枠。
戦争が再開したら真っ先に血反吐を吐く可哀そうな人であります(哀
>オスカー・シンドラー
映画で有名な人。
この世界でも、しっかりユダヤ人を救出しています。
救出した人数だけなら樋口季一郎陸軍中将のほうが上なんだから映画化すべきだと思うのだけどねぇ。無理だろうけど。アマプラでワンチャン無いかなぁ?
>IGファルベン
戦間期・戦時中ドイツの科学コングロマリット。
ナチス体制下でエアザッツ(代用石油)を大赤字前提で作っていたことで有名な会社。戦後解体されています。
>クリスチャン・シュナイダー
IGファルベンの役員。
戦後IG・ファルベン裁判で裁かれましたが、最終的に無罪になっています。
>「酷い父親もいたもんだな!?」
はいはい、お約束お約束。
>『リバーシ』
史実ではオセロのルーツ。
この世界では平成会がオセロを完成させて大儲けしています。
>外交を軽視する癖は抜けていなかった。
そんなことだからベルギーを道路にしちゃうんだよ……( ´Д`)=3
>エルンスト・リンデマン海軍大佐
史実では砲術の大家で戦艦ビスマルクの艦長で有名な人。
この世界で思う存分活躍出来るのかは、作者の胸三寸だったりします。
>カイザーヴィルヘルム2
この世界のビスマルクもどき。
主砲塔の立て付けが悪くて水漏れが酷かったり、被帽の取り付けがクソなせいで命中した砲弾の大半が不発になったりしますけど、船体の防御力は高いです。
>断じて史実の某赤い豚ではない。
映画で一瞬だけ見えた人間に戻った姿を想像してもらえれば。
>「ほぅ、ドイツのコーヒーも悪くない。大したものですな」
イタリアのコーヒーといえばエスプレッソですが、エスプレッソマシンはこの時代には普及していません。なので、ドゥーチェも普通のコーヒーを飲んでいたに違いないのです。
>イタリアは貴重な外貨を手に入れることに成功していた。
ポンド並みとまではいきませんが、この世界のマルクは強いので外貨として持つなら大歓迎な通貨だったりします。
>フアン・カルロス・テレサ・シルベリオ・アルフォンソ・デ・ボルボン・イ・バッテンベルグ
史実だと彼の息子がファン・カルロス1世としてスペイン王に復帰しています。
>10日前にオデッサを出航した船団は、既にバレンシア港を目前にしていたのである。
ウクライナに駐留する部隊を船でスペインまで送っています。
グーグルマップで計測してみたら、黒海から地中海経由でスペインまで距離にして4000km近い距離がありました。そりゃ時間かかるわなぁ…。




