5
ステファニーが唯一心が休まる場所があった。
それは、庭の花壇だ。
花は裏切らない。たくさんの愛情を注げば綺麗な花を咲かしてくれる。最初の頃は植えた苗が枯れたりと上手くいかなかったが、庭師のシリルに教えてもらい上手に育てられるようになった。
庭師のシリルは、仕事は丁寧だがどこかぶっきらぼうだった。しかし、必要以上の関わりを持たれることも無い関係がステファニーは心地よかった。
そして、今日も花壇で花の世話をしていると突然花の上に水が降り注いだ。ふりかえるとセドリックがいた。
「お兄様、いらしていたのですね。」
セドリックは青い瞳を持つ為、水に関する魔法が使えるのだ。
能力の大きさに違いはあるが、青い瞳は水、赤い瞳は火、黄色の瞳は風の力を持つとされている。黒い瞳の私にはこの3つのどの力も備わっていなかった。
「ステファニーは本当に花が好きなんだね。手が真っ黒だよ。」
「花を育てるのは好きです。でも、土いじりなんていつまでもしてはいけないでしょうか。もし、やめろと言われるならば…。」
手を汚れているのをとがめられた気がして、ステファニーは下を向いた。するとセドリックは、ステファニーの頭にてをのせ、寂しそうに呟いた。
「僕はステファニーから大切なものを取り上げたりしないよ。僕はかわいい妹にいつも笑って欲しいんだから。」
そういうと、セドリックは戻って言った。
部屋に戻ると花の苗が窓際の机に置かれていた。
「これはもしかしてお兄様からかしら。」
ステファニーは、部屋におかれた花の苗を見ながらメイドのエイミーにたずねた。
「そうでございます。セドリック様が先ほどお部屋に置いていかれました。」
「お兄様はどうしてこんなに私に優しくするのかしら。」
「それは、ステファニー様を大切に思われているからです。もちろん、奥様も旦那様もステファニー様を大切に思われております。」
「大切にね…。魔法も使えず、政略結婚の駒にさえなれない。そんな私は、大切にされる価値なんてないのに。」
ステファニーが寂しげに呟いた。
「ステファニー様は愛される存在なのです。そんな風におっしゃらないでくださいませ。」
エイミーは辛そうに顔を歪めながら言った。
「ありがとう、エイミー。あなたは優しいのね。」
「とんでもございません。出すぎたことを申しました。申し訳ありません。」
エイミーは、寂しげにうつむいた。
ステファニーは花の苗を見つめながら、捨てられるその日まで家族に迷惑をかけないようにしなければと強く思った。